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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2007/02/14

ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はグリコデリンの発現誘導を介してヒト子宮内膜腺癌細胞の運動能を亢進する

論文タイトル
Histone deacetylase inhibitors stimulate cell migration in human endometrial adenocarcinoma cells through up-regulation of glycodelin
論文タイトル(訳)
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はグリコデリンの発現誘導を介してヒト子宮内膜腺癌細胞の運動能を亢進する
DOI
10.1210/en.2006-0896
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
February 2007|vol. 148 | no. 2 | 896-902
著者名(敬称略)
内田 浩、丸山哲夫、小野政徳、太田邦明、梶谷 宇、 升田博隆、長島 隆、荒瀬 透、浅田弘法、吉村泰典
所属
慶應義塾大学医学部産婦人科学教室 生殖内分泌研究室

抄訳

ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACI)は細胞分化・増殖に影響を及ぼし、新しい抗腫瘍薬として注目されている。これまでに我々は、ヒト子宮内膜腺癌細胞株Ishikawaを用いた研究で、HDACIの添加が子宮内膜分泌期優位タンパク質であるグリコデリンの発現誘導を介して形態的・機能的分化を引き起こすことを報告した。卵巣ホルモンに依存せずに子宮内膜の分化誘導が期待できるHDACIは、分化誘導能のみでなく運動亢進能もあわせ持っており、その促進効果はともにグリコデリンの発現誘導を介していることが本研究の結果から明らかとなった。グリコデリンが子宮内膜上皮の運動能を亢進することは、発現時期である分泌期に、腺細胞が移動して複雑な腺管構造を構築するためには合目的である。一方で、今後HDACIが抗腫瘍薬として使用された際に、分化誘導・増殖抑制効果を以ても抗腫瘍効果に乏しい場合、子宮内膜癌などではグリコデリンの発現増加を介して腫瘍細胞の浸潤・転移をも亢進してしまう可能性も懸念される。

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2007/01/14

P90 RSK-1は神経型一酸化窒素(NO)合成酵素と結合しNO産生を阻害する

論文タイトル
p90 RSK-1 associates with and inhibits neuronal nitric oxide synthase
論文タイトル(訳)
P90 RSK-1は神経型一酸化窒素(NO)合成酵素と結合しNO産生を阻害する
DOI
10.1042/BJ20060580
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
January 2007 | vol. 401 | part 2 | 391-398
著者名(敬称略)
宋涛、杉本勝良、居原秀、水谷顕洋、波多野直哉、 久米広大、神戸敏江、山口文徳、徳田雅明、渡邊泰男
所属
昭和薬科大学 薬理学研究室

抄訳

細胞の生存・増殖を制御するERK(extracellular signal-regulated kinase)は神経細胞の生存と死の相反するシグナルに関与している。酸化ストレスの関与が指摘されているが標的分子も含めて十分に理解されていない。本稿では、ERKの下流で働くp90リボゾーマルS6キナーゼ1(RSK-1)が、神経型一酸化窒素(NO)合成酵素と結合し、その部位特異的リン酸化によって、NO産生を抑制することを細胞レベルで明らかにした。神経細胞の生死に関わるERキナーゼシグナルの一部はRSK-1/NO産生制御を介して発現しているのかも知れない。

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2006/12/14

FRETプローブを用いた、PI3-KによるRalA活性制御の可視化

論文タイトル
Regulation of RalA GTPase by phosphatidylinositol 3-kinase as visualized by FRET probes
論文タイトル(訳)
FRETプローブを用いた、PI3-KによるRalA活性制御の可視化
DOI
10.1042/BST0340851
ジャーナル名
Biochemical Society Transaction Portland Press
巻号
October 2006 | vol. 34 | part 5 | 851-854
著者名(敬称略)
吉崎尚良、青木一洋、中村岳史、松田道行
所属
国立循環器病センター研究所 循環器形態部

抄訳

低分子量Gタンパク質は細胞内シグナル伝達機構においてスイッチ分子として働く。その役割は単に、シグナルを中継するだけでなく、細胞内の複数のシグナルを統合したり、分岐したりしている。例えばRalAはRas、Rac、PI3-Kの3つのカスケードからシグナルが入力される。我々は、このような複雑なシグナル伝達カスケードを明らかにするために蛍光共鳴エネルギー移動を応用したバイオセンサーを開発し解析に用いている。我々はこれまでにRasファミリーGタンパク質、リン酸化酵素、リン脂質等のFRETプローブを開発し、上皮増殖因子(EGF)刺激によりRasは形質膜上で緩やかな勾配を持った活性化を示すこと、またRalAは葉状仮足上で限局した活性化しか示さないことを明らかにした。本総説では、EGF刺激により、PI3-Kの代謝産物であるフォスファチジルイノシトール3リン酸(PIP3)は形質膜上で均一に分布すること、それに対しPIP3の代謝産物フォスファチジルイノシトール(3,4)2リン酸[PI(3,4)P2]は細胞辺縁でより高い分布を示すこと、またAktの活性化の局在とタイムコースがPI(3,4)P2の分布の変化と相関することを示し、RalAの限局した活性制御におけるPI(3,4)P2とAktの関与について考察する。そしてRasとPI3-KシグナルはRalGEFで収束しRalAの活性の限局化につながること示す。

