本文へスキップします。

H1

国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/12/18

ゼブラフィッシュ胚を用いた組換えヒトノロウイルスの作出

論文タイトル
Recovery of infectious recombinant human norovirus using zebrafish embryos
論文タイトル(訳)
ゼブラフィッシュ胚を用いた組換えヒトノロウイルスの作出
DOI
10.1073/pnas.2526726122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.49 e2526726122
著者名(敬称略)
小瀧 将裕 小林 剛 他
所属
大阪大学 微生物病研究所 ウイルス免疫分野
著者からのひと言
私たちの研究グループは、これまでノロウイルスと同様に急性胃腸炎を引き起こすロタウイルスなど、いくつかのRNAウイルスで人工合成系を開発してきました。本研究では、これまでに培ってきたウイルス人工合成技術に加え、ノロウイルスが安定的に増殖できるゼブラフィッシュに着目することで、感染性ノロウイルスの人工合成に世界で初めて成功しました。今後は、本研究成果をさらに発展させることで、ノロウイルスのワクチンや治療薬の開発へとつなげていきたいと考えています。

抄訳

ヒトノロウイルス(ノロウイルス)は急性胃腸炎を引き起こし、感染者数や社会的損失の大きさから、最も重要な腸管感染症病原体の一つである。しかし、ワクチンや治療薬の開発は依然として遅れている。その主な要因として、実用的なノロウイルスの人工合成系が確立されていないことが挙げられる。
本研究では、ゼブラフィッシュを用いたノロウイルス培養系を活用し、感染性を有するノロウイルスの人工合成系を確立した。まず、ノロウイルスゲノム由来cDNAを培養細胞に導入し、培養上清をゼブラフィッシュ胚へ注入することで、組換えノロウイルスの作製に成功した。作製した組換えウイルスは、ヒト腸管オルガノイドにおいても増殖能を示し、感染性が確認された。さらに、培養細胞を介さずに、ノロウイルスゲノム由来cDNAをゼブラフィッシュ胚に直接注入することで、より効率的な人工合成系の開発に成功した。加えて、本技術を用いることで、レポーター遺伝子挿入ウイルスや異なる遺伝子型間のキメラウイルスの作製が可能であることも実証した。
本研究成果により、ウイルス複製機構の解析やノロウイルスワクチンおよび治療薬の開発が飛躍的に進展すると期待される。

論文掲載ページへ

2025/12/18

Tppp3は細胞内の微小管構造形成とスフィンゴ脂質恒常性を介して呼吸器繊毛における基底小体の配置と繊毛膜の独立性を制御する

論文タイトル
Tppp3 determines basal body positioning and identity of respiratory cilia via microtubule assembly and sphingolipid homeostasis
論文タイトル(訳)
Tppp3は細胞内の微小管構造形成とスフィンゴ脂質恒常性を介して呼吸器繊毛における基底小体の配置と繊毛膜の独立性を制御する
DOI
10.1073/pnas.2503931122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.49 e2503931122
著者名(敬称略)
酒井 敬史 篠原 恭介 他
所属
東京農工大学大学院工学府生命工学専攻
著者からのひと言
私たちの身体を守るうえで欠かせない気管の繊毛は、絶えず外界からの異物を運び出す「流れ」をつくっています。この流れが乱れないためには、繊毛が細胞内で正しく配置され、個々が独立した構造を保つ必要があります。本研究では、これまで注目されてこなかった Tppp3 というタンパク質が、繊毛の配置や膜構造に関与していることを発見しました。繊毛の機能を支える細胞内メカニズムを理解することで、さまざまな呼吸器疾患の背景にある問題に新しい視点から迫れると期待しています。

抄訳

気管の内側には、繊毛と呼ばれる毛様構造が密に並び、外から侵入する細菌やウイルスを粘液とともに排出しています。気管の繊毛は1つの細胞から数百本も生えていますが、それらが同じ方向へ揃い、さらに各繊毛膜が互いに融合せず独立して存在する仕組みは、十分に理解されていませんでした。本研究では、細胞骨格の一つである微小管に関連するタンパク質 Tppp3 のマウス呼吸器繊毛細胞における役割を解析しました。その結果、Tppp3が細胞内微小管構造を制御することによって、繊毛の根元にある基底小体の向きと配置を決定づけていることを明らかにしました。さらに、Tppp3は繊毛膜に存在するセラミドの量を調節し、繊毛膜同士の融合を防いでいることを示しました。加えて、Tppp3は嗅覚を担う嗅覚神経細胞でも微小管構造の形成に関与し、ニオイの感知に必須な繊毛形成を支えていることが分かりました。これらの成果は、呼吸器疾患や嗅覚障害の背景にある細胞レベルのメカニズムを理解に新たな視点を提示しています。

論文掲載ページへ

2025/12/15

視床-皮質相互作用は、ヒト多能性幹細胞由来アセンブロイドにおける細胞種特異的な大脳皮質の発生を駆動する

論文タイトル
Thalamus–cortex interactions drive cell type–specific cortical development in human pluripotent stem cell–derived assembloids
論文タイトル(訳)
視床-皮質相互作用は、ヒト多能性幹細胞由来アセンブロイドにおける細胞種特異的な大脳皮質の発生を駆動する
DOI
10.1073/pnas.2506573122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.47 e2506573122
著者名(敬称略)
筆頭著者:西村 優利
連絡著者:小坂田 文隆
所属
名古屋大学 大学院創薬科学研究科 細胞薬効解析学分野
著者からのひと言
私たちは「脳を作って理解する」アプローチで、ヒト脳の視床と大脳皮質の相互作用を試験管内で再現し、視床入力が細胞種レベルで大脳皮質の神経回路の形成を制御することを示しました。この成果は、ヒト脳の発生・発達の理解を深めるとともに、神経発達症の原因解明と創薬開発へ繋がると期待しています。

