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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/08/29

α2Bアドレナリン受容体を標的とする経口鎮痛薬の創製 New

論文タイトル
Discovery and development of an oral analgesic targeting the α2B adrenoceptor
論文タイトル(訳)
α2Bアドレナリン受容体を標的とする経口鎮痛薬の創製
DOI
10.1073/pnas.2500006122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.32
著者名(敬称略)
(筆頭著者)豊本雅靖 (連絡著者)萩原正敏
所属
京都大学大学院医学研究科創薬医学講座
著者からのひと言
麻薬性鎮痛薬(オピオイド)の過剰使用による死者は北米では数万に達し、いまやオピオイド危機と言われる世界的な社会問題となっています。私たちが見出したADRIANAは、アドレナリン受容体α2Bに結合してノルアドレナリン分泌を促すことで鎮痛作用を発揮するため、オピオイド投与で惹起される重篤な副作用や依存性が見られません。臨床試験でも安全性が確かめられており、オピオイドに代わる鎮痛薬として、様々な痛みに苦しむ患者様を救うこと出来ればと思います。

抄訳

疼痛管理は、身体的苦痛が患者の生活の質に大きく影響することから、世界的な医療課題である。広く使用される麻薬性鎮痛薬(オピオイド)は強力な鎮痛効果を示す一方で、依存性や呼吸抑制といった副作用が問題となっており、安全で有効な代替薬の開発が強く求められている。本研究では、ノルアドレナリン(NA)がα2Aアドレナリン受容体を介して鎮痛をもたらす生理的機構に着目し、脳脊髄内でNA分泌を促進するα2Bアドレナリン受容体選択的阻害剤「ADRIANA(Adrenergic Inducer of Analgesia)」を同定した。マウスへの投与では脊髄後角でのNA増加に基づくα2A依存的鎮痛効果が確認され、霊長類を含む複数の疼痛モデルでも、モルヒネに匹敵する鎮痛効果を示しながら重篤な副作用は認められなかった。加えて、標的であるα2Bを欠損したマウスでは鎮痛効果が消失し、薬理作用の標的特異性が実証された。これらの結果から、α2B受容体は脳脊髄内でのNA分泌を誘導し、α2A依存的下行性抑制系を活性化する、新規鎮痛メカニズムの標的として有望であることが示された。現在、ADRIANAは非オピオイド鎮痛薬候補として、術後疼痛患者を対象とした第I/II相臨床試験が進行中である。

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2025/08/28

説明可能な機械学習を用いた1型糖尿病におけるインスリン必要量の予測 New

論文タイトル
Prediction of Insulin Requirements by Explainable Machine Learning for Individuals With Type 1 Diabetes
論文タイトル(訳)
説明可能な機械学習を用いた1型糖尿病におけるインスリン必要量の予測
DOI
10.1210/clinem/dgae863
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 9, September 2025, Pages e3093–e3100, https://doi.org/10.1210/clinem/dgae863
著者名(敬称略)
芳村 魁 廣田 勇士 他
所属
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門
著者からのひと言
機械学習を用いて1型糖尿病患者の最適インスリン量の予測を試みた研究です。実臨床において最適なインスリン量は各個人で異なり、1型糖尿病患者ではしばしば治療困難な場合がありますが、インスリン量の差異を予測するために重要な情報の探索も試みています。 研究に用いたインスリン量が最適量であったことは、CGMデータを用いて担保しており、今後の臨床応用へ向けた発展性のある研究であると考えています。

抄訳

目的

インスリン投与量の最適化は、インスリン療法における有害事象の発生頻度を減らし、糖尿病合併症を予防するうえで重要である。本研究では、日常診療で得られるデータに基づき1日総インスリン投与量(TDD)を予測する機械学習モデルを開発し、その性能を評価することを目的とした。

方法

単施設後ろ向き観察研究。神戸大学医学部附属病院において持続皮下インスリン注入療法(CSII)と連続皮下ブドウ糖濃度測定器(CGM)を併用した1型糖尿病患者を対象とした。Random Forest、SVM等の機械学習を用いたTDD予測モデルを作成、平均絶対パーセント誤差(MAPE)で性能を評価した。モデルの解釈性を高めるため、説明可能な人工知能のフレームワークを用いた。

結果

研究参加者は110名であり、最も高い性能を示したモデルはRandom Forest(MAPE 19.8%)であった。TDD予測において最も重要な項目は体重であり、次いで腹囲、炭水化物摂取量であった。