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2006/11/24

本態性高血圧患者におけるオステオポンチンと頸動脈硬化

論文タイトル
Osteopontin and carotid atherosclerosis in patients with essential hypertension
論文タイトル(訳)
本態性高血圧患者におけるオステオポンチンと頸動脈硬化
DOI
10.1042/CS20060074
ジャーナル名
Clinical Science Portland Press
巻号
November 2006 | vol. 111 | part 5 | 319-324
著者名(敬称略)
倉田美恵、大蔵隆文、渡邉早苗、福岡富和、檜垣實男
所属
愛媛大学大学院 病態情報内科学

抄訳

生活の欧米化に伴い,動脈硬化性疾患の罹患率が増加している。適切な治療介入のためにはより早期の段階でのリスクの層別化が必要であり,有用なバイオマーカーが求めらる。私たちは,頸動脈エコーで測定した頸動脈内膜中膜複合体壁厚(intima-media thickness)IMTや,Doppler法を用いて測定した相対的拡張期血流速度(拡張期平均血流速度(Vd)/収縮期平均血流速度(Vs))が高血圧性臓器障害の進展と相関することを報告してきた。近年,アルドステロンが血圧上昇のみでなく,炎症を惹起することで動脈硬化を促進していることが明らかになってきた。アルドステロンが誘導する炎症性サイトカインとしてオステオポンチン(OPN)が報告されており,動脈硬化巣において細胞接着,遊走,増殖,炎症性細胞の活性化に関与している。今回私達は有症候性の心血管イベントの既往を持たない76人の高血圧患者において血漿OPN濃度と高血圧性臓器障害との関係を検討した。OPN濃度を中央値で2群にわけ,患者背景を比較したところ,高値群において低値群よりもIMTは肥厚しておりVd/Vsは低下していた。IMT, Vd/Vsはそれぞれ年齢,脈圧,OPNで規定された。また,OPNは年齢,脈圧,LDLコレステロール値などの動脈硬化危険因子との関連を認めなかったが,アルドステロンと正の相関を認めた。さらに,アルドステロンはOPNの独立した規定因子であった。本態性高血圧患者において血漿OPN値が頸動脈硬化と相関したことから,血漿OPN濃度は動脈硬化の指標の一つになると考えられた。

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2006/11/02

アデノベクターに基づいた遺伝子治療用ベクター生産に対するシルクタンパク質セリシンの効果

論文タイトル
Effect of the silk protein sericin on the production of adenovirus-based gene-therapy vectors
論文タイトル(訳)
アデノベクターに基づいた遺伝子治療用ベクター生産に対するシルクタンパク質セリシンの効果
DOI
10.1042/BA20060077
ジャーナル名
Biotechnology and Applied Biochemistry 
巻号
September 2006 | vol. 45 | part 2 | 59-64
著者名(敬称略)
柳原佳奈、寺田聡、三木正雄、佐々木真宏、山田英幸
所属
福井大学工学部 生物応用化学科 分子生物物理研究グループ

抄訳

遺伝子治療においてアデノウイルスベクターは目的遺伝子を運ぶ手段として広く用いられている。アデノベクターは一般的にHEK293細胞を培養することによって生産されており、その培養は非常に高価な定義された無血清培地やウシ胎仔血清(FBS)の添加を必要とする。そのため、高価であり、狂牛病や家畜由来の内因性レトロウイルスのような感染の懸念がある。本論文では、アデノベクター生産のためのFBSの代替添加因子としてカイコ由来タンパク質セリシンを利用することを報告する。293細胞に対するセリシンの増殖促進効果を検討したところ、FBSの効果には劣るものの、0.025~0.4%のセリシン存在下では293細胞は明らかに増殖し、特に0.1%セリシン存在下ではより優れた増殖促進効果が見られた。そこで、0.1%セリシンを用いてアデノベクター生産性の向上を検討した。低力価(MOI 0.03)のアデノベクター pAxCAiLacZを293細胞に感染させアデノベクターを生産させた場合、0.1%セリシン存在下では5%FBS存在下のほぼ3倍高いベクター力価を示した。しかしながら、高力価(MOI 3.7)のアデノベクターを感染させて生産したところ、セリシン存在下ではFBS存在下に比べてわずかに高い力価を示した。この場合、セリシン又はFBS添加培養において生産したアデノベクターの力価が生産の限界であり、生産が飽和に達していたことが示唆される。また、これらのセリシンによるアデノベクター生産性の向上はLacZ活性を測定することによっても検証した。アデノベクター生産性の向上の一つの要因として、セリシンの細胞死保護効果に着目し検討したところ、細胞死の指標であるLDH活性がセリシン添加培養では減少した。この結果より、セリシンによる生産細胞の延命効果が生産性の向上に関与していることが示唆された。これらをふまえて、セリシンはBSEやレトロウイルスような感染の懸念を伴わないアデノベクター生産のための有用で効率的な代替因子であるように思われる。