抄訳

本研究では、ヒト多能性幹細胞由来の大脳皮質オルガノイドと視床オルガノイドを融合した視床皮質アセンブロイド(hThCA)を用い、視床–皮質相互作用がヒト大脳皮質の発達をどのように制御するかを明らかにした。hThCAでは双方向の軸索投射とシナプスが再構成され、視床入力により軸索形成・皮質板関連・活動依存的遺伝子の発現上昇を伴う大脳皮質の成熟が加速した。組織解析では、神経前駆細胞プールの拡大と深層ニューロンの増加が認められた。さらに、hThCAにおいて、神経活動が視床から大脳皮質へ波状に伝播し、大脳皮質側では錐体路(PT)ニューロンと皮質視床(CT)ニューロンにのみ同期活動が出現し、大脳内(IT)ニューロンは非同期のままであった。以上より、視床由来の拡散性因子が前駆細胞の増殖を、長距離シナプス入力が細胞種特異的な同期ネットワークの形成を担うことが示唆される。hThCAは視床皮質連関の破綻が関与する神経発達症の分子・細胞・回路レベルでの解析を可能にする有効なヒト脳モデルとなる。

論文掲載ページへ

2025/12/10

プロスタグランジン E2-EP2/EP4受容体経路は、腫瘍増殖のための腫瘍浸潤Tregに特徴的な表現型を獲得させる。

論文タイトル
Prostaglandin E2-EP2/EP4 signaling induces the tumor-infiltrating Treg phenotype for tumor growth
論文タイトル(訳)
プロスタグランジン E2-EP2/EP4受容体経路は、腫瘍増殖のための腫瘍浸潤Tregに特徴的な表現型を獲得させる。
DOI
10.1073/pnas.2424251122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.49 e2424251122
著者名(敬称略)
松浦 竜真 成宮 周 他
所属
京都大学大学院 医学研究科 創薬医学講座
著者からのひと言
EP4阻害薬は、固形癌に対する治験が幾つか進行中で、最近では、その一つで、胃がんを対象とする第2相治験で有効性を示したと報告されました。また、抗CCR8抗体をはじめとするTI-Treg選択的除去型のがん免疫治療薬の臨床試験も近年続々と進められています。本研究で得られた知見は、これら薬物の臨床開発戦略の構築、例えば、免疫学的特徴に基づく適応がん患者の層別化など、を推進するための科学的基盤を形成すると期待されます。

抄訳

制御性T細胞 (Treg) は、自己免疫疾患などの過剰な免疫反応を抑制し免疫系のバランスを維持するものですが、一方、がんでは、腫瘍組織に強く集積し、がん免疫を抑制してがんの進展を促進します。この腫瘍に浸潤したTreg (TI-Treg) は、活性化を起こす分子を多様に発現し免疫を強く抑制するのが特徴です。この腫瘍に浸潤したTregに特徴的な表現型 (TI-Treg Phenotype) は、ヒトの様々な癌でステージによらず見られ、マウスなどの実験的腫瘍でも観察されることから、腫瘍微小環境には癌の種類を超えて共通のTreg活性化メカニズムが存在すると考えられていましたが、その本体は不明なままでした。本研究は、生理活性脂質のプロスタグランジン(PG) E2 が、腫瘍内の環境因子の一つであり、Treg自身のPGE受容体EP2/EP4サブタイプに作用してTI-Tregに特徴的な表現型を獲得させ、抗腫瘍免疫をより強く抑制して腫瘍の進展を助長していることを見出しました。

論文掲載ページへ

2025/12/10

HCV IRES 依存的翻訳における eIF3 の役割の構造基盤

論文タイトル
Structural insights into the role of eIF3 in translation mediated by the HCV IRES
論文タイトル(訳)
HCV IRES 依存的翻訳における eIF3 の役割の構造基盤
DOI
10.1073/pnas.2505538122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.49 e2505538122
著者名(敬称略)
岩崎 わかな 伊藤 拓宏 他
所属
理化学研究所(理研)生命医科学研究センター 翻訳構造解析研究チーム

抄訳

RNAウイルスや一部のヒト遺伝子は、キャップ非依存的に翻訳を開始する内部リボソーム侵入部位IRESを持つ。本研究では、C型肝炎ウイルス(HCV)のIRESがリボソームと翻訳開始因子eIF3に同時結合した開始から伸長の段階の複数のクライオ電子顕微鏡構造を決定した。eIF3コアはIRESのIIIbに強く結合してリボソーム上から押し出される一方、架橋質量分析によりeIF3の非コアサブユニットはキャップ依存開始複合体と同様のリボソーム上の部位に留まり得ることが分かった。このeIF3の配置は、宿主mRNAとの競合を克服しウイルスの翻訳を促進する機構を説明するものである。さらに、翻訳伸長中にeIF3c のN末端ドメインが60Sに結合することを明らかにした。これは、eIF3がIRES依存的な翻訳開始だけでなく伸長や再開始にも関与する可能性や、通常のキャップ依存的な翻訳においても60Sとの結合や伸長リボソーム上でのeIF3の安定化に寄与する可能性を示すものである。

