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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/03/05

クロロキン耐性トランスポーター遺伝子の欠失は、マウスマラリア原虫 Plasmodium berghei にピペラキン感受性の低下をもたらす

論文タイトル
Deletion of the chloroquine resistance transporter gene confers reduced piperaquine susceptibility to the rodent malaria parasite Plasmodium berghei
論文タイトル(訳)
クロロキン耐性トランスポーター遺伝子の欠失は、マウスマラリア原虫 Plasmodium berghei にピペラキン感受性の低下をもたらす
DOI
10.1128/aac.01589-24
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
平井 誠 他
所属
順天堂大学 医学部 熱帯医学・寄生虫病学講座
著者からのひと言
マラリア原虫は、生存に必須な遺伝子に非同義変異が生じることで薬剤耐性を獲得することが知られています。一方、本研究では、従来の常識とは異なり、必須ではない遺伝子の機能を完全に破壊することで原虫が薬剤耐性を獲得することを証明しました。この結果は、これまで知られていなかった新規の薬剤耐性機構の存在を示唆します。さらに研究を進めることで、耐性が生じにくい、より効果的なマラリア新薬の開発につながることが期待されます。

抄訳

マラリア原虫は遺伝的変化を通じて薬剤耐性を獲得するが、そのメカニズムは完全には解明されていない。薬剤耐性のメカニズムを解明するには、新たな遺伝学的ツールの開発が必要である。私たちは先行研究において、突然変異率が増加したマウスマラリア原虫 Plasmodium berghei mutator(PbMut)を開発し、抗マラリア薬ピペラキン(PPQ)耐性を示す変異体を単離した。そして、その原因としてクロロキン耐性トランスポーター(PbCRT)の N331I 変異を同定した。本研究では、新たに作成した PbMut から再び PPQ 耐性変異体を単離し、原因遺伝子変異としてPbCRTのアミノ酸119番にナンセンス変異を見出した。ヒト熱帯熱マラリア原虫 Plasmodium falciparum の PbCRT オルソログである PfCRT は、P. falciparum の生存に必須である。そこで、PbCRT の必須性を検討するため、野生型原虫から PbCRT 遺伝子を完全に欠失 [PbCRT(-)] させることに成功した。この結果から、PbCRT は P. berghei の生存に必須ではないことを初めて明らかにした。さらに、PbCRT(-) 原虫は PPQ 耐性を示すと同時に、マウスおよび蚊体内での生存適応度が低下することが確認された。本研究は、PbCRT の機能を完全に失うことによって P. berghei が PPQ 耐性を獲得し得ることを初めて証明したものである。

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2025/02/26

CRISPR-Cas9を用いたアレル特異的な染色体切断によるトリソミー21細胞の核型正常化

論文タイトル
Trisomic rescue via allele-specific multiple chromosome cleavage using CRISPR-Cas9 in trisomy 21 cells
論文タイトル(訳)
CRISPR-Cas9を用いたアレル特異的な染色体切断によるトリソミー21細胞の核型正常化
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf022
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
橋詰 令太郎 他
所属
三重大学大学院医学系研究科修復再生病理学・三重大学病院ゲノム医療部

抄訳

ダウン症候群は、21番染色体の3番目のコピーが存在することによって引き起こされ、700出生に1人の割合で発症する。過剰染色体そのものを消去する治療法は現在ない。本研究では、CRISPR-Cas9システムを使用して、トリソミーのiPS細胞と皮膚線維芽細胞の両方において、過剰染色体を切断することにより標的染色体を細胞から消去できることを示した。染色体のDNA修復能力を抑制すると、標的染色体の除去率が上昇した。また、染色体の消去により遺伝子発現と細胞の表現型が可逆的に回復した。しかし、この技術では、標的染色体が消去されなかった場合、当該染色体に変異が導入される可能性がある。したがって、このアプローチをそのまま臨床応用することはできない。本研究は、あくまでも体外の細胞レベルでの概念実証研究である。一方で、過剰染色体を取り除くという発想と、その原理を提案できた意義があると思われる。

