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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2026/03/18

脳悪性リンパ腫の遺伝子異常を最新型の半導体PET画像で可視化

論文タイトル
Digital FDG-PET Detects MYD88 Mutation-Driven Glycolysis in Primary CNS Lymphoma
論文タイトル(訳)
脳悪性リンパ腫の遺伝子異常を最新型の半導体PET画像で可視化
DOI
10.3174/ajnr.A8935
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
January 2026, 47 (1) 117-125
著者名(敬称略)
佐々木麻結 立石 健祐 他
所属
横浜市立大学脳神経外科
著者からのひと言
本研究では、dFDG-PETにおけるFDG集積の亢進が、MYD88遺伝子変異に関連する明確な神経画像学的特徴として同定されました。この知見は、PCNSLにおける画像検査を用いた遺伝学的分類を支援するツールとして、dFDG-PETが有する潜在的な有用性を示唆するものであり、また今後の個別化治療戦略への応用が期待されるところです。

抄訳

中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)におけるFDG-PET所見と糖代謝関連遺伝子異常との関連は十分に解明されていない。本研究では、解糖系活性を促進する主要な遺伝子異常であるMYD88変異を、半導体PETにより非侵襲的に検出可能か検討した。PCNSL 54例(55病変)を対象に、SUVmaxおよび腫瘍対背景比(TBR)とMYD88変異との関連を解析した。その結果、半導体FDG-PETではMYD88変異例でSUVmaxおよびTBRが有意に高値を示し、TBRは高い診断能(AUC=0.913)を示した。多変量解析でも両指標は独立した予測因子であった。さらにトランスクリプトーム解析により、MYD88変異例で解糖系関連遺伝子の発現亢進が確認された。以上より、半導体FDG-PETはMYD88変異に伴う代謝亢進を反映する有用な非侵襲的診断法となり得る。

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2026/03/17

単細胞生物ソライロラッパムシにおける固着場所の幾何選好性

論文タイトル
Geometrical preference of anchoring sites in the unicellular organism Stentor coeruleus
論文タイトル(訳)
単細胞生物ソライロラッパムシにおける固着場所の幾何選好性
DOI
10.1073/pnas.2518816123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.9 e2518816123
著者名(敬称略)
越後谷駿 西上幸範 他
所属
北海道大学電子科学研究所知能数理研究分野
著者からのひと言
ラッパムシを含む単細胞性の真核生物「原生生物」は、下水浄化を行ったり赤潮や、マラリアなどの感染症を引き起こしたりと、様々なところで活躍しています。これらのマクロな現象は、どれも個々の原生生物の行動が組み合わさり現れています。原生生物の行動はまだまだ謎に満ちており、オモシロ行動がたくさん観察されます。それらの行動が生物や環境に与える役割を解き明かしていきたいと思います。

抄訳

我々のような「目」を持っていない単細胞生物でも実は周りの形の違いに応じて棲家を選んでいることが分かりました。そんな能力を持った単細胞生物の名は「ソライロラッパムシ」。体の大きさは1 mm程、肉眼では点にしか見えない生き物ですが、普段はラッパのような形で水の中を泳ぎ、自身の棲家を探しまわっています。どのような場所を棲家として好み、どうやって選んでいるのでしょうか。
ラッパムシが生きるミクロな水環境中にはたくさんの構造物がありふれています。そこで自然界のミクロな形の複雑さ模した観察容器を使ってソライロラッパムシの行動を観察しました。その結果、すみっこを棲家として好むことが分かりました。もちろん神経系や視覚情報は持っていませんが、体の形を変化させるシンプルな機構によって探索の空間解像度を切り替え、空間中のすみっこを見つけやすくする戦略をとっていることも行動観察と行動シミュレーションから明らかになりました。

 

 

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2026/03/16

卵巣未分化胚細胞腫における、腫瘍内ガス像を伴う急性腹症の1例

論文タイトル
Dysgerminoma of the ovary presenting as acute abdomen with intratumoural gas image: a diagnostic challenge suspected as a gastrointestinal stromal tumour
論文タイトル(訳)
卵巣未分化胚細胞腫における、腫瘍内ガス像を伴う急性腹症の1例
DOI
10.1136/bcr-2025-270400
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 19, Issue 3
著者名(敬称略)
吉田 志歩、 豊島 将文 他
所属
日本医科大学付属病院 女性診療科・産科
著者からのひと言
「腫瘍内のガス像」という、通常は消化管穿孔や感染を疑う極めて稀な所見を示した卵巣未分化胚細胞腫の症例報告である。一見、消化管疾患(GIST)と誤認しそうな画像所見が、実は茎捻転による血管内ガスの捕捉であったというメカニズムの考察は極めて示唆に富む。画像診断の落とし穴と、若年女性の急性腹症における迅速な外科的介入の重要性を再認識させる、教訓的な一報と言える。