論文掲載ページへ

2025/12/09

わが国の伝統食・奈良漬の発酵を担う好エタノール性乳酸菌 Fructilactobacillus fructivorans

論文タイトル
Ethanolphilic lactic acid bacterium Fructilactobacillus fructivorans as the key microorganism for fermentation of narazuke, a traditional Japanese preserved food
論文タイトル(訳)
わが国の伝統食・奈良漬の発酵を担う好エタノール性乳酸菌 Fructilactobacillus fructivorans
DOI
10.1128/aem.01730-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
吉岡 求 赤坂 直紀 渡辺 大輔 他
所属
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域微生物インタラクション研究室
著者からのひと言
奈良漬は、酒粕に漬ける漬物というイメージが強い一方、発酵の実態は意外に未解明でした。本研究では、微生物叢解析と再現試験により奈良漬発酵の鍵微生物を特定し、さらに好エタノール性という新しい環境適応戦略を提示しました。伝統的発酵食品には、いまだ解明されていない微生物の世界が広がっています。今回の発見を起点に、様々な発酵食品の品質向上や地域産業の発展につながる研究へと展開していきたいと考えています。

抄訳

奈良漬とは、酒粕に塩漬野菜を繰り返し漬け込んで作る日本の伝統的保存食である。その原型は8世紀に遡るとされ長く日本人に親しまれてきた一方で、微生物による発酵が起こっているかどうかは不明であった。本研究における微生物叢解析の結果、製造工程が進むにつれて最終的に乳酸菌Fructilactobacillus fructivoransが単独優占することを見出した。ラボスケールでの製造試験でも同菌が優占し、2か月の熟成に伴う乳酸増加が確認されたことから、F. fructivoransが奈良漬発酵の主担当菌であることを示した。奈良漬環境はエタノールを含有し微生物にとって過酷なものである。奈良漬由来F. fructivoransは、エタノール存在下で無添加条件より速く増殖する好エタノール性を示し、比較トランスクリプトーム解析により脂肪酸代謝の改変がその原因となっている可能性が示唆された。

論文掲載ページへ

2025/12/09

非侵襲性乳酸菌(Lactococcus lactis)ベクターを用いた粘膜DNAワクチンの免疫原性とプラスミド送達経路

論文タイトル
Immunogenicity and plasmid delivery pathways of non-invasive Lactococcus lactis-vectored mucosal DNA vaccination
論文タイトル(訳)
非侵襲性乳酸菌(Lactococcus lactis)ベクターを用いた粘膜DNAワクチンの免疫原性とプラスミド送達経路
DOI
10.1128/iai.00460-25
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Ahead of Print
著者名(敬称略)
川嶋 更奈 髙橋 圭太 他
所属
岐阜薬科大学感染制御学研究室
著者からのひと言
非侵襲性の細菌が、どのように宿主細胞へ遺伝子を届けるのか?この疑問に対し、本研究では「貪食作用」が主要ルートであることを細胞レベルで実証しました。単にワクチン効果を見るだけでなく、細菌と宿主免疫系の相互作用を理解する上でも興味深い結果だと考えています。安全性が高い乳酸菌ベクターの改良や、新たな経鼻ワクチン戦略の設計に資する基礎的知見として、ぜひご一読いただければ幸いです。

抄訳

粘膜DNAワクチンは、病原体の侵入部位である粘膜面において免疫を誘導できる有望な手法です。中でも食品微生物として安全性が確立されている非侵襲性の乳酸菌をベクターとして利用する試みは、従来の侵襲性細菌ベクターに代わる安全なプラットフォームとして期待されています。しかし、非侵襲性乳酸菌がどのようにしてプラスミドDNAを宿主細胞へ届け、免疫を誘導するのか、その詳細なメカニズムはこれまで十分に解明されていませんでした。本研究では、モデル抗原発現プラスミドを保持した乳酸菌をマウスに経鼻投与し、その免疫原性と体内での挙動を解析しました。その結果、経口投与と比較して経鼻投与では高い免疫応答が得られ、抗原特異的な血清IgGおよび粘膜IgAの誘導が確認されました。さらに、プラスミド送達メカニズムを検証したところ、プラスミドの主要な受取手は粘膜上皮細胞ではなく、マクロファージなどの貪食細胞である可能性が示されました。本研究成果は、貪食細胞を標的とした非侵襲性乳酸菌ベクターによる新たな経鼻DNAワクチン開発の基盤となる重要な知見です。

論文掲載ページへ

2025/12/09

低温増殖性および遺伝的安定性に優れたウイルスポリメラーゼ変異株を応用した弱毒生インフルエンザワクチンの開発

論文タイトル
Live-attenuated influenza virus vaccine strain with an engineered temperature-sensitive and genetically stable viral polymerase variant
論文タイトル(訳)
低温増殖性および遺伝的安定性に優れたウイルスポリメラーゼ変異株を応用した弱毒生インフルエンザワクチンの開発
DOI
10.1128/jvi.01390-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
内藤 忠相 他
所属
川崎医科大学微生物学教室
著者からのひと言
ワクチン接種は感染症の発症や重症化を予防するために行うものであり、ワクチンにより健康を害しては元も子もありません。弱毒生インフルエンザワクチンは、不活化ワクチンと比較をしてより優れた感染予防効果が期待できる一方で、副反応の出現頻度が高い傾向があります。本論文では、従来型の生ワクチンより副反応の出現頻度の低減が期待できる新規弱毒生ワクチンの開発について報告しています。