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2006/09/08

カベオリンはWnt-3a依存性のLRP6の細胞内移行とβ-カテニンの蓄積に必要である

論文タイトル
Caveolin Is Necessary for Wnt-3a-Dependent Internalization of LRP6 and Accumulation of β-Catenin
論文タイトル(訳)
カベオリンはWnt-3a依存性のLRP6の細胞内移行とβ-カテニンの蓄積に必要である
DOI
10.1016/j.devcel.2006.07.003
ジャーナル名
Developmental Cell Cell Press
巻号
Developmental Cell | August, 2006 | vol. 11 | no. 2 | 213-223
著者名(敬称略)
山本英樹, 米門秀行, 菊池章
所属
広島大学大学院医歯薬学総合研究科探索医科学講座分子細胞情報学

抄訳

β-カテニンを介するWntシグナル伝達経路(Wnt/β-カテニン経路)は、動物の初期発生や癌の発症や進展において重要な役割を果たしている。一回膜貫通型のWnt受容体low-density lipoprotein receptor-related protein 6 (LRP6) はAxinと結合し、Wnt依存性のβ-カテニンの蓄積を促進する。しかし、LRP6の細胞内移行の分子機構やその細胞内移行のβ-カテニン経路の活性化における役割については不明である。今回、私共はLRP6がカベオリンを介して細胞内移行し、LRP6の細胞内小胞輸送を制御する分子がWnt-3a依存性のLRP6の細胞内移行のみならず、β-カテニンの蓄積にも必要であることを見出した。また、Wnt-3a刺激によりLRP6はカベオリンと結合すると共にグリコーゲン合成酵素リン酸化酵素-3β (GSK-3β) によりリン酸化され、Axinとの結合が増強した。さらに、カベオリンはLRP6を介してAxinと複合体を形成することにより、Axinとβ-カテニンの結合を抑制した。したがって、カベオリンはLRP6の細胞内移行やWnt/β-カテニン経路の活性化に重要な役割を果たしていると考えられる。

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2006/08/10

ArfGAPのひとつXGAPは原腸形成においてPARタンパク質の局在化と細胞極性に必要である

論文タイトル
XGAP, an ArfGAP, Is Required for Polarized Localization of PAR Proteins and Cell Polarity in Xenopus Gastrulation
論文タイトル(訳)
ArfGAPのひとつXGAPは原腸形成においてPARタンパク質の局在化と細胞極性に必要である
DOI
10.1016/j.devcel.2006.04.019
ジャーナル名
Developmental Cell Cell Press
巻号
Developmental Cell | July, 2006 | vol. 11 | no. 1 | 69-79
著者名(敬称略)
上野直人1, 兵頭-三浦純子1, 山本隆正1, 兵頭亜紀子1
家村俊一郎2, 夏目徹2
日下部杜央3, 西田栄介3
所属
1基礎生物研究所形態形成研究部門
2産業技術総合研究所
3京都大学生命科学研究科

抄訳

我々は、原腸形成における重要な細胞運動「収斂と伸長」の分子メカニ ズムを明らかにするために、過剰発現による原腸形成異常を指標とした 機能スクリーニングを行い、ADPリボシル化因子のGTP分解 酵素活性化タンパク質(ArfGAP)を同定しXGAPと名付けた。XGAPは原腸形成時に活発に運動する背側中胚葉細胞の両端に局在し、そこに細胞突起を限局して形成するために必要であり、それによって「収斂と伸長」に参加する細胞同士の滑り込み運動を促進するのに必要であることが分かった。また、同XGAP活性や細胞内局在には GAP活性自体は必要なく、むしろGAP活性とは直接の関わりのない カルボキシル末端側の構造が必要十分であることも分かった。さらに、XGAPは14-3-3ε、aPKC、Par6といった極性タンパク 質と物理的に相互作用し、それらタンパク質を原腸形成に参加するの細 胞の両端に局在化することが明らかになった。以上のことより、 XGAPはPARタンパク質を細胞内突起を形成する領域に極性化させ、それらを維持することによって収斂と伸長を制御しているものと考えられる。

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2006/07/06

SecMの翻訳アレスト配列の最後に存在するプロリンはリボソームのAサイトでポリペプチドに取り込まれることなく機能する

論文タイトル
Genetically Encoded but Nonpolypeptide Prolyl-tRNA Functions in the A Site for SecM-Mediated Ribosomal Stall
論文タイトル(訳)
SecMの翻訳アレスト配列の最後に存在するプロリンはリボソームのAサイトでポリペプチドに取り込まれることなく機能する
DOI
10.1016/j.molcel.2006.03.033
ジャーナル名
Molecular Cell 
巻号
Molecular Cell | May 19, 2006 | vol. 22 | no. 4 | 545-552
著者名(敬称略)
伊藤 維昭 他
所属
京都大学 ウィルス研究所 細胞生物学研究部門