抄訳

20代女性が急激な左下腹部痛と嘔吐で救急搬送された。身体所見で臍レベルまで達する硬い腫瘤を認め、血液検査ではLDHやALPの上昇、腫瘍マーカーであるCA125およびCA19-9の高値が確認された。AFPやhCGは正常範囲であった。造影CTでは腫瘍内に複数の線状ガス像が認められ、消化管間質腫瘍や膿瘍との鑑別が困難であったが、造影効果の欠如から卵巣茎捻転も疑われた。緊急手術の結果、360度捻転しうっ血した左卵巣腫瘍を確認し、病理検査にて卵巣未分化胚細胞腫と確定診断された。本例のガス像は、茎捻転による血管内ガスが、本腫瘍特有の構造である線維血管性隔壁に捕捉された結果であると考えられた。CTから約13時間後のMRIではガス像が消失していたことから、この現象が虚血に関連した一過性の現象と推測された。画像上、消化管疾患を疑う所見があっても、若年女性の急性腹症では卵巣腫瘍の茎捻転を念頭に置くべきである。

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2026/03/16

カリウムチャネルの機能性がニューロンにおける”適材適所”の局在を決定する

論文タイトル
Coupling of functionality to trafficking of KCNQ2/3 potassium channels at the axon initial segment
論文タイトル(訳)
カリウムチャネルの機能性がニューロンにおける”適材適所”の局在を決定する
DOI
10.1073/pnas.2527749123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.10 e2527749123
著者名(敬称略)
好岡 大輔 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科 統合生理学教室
著者からのひと言
本研究の最も重要な点の1つは、これまで独立した別物だと考えられてきた2つの主要なチャネル制御機構—機能と局在の制御機構—を結びつける統一的な原理を明らかにしたことです。この原理は、正常な分子だけを選んで“適材適所”に配置するという「品質管理機構」がKCNQ2/3自身に備わっていることを示しています。またKCNQ2/3の異常は、てんかんをはじめとする多くの神経・精神疾患の原因となることが知られています。本研究の成果は、これら疾患の病態理解を深めるとともに、新規治療戦略の開発に有益な洞察をもたらすと期待されます。

抄訳

KCNQ2/3は神経の興奮性を決める主要な電位依存性カリウムチャネルです。ニューロンは高度に極性化した細胞のため、KCNQ2/3が神経活動に及ぼす影響はチャネル自体の機能性だけでなく、活動電位の発生部位である軸索起始部(AIS)への局在性にも左右されます。KCNQ2/3の機能性は電位感受による構造変化によって制御される一方、AIS局在はアンキリンG(ankG)という主要な足場タンパク質によって制御されています。しかし、チャネルの機能性と局在性を規定する機構の間にどのような連関が存在するのかはこれまで未解明でした。本研究では、チャネル機能の遺伝子工学的操作と、チャネルトラフィッキングの先端イメージングを組み合わせることで、KCNQ2/3の機能・局在連関を検証しました。その結果、KCNQ3の機能低下がエキソ/エンドサイトーシスや側方拡散を含むトラフィッキング経路全体に影響し、KCNQ2/3複合体のAIS局在効率を顕著に低下させることが明らかになりました。さらに、KCNQ3とankGの全長タンパク質間の相互作用を定量できる生細胞アッセイを開発し、KCNQ3の活性化コンフォメーションがankGへの安定した結合のために必須であることを解明しました。これらの結果は、神経興奮性の制御においてKCNQ2/3の機能性と局在性を統合する機構的基盤を確立します。

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2026/03/13

豚インフルエンザAウイルス野外株のヘマグルチニン(HA)抗原部位におけるアミノ酸欠失がHA抗原性に及ぼす影響

論文タイトル
Impact of an amino acid deletion detected in the hemagglutinin (HA) antigenic site of swine influenza A virus field strains on HA antigenicity
論文タイトル(訳)
豚インフルエンザAウイルス野外株のヘマグルチニン(HA)抗原部位におけるアミノ酸欠失がHA抗原性に及ぼす影響
DOI
10.1128/jvi.01820-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
中野 大知 小澤 真 他
所属
鹿児島大学 共同獣医学部 病態予防獣医学講座

抄訳

本研究では、日本の7農場から分離した豚インフルエンザAウイルス11株を遺伝学的に解析し、そのうち1株のH1N2ウイルスで、ヘマグルチニン(HA)の主要な抗原部位に位置する155番アミノ酸の欠失を確認した。そこで、155位に人工的な挿入または欠失を導入した組換えウイルスを作出し、培養細胞での増殖性と抗原性への影響を比較した。その結果、この欠失はイヌ腎臓上皮由来AX4細胞およびヒト肺胞上皮由来A549細胞における増殖性には大きな影響を与えなかった一方、モノクローナル抗体およびフェレット抗血清を用いた中和試験では、HA抗原性を顕著に変化させた。さらに、立体構造予測ではHA全体の大きな構造変化は示されず、局所的な抗体認識の変化が主因である可能性が示唆された。以上より、豚インフルエンザAウイルスは、1アミノ酸の欠失でも免疫逃避に関わる可能性があり、ブタ集団における流行株の継続的監視が重要であることが示された。

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2026/03/13

表現型解析とマルチオミクス解析が明らかにした伸長因子Pの枯草菌生理機能における多面的な役割 

論文タイトル
Pleiotropic roles of elongation factor P in Bacillus subtilis physiology revealed by phenotypic and multi-omics analyses
論文タイトル(訳)
表現型解析とマルチオミクス解析が明らかにした伸長因子Pの枯草菌生理機能における多面的な役割 
DOI
10.1128/spectrum.03142-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Ahead of Print
著者名(敬称略)
小倉 光雄 他
所属
東海大学 海洋研究所
著者からのひと言
TranscriptomeとProteomeは、直感的には大体一致するものと思われてきたが、本研究では、検出された遺伝子とタンパク質の量的変化はかなり異なっていた。つまり、転写制御はもちろん第一義的に重要だが翻訳水準でもかなりの制御が行われていることがわかる。もちろんその解析はこれからの点が多いのだろうが、本研究のような網羅的、枚挙的な研究がその一助になれば良いと思う。