抄訳

インフルエンザワクチンの一種である弱毒生ワクチンは、生きたインフルエンザウイルス自体を鼻に噴霧接種するタイプであり、2024 年から本邦での使用が承認された。弱毒生ワクチンは生きたウイルスを使用しており、不活化ワクチン(インフルエンザHA ワクチン)よりも発症予防効果に優れている。しかし、弱毒化されているとはいえ生ワクチン接種後にインフルエンザ症状を発症する場合があるため、副反応が少ないワクチンの開発が求められていた。
著者らは、実験用マウスを用いたウイルス感染実験などにおいて、既存の生ワクチンと同等の感染予防効果を持つ新規の弱毒生インフルエンザワクチンの開発に成功した。具体的には、ウイルスポリメラーゼであるPB1蛋白質の471番目のLys残基をPro残基に置換した組換えウイルスが、生ワクチン母体株に応用できる弱毒性を獲得した。今回作出した組換え弱毒生ワクチン株は、接種後の副反応に関わる病原性復帰変異株が出現しづらいウイルス性状を備えていた。本研究成果は、安全性が高い弱毒生インフルエンザワクチンの製造に資する技術的基盤となる。

論文掲載ページへ

2025/12/04

傍神経節腫マネジメントの再考:頭頸部とその他の部位で異なる診療戦略

論文タイトル
Rethinking Paraganglioma Management: Distinct Clinical Pathways for Head and Neck versus Other Sites
論文タイトル(訳)
傍神経節腫マネジメントの再考:頭頸部とその他の部位で異なる診療戦略
DOI
10.1530/ERC-25-0231
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer
巻号
Endocrine-Related Cancer Volume 32: Issue 12
著者名(敬称略)
小澤 宏之 他
所属
慶応義塾大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室
著者からのひと言
傍神経節腫はこれまで「ひとまとめ」に語られてきましたが、頭頸部傍神経節腫とその他の部位の傍神経節腫は、病態も治療戦略も大きく異なります。本論文ではその差異を最新のエビデンスに基づいて整理し、部位別のマネジメントアルゴリズムを提示しました。耳鼻咽喉科医、内分泌外科医、放射線科医など多職種の臨床医にとって、今後の診療・研究を考える有用な手がかりになることを期待しています。

抄訳

傍神経節腫(PGL)は全身に発生し、どの部位に発生しても同一の疾患として扱われているが、頭頸部傍神経節腫(HNPGL)とその他の部位のPGL(PGLO)では、自律神経系との関連、機能性、遺伝学的背景、解剖学的発生位置、転移リスクが異なるため、治療戦略に大きな違いがある。本総説では近年の大規模コホートや遺伝学的研究を整理し、HNPGLでは手術切除が基本となるものの、局所制御と神経機能温存を重視し、症例ごとに経過観察や放射線治療を選択し得る一方、PGLOは機能性腫瘍・転移リスクを踏まえた外科切除と全身治療が中心となることを示した。PGLを単一疾患として扱うのではなく、発生部位や病勢進行リスクに応じた診断・治療アルゴリズムを提案し、PGLに対する治療の最適化を通じて長期予後の改善およびサーベイランスの適正化に資する視点を提示している。

論文掲載ページへ

2025/12/02

好中球細胞外トラップとヒトLDLを用いた血管内皮細胞の刺激

論文タイトル
Stimulation of Vascular Endothelial Cells Using Neutrophil Extracellular Traps in the Presence of Low-Density Lipoprotein
論文タイトル(訳)
好中球細胞外トラップとヒトLDLを用いた血管内皮細胞の刺激
DOI
10.3791/68830
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (222), e68830
著者名(敬称略)
小濵 孝士 板部 洋之 他
所属
昭和医科大学大学院薬学研究科生物化学分野

抄訳

好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)は、活性化した好中球が自身のDNAとタンパク質を細胞外へ放出する反応で、貪食とは真逆ともいえる細胞応答である。NETsの発見当初は病原細菌を絡めとる生体防御機構の一つとして認識されたものの、非感染性の疾患でも見出されるようになり、炎症の持続や組織傷害を誘発することで各種疾患の形成に関わる要因の一つとして捉えられている。NETsは血栓や動脈硬化といった血管病変でも形成されるが、リポタンパク質の影響を含めて解析された報告は少ないことから、リポタンパク質と好中球NETsの相互作用の寄与については未解明の点が多く残されている。本論文では、超遠心法によるヒト末梢血からのLDL分画方法、HL-60細胞の分化誘導による好中球様細胞の調製、そしてLDL共存下で作成したNETsを回収してヒト大動脈血管内皮細胞に作用させる一連の方法を紹介する。本手法がリポタンパク質や好中球NETsの内皮細胞への効果の探索に利用され、新たな循環器系疾患の機序の解明に繋がることが期待される。