抄訳

SecMは翻訳途上においてSec分泌装置によって引っ張られない限りその翻訳を完結できない。これはそのアレスト配列F150XXXXWIXXXXGIRAGP166がリボソームの脱出トンネルと相互作用する結果と考えられる。この翻訳伸長アレストの機構を解明するため、in vitro翻訳系(PURE SYSTEM)を用いて、secM mRNA上におけるリボソームの停止位置を決定し、またアレスト状態のpolypeptidyl-tRNAを分析したところ、(i) リボソームはアレストに必須なPro166のコドンがAサイトに位置した状態で停止すること、(ii) Gly165とPro166間のペプチド結合は形成されていないこと、(iii)アレスト状態の翻訳 複合体はピューロマイシンの作用を受けない(Aサイトはprolyl-tRNAにより 占められている)ことが示された。secM mRNA上に遺伝情報として書き込まれているPro166コドンは、「ポリペプチドの一部としてのプロリンをコード して いる」以外に、「リボソーム活性中心で、ポリペプチド鎖に組み込まれることなく伸長抑制に寄与するProlyl-tRNAをコードしている」ことにその生物学的 使命(分泌 モニター)の重要な部分がある。フリーのaminoacyl-tRNAをA−サ イトにリクルートする段階で役割を果たす遺伝情報の存在は興味深い。

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2006/06/22

Rho-キナーゼの二量体化による活性制御とファスジルによる阻害の分子機構

論文タイトル
Molecular mechanism for the regulation of Rho-kinase by dimerization and its inhibition by fasudil
論文タイトル(訳)
Rho-キナーゼの二量体化による活性制御とファスジルによる阻害の分子機構
DOI
10.1016/j.str.2005.11.024
ジャーナル名
Structure Cell Press
巻号
Structure | March 14, 2006 | vol. 14 | no. 3 | 589-600
著者名(敬称略)
箱嶋 敏雄 他
所属
奈良先端科学技術大学院大学 構造生物学分野(情報生命科学専攻)

抄訳

Rho-キナーゼは細胞骨格を調節する鍵酵素であり,血管系や神経系疾患の治療における有望な薬物標的タンパク質である.他の一般的なタンパク質キナーゼと異なり,Rho-キナーゼはアミノ酸配列上,キナーゼドメイン前後の余分のペプチド領域であるN-伸長領域とC-伸長領域をもち,これら両者ともが活性に必須である.しかし,なぜそれらが活性に必要なのかは全く不明であった.今回明らかにした活性型のRho-キナーゼの結晶構造により,一方のN-伸長領域が,もう一方のC-伸長領域を巻き込みながら,二量体を形成することが明らかとなった.この構造の構築により,C-伸長領域にある疎水性モチーフのキナーゼドメインのN-ローブへの結合が可能となり,触媒活性に重要なへリックスCが正しい位置にくる.結合した阻害剤ファスジルは,大きく構造を変化させており,キナーゼドメインの部分的な構造変化をした触媒部位との相互作用も,結果的に,変化している.

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2006/06/08

Na+/H+交換体制御因子NHERFのERMタンパク質による認識の構造的基盤

論文タイトル
Structural Basis for NHERF Recognition by ERM Proteins
論文タイトル(訳)
Na+/H+交換体制御因子NHERFのERMタンパク質による認識の構造的基盤
DOI
10.1016/j.str.2006.01.015
ジャーナル名
Structure Cell Press
巻号
Structure | April 11, 2006 | vol. 14 | no. 4 | 777-789
著者名(敬称略)
箱嶋 敏雄 他
所属
奈良先端科学技術大学院大学 構造生物学分野(情報生命科学専攻)

抄訳

Na+/H+交換体制御因子NHERFはイオンチャネルや受容体を,ERMタンパク質への結合を介してアクチン細胞骨格へ繋ぎ止めるのに鍵となるアダプタータンパク質である.NHERFはERMタンパク質のFERMドメインに結合するが,接着分子に見つかっているFERMドメインへの結合に特徴的なモチーフ-1配列をもたない.今回のラデキシンFERMドメインとNHERF-1またはNHERF-2のC-末端ペプチドとの複合体結晶構造は,モチーフ-1と異なる 13残基のMDWxxxxx(L/I)Fxx(L/F)(モチーフ-2)配列に特異的なペプチド結合部位がFERMドメイン上存在することを明らかにした.この新規なモチーフ-2は,FERMドメインのサブドメインCとの疎水的な結合のために両親媒性のαらせんを形成する.両結合部位は完全には重なっていないが,モチーフ-2の結合は,サブドメインCに誘導適合のコンホメーション変化を起こし,接着分子との結合を妨害する.我々の研究は,膜タンパク質と細胞骨格の間の多彩なERMタンパク質による連結の構造的事例を提供している.