抄訳

枯草菌ECFシグマ因子sigXのグルコースによる発現誘導(GI)の阻害因子としてefp変異を同定した。伸長因子P (EF-P)は全生物に保存されており、タンパク質のXPPX配列におけるリボソーム停止を緩和する。efp変異体でのproteome変化を明らかにするため、iTRAQ解析を実施した。翻訳への影響を評価するには、mRNAあたりのタンパク質量を決定する必要があるから、RNA-seq実験も行った。iTRAQでは2187タンパク質を検出し、XPPXモチーフを含む84タンパク質の翻訳量減少を観察した。その結果efp変異による主要シグマ因子SigA とRNAPサブユニットRpoBとRpoCの減少をWestern解析やiTRAQで観察した。すなわち、RNAPコアをめぐる各シグマ因子の競争に変化が起こり、sigXのGIも影響されたと考えられる。さらに、鞭毛構成成分FliYとMotBの減少は運動性を欠損させ、チオレドキシンTrxAの減少は耐熱性を喪失させた。また、マンガン輸送体MntGの減少は低温下での成長に必要なマンガンの要求量を変化させた。この論文でefp変異によるトランスクリプトームとプロテオーム間の複雑な相互作用に光を当てた。

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2026/03/10

四次元以上の空間で何が見えてくるのか
― 高次元解析が明らかにした根粒菌接種による土壌微生物群集への影響 ―
 

論文タイトル
Higher-dimensional ordination analysis teases out impacts of Bradyrhizobium bioaugmentation on native soil microbial communities
論文タイトル(訳)
四次元以上の空間で何が見えてくるのか
― 高次元解析が明らかにした根粒菌接種による土壌微生物群集への影響 ―
DOI
10.1128/spectrum.02880-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Ahead of Print
著者名(敬称略)
加藤 広海 他
所属
東北大学 大学院 生命科学研究科 土壌微生物分野
著者からのひと言
微生物群集解析では、次元圧縮法によってデータを2~3次元に可視化して解釈することが一般的です。しかし本来、次元圧縮法は単なる可視化のための手法ではなく、群集間の関係を幾何学空間として表現する方法です。幾何学的な解析は、人間が可視化できる2~3次元に限られません。本研究ではこの視点から高次元空間での群集構造を解析し、根粒菌接種による影響を新しい角度から評価しました。

抄訳

土壌に有用微生物を導入するバイオオーグメンテーションは農業分野で広く利用されているが、その影響を土壌微生物群集全体のレベルで評価することは容易ではない。本研究では、ダイズ根粒菌 Bradyrhizobium の接種が土壌微生物群集に及ぼす影響を、高次元オーディネーション解析を用いて評価した。微生物群集データを高次元空間に埋め込み、群集遷移の方向性や群集間の距離などの空間的特徴を解析することで、接種による群集構造の変化を検討した。その結果、接種菌の影響は土壌条件や時間経過によって異なる形で現れることが示され、従来の低次元解析(2〜3次元への可視化)では捉えにくい群集構造の変化が明らかとなった。これらの結果は、高次元空間を用いた解析が微生物群集の変化を理解するうえで有効な手法となる可能性を示している。

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2026/03/06

アフリカツメガエル受精卵における細胞質RNAを用いた迅速な前核形成

論文タイトル
Rapid pronucleus assembly using cytoplasmic RNAs in fertilized eggs of Xenopus laevis
論文タイトル(訳)
アフリカツメガエル受精卵における細胞質RNAを用いた迅速な前核形成
DOI
10.1091/mbc.E25-09-0440
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 37, No. 3
著者名(敬称略)
池田 瑞紀 原 裕貴 他
所属
山口大学大学院創成科学研究科 進化細胞生物学研究室
著者からのひと言
本論文では、卵細胞中に豊富に存在するRNAがもつ「負の電荷」という物理化学的性質そのものが、クロマチン構造の脱凝縮を促し、受精後に精子核から前核が形成される過程を促進することを明らかにしました。卵細胞の細胞質には非常に多量のRNAが含まれていますが、本研究は、これらのRNAが既知のタンパク質合成の役割に加えて、細胞内の電荷バランスを調整することで、受精直後の胚で見られる極めて速い細胞周期の進行を支える「物理化学的環境」の形成にも関与する可能性を示唆しています。

抄訳

多細胞生物の卵細胞では、受精直後に精子由来の強く凝縮した核が、体細胞型の大きな前核へと急速に変化する。本研究は、この前核形成過程において卵細胞質に豊富に存在するRNAが果たす役割を検証した。アフリカツメガエル卵抽出液を用いた無細胞再構成系を用いて、細胞質内RNAの濃度や長さを実験的に操作したところ、適切な濃度と長さのRNAが前核形成を促進し、核内クロマチン構造の再編成を加速させることを見出した。また、RNAは精子由来の正に帯電した核タンパク質の解離を促進し、体細胞型ヒストンの取り込みを助けることも示された。これらの核形成やクロマチン構造への効果は、RNA以外の負に帯電した化合物でも再現され、RNAの塩基配列そのものではなく、負電荷という物理化学的性質が重要であることが示唆された。以上の結果から、卵細胞質中の負電荷をもつRNAがクロマチン構造の変換を促進し、受精後の短時間で進行する前核形成を加速する基本原理として機能する可能性が示された。