論文掲載ページへ

2025/11/25

高齢期に不正確さが増すことも、バイアスが強まることもない:顔に基づく信頼性判断の正確性とバイアスの年齢関連差

論文タイトル
Neither inaccurate nor biased in later life: Age-related differences in the accuracy and bias of facial trustworthiness judgment
論文タイトル(訳)
高齢期に不正確さが増すことも、バイアスが強まることもない:顔に基づく信頼性判断の正確性とバイアスの年齢関連差
DOI
10.1073/pnas.2512093122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.46 e2512093122
著者名(敬称略)
鈴木 敦命 他
所属
東京大学 大学院人文社会系研究科 心理学研究室
著者からのひと言
本研究では、「高齢者は第一印象で人を信頼しすぎる」という通説とは異なる結果が得られました。私たちは、顔を見た時の第一印象で「この人は信頼できる(できない)」とつい判断してしまいます。こうした判断の正確さは概して低いものの、相対的には、高齢者の正確さは若年者よりも高いか、少なくとも同程度でした。また、高齢者が「信頼しやすい」というよりも、若年者が「信頼しにくい」バイアスをもつ傾向が一貫して見られました。こうした結果は、高齢者に関するステレオタイプを見直すきっかけになると考えられます。

抄訳

人は、他者がどの程度信頼できるかを顔から判断する傾向をもつ。この「顔信頼性判断」については、高齢期に他者を信頼しすぎるポジティビティ・バイアスが強まり、詐欺被害のリスクを高める可能性が指摘されてきた。しかし、この主張を直接裏付ける実証的根拠は乏しい。そこで我々は、信頼ゲームで相手に協力した頻度や、汚職による有罪歴の有無が明らかな男性の顔画像を用い、顔信頼性判断の正確性とバイアスの年齢関連差を検討する3つの研究を行った。参加者レベルの分析では、高齢者の判断の正確性は若年者より高いか(研究1・3)、同程度であった(研究2)。また、「信頼できない」という判断が優勢なネガティビティ・バイアスが全般的に認められ、この傾向は若年者でより強かった。ポジティビティ・バイアスは研究3の高齢者で弱く見られたのみであった。顔画像間の分散を考慮すると年齢関連差の統計的有意性は弱まったが、総じて、本研究の結果は高齢者が若年者と同等かそれ以上に正確かつバイアスの少ない判断を行っていたことを示していた。このことは、高齢者の顔による信頼性判断の楽観的歪みが詐欺への脆弱性を高めているという通説に疑問を投げかける。

論文掲載ページへ

2025/11/18

反復した菊池藤本病後に急性心筋梗塞を発症した思春期男児例

論文タイトル
Acute myocardial infarction in an adolescent following recurrent Kikuchi–Fujimoto disease
論文タイトル(訳)
反復した菊池藤本病後に急性心筋梗塞を発症した思春期男児例
DOI
10.1136/bcr-2025-267938
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 18, Issue 11
著者名(敬称略)
横山能文 他
所属
岐阜市民病院小児科
著者からのひと言
菊池藤本病は一般に自然軽快する疾患ですが、本症例のように再発を繰り返す場合には慢性的な炎症が生じ、まれに心血管系へ影響を与える可能性があります。本論文では、思春期に急性心筋梗塞を発症した極めて稀な症例を通じて、菊池藤本病と動脈硬化の関連性について考察しました。臨床現場での注意喚起となれば幸いです。

抄訳

菊池藤本病(Kikuchi–Fujimoto disease:KFD)は若年女性に多い壊死性リンパ節炎で、通常は自然軽快する良性疾患である。本症例は、3回のKFDエピソードを経験した思春期男児が、15か月後に急性心筋梗塞(AMI)を発症した極めて稀な例である。3回目のKFDではPET-CTで頸部から縦隔、腹部に至る広範なリンパ節に集積を認めたが自然軽快した。その後、胸痛で受診した際に、冠動脈造影で左前下行枝・回旋枝・右冠動脈に高度狭窄を確認し、経皮的冠動脈インターベンションを施行した。脂質異常や血管炎などの既知の危険因子は認めず、KFDによる炎症が早期動脈硬化に関与した可能性が示唆された。KFDは一般に予後良好だが、再発例や広範リンパ節病変を伴う例では長期的な心血管リスクに注意が必要である。

論文掲載ページへ

2025/11/12

担子菌菌糸が媒介する細菌の移動と生存が木質リグニンの分解を促進する

論文タイトル
Fungus-mediated bacterial survival and migration enhance wood lignin degradation
論文タイトル(訳)
担子菌菌糸が媒介する細菌の移動と生存が木質リグニンの分解を促進する
DOI
10.1128/aem.01347-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
亀井 一郎 他
所属
宮崎大学農学部
著者からのひと言
リグニンは木材の主要構成成分の一つで、その生分解は主に白色腐朽菌と呼ばれるきのこの仲間が担っています。一方で、きのこによって分解されている木材(腐朽材)の内部には多くの細菌類も共存していることが分かっていますが、その役割は不明で、本研究ではその一端を明らかにできました。白色腐朽菌と細菌との物理的・代謝的な相互作用を明らかにし、人為的に再構築できれば、木質バイオマスの有価物への変換(バイオリファイナリー)に応用できると考えています。