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2006/05/25

感染性ロタウイルスの2本鎖RNAゲノムへの部位特異的変異の導入のためのリバースジェネティクス系

論文タイトル
Reverse genetics system for introduction of site-specific mutations into the double-stranded RNA genome of infectious rotavirus
論文タイトル(訳)
感染性ロタウイルスの2本鎖RNAゲノムへの部位特異的変異の導入のためのリバースジェネティクス系
DOI
10.1073/pnas.0509385103
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS | March 21, 2006 | vol. 103 | no. 12 | 4646-4651
著者名(敬称略)
谷口孝喜 他
所属
藤田保健衛生大学医学部ウイルス・寄生虫学講座

抄訳

ゲノムが10~12本の2本鎖RNAからなるレオウイルス科の一員であるロタウイルスのリ バースジェネティクス系の開発に成功した。この系は、細胞質中に人工的なウイルス mRNAを供給するために、組み換えワクチニアウイルス由来のT7RNAポリメラーゼを利用 した。ヘルパーウイルス(ヒトロタウイルスKU株)の重感染により、細胞質中に転写 された、サルロタウイルスSA11株の完全長のVP4 mRNAがcDNA由来のSA11 VP4 RNA セグ メントを有したKU株を基本としたトランスフェクタントウイルスに含まれることにな る。真正のSA11 VP4 RNA遺伝子を有するトランスフェクタントウイルスに加え、さら に、SA11 VP4 ゲノム中の遺伝子マーカーとして、2つの制限酵素切断部位の両方また は一方を破壊するためにサイレント変異を導入した3種の感染性ロタウイルストランス フェクタントも本法で作成した。ロタウイルスのゲノムを人工的に操作することがで きることにより、ロタウイルスの複製と病原性の理解度を深める とともに、弱毒ワク チンベクターの構築のための方法として有用であろう。

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2006/05/11

NIK-333はヒトT細胞白血病ウイルス型感染T細胞株や成人T細胞白血病細胞のNF-κBシグナル経路を阻害し、細胞増殖を抑制する。

論文タイトル
NIK-333 inhibits growth of human T-cell leukemia virus type I-infected T-cell lines and adult T-cell leukemia cells in association with blockade of nuclear factor-κB signal pathway
論文タイトル(訳)
NIK-333はヒトT細胞白血病ウイルス型感染T細胞株や成人T細胞白血病細胞のNF-κBシグナル経路を阻害し、細胞増殖を抑制する。
DOI
10.1158/1535-7163.MCT-05-0434
ジャーナル名
Molecular Cancer Therapeutics 
巻号
Mol Cancer Ther. 2006;5:704-712
著者名(敬称略)
森直樹 他
所属
琉球大学・大学院医学研究科・感染制御医科学専攻 感染分子生物学講座・病原生物学分野

抄訳

成人T細胞白血病(ATL)はヒトT細胞白血病ウイルス型(HTLV-)感染を原因とする難治性の白血病である。また、新規合成レチノイドであるNIK-333は現在、原発性肝がんの術後再発予防効果を検討する臨床試験が行われている。今回、我々はATLの新規治療法を開発する目的で、NIK-333のHTLV-感染T細胞株およびATL患者白血病細胞(ATL細胞)に対する作用を調べた。NIK-333はHTLV-感染T細胞株およびATL細胞の増殖を抑制し、細胞周期のG1期停止とアポトーシスを誘導した。一方、健常人の末梢血単核球の生存に及ぼす影響は軽微であった。NIK-333処理はHTLV-感染T細胞株およびATL細胞のサイクリンD1、サイクリンD2、cIAP2およびXIAPタンパク質の発現を抑制した。さらに、NIK-333はHTLV-感染T細胞株のNF-κB活性を阻害した。免疫不全マウスの皮下にHTLV-感染T細胞株を移植後、100 mg/kgのNIK-333を隔日経口投与したところ、対照群と比べて腫瘍の増殖抑制効果を認めた。今回の我々の研究結果はNIK-333のATL治療薬としての可能性を示すものである。

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2006/04/27

骨髄内骨髄移植法を用いた骨粗鬆症の治療

論文タイトル
Treatment of Senile Osteoporosis in SAMP6 Mice by Intra-Bone Marrow Injection of Allogeneic Bone Marrow Cells
論文タイトル(訳)
骨髄内骨髄移植法を用いた骨粗鬆症の治療
DOI
10.1634/stemcells.2005-0068
ジャーナル名
Stem Cells 
巻号
Stem Cells 24: 399-405, 2006
著者名(敬称略)
池原 進 他
所属
関西医科大学病理学第一講座