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2026/03/02

高速原子間力顕微鏡による真菌由来機能性アミロイド・ハイドロフォビンRolAの表面触媒型線維伸長機構の解明

論文タイトル
High-speed atomic force microscopy reveals a surface-catalyzed elongation mechanism of the fungal functional amyloid hydrophobin RolA
論文タイトル(訳)
高速原子間力顕微鏡による真菌由来機能性アミロイド・ハイドロフォビンRolAの表面触媒型線維伸長機構の解明
DOI
10.1073/pnas.2523502123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.7 e2523502123
著者名(敬称略)
高橋尚央 (筆頭著者) 阿部敬悦 (連絡著者) 他
所属
東北大学大学院農学研究科 発酵微生物学寄附講座
著者からのひと言
日本の伝統的な発酵産業で活躍する麹菌には、ハイドロフォビンRolAと呼ばれるタンパク質が集まってできた丈夫な“線維の被膜”が備わっています。本研究では高速原子間力顕微鏡により、幅数nmの線維が伸長する様子をリアルタイムで観察し、線維被膜ができる仕組みを明らかにしました。麹菌研究としてだけでなく、タンパク質線維の形成機構を幅広く理解するための新しい視点を与えると期待されます。

抄訳

麹菌が分泌する機能性アミロイド・ハイドロフォビンRolAは、自己組織化してrodletと呼ばれる線維状構造を形成し、細胞表層を密に覆うことで防御被膜として機能する。しかし、rodlet被膜が形成される機構は未だ不明である。
本研究では、高速原子間力顕微鏡を用い、線維の一本の伸長過程をリアルタイムに観察した。解析の結果、既存rodlet表面が触媒的に働き、それに沿ったrodletの伸長を加速させる現象(表面触媒型線維伸長)を見出した。この効果によりrodletの束化・整列が促され、実際の麹菌分生子表面で観察されるような緻密なrodlet被膜が形成されている可能性がある。本研究の成果は、麹菌細胞表層構造の発達過程の一端を明らかにするだけでなく、アミロイド線維伸長機構の理解をさらに深化させるものである。

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2026/02/26

日本の市中における薬剤耐性および高病原性肺炎桿菌の保有状況調査

論文タイトル
Carriage of hypervirulent and ESBL-producing Klebsiella pneumoniae complex among community-dwelling individuals in Japan
論文タイトル(訳)
日本の市中における薬剤耐性および高病原性肺炎桿菌の保有状況調査
DOI
10.1128/aem.01687-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol. 92, No. 2
著者名(敬称略)
渡邉 章子 鈴木 匡弘 他
所属
藤田医科大学 医学部 微生物学講座
著者からのひと言
日和見病原体の疫学調査では、臨床分離株の情報は多く収集される一方、バックグラウンドとなる健常者におけるこれら病原体の分布に関するデータは限られている。本研究はこの知識のギャップを解消し、感染症の原因となる株の特徴を理解することに貢献する。

抄訳

肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae complex)は、尿路感染症や血流感染症などの原因となる日和見病原体である。肝膿瘍や眼内炎など重篤な感染症を引き起こす高病原性株や抗菌薬耐性を示す株も存在し、注意が必要とされる。本研究ではこれらの臨床的重要性の高い株の感染源に関する情報を蓄積するため、日本の市中における 肺炎桿菌の保有状況を調査した。その結果、これらの細菌の保菌率は58.7%と腸内に一般的に存在しており、その全体的な遺伝子型分布は、これまでの臨床分離株の研究で報告されたものとおおむね類似していた。一方、薬耐性株や高病原性株も確認されたが、それぞれ全体の1%未満とその頻度は低かった。これらの知見は、多くの人が肺炎桿菌を常在菌として保菌する一方で、より臨床的重要性の高い型の肺炎桿菌は主に医療環境で拡散している可能性が高いことを示唆している。

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2026/02/24

DYRK阻害によるインクレチン産生細胞新生と糖尿病新規治療戦略

論文タイトル
A DYRK inhibitor ameliorates glucose homeostasis and increases incretin-producing cells in diabetic mice
論文タイトル(訳)
DYRK阻害によるインクレチン産生細胞新生と糖尿病新規治療戦略
DOI
10.1530/JME-25-0214
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Journal of Molecular Endocrinology JME-25-0214
著者名(敬称略)
寺崎 道重 他
所属
昭和医科大学医学部 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門
著者からのひと言
本研究は、カロリンスカ研究所やハーバード大学等との国際共同研究により、インクレチン産生細胞を「新生」させるという新たな糖尿病治療概念を立証したものです。分子メカニズムの解明からヒト小腸幹細胞由来オルガノイドを用いた実証まで、多角的な検証を重ねてまいりました。基礎から臨床へのトランスレーショナルリサーチとなる本知見が、細胞再生を基盤とする糖尿病治療のパラダイムシフトを担うことを願っております。