抄訳

木材腐朽菌と共存細菌との相互作用は、木材分解の重要な因子の一つとして認識されつつあるが、その具体的なメカニズムは未解明である。本研究では、白色腐朽菌であるカワラタケ(Trametes versicolor)が優占する腐朽材から、リグニン生分解生成物の一つであるバニリン酸を資化できる細菌を分離し、木材環境における白色腐朽菌と細菌との共存関係と機能的相互作用を調べた。その結果、バニリン酸資化性細菌は白色腐朽菌の菌糸伸長に伴い木粉培地上で分散し、白色腐朽菌菌糸の存在下でのみ長期的に生存でき、木粉の分解とリグニン分解の両方を促進することが明らかとなった。また、共培養系では白色腐朽菌単独培養系と比較して、木材の分解により生成・蓄積するグルコースおよびバニリン酸の濃度が低く保たれていた。これらの結果は、白色腐朽菌により生成するグルコースとバニリン酸を細菌が消費することで、Carbon catabolite repressionを抑制し、リグニン分解酵素の生産を促している可能性を示唆している。

論文掲載ページへ

2025/11/12

甲状腺微小乳頭癌に対する積極的経過観察

論文タイトル
Active surveillance for small papillary thyroid carcinoma
論文タイトル(訳)
甲状腺微小乳頭癌に対する積極的経過観察
DOI
10.1530/ERC-25-0287
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer
巻号
Endocrine-Related Cancer ERC-25-0287
著者名(敬称略)
筆頭執筆者:伊藤 康弘、連絡著者:宮内 昭
所属
医療法人 神甲会 隈病院 外科
著者からのひと言
種々の画像検査の進歩と普及によって小さい甲状腺癌の発見が急増した。エコーガイド下細胞診にて3mmの乳頭癌でも診断できる。一方、剖検にて甲状腺には小さい癌が高頻度で報告されている。著者らは微小乳頭癌を診断手術することに疑問を抱き、1993年に積極的経過観察臨床研究を世界で始めて開始し、2年後に癌研病院でも開始した。32年を経て、2025年アメリカ甲状腺学会甲状腺癌取扱規約に積極的経過観察が採用された。日本発の患者さんの為になる情報である。

抄訳

多くの国で最近数十年間に小さい甲状腺癌が急速に増え大きい臨床課題となっている。世界に先立ち、1993年に隈病院で、1995年に癌研病院で甲状腺微小乳頭癌に対する積極的経過観察臨床研究が開始され、良好な結果が報告された。積極的経過観察群において甲状腺癌関連死亡例はなく、腫瘍進行因子は若年齢と血清TSH高値であった。甲状腺微小癌の手術は容易ではあるが、経験豊富な外科医が行っても、永久的な反回神経麻痺や副甲状腺機能低下症などのリスクを伴った。積極的経過観察群と即時手術群に予後に有意差はなく、前者より後者の方が有害事象の発生率が高かった。種々の理由で経過観察から手術に転換した群の予後および有害事象の発生率は、直ちに手術群と差がなかった。積極的経過観察群は、即時手術群より身体的QOLが良好であった。現在、積極的経過観察は甲状腺微小乳頭癌に対する優れた初期治療戦略と考えられている。

論文掲載ページへ

2025/11/11

セフィデロコルおよびアズトレオナムとセフタジジム・アビバクタムの併用に耐性を示すStenotrophomonas maltophilia TUM26315血流感染症株のドラフトゲノム塩基配列

論文タイトル
Draft genome sequence of Stenotrophomonas maltophilia strain TUM26315, a bloodstream isolate resistant to cefiderocol and to aztreonam combined with ceftazidime-avibactam
論文タイトル(訳)
セフィデロコルおよびアズトレオナムとセフタジジム・アビバクタムの併用に耐性を示すStenotrophomonas maltophilia TUM26315血流感染症株のドラフトゲノム塩基配列
DOI
10.1128/mra.00949-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
酒匂 崇史, 原田 壮平 他
所属
虎の門病院 臨床感染症科, 東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座
著者からのひと言
TUM26315株はセフィデロコルの承認前に検出された菌株であるにもかかわらず、鉄トランスポーター遺伝子の変異を伴い、セフィデロコルに耐性となっていた。さらに、耐性機序は明確ではないもののアズトレオナムとセフタジジム・アビバクタムの併用にも耐性を示していたことは、治療薬の選択肢が乏しいという点で注目される。このような高度耐性を有する菌株の今後の疫学動向を注視する必要がある。

抄訳

以前の研究でセフィデロコル承認前に国内単施設で収集されたStenotrophomonas maltophilia血流感染症株146株のうち1株(TUM26315)がセフィデロコルに高度耐性を示したため、ドラフトゲノム解析を行った。TUM26315株はgenomic group 6に属し、鉄トランスポーター遺伝子であるcirAの未成熟終止コドン生成を伴うフレームシフト変異が認められた。また、追加で実施したアズトレオナム+セフタジジム・アビバクタムの薬剤感受性試験で耐性を示したが、染色体性のβ-ラクタマーゼ遺伝子の塩基配列は一般的なものであった(blaL1B, blaL2B)。

論文掲載ページへ

2025/11/10

Fusobacterium nucleatum の外膜オートトランスポータータンパク質 Fap2 および CmpA はそれぞれ Aggregatibacter actinomycetemcomitans 血清型 b 型株および d 型株との共凝集を特異的に媒介する.