結論

本研究では、臨床情報からTDDを予測する機械学習モデルを開発した。インスリン投与量を最適化する方法の確立は、多くの糖尿病患者の治療に貢献する可能性があり、さらなる発展が望まれる。

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2025/08/28

細菌べん毛の形成開始を制御するべん毛タンパク質輸送チャネルFliPQR複合体先端のβキャップ構造 New

論文タイトル
A β-cap on the FliPQR protein-export channel acts as the cap for initial flagellar rod assembly
論文タイトル(訳)
細菌べん毛の形成開始を制御するべん毛タンパク質輸送チャネルFliPQR複合体先端のβキャップ構造
DOI
10.1073/pnas.2507221122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.34
著者名(敬称略)
筆頭著者:木下 実紀、連絡著者:南野 徹
所属
大阪大学大学院生命機能研究科日本電子YOKOGUSHI協働研究所
著者からのひと言
病原細菌のべん毛運動は病原性の発現やバイオフィル形成に深く関与します。べん毛輸送装置は細菌に特有の分子機構であり、しかも細菌の生存には必須ではないため、その機能のみを選択的に阻害できる薬剤が開発できれば、病原細菌のべん毛運動性や感染力を効果的に抑制できる可能性があります。今後、FliPQR複合体に結合してその機能を阻害する化合物を同定することで、新興細菌感染症の制御に資する新たな治療薬の開発が大きく前進すると期待されます。

抄訳

細菌の運動器官であるべん毛は約30種類のタンパク質が段階的に組み上がることで形成される。その根本に存在する専用のタンパク質輸送装置が細胞内で合成されたべん毛の部品たんぱく質を順に細胞外へ送り出す。FliP、FliQ、FliRはこの輸送装置のチャネルを構成し、べん毛軸構造構築の基部としての役割も果たす。しかし、最初に輸送される軸構造タンパク質FliEがどのようにFliPQR複合体の先端結合部位に配置されてべん毛形成が開始されるのか未解明であった。本研究ではクライオ電子顕微鏡を用いたFliPQR複合体の構造解析により、その先端にβキャップと名づけた出口ゲート構造を発見した。このβキャップは輸送開始前にこの出口ゲートを閉じた状態に保つだけでなく、FliEをべん毛形成の開始点に誘導する機能を持つことが明らかとなった。FliE6分子が次々輸送されるとβキャップは花が咲くように開き、べん毛形成が開始すると考えられる。べん毛運動は病原性にも深く関わるため、この発見は新たな抗菌剤標的探索への貢献も期待される。

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2025/08/28

RyR1のCa2+誘発性Ca2+遊離は正常な骨格筋の興奮収縮連関においてごく僅かな役割しか果たしていない。 New

論文タイトル
RyR1-mediated Ca2+-induced Ca2+ release plays a negligible role in excitation–contraction coupling of normal skeletal muscle
論文タイトル(訳)
RyR1のCa2+誘発性Ca2+遊離は正常な骨格筋の興奮収縮連関においてごく僅かな役割しか果たしていない。
DOI
10.1073/pnas.2500449122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.34
著者名(敬称略)
小林 琢也 山澤 徳志子 呉林 なごみ 村山 尚 他
所属
順天堂大学大学院医学研究科 細胞・分子薬理学

抄訳

骨格筋収縮に必要なカルシウムイオン(Ca2+)は細胞内貯蔵部位の筋小胞体から1型リアノジン受容体(RyR1)チャネルを介して遊離される。RyR1は、T管膜のジヒドロピリジン受容体と共役した脱分極誘発性Ca2+遊離(DICR)と、Ca2+が直接結合して開くCa2+誘発性Ca2+遊離(CICR)の二つの開口機構を持つ。生理的な筋収縮においてはDICRが主な開口機構であるが、CICRがCa2+シグナルの増幅を起こすか否かという議論が半世紀にわたって続いてきた。われわれはRyR1のCa2+結合部位を改変してCICRだけを抑制したマウスを作出した。変異マウスは筋収縮や運動能力に影響は見られなかったが、RyR1の異常活性化が原因で起こる悪性高熱症に対して抵抗性を示した。以上の結果から、CICRは生理的な筋収縮には関与しておらず、むしろ過剰になると筋疾患の原因となることが示唆された。