抄訳

現在の糖尿病治療は、血中インクレチン濃度の維持や受容体刺激による作用増強が主流であるが、本研究では、インクレチン産生細胞そのものを新生させる新規糖尿病治療戦略を提唱する。我々は、DYRK阻害が糖尿病マウスの糖代謝を改善させることを報告した。OGTTおよびipGTTの比較、ならびに血清Total-GIP/Total-GLP-1、インスリン濃度の上昇により、その代謝改善効果を重層的に実証した。メカニズム解析では、DYRK阻害がNFATc4とGIP/GLP-1の共発現細胞数を有意に増加させることを見出した。これらの細胞はEdU陰性であり、既存細胞の増殖ではなく、NFATc4の核内移行を介した分化誘導による「新生」であることを解明した。さらにヒト小腸幹細胞由来オルガノイドを用いた検証においてもインクレチン遺伝子の発現増強を確認し、本効果は種を超えて保存されていることを示した。本研究の成果は、内因性インクレチンの産生源を直接的に増強する次世代の糖尿病治療法開発に繋がる可能性を示唆するものである。

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2026/02/18

デュアルレセプター型Phikzvirusを基軸としたファージカクテルによる緑膿菌耐性進化の抑制

論文タイトル
Phage cocktails containing a dual-receptor Phikzvirus suppress resistance evolution in Pseudomonas aeruginosa
論文タイトル(訳)
デュアルレセプター型Phikzvirusを基軸としたファージカクテルによる緑膿菌耐性進化の抑制
DOI
10.1128/aem.02095-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
藤木 純平 岩野 英知 他
所属
酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 獣医生化学ユニット
著者からのひと言
薬剤耐性感染症への切り札“ファージ療法”の奏功性を高めるためにはファージ耐性の克服が課題です。本研究では、異なる受容体を認識するファージカクテルで細菌の逃げ道を先回りし、緑膿菌のファージ耐性進化を防ぐ戦略を具現化しました。また、単なる耐性抑止に留まらず、進化的トレードオフにより高いコストを強制することで、軍拡競争(arms race)から進化的罠(evolutionary trap)の袋小路へと追い込み、ファージ耐性を治療有益性へ逆転させる端緒を見出しました。今後は本学附属動物病院での臨床試験を通じ、ファージ療法の新たなパラダイムを実証したいと考えています。

抄訳

多剤耐性緑膿菌感染症に対するファージ療法において、細菌の急速なファージ耐性獲得は臨床上の大きな障壁です。本研究では、独自に単離したPhikzvirus属ファージ“ΦBrmt”が、IV型線毛と鞭毛の両方を感染受容体として利用する「デュアルレセプター(二重受容体)」機構を持つことを解明しました。このΦBrmtとLPS(リポ多糖)標的ファージを組み合わせ、異なる3種の受容体を狙う合理的カクテルを構築、臨床分離株を用いて検討した結果、各ファージの単独接種と比較して、カクテルは耐性菌の出現を劇的に抑制することに成功しました。また、実験室内進化でΦBrmt耐性獲得に伴い線毛や鞭毛を喪失した変異株は、運動性や病原性が顕著に低下する「進化的トレードオフ」を示しました。これは、耐性化そのものを抑えるだけでなく、仮に耐性化が起こっても細菌に高いフィットネスコストを強制し、治療有益性を維持できることを意味します。本成果は、受容体同定に基づく合理的カクテル設計が、耐性進化の回避・制御に極めて有効であることを提示しています。

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2026/02/16

肺結核に対する連続喀痰核酸増幅検査の追加診断収率

論文タイトル
Incremental diagnostic yield of consecutive sputum nucleic acid amplification tests for pulmonary tuberculosis
論文タイトル(訳)
肺結核に対する連続喀痰核酸増幅検査の追加診断収率
DOI
10.1128/spectrum.02442-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Ahead of Print
著者名(敬称略)
鹿子木 拓海 卜部 尚久 他
所属
東邦大学医療センター 大森病院 呼吸器内科
著者からのひと言
喀痰結核菌核酸増幅検査(NAAT)は、臨床現場では通常1回のみ提出されますが、喀痰塗抹検査や喀痰培養検査のように複数回提出した場合の診断性能は十分に確立されていません。本研究の結果、NAATを2回実施することで感度が向上し、診断までの時間も短縮されることが示されました。一方、3回目による追加効果は限定的でした。培養の重要性は不変であるものの、侵襲的検査が困難な場合などにNAATを追加で実施することで、診断に寄与する可能性が示唆されます。

抄訳

背景: 肺結核に対して、喀痰核酸増幅検査(NAAT)を連続して実施した場合の追加診断性能は十分に確立されていない。本研究では、結核非高蔓延地域において、喀痰NAATを最大3回連続で行った際の診断性能を評価することを目的とした。
方法: 2010年から2023年に日本で肺結核が疑われた4,051例を後方視的に解析した。喀痰培養陽性、または喀痰NAAT陽性で臨床所見と整合し肺結核と判断された症例を肺結核群(n=290)とし、それ以外を非肺結核群(n=3,761)とした。塗抹検査、NAAT、培養検査について、3回までの喀痰検体での累積感度及び累積特異度を算出した。培養検査単独の場合と喀痰NAATを 3回まで併用した場合の診断確定までの時間を比較した。
結果: 肺結核群で2回目のNAATにより累積感度が53.1%から63.1%へ上昇し、平均診断時間は10.9日から8.3日へ短縮した。3回目のNAATによる追加効果は限定的で、感度は67.2%までの上昇にとどまり、診断時間も8.1日であった。喀痰塗抹陽性PTBでは、NAAT感度は1回目の84.9%から2回目で97.8%まで上昇した。喀痰塗抹陰性例でも感度は23.8%から31.1%へ上昇した。
結論: 結核非高蔓延地域において、喀痰NAATを2回実施することで診断感度が有意に改善し、診断までの時間も短縮された。