抄訳

老化促進マウス(SAM)のサブタイプSAMP6は、早期に骨粗鬆症を発症する。我々は、これまで骨髄内骨髄移植によって、ドナーの造血系の細胞のみならず、間葉系の細胞も置換できることを見出した(Blood 97: 3292-3299, 2001)。そこで、SAMP6を用いて、骨粗鬆症の予防を試み、正常マウスの全骨髄細胞(造血幹細 胞と間葉幹細胞を含む)を骨髄内に移植することによって、予防に成功した(Stem Cells 20: 542-551, 2002)。レシピエントの骨髄ストローマ細胞は、ドナー側に置換していることも確認した。 今回、骨粗鬆症発症後のSAMP6に若齢(8週齢)の正常マウスの骨髄細胞を骨髄内骨髄移植することによって、治療も可能であることを明らかにした。 将来、骨髄内骨髄移植が、ヒトで安全に実施できるようになれば、骨粗鬆症の根本治療 になることが期待される。

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2006/04/20

テロメア長短縮酵母株を利用したフォワードケミカルジェネティクスアプローチによるテロメラーゼ阻害剤の同定。

論文タイトル
Telomerase Inhibitors Identified by a Forward Chemical Genetics Approach Using a Yeast Strain with Shortened Telomere Length
論文タイトル(訳)
テロメア長短縮酵母株を利用したフォワードケミカルジェネティクスアプローチによるテロメラーゼ阻害剤の同定。
DOI
10.1016/j.chembiol.2005.11.010
ジャーナル名
Chemistry and Biology Cell Press
巻号
Chemistry and Biology, Vol 13, 183-190, February 2006
著者名(敬称略)
中井龍一郎 石田浩幸 浅井章良 小川はる美  山本恵啓 川崎秀紀 秋永士朗 水上民夫 山下順範
所属
協和発酵工業株式会社 医薬研究センター協和発酵工業株式会社 バイオフロンティア研究所

抄訳

テロメラーゼは、癌細胞選択的に発現し、その不死化能に寄与することから、抗癌剤の分子標的として注目されている。我々は、テロメラーゼの発現制御により、テロメア長を改変した酵母株を調製した。テロメア長の短い酵母株に選択的な増殖抑制作用を指標にして、テロメア・テロメラーゼに作用する化合物を探索した結果、微生物産物ライブラリーから骨格の異なる3化合物、クロラクトマイシン、UCS1025A、ラディシコールを活性物質として同定した。クロラクトマイシンは、酵素系および細胞系においてヒト癌細胞のテロメラーゼを阻害したことから、ヒトテロメラーゼに対して直接作用する化合物であることが明らかとなった。さらに、クロラクトマイシン存在下で癌細胞の長期培養試験を実施した結果、細胞分裂回数に依存したテロメア長の短縮、および、増殖抑制作用が認められた。以上の結果から、クロラクトマイシンは、テロメラーゼ阻害剤としてのコンセプトを満たす新しいリード化合物であり、かつ、酵母のテロメア長に着目したフォワードケミカルジェネティクスアプローチのアッセイ系は、ヒトテロメラーゼ阻害剤の探索系として有用であることが示唆された。

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2006/04/13

FHITは炎症刺激により制御をうけ、Prostaglandin E2を介した癌進展を抑制する。

論文タイトル
FHIT Is Up-Regulated by Inflammatory Stimuli and Inhibits Prostaglandin E2-Mediated Cancer Progression
論文タイトル(訳)
FHITは炎症刺激により制御をうけ、Prostaglandin E2を介した癌進展を抑制する。
DOI
10.1158/0008-5472.CAN-05-2509
ジャーナル名
Cancer Research 
巻号
Cancer Research 66, 2683-2690, March 1, 2006
著者名(敬称略)
森正樹 三森功士  他
所属
九州大学生体防御医学研究所

抄訳

大腸発癌や進展において“炎症”は重要であり、アラキドン酸経路の分子 (COX2/PGE2)が注目されている。Mimoriらは癌抑制遺伝子FHITが、環境因子暴 露により変異を起こしやすいタイプの癌抑制遺伝子であること(食道 癌; Mori M, Cancer Res 1999)(肺癌;Sozzi G, Cancer Res1997)、さらに大腸癌 の悪性度や予後に関連すること(Mori M, Mimori K. Cancer Res 2001)を示し た。さらに本編では、大腸癌におけるPGE2とFHITとの直接的な関係を調べた結 果、FHITは PGE2活性と細胞増殖能を抑制することで、炎症に起因する大腸癌 進展を制御しうること を明らかにした。

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2006/04/06

IkBNSは、TLR依存性のあるサブセットの遺伝子発現を抑制し、炎症反応を負に制御する。

論文タイトル
IkBNS Inhibits Induction of a Toll-like Receptor-Dependent Genes and Limits Inflammation
論文タイトル(訳)
IkBNSは、TLR依存性のあるサブセットの遺伝子発現を抑制し、炎症反応を負に制御する。
DOI
10.1016/j.immuni.2005.11.004
ジャーナル名
Immunity Cell Press
巻号
Immunity, Vol 24, 41-51, January 2006
著者名(敬称略)
竹田潔  他
所属
九州大学生体防御医学研究所