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2025/08/26

初めて分離に成功したメタン資化性のMycobacterium属細菌、アンモニア・pH耐性を備えたメタン酸化を発見

論文タイトル
First isolation of a methanotrophic Mycobacterium reveals ammonia- and pH-tolerant methane oxidation
論文タイトル(訳)
初めて分離に成功したメタン資化性のMycobacterium属細菌、アンモニア・pH耐性を備えたメタン酸化を発見
DOI
10.1128/aem.00796-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
蒲原 宏実 大橋 晶良 他
所属
広島大学大学院 先進理工系科学研究科(工学系) 社会基盤環境工学プログラム 環境保全工学研究室
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生命工学領域 バイオものづくり研究センター 微生物生態工学研究チーム
著者からのひと言
メタン酸化細菌は、限られた系統群に属すると認識されてきましたが、ゲノム情報からは、その多様性が広がっていることが見えてきています。今回、第三の門としてActinomycetota門のMycobacterium属細菌MM-1株を分離培養し、これまで知られていなかったメタン酸化細菌の姿を明らかにしました。本研究は、メタン酸化細菌の世界を拡張し、新たな可能性を切り拓きます。

抄訳

メタン酸化細菌は、自然由来および人為由来のメタンを酸化することで地球規模の炭素循環において重要な役割を担っている。これまでの研究では、主にPseudomonadota門、Verrucomicrobiota門の好気性メタン酸化細菌に焦点が当てられてきた。実は、40年前にメタン酸化能を有するグラム陽性のActinomycetota門に属する細菌もメタン酸化能を有すると報告されていたが、分離株も保存されておらず、続報もないことから、メタン酸化細菌群として認識されてこなかった。本研究では、ActinomycetotaMycobacterium属に属するメタン酸化細菌MM-1株を分離培養し、初めてその特徴を明らかにした。これは第三の好気性メタン酸化細菌の門の確立を意味する。MM-1株は従来のメタン酸化細菌に比べて広いpH耐性と高いアンモニア耐性を示し、新たなアンモニア耐性機構の存在を示唆する。さらに、16S rRNA遺伝子解析により、MM-1株と近縁な配列が、飲料水システムを含む多様な環境で検出されており、既知のメタン酸化細菌が生存困難な環境において重要なメタンシンクとして機能する可能性が示された。

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2025/08/25

Corynebacterium jeikeium complexにおいてヒトに感染症をきたす主要菌種であるCorynebacterium macclintockiaeのゲノム疫学と抗菌薬耐性

論文タイトル
Genomic epidemiology and antimicrobial resistance of Corynebacterium macclintockiae, the predominant species of human pathogens within the Corynebacterium jeikeium complex
論文タイトル(訳)
Corynebacterium jeikeium complexにおいてヒトに感染症をきたす主要菌種であるCorynebacterium macclintockiaeのゲノム疫学と抗菌薬耐性
DOI
10.1128/jcm.00500-25
ジャーナル名
Journal of Clinical Microbiology
巻号
Journal of Clinical Microbiology 2025 Aug 13;63(8):e0050025
著者名(敬称略)
原田 壮平 他
所属
東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座
著者からのひと言
Corynebacterium属菌は一般的には病原性が低いと考えられていますが、C. jeikeiumは免疫不全者の感染症の起因微生物となり、多剤耐性を示すことが知られています。本研究では病院の検査室でC. jeikeiumと同定された臨床分離株のほとんどが、全ゲノム解析では2023年に報告された新種であるC. macclintockiaeと同定されました。公共データーベースを用いた解析からは本菌種が日本国外にも広く分布していることが示唆されましたが、疫学的背景や臨床的特徴については未解明な点が多く、今後の検討が待たれます。

抄訳

Corynebacterium jeikeiumのゲノム的特徴や治療法は未解明な点が多い。本研究では、まず単施設のC. jeikeium感染症6例(MALDI-TOF MSにより同定)の原因菌株の全ゲノム解析を行い、これらが全て遺伝学的にはCorynebacterium macclintockiaeと同定されることを確認した。さらに全国8施設から収集した血流感染症由来のC. jeikeium 33株についても全ゲノム解析を行ったところ、うち32株はC. macclintockiaeと同定された。C. macclintockiaeは多剤耐性を示したが、テイコプラニンを含めた抗MRSA薬の感受性は良好であり、全体の約60%を占めるtet(W)非保有株ではテトラサイクリン系にも感性を示した。世界各国から公共データーベースに登録されたC. jeikeiumおよび近縁菌(C. jeikeium complex)の27株の全ゲノム解析データを加えた解析でも、遺伝学的には約77%がC. macclintockiaeと同定された。