 

 

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2026/02/13

緑藻クラミドモナスにおいてCO2濃縮機構を抑制する核内CobW/WWドメイン因子の同定

論文タイトル
A nuclear CobW/WW-domain factor represses the CO2-concentrating mechanism in the green alga Chlamydomonas reinhardtii
論文タイトル(訳)
緑藻クラミドモナスにおいてCO2濃縮機構を抑制する核内CobW/WWドメイン因子の同定
DOI
10.1073/pnas.2518136123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.6 e2518136123
著者名(敬称略)
嶋村 大亮 山野 隆志 他
所属
京都大学 大学院生命科学研究科
京都大学 大学院生命科学研究科附属生命情報解析教育センター(CeLiSIS)
著者からのひと言
「光合成をいかに効率化するか」は、食料や環境問題の解決に向けた重要課題です。今回私たちは、微細藻類がCO2濃度に応じて光合成を最適化する際の「抑制の鍵」となるタンパク質CBP1を突き止めました。長年謎だった、不要なエネルギー消費を抑える制御機構の一端を解明できたことは大きな喜びです。このスイッチの理解が、将来的な藻類のバイオ生産性向上や、植物の光合成能強化に繋がることを期待しています。

抄訳

微細藻類は、周囲の二酸化炭素(CO2)濃度が低下した際に、光合成を維持するための「CO2濃縮機構(CCM)」を駆動させます。しかし、CCMは多大なエネルギーを消費するため、CO2が十分な環境下では適切に抑制される必要があります。本研究では、モデル緑藻クラミドモナスを用いて、CCMのマスター活性化因子であるCCM1/CIA5と結合する新規タンパク質「CBP1」を同定しました。 解析の結果、CBP1は核内に局座するCobW/WWドメインを持つ因子であり、高CO2条件下においてCCM関連遺伝子の発現を抑制する「オフスイッチ」として機能していることが明らかになりました。CBP1を欠損した変異体では、高CO2下でも不必要にCCMが作動し、細胞の増殖が抑制されました。本成果は、水圏の光合成生物が変動する環境下でいかにエネルギー効率を最適化しているかという基礎理解を深めるだけでなく、微細藻類を用いたバイオ燃料生産等の効率化への応用も期待されます。

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2026/02/10

Edwardsiella tarda の栄養獲得機構が壊死性軟部組織感染症の病態進展を導く

論文タイトル
Nutrient acquisition drives Edwardsiella tarda pathogenesis in necrotizing soft tissue infection
論文タイトル(訳)
Edwardsiella tarda の栄養獲得機構が壊死性軟部組織感染症の病態進展を導く
DOI
10.1128/msystems.01657-25
ジャーナル名
mSystems
巻号
mSystems Ahead of Print
著者名(敬称略)
山﨑 浩平 柏本 孝茂 他
所属
北里大学獣医学部獣医学科獣医公衆衛生学研究室
著者からのひと言
本研究では、壊死性軟部組織感染症という極めて重篤な病態において、起因菌 Edwardsiella tarda の病原性に寄与する因子を網羅的に探索しました。その結果、毒素などの直接的な病原因子はほとんど検出されず、栄養素の代謝や輸送に関与する遺伝子が多く選抜されました。これは、見過ごされがちであった病原細菌の栄養獲得機構の重要性を明確に示したものです。本成果が、侵襲性感染症の病態理解や新たな制御戦略を考える一助となれば幸いです。

抄訳

壊死性軟部組織感染症(NSTI)は急速に進行し、高い致死率を示す重篤な感染症である。原因菌は多岐に渡るが、それらが宿主体内でどのように増殖・定着するかについては不明な点が多い。本研究では、NSTI原因菌のひとつである Edwardsiella tarda に、TraDIS (Transposon-directed insertion-site sequencing) 解析を適用し、感染局所での生存・増殖に必須の遺伝子を網羅的に同定した。その結果、感染局所の軟部組織内での増殖に、鉄やアミノ酸などの栄養獲得に関与する遺伝子群が強く寄与していた。さらに、これら遺伝子の変異株はマウス感染モデルにおいて有意に病原性が低下していた。以上のことから、NSTIにおいては環境適応としての栄養獲得が病態進展の鍵であることが示された。本研究は、侵襲性感染症における病態発現の基礎として、宿主から巧みに栄養源を奪う、統制された制御システムの連動が重要であることを示している。

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2026/02/10

日本の腐朽材および土壌から分離した新種子嚢菌酵母Vanderwaltozyma osmotolerans sp. nov.