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2025/02/26

急性肝障害の初期段階における層別化と急性肝不全への進展予測

論文タイトル
Stratifying and predicting progression to acute liver failure during the early phase of acute liver injury
論文タイトル(訳)
急性肝障害の初期段階における層別化と急性肝不全への進展予測
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf004
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
吉村 雷輝1, 田中 正剛2,3, 黒川 美穂2,3, 岩見 真吾1,4,5,6, 小川 佳宏2,3 他
所属
名古屋大学大学院 理学研究科理学専攻 異分野融合生物学研究室1
九州大学大学院 医学研究院 病態制御内科学2
九州大学病院 肝臓・膵臓・胆道内科3
九州大学マス・フォア・インダストリ研究所4
理化学研究所 数理創造プログラム5
京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点6

著者からのひと言
急性肝障害・急性肝不全の成因はウイルス性肝炎や薬物性肝障害など多岐にわたりますが、同じ成因でも臨床経過はまちまちです。従来の臨床研究的手法では既知の因子に基づいて分類するため、このような不均一な集団を未知の病態に基づいて分類することが困難でした。本研究では人工知能技術を用いた機械学習的アプローチにより、データ駆動型に後方視的解析を行うことにより治療反応性、ひいては病態を反映する分類を実現しました。このような臨床医学と数理科学の異分野融合的アプローチは、他の急性疾患の病態解明にも応用できる可能性があります。

抄訳

急性肝不全(ALF)は、急性肝障害(ALI)から進行する重篤な疾患であり、多くは多臓器不全から最終的には死に至る。現在、ALFの予後を改善できる治療は肝移植しかないが、ALIは非常に不均一な疾患であるため、どのALI患者がALFに進行し、肝移植を要するかを予測する定量的な指標が存在しなかった。本研究では、ALI 319例のデータを機械学習的アプローチにより後方視的に解析し、ALIの状態を反映するバイオマーカーとしてプロトロンビン時間活性率(PT%)を同定した。ALF患者における肝移植の必要性を予測する先行研究とは異なり、本研究ではPT%の動態に注目することにより、非常に不均一なALI患者を、臨床経過と予後が異なる6つのグループ、すなわち、自己終息群、内科集中治療反応群、内科集中治療不応群に層別化することができた。驚くべきことに、これらのグループは入院時に得られる臨床データによって高精度に予測可能であった。さらに、数理モデリングと機械学習により、個々のPT%動態が予測できる可能性が示された。この知見により、医療資源配分の最適化、個別化治療の早期導入が可能となり、ALF予後の改善が期待できる。

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2025/02/26

子宮内膜細胞における亜鉛トランスポーターSlc39a10/Zip10は、マウスのプロゲステロン応答を介した妊娠の成立に必須である

論文タイトル
Endometrial zinc transporter Slc39a10/Zip10 is indispensable for progesterone responsiveness and successful pregnancy in mice
論文タイトル(訳)
子宮内膜細胞における亜鉛トランスポーターSlc39a10/Zip10は、マウスのプロゲステロン応答を介した妊娠の成立に必須である
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf047
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
川田 由以, 寺川 純平, 伊藤 潤哉 他
所属
麻布大学 獣医学部
著者からのひと言
今回、必須微量元素である亜鉛がマウス・ヒトに共通して子宮内膜の機能に必須な役割を持つことを明らかにすることができました。今後さらに研究を進め、ヒトの不妊症や不育症の予防・治療に役立てていきたいと考えています。

抄訳

亜鉛は、雌雄の生殖器系を含むさまざまな生物学的機能に重要な微量元素ですが、根底にある分子メカニズムは明らかにされていませんでした。今回我々は、子宮で亜鉛輸送体ZIP10を欠損したマウスを解析し、このマウスでは胚着床の初期反応は認められるものの、胚が子宮内膜に浸潤できず、結果として胎盤の形成が不完全となり、不妊(不育)を引き起こすことを明らかにしました。その原因として、子宮内膜細胞でZIP10が欠損すると、細胞内に亜鉛イオンが取り込まれず、妊娠の成立と維持に重要なプロゲステロンのシグナル伝達に異常をきたすことを明らかにしました。特に、亜鉛イオンはZinc Finger転写因子(GLI1)の核―細胞質間輸送を制御しており、そのメカニズムはマウスのみならずヒト子宮内膜細胞でも同様であることを確認しました。本研究の結果は、妊娠を望む女性での「亜鉛」の摂取が、妊娠しやすい体づくりに重要であることを分子レベルで示したものです。また、成人女性の多くは潜在的な亜鉛欠乏であるとする研究報告もあり、本研究は妊娠における亜鉛の重要性を改めて示しました。