抄訳

自然免疫系の活性化を誘導するToll-like receptor (TLR)を介した免疫応答は、様々な機構により負に制御されている。しかしながら、TLRを介したシグナル伝達経路の活性化を抑制する機構に比して、その遺伝子発現を負に制御する機構はまだ不明な点が多い。我々は、TLR刺激で誘導される核に発現するIkB分子IkBNSが、NF-kBの活性抑制によりTLR依存性のあるサブセットの遺伝子発現を負に制御していることを明らかにした。IkBNSノックアウトマウス由来のマクロファージや樹状細胞は、TLR刺激により3時間以降に誘導されるIL-6, IL-12p40の発現が上昇していた。一方、TLR刺激により1時間以内に誘導される遺伝子や、転写因子IRF-3を介して誘導される遺伝子の発現は正常と変わらなかった。LPS刺激によるIL-6プロモーターでのNF-kBの活性化が、IkBNSノックアウトマウス由来の細胞では遷延化していた。このことから、IkBNSはTLR刺激後遅れて誘導される遺伝子のプロモーター特異的にNF-kBの活性化を抑制していることが示唆された。さらに、IkBNSノックアウトマウスは、エンドトキシンショックやデキストラン硫酸ナトリウム投与による腸管炎症に極めて感受性が高かった。これらの結果から、IkNSがNF-kBの活性制御を通じたTLR依存性の遺伝子発現の抑制により、炎症反応を負に制御している事が明らかになった。

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2006/03/24

HIV-1 VprはDNA二重鎖切断を誘導する

論文タイトル
HIV-1 Vpr Induces DNA Double-Strand Breaks 
論文タイトル(訳)
HIV-1 VprはDNA二重鎖切断を誘導する
DOI
10.1158/0008-5472.CAN-05-3144
ジャーナル名
Cancer Research 
巻号
Cancer Research 66, 627-631, January 15, 2006
著者名(敬称略)
立和名 博昭 1,2志村 まり2中井(村上)智嘉子2徳永 研三3滝沢 由政1,2佐多 徹太郎3胡桃坂 仁志 1石坂 幸人2
所属
1. 早稲田大学大学院理工学研究科電気・情報生命工学科
2. 国立国際医療センター難治性疾患研究部
3. 国立感染症研究所感染病理部

抄訳

HIV-1 感染により伴う高い悪性腫瘍の発症は、AIDSの免疫不全に伴う他のオンコウイルスであるEpstein-Barr Virus, human herpes virus 8 などの共感染が主要な原因因子とされている。しかし一方、AIDSが発症する以前より、悪性腫瘍の発現頻度が高いことも報告されている。これらは、HIV-1感染自体が、腫瘍因子である可能性を示唆する。我々は、HIV-1感染により、DNA二重鎖切断 (Double Strand Breaks; DSBs)が誘導されることを見出した。HIV-1アクセサリー遺伝子Vprの変異型ウイルスでは、DSBsが著しく抑制されたこと、Vpr強発現細胞およびVprリコンビナントを用いたin vitro実験系においてもDSBsが認められたことから、VprはDSBsの責任因子の一つであることが示唆された。Vpr自体にヌクレアーゼ活性は認められなかったが、VprはDNA(2本鎖、1本鎖)に結合し、特にVpr C末端領域がDNA結合の責任領域であることを認めた。また、C末端領域を欠失したVprはDSBsの誘導能を抑制したことから、VprのDNA結合は、DSBsの必要因子として機能していることも示唆された。近年、DNA 損傷シグナルはがん化初期過程で観察されることが報告されている。VprによるDSBsが、HIV-1感染に伴う腫瘍頻度の増大や悪性化を誘導しうること、今後HIV-1のウイルス量とゲノム状態の経過観察が肝要であることを提唱した。

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2006/03/09

ACTH産生腫瘍細胞において、11b-HSDの阻害はグルココルチコイド抑制の障害を解除しアポトーシスを誘導する

論文タイトル
Inhibition of 11b-Hydroxysteroid Dehydrogenase Eliminates Impaired Glucocorticoid Suppression and Induces Apoptosis in Corticotroph Tumor Cells 
論文タイトル(訳)
ACTH産生腫瘍細胞において、11b-HSDの阻害はグルココルチコイド抑制の障害を解除しアポトーシスを誘導する
DOI
10.1210/en.2005-0544
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
Endocrinology Vol. 147, No. 2 769-772
著者名(敬称略)
二川原健1,2 岩崎泰正1 他
所属
1. 高知大学医学部内分泌代謝腎臓内科
2. 弘前大学医学部内分泌代謝感染症内科