論文タイトル
Vanderwaltozyma osmotolerans sp. nov., a novel ascomycetous yeast species isolated from rotting wood and soil in Japan
論文タイトル(訳)
日本の腐朽材および土壌から分離した新種子嚢菌酵母Vanderwaltozyma osmotolerans sp. nov.
DOI
10.1099/ijsem.0.006965
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 75, Issue 11
著者名(敬称略)
浜口 愛勇生 笹野 佑 他
所属
崇城大学 生物生命学部 生物生命学科 微生物ゲノミクス研究室
著者からのひと言
Vanderwaltozyma属酵母は2003年にCletus P. Kurtzmanによって提唱された比較的新しい属である。有名な出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeと同じ科(family)に属する。本論文は、熊本県および香川県の環境サンプルから分離したVanderwaltozyma属新種酵母についての記載論文である。本酵母は非常に強い発酵性および高い浸透圧耐性を示す興味深い性質があり、今後は詳細なゲノム解析と産業応用を見据えた研究を進めていきたい。

抄訳

日本の腐朽材および土壌から、酵母属 Vanderwaltozyma に近縁な3菌株が分離された。ITS1-5.8S-ITS2、LSU rRNA D1/D2 領域、およびミトコンドリア COX II 遺伝子の配列解析に、生理学的性状の解析を組み合わせた結果、これらの分離株は新種を構成するものと判断された。3菌株の ITS 配列および D1/D2 配列は、1塩基の違いを除いてほぼ完全に一致しており、生理学的プロファイルにも差異が認められなかったことから、同一種であることが支持された。これらの菌株は d-グルコースおよび d-フルクトースを活発に発酵した。また、高い浸透圧ストレス耐性を示し、5%グルコースを含む 10%塩化ナトリウム添加培地、あるいは最大 50%(w/v)グルコースを含む培地においても生育可能であった。さらに、V8寒天培地条件下では、1子嚢あたり4個の子嚢胞子を形成した。ITS 配列および LSU D1/D2 配列に基づく系統解析により、これらの菌株は Vanderwaltozyma 属に明確に位置づけられる一方で、既知種とは区別されることが示された。以上の系統学的および表現型的特徴に基づき、これらの分離株を収容する新種として Vanderwaltozyma osmotolerans sp. nov. を提唱する。本種のホロタイプは NBRC 117259T と指定する。

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2026/02/02

mGluR1シグナル伝達経路は「勝者」登上線維シナプスの強化に必須である

論文タイトル
mGluR1 signaling is necessary for strengthening winner climbing fiber inputs in the developing mouse cerebellum
論文タイトル(訳)
mGluR1シグナル伝達経路は「勝者」登上線維シナプスの強化に必須である
DOI
10.1073/pnas.2425460123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.4 e2425460123
著者名(敬称略)
山崎 美和子 他
所属
北海道大学大学院医学研究院 解剖学分野 解剖発生学教室
著者からのひと言
mGluR1シグナル伝達経路はこれまで「敗者」の除去に必須とされてきましたが、実は「勝者」を強く育て上げる役割も併せ持つことがわかりました。つまり、脳は同一の分子シグナルを「ハサミ(除去)」と「肥料(育成)」として使い分け、「勝者」と「敗者」の格差を拡大させていたのです。本成果は、必要なシナプスの強化不全という、小脳失調症や発達障害の新たな病態メカニズムの理解につながると期待されます。

抄訳

運動の制御や学習に重要な小脳プルキンエ細胞の発達過程では、初期に接続していた多数の登上線維から一本の「勝者」が選ばれ、残りは「敗者」として除去されます。これまで「敗者」の除去については研究が進んでいましたが、「勝者」がどのように強化され、支配領域を広げるのかは未解明でした。本研究では、mGluR1シグナル伝達経路に着目し、遺伝子改変マウスを用いて多角的な解析を行いました。電気生理学解析では、本経路の欠損により、勝者シナプスの機能が弱く、長期増強(LTP)も生じないことが判明しました。さらに、連続電子顕微鏡法による立体再構築や、免疫組織化学法による発現解析から、未発達なシナプス構造や受容体の発現低下、樹状突起への配線拡大の失敗が明らかになりました。以上の結果は、mGluR1シグナル伝達経路が、「勝者」のシナプス構造と機能を強化し、樹状突起への配線拡大に必須であることを示すものです。

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2026/01/30

基底側からの静水圧はがん細胞の増殖促進、運動亢進、細胞極性の変化を引き起こすー腫瘍微小環境の間質圧亢進モデルー

論文タイトル
Hydrostatic pressure from basal side promotes cancer proliferation, enhances migration, and alters cell polarity: A model of the effects of interstitial fluid pressure in tumor microenvironment
論文タイトル(訳)
基底側からの静水圧はがん細胞の増殖促進、運動亢進、細胞極性の変化を引き起こすー腫瘍微小環境の間質圧亢進モデルー
DOI
10.1091/mbc.E25-05-0261
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 37, No. 1
著者名(敬称略)
尾ノ井 恵佑 徳田 深作 他
所属
京都府立医科大学大学院医学研究科呼吸器内科学
著者からのひと言
本研究ではがん細胞に基底側から圧力を加えるために数mmの培地の水面の差による静水圧を利用しており、このわずかな圧力が細胞の様々な形質を劇的に変化させることが分かりました。特に細胞運動は圧力を加えた直後から変化が認められ、上皮シート内で細胞が活発に動き回る様子(Movie S10など)には著者らも驚かされました。今後メカニズムの解明が進めば将来的にがんの新しい治療につながる可能性もあると考えています。