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2025/08/25

マウス鼻腔洗浄液の採集法:最大限の収量と最小限の血液混入を達成 

論文タイトル
Murine Nasal Lavage Fluid Collection without Blood Contamination
論文タイトル(訳)
マウス鼻腔洗浄液の採集法:最大限の収量と最小限の血液混入を達成
DOI
10.3791/68451-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments (JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (221), e68451
著者名(敬称略)
Ijaz Ahmad*(イジャーズ・エフマド)佐藤 文孝* 角田 郁生 他
所属
近畿大学医学部微生物学講座
著者からのひと言
鼻腔洗浄液(NLF)は、新型コロナウイルスを含む呼吸器ウイルス感染時に、ウイルスとIgAの定量に使用されます。ヒトNLF採取においては、血液混入は問題となりませんが、マウス・ラットでは血液混入を最小限にするために経気管支法が使用されてきましたが、NLF収量が低いことが問題です。そこで本論文では、NLFを大量に採取できる経咽頭法を改良することで、血液混入を最小限にし、かつ高いNLF収量が達成できる新手法を紹介しています。また、血液の混入をルミノール反応で高感度かつ安価に検出する手法も紹介しています。

抄訳

鼻腔洗浄液(nasal lavage fluid,NLF) には、鼻粘膜のIgA抗体やウイルス・細菌が含まれており、ワクチンや感染症の際に、粘膜免疫測定や病原体同定に使用される。マウスとラットからNLFを採取するルートとして、後鼻孔にカテーテルを挿入しNLFを鼻孔から回収する経咽頭法が、回収量が多いため有用であるが血液の混入が問題である。例として、IgA濃度はNLFより血液で高いため、NLF採取においては、血液の混入を避けることが必須となる。本論文では、経咽頭法を施行する際に、動物の口腔内に綿球を挿入し血液を吸収させることで、NLFへの血液混入を最小限にする新規のNLF採取法を紹介する。この新規NLF採取法が、従来の手法に比べ、血液混入が最小限であることを以下の二つの方法で明らかにした。1)法医学に頻用されるルミノール反応により、簡便かつ高感度でヘモグロビン濃度を測定。2)ELISA法によりIgA濃度を、NLFと血清で定量。

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2025/08/25

老化血管内皮細胞におけるSARS-CoV-2の取り込みと炎症反応は、BSG/VEGFR2経路によって調節される

論文タイトル
SARS-CoV-2 uptake and inflammatory response in senescent endothelial cells are regulated by the BSG/VEGFR2 pathway
論文タイトル(訳)
老化血管内皮細胞におけるSARS-CoV-2の取り込みと炎症反応は、BSG/VEGFR2経路によって調節される
DOI
10.1073/pnas.2502724122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.31
著者名(敬称略)
桜井優弥 樋田京子 他
所属
北海道大学大学院歯学研究院 口腔病態学分野 血管生物分子病理学教室
著者からのひと言
本研究は、長らく議論されてきた血管内皮細胞におけるSARS-CoV-2の感染機構を、老化の視点から明らかにした点に独自性があります。ACE2発現が乏しい内皮において、Basigin/VEGFR2経路を介したACE2非依存的なウイルス取り込みと炎症応答の促進を実証し、COVID-19重症化の分子基盤の一端を解明しました。これにより「なぜ高齢者が重症化するのか」という問いに応え、新たな治療標的の可能性を提示する成果となりました。

抄訳

本研究は、高齢者で重症化するCOVID-19において血管内皮細胞の老化が果たす役割を明らかにしたものである。従来、SARS-CoV-2の侵入受容体ACE2の血管内皮細胞における発現は極めて低いとされ、血管内皮細胞への感染には議論があった。本研究では、老化血管内皮細胞がACE2非依存的にウイルスを取り込み、NF-κB経路を介した炎症応答を強く誘導することを示した。特に、老化により上昇するBasigin(BSG)とVEGFR2シグナル活性化が、血管内皮細胞のエンドサイトーシス能を亢進させることでウイルス取り込みを促進する分子機構を解明した。さらに、ヒトCOVID-19剖検肺においても老化ECでBSG発現が高いことを確認した。これらの結果は、血管内皮細胞の老化がCOVID-19重症化の基盤である血管障害を惹起することを示すとともに、抗BSG抗体や抗VEGF療法などによる新たな治療戦略の可能性を示唆する。以上より、本研究は高齢者におけるCOVID-19重症化の分子基盤を明らかにし、血管老化を標的とした治療開発に重要な知見を提供する。