抄訳

クッシング病は、高コルチゾール血症下においてもACTH分泌が持続するという特徴をもつ。この分子的機序を明らかにする目的で、我々はマウスACTH産生腫瘍細胞株を用い、グルココルチコイドによるACTH放出抑制に対し11b-HSD阻害がどのような効果を持つかを調査した。この細胞株には11b-HSD2および11b-HSD1の両者が発現していた。Carbenoxoloneを用いてこれを阻害すると、グルココルチコイドによるネガティブフィードバックは有意に改善した。またcarbenoxoloneはコルチゾールによって誘導されるアポトーシスを増強した。この実験系には11b-HSD2の基質であるコルチゾールのみが投与されていたので、これらの所見は11b-HSD2が阻害された効果である可能性が高いと考えられた。ACTH産生腺腫でグルココルチコイド抑制がかかりにくいことの機序に、11b-HSD2の異所性発現が少なくとも部分的に関与している、と我々は結論した。11b-HSD2の阻害はクッシング病の薬物療法に応用できる可能性がある。

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2006/02/23

サル下部側頭皮質における持続的な連合記憶信号

論文タイトル
Active Maintenance of Associative Mnemonic Signal in Monkey Inferior Temporal Cortex
論文タイトル(訳)
サル下部側頭皮質における持続的な連合記憶信号
DOI
10.1016/j.neuron.2005.09.028
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Neuron, Vol 48, 839-848, 08 December 2005
著者名(敬称略)
竹田真己 他
所属
東京大学大学院医学系研究科統合生理学教室

抄訳

我々は様々な視覚情報を将来の行動に備えて持続的に心の内に留めることができる。こうした能力は分散化された神経機構によって成り立っていると考えられている。有力な仮説としては、前頭前野はこの神経機構に関与しているが、視覚システムの最終ステージである下部側頭皮質は関与していないというものである。本研究では、マカクサルの下部側頭皮質において、連合記憶によって想起された視覚情報は、干渉刺激が提示されても持続的にコードされることを示した。この結果は視覚情報を積極的に持続させる神経機構に前頭前野だけでなく下部側頭皮質も関わっていることを示唆している。

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2006/02/08

下垂体ACTH産生細胞におけるCRFによるCRF受容体タイプ1の感受性低下にはG蛋白共役受容体キナーゼ (GRK) サブタイプ2が関与する

論文タイトル
G Protein-Coupled Receptor Kinase 2 Involvement in Desensitization of Corticotropin-Releasing Factor (CRF) Receptor Type 1 by CRF in Murine Corticotrophs 
論文タイトル(訳)
下垂体ACTH産生細胞におけるCRFによるCRF受容体タイプ1の感受性低下にはG蛋白共役受容体キナーゼ (GRK) サブタイプ2が関与する
DOI
10.1210/en.2005-0376
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
Endocrinology Vol. 147, No. 1 441-450
著者名(敬称略)
蔭山和則、花田小巻、森山貴子、二川原 健、崎原 哲、須田俊宏
所属
弘前大学医学部 内分泌・代謝・感染症内科

抄訳

各種ストレスによって視床下部で産生及び分泌されるcorticotropin-releasing factor (CRF)は、下垂体ACTH産生細胞におけるCRF 受容体タイプ1 (CRF R1) を介して、ACTHの合成、分泌を刺激する。同時に、CRFによるCRF R1の刺激は、次のCRF刺激に対するCRF R1の受容体感受性を一過性に低下させることがわかっている。受容体感受性の変化における細胞内シグナル伝達機構の上流には、G蛋白共役受容体キナーゼ (GRK) が関わっているとアドレナリンなど他のホルモン伝達系で報告されている。しかしながら、下垂体ACTH産生細胞でのGRKの発現とそのはたらきは不明である。当研究で我々は、ラット下垂体前葉細胞及び下垂体ACTH産生腫瘍細胞AtT-20を用いて、GRKのサブタイプの発現を調べ、更に同受容体キナーゼのdominant-negative 変異を下垂体腫瘍細胞に組み込むことで、CRFによるGRKのはたらきを証明した。Western blotting法及びPCR法により、CRK2 蛋白とmRNAの発現をラット下垂体前葉細胞及びAtT-20で認めた。更にdominant-negative GRK2を下垂体腫瘍細胞に組み込み、CRFの連続刺激を加えて、cAMPを指標にCRF受容体の感受性の変化について評価した。CRF連続刺激に対して、dominant-negative GRK2発現細胞では、非発現細胞に比較して、cAMP濃度の有意な増加を認めた。更に、PKA阻害薬の前投与によってもCRF連続刺激に対するcAMPの低下反応は抑制された。以上より、下垂体ACTH産生腫瘍細胞において、CRFによるCRF R1の感受性低下作用にはGRK2が関与していると考えられた。更に、同作用におけるPKA経路の関与が示唆された。

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