論文タイトル
The outer membrane autotransporters Fap2 and CmpA facilitate specific coaggregation between Fusobacterium nucleatum and Aggregatibacter actinomycetemcomitans serotypes b and d.
論文タイトル(訳)
Fusobacterium nucleatum の外膜オートトランスポータータンパク質 Fap2 および CmpA はそれぞれ Aggregatibacter actinomycetemcomitans 血清型 b 型株および d 型株との共凝集を特異的に媒介する.
DOI
10.1128/aem.01132-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
田中友三佳 大貝悠一 中田匡宣 他
所属
鹿児島大学医歯学総合研究科 口腔微生物学分野
著者からのひと言
Fusobacterium nucleatum(Fn)は多様な表層タンパク質を有し,広範な細菌種と共凝集するユニークな細菌です.これまで,Fn と様々な口腔細菌の共凝集に関与する Fn の表層タンパク質が同定されてきましたが,それらが結合する相手側細菌の因子については多くが未同定のままです.本研究の結果は,Fn の表層タンパク質 Fap2 と CmpA が Aggregatibacter actinomycetemcomitans のLPS O-多糖領域を認識し結合することを示唆しています.口腔細菌同士がどのように相互作用し,デンタルバイオフィルムを形成していくのか——その仕組みに少し迫ることができたのではないかと考えています.

抄訳

口腔細菌である Fusobacterium nucleatum (Fn) とAggregatibacter actinomycetemcomitans (Aa) は歯周病の進行に関与する.また,Fn は数多の口腔細菌と共凝集するため,デンタルプラークの成熟に重要な菌種であると考えられている.本研究では,Fn が血清型 b 型および d 型の Aa 菌株と特異的に共凝集することを見出し,共凝集を担う分子機構を解析した.共凝集はリポ多糖 (LPS) もしくはLPS O-多糖を構成する特定の糖の添加により抑制された.また,Fn の外膜オートトランスポータータンパク質 Fap2 と CmpA はそれぞれ血清型 b 型と d  型の Aa 菌株との共凝集に必須であった.さらに,両菌種の共凝集により,共培養時のバイオフィルム形成が促進された.したがって,Fn と Aa の共凝集はタンパク質-糖鎖間の特異的相互作用により媒介され,デンタルプラーク形成に寄与することが示唆された.

論文掲載ページへ

2025/11/07

GAPPSにおける胃癌発生に関わる遺伝子変異の解明

論文タイトル
Genomic and transcriptomic landscape of carcinogenesis in patients with gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach (GAPPS)
論文タイトル(訳)
GAPPSにおける胃癌発生に関わる遺伝子変異の解明
DOI
10.1073/pnas.2427133122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.44 e2427133122
著者名(敬称略)
松本千尋 岩槻政晃 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部消化器外科学
著者からのひと言
GAPPSは、胃体部から穹窿部にかけて多数のポリープを形成し、胃腺癌を高率に発症する極めてまれな遺伝性疾患です。疾患概念の普及に伴い報告例は増加していますが、フォローアップや治療法の確立には今なお多くの課題が残されています。本研究では、ポリープから癌へ至る分子進展過程を包括的に解析し、新たな知見を得ることができました。本研究が、この疾患の啓蒙および治療法の発展の一助となれば幸いです。

抄訳

Gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach(GAPPS)は、胃体部から穹窿部に限局して多発性ポリープを形成し、胃癌を高率に発症する常染色体顕性遺伝性疾患である。これまでGAPPSにおいて、正常粘膜からポリープ、さらに癌へと進展する過程で蓄積する遺伝子変異については明らかにされていなかった。本研究では、GAPPSにおける正常粘膜、ポリープ、癌への進化的過程を明らかにすることを目的とした。7人のGAPPS患者(計54検体)から採取した癌、ポリープ、正常粘膜のサンプルに対して全エクソームシーケンスおよびRNAシーケンスを行い、ゲノム変化(コピー数異常および体細胞変異)、トランスクリプトーム動態を包括的に解析した。その結果、GAPPSではAPC遺伝子の体細胞変異がポリープおよび癌に認められ、さらに癌ではKRAS変異が追加的に出現することが明らかになった。また、APCおよびKRAS変異の共存が症例間および同一症例内のサブクローン間で反復して認められ、これらの共変異がGAPPSの発がんに寄与する可能性が示唆された。本研究は、GAPPS発がん過程におけるゲノムおよびトランスクリプトームのランドスケープを明らかにし、その分子機構の理解に貴重な知見を提供するものである。

論文掲載ページへ

2025/11/06

放線菌アクチノプラネス・ミズーリエンシスの胞子嚢開裂において2つの多糖加水分解酵素が胞子嚢マトリクスを分解することで胞子を放出させる

論文タイトル
Two glycoside hydrolases decompose the sporangium matrix to release spores during sporangium dehiscence in Actinoplanes missouriensis
論文タイトル(訳)
放線菌アクチノプラネス・ミズーリエンシスの胞子嚢開裂において2つの多糖加水分解酵素が胞子嚢マトリクスを分解することで胞子を放出させる
DOI
10.1128/mbio.02682-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
光山 京太 手塚 武揚 大西 康夫 他
所属
東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 醗酵学研究室
著者からのひと言
一部の放線菌は、バクテリアでは極めて珍しい多細胞の構造体である胞子嚢を形成します。我々が研究対象としている放線菌は、数百の胞子を内包する胞子嚢を形成し、胞子嚢開裂によって胞子を水中に放出します。胞子はべん毛を持ち、遊走子となって水中を高速で運動します。我々は、このような複雑な形態分化の分子機構に興味をもち、長年研究しています。本論文は一連の研究の1つであり、胞子嚢の構成成分と胞子嚢開裂の分子機構について新たな知見を与えるものです。