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2025/08/18

計算科学と実験手法を用いたヒト免疫グロブリンGの糖鎖に依存した構造動態変化の探査

論文タイトル
Exploring glycoform-dependent dynamic modulations in human immunoglobulin G via computational and experimental approaches
論文タイトル(訳)
計算科学と実験手法を用いたヒト免疫グロブリンGの糖鎖に依存した構造動態変化の探査
DOI
10.1073/pnas.2505473122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.32
著者名(敬称略)
谷中 冴子 加藤 晃一 他
所属
自然科学研究機構 生命創成探究センター
著者からのひと言
抗体は医薬品として広く使われており、そのはたらきを左右する糖鎖の役割が注目されています。本研究では、糖鎖の端に生じるわずかな変化が、まるで人体の“経絡”のように抗体分子の内部を伝わり、離れた部位の構造や結合性に影響を及ぼす様子を可視化しました。こうした遠隔的な制御機構の理解は、抗体医薬の設計に新たな視点をもたらします。

抄訳

ヒトIgG1抗体のFc領域に結合する糖鎖は、抗体の構造と機能に深く関与しています。本研究では、糖鎖構造の違い(ガラクトース付加とフコース除去)がFc領域の動的構造に与える影響を、安定同位体標識NMR分光法と分子動力学シミュレーションを組み合わせて解析しました。ガラクトースは糖鎖をCH2ドメインに固定する「錨」として、またドメインの動きを制限する「楔」として働き、Fc全体の柔軟性を低下させることで、Fcγ受容体(FcγR)や補体C1qとの結合を促進することが示されました。一方、フコースの除去はFcγRIIIaとの結合部位に局所的な動的構造変化をもたらします。これらの糖鎖修飾は異なる機構でありながら相乗的に抗体のエフェクター機能を高めることが明らかとなり、抗体医薬品の合理的設計に向けた重要な知見を提供します。

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2025/08/18

基質とは別の膜リン脂質PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用が電位依存性ホスファターゼVSPの電気化学カップリングを制御する

論文タイトル
Nonsubstrate PI(4,5)P2 interacts with the interdomain linker to control electrochemical coupling in voltage-sensing phosphatase (VSP)
論文タイトル(訳)
基質とは別の膜リン脂質PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用が電位依存性ホスファターゼVSPの電気化学カップリングを制御する
DOI
10.1073/pnas.2500651122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.31
著者名(敬称略)
水谷夏希 岡村 康司 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科/生命機能研究科統合生理学教室
著者からのひと言
VSPは海産無脊椎動物のホヤのゲノム情報を契機に2005年に発見された分子で、精子における生理機能は明らかにされてきたものの、およそ1週間を要する精子の成熟過程を通して適切な強さの酵素機能をどのように持続させているのかは大きな謎のままでした。今回見つかったVSPの制御機構は長年解けなかった謎の答えであり、これによって精子の動態の理解が進むことや男性不妊の治療法開発に貢献できることが期待されます。

抄訳

古くから、全ての生物は電気信号(細胞膜の電位変化)を巧みに利用して複雑な生命現象を実現させていることが知られてきました。電位依存性ホスファターゼVSPはこの電気信号を膜リン脂質PI(4,5)P2の脱リン酸化酵素反応に変換するユニークな分子であり、マウスを用いた研究から精子の運動制御に重要な役割を果たしていることが報告されてきましたが、VSPの機能を適切に調節するメカニズムは未解明でした。本研究では、蛍光を発する人工アミノ酸の一種であるAnapを用いたvoltage clamp fluorometry実験と分子動力学シミュレーションを組み合わせ、PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用によってVSPの機能が制御されることを明らかにしました。さらに、VSPが脱リン酸化する「基質の」PI(4,5)P2の影響を排除できる変異体においても同様の相互作用が観察されたことから、「基質とは別の」PI(4,5)P2による機能制御メカニズムの存在が示されました。

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