抄訳

腫瘍微小環境は腫瘍の発生や進行を促進することが知られている。腫瘍微小環境内の間質の圧力はほとんどすべての固形腫瘍で上昇しており、物理的な圧力は細胞増殖など様々ながん細胞の機能に影響を及ぼすことが報告されている。しかし、これまでの研究では圧力の方向性は考慮されておらず、腫瘍微小環境における物理的な圧力が果たす役割は未だによく分かっていなかった。そこで我々はトランスウェル膜上に培養した肺癌細胞に基底側から静水圧を加える間質圧亢進モデルを考案し、圧力が及ぼす影響を検討した。その結果、基底側からの圧力は細胞運動、極性、増殖、細胞死など様々な形質を変化させ、上皮の重層化を引き起こすことが明らかになった。腫瘍微小環境内の物理的な圧力はがんの進行に有利となる様々な形質をがん細胞に与え、がん細胞生物学おいて重要な役割を果たしていると考えられた。

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2026/01/29

Period1遺伝子の特異的誘導化合物はマウスの概日時計を前進させる

論文タイトル
A Period1 inducer specifically advances circadian clock in mice
論文タイトル(訳)
Period1遺伝子の特異的誘導化合物はマウスの概日時計を前進させる
DOI
10.1073/pnas.2509943123
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.123 No.4 e2509943123
著者名(敬称略)
高畑 佳史 程  肇 他
所属
金沢大学 理工研究域 生命理工学系
著者からのひと言
「朝起きるのがつらい」「海外旅行の時差ぼけを早く治したい」―そんな課題を、体内時計の針を“前に進める”ことで解決する革新的な化合物がMic-628です。その精密な作用は、時計遺伝子Per1の特異な発現制御を巧みに利用する分子機構に基づいています。本研究は、概日時計の発振原理とその生理的意義の理解を大きく前進させるとともに、時差ぼけやシフトワーク障害など、現代社会におけるリズム破綻に挑む時間生物学の新たな地平を切り拓くものです。

抄訳

哺乳類の概日時計中枢である脳視交叉上核における時計遺伝子Period1 (Per1)の周期的発現と光誘導は、行動リズムの周期維持と光同調に必須である。本研究では、Per1の転写を選択的に誘導し、全身の体内時計を強力に前進させる新規化合物Mic-628を同定した。Mic-628をマウスに経口投与すると、視交叉上核および末梢組織の時計と行動リズムの位相が、投与時刻に依存せず約2時間前進した。Mic-628は転写抑制因子CRY1と結合し、転写因子CLOCK–BMAL1複合体の多量体化を促すことで、Per1プロモーター上のタンデムE-box配列依存的な転写誘導を引き起こした。翻訳により生成されたPER1タンパク質は、Mic-628依存的な転写活性を自律的に抑制した。数理モデル解析により、実験で得られたPER1による負のフィードバック抑制とCRY1依存的転写促進が、Mic-628に特有の安定した位相前進を生み出す分子基盤であることを示した。Mic-628の発見は、時差ぼけや交代制勤務に伴う概日リズム障害への薬理学的介入を可能にする新たな方向性を提示している。

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2026/01/27

心筋細胞非神経性アセチルコリン産生能が障害を受けると、ミトコンドリア機能障害が起こり、その膜上に局在するニコチン受容体を介したカルシウムハンドリング能も低下し、最終的には心不全を引き起こす

論文タイトル
Impaired cardiac non-neuronal acetylcholine synthesis triggers mitochondrial dysfunction with the loss of nicotinic receptor-mediated calcium handling, causing the failing heart
論文タイトル(訳)
心筋細胞非神経性アセチルコリン産生能が障害を受けると、ミトコンドリア機能障害が起こり、その膜上に局在するニコチン受容体を介したカルシウムハンドリング能も低下し、最終的には心不全を引き起こす
DOI
10.1042/CS20257026
ジャーナル名
Clinical Science
巻号
Clin Sci (Lond) (2025) 139 (22): 1543–1570
著者名(敬称略)
曽野部 崇 柿沼 由彦 他
所属
学校法人日本医科大学 大学院医学研究科 生体統御科学分野
著者からのひと言
AChというと副交感神経系由来の神経伝達物質が想起されるが、実は心筋細胞自身ACh産生能を持つこと、そのAChは世界で初めて、Mit膜上にあるニコチン受容体を介してその情報を伝達し、Mitカルシウム取り込みを制御してMitそのものの機能保持をすること、そして最終的には心筋細胞質内カルシウムレベルの安定化に大きく寄与することが解明されたことは重要な発見である。

抄訳

我々を筆頭にこれまで、心筋細胞による非神経性アセチルコリン産生系(NNCCS)が心筋細胞の生理機能維持に必須であること、虚血耐性能・抗心肥大効果・抗交感神経亢進機能を有すること等が報告されてきた。しかしその機序、特にNNCCSの標的分子は不明であった。そこで心臓特異的ChATコンディショナルノックアウトマウスを解析し、不全心症状を伴う心機能低下、心臓ATP産生能低下、形態・膜電位異常を伴うミトコンドリア(Mit)異常が確認された。さらにその膜上に局在する7ニコチン受容体およびMItカルシウム輸送体両蛋白ともその発現レベルは低下し、心筋細胞でのMitカルシウムハンドリング機能は低下した。その結果全身性炎症応答の惹起や血液脳関門蛋白claudin-5発現低下によるうつ・ストレス応答亢進等中枢への影響も認められた。以上よりNNCCSの標的の一つはMitであり、そのカルシウムハンドリグを介した機能形態維持には、ニコチン受容体を介する心筋細胞内AChが不可欠であることが解明された。

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