抄訳

放線菌アクチノプラネス・ミズーリエンシスは、休眠胞子が詰まった胞子嚢を形成します。胞子嚢の表層は多層の胞子嚢膜で構成され、内部は胞子に加えて胞子嚢マトリクスで満たされています。胞子嚢は水がかかると胞子嚢膜が破れ、胞子を放出します(胞子嚢開裂)。今回、以前の解析で胞子嚢開裂時に転写が増大することが判明していた2つの遺伝子gimAgimBの機能解析を行いました。gimAgimBはいずれも多糖加水分解酵素をコードしています。gimAgimBの二重破壊株は形態的に正常な胞子嚢を形成しましたが、この胞子嚢は開裂条件において胞子嚢膜が破れるものの、胞子嚢マトリクスが分解されず胞子が放出されませんでした。胞子嚢膜が破れた状態の胞子嚢に、大腸菌で生産させ、精製したGimAまたはGimBタンパク質を添加すると、胞子嚢マトリクスが分解され、胞子が放出されました。また、別の遺伝子破壊実験により、gimBに隣接する7遺伝子で構成される遺伝子クラスターが胞子嚢マトリクスの合成に必要であることが判明しました。これまで胞子嚢マトリクスの成分はわかっていませんでしたが、今回、その主要成分がオリゴ糖を繰り返し単位とする多糖であること、胞子嚢開裂時にこの多糖が分解されることで胞子が水中に放出されることが示されました。

論文掲載ページへ

2025/10/29

Homerがカルシウムイオンによって調節されるアクチン骨格を安定的に保ち、上皮細胞が力を感じ取る仕組みを制御する

論文タイトル
A steady-state pool of calcium-dependent actin is maintained by Homer and controls epithelial mechanosensation
論文タイトル(訳)
Homerがカルシウムイオンによって調節されるアクチン骨格を安定的に保ち、上皮細胞が力を感じ取る仕組みを制御する
DOI
10.1073/pnas.2509784122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.43 e2509784122
著者名(敬称略)
松沢 健司 池ノ内 順一 他
所属
九州大学 大学院医学研究院 生化学分野

抄訳

私たちの体を構成する上皮細胞は、互いに引っ張り合う力のバランスをとることで、組織の形や安定性を保っています。本研究では、神経細胞のシナプス構成要素として知られるタンパク質 Homer が、上皮細胞にも発現しており、力の感知に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。Homerは、細胞同士の接着部でカルシウムイオン(Ca²⁺)シグナルを介してアクチン骨格を安定的に保つことで、細胞が受ける力を感じ取り、その応答を調節していました。Homerを欠損させると、細胞間の張力が弱まり、上皮細胞シートの形態形成や協調的な動きが乱れました。さらに、カエル胚でHomerの機能を阻害すると神経管が正常に閉じなくなり、発生過程にも障害が生じました。これらの結果は、Homerが上皮細胞において、カルシウム依存的な力覚制御を担い、神経管閉鎖などの上皮細胞シートの形態形成に不可欠な分子であることを示しています。

論文掲載ページへ

2025/10/27

シロイヌナズナにおいてNAD(P)(H)バランスを制御する葉緑体局在型NADP(H)ホスファターゼCCR4Cの同定

論文タイトル
Identification of CCR4C as a chloroplast-localized NADP(H) phosphatase regulating NAD(P)(H) balance in Arabidopsis
論文タイトル(訳)
シロイヌナズナにおいてNAD(P)(H)バランスを制御する葉緑体局在型NADP(H)ホスファターゼCCR4Cの同定
DOI
10.1073/pnas.2504605122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.42 e2504605122
著者名(敬称略)
明石一樹 川合真紀 他
所属
埼玉大学・大学院理工学研究科
著者からのひと言
葉緑体補酵素のホスファターゼの正体を突き止めることは、長年の念願でした。本研究により、その実体がCCR4Cという新たな酵素であることを明らかにし、葉緑体の代謝バランス制御の理解が一歩進みました。今後、この知見が植物の環境応答や生産性向上の基盤研究へ発展し、持続的な農業や資源利用の一助となることを期待しています。

抄訳

NAD(P)(H)は生物のエネルギー代謝やストレス応答に関わる重要な補酵素である。植物の葉緑体局在型NADキナーゼ(NADK2)は、光合成に必要なNADP⁺を供給する酵素であり、NADK2欠損変異体(nadk2)は成長不良や葉の黄化を示す。本研究ではnadk2の表現型を回復する復帰変異体nkr1の原因遺伝子としてAt3g18500 (CCR4C)を同定した。CCR4Cは葉緑体に局在し、NADP(H)をNAD(H)に変換するホスファターゼ活性を持つことが組換えタンパク質を用いた実験より示された。さらに、ccr4c変異体はNAD(P)(H)バランスの変化と活性酸素ストレスへの耐性を示した。これらの結果から、CCR4C は葉緑体内のNAD(P)(H)バランスを制御する新たな因子であり、植物が光合成やストレス応答をどのように調節しているのかを理解するうえで、重要な知見を与える。

論文掲載ページへ