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2025/02/14

力学刺激を操作するゼブラフィッシュ心臓管腔内への磁気ビーズの留置法:メカノトランスダクション機構による心臓弁形成の解明にむけて

論文タイトル
Magnetic Bead Grafting in the Zebrafish Cardiac Lumen for Controlled Force Amplification: Unraveling Mechanotransduction in Heart Valve Development
論文タイトル(訳)
力学刺激を操作するゼブラフィッシュ心臓管腔内への磁気ビーズの留置法:メカノトランスダクション機構による心臓弁形成の解明にむけて
DOI
10.3791/202562-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (215), e67604
著者名(敬称略)
Christina Vagena-Pantoula, 福井 一 他
所属
徳島大学先端酵素学研究所 生体力学シグナル分野
著者からのひと言
本手法は筆者らが2021年に報告した論文(Fukui et al., Science:374, 351-354)で開発した手技について詳しく説明したものになります。私たちはゼブラフィッシュ心臓管腔に力学刺激を入力しましたが、本手法は他の動物種、組織、細胞など、さまざまな研究に応用できる可能性をもちます。ご不明点・ご相談などありましたら、ホームページよりお問い合わせ頂ければと思います。

抄訳

心臓の管腔では血流や血圧、拍動による伸展収縮といった力学刺激が継続的に生じる。これらの力学刺激は心臓弁や肉柱といった心臓管腔の機能的構造形成に必須の役割を果たす。しかしながら、力学刺激がどのように生体応答機構を調節するのか、直接的な関係性を示す知見は乏しい。我々はゼブラフィッシュ胚の心臓管腔内部に磁気ビーズを生きたまま留置し、心臓管腔に異所性の力学刺激を与える新たな手法を開発した。本論文では、実際の手順を記述し、動画をふまえて紹介する。この手法を施すことで、磁気ビーズは拍動・血流に応じて心臓管腔表面に触れ、離れ、管腔内の力学環境が異所的に変化する。また管腔内の磁気ビーズは、磁力によって胚外部から人為的に操作できる。これらから、力学刺激とそれに直接的に応じる生体応答(メカノトランスダクション)機構の解析、さらには心臓弁を含む心臓管腔の組織形成機構の理解をすすめることができる。

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2025/01/30

晩期発症の小児慢性涙腺炎;COVID19感染症との病理学的解析

論文タイトル
Late onset paediatric dacryoadenitis associated with SARS-CoV-2 confirmed by histological analysis
論文タイトル(訳)
晩期発症の小児慢性涙腺炎;COVID19感染症との病理学的解析
DOI
10.1136/bcr-2023-257615
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
Vol. 17, No.12 (2024)
著者名(敬称略)
横山 宏司
所属
日本赤十字社 和歌山医療センター 小児科
著者からのひと言
COVID19感染症パンデミックを最初に警鐘を鳴らしたのは中国の眼科臨床医でした。私は小児科臨床医です。全身臓器を診療対象とする子どもの総合医として、日々向き合っています。今回の症例のように患者さんの一つ一つの症状・兆候を大切し新規の知見を積み重ねていきたいと思います。

抄訳

本論文は小児慢性涙腺炎とCOVID19感染症の関連を解析した報告になります。涙腺炎、あるいは眼窩部の腫大とCOVD19感染症の関連について、初めて評価したのが共著者の加瀬 諭先生でした。今回我々は小児例の解析・報告を行いました。加瀬先生が報告された成人症例はステロイド全身投与を必要としましたが、本症例はステロイド点眼薬のみで改善しており、病理学的にも炎症像は軽症でした。一般的にもCOVID19感染症において成人と比して小児例は軽症が多く、その機序ははっきりしていません。今回の解析で小児COVID19感染症がなぜ涙腺炎を引き起こすのか、成人と比して軽症なのかについて一助となると考えています。

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2025/01/29

RNA グアニン四重鎖は神経病理学的なαシヌクレイン凝集を促進する足場を形成する

論文タイトル
RNA G-quadruplexes form scaffolds that promote neuropathological α-synuclein aggregation
論文タイトル(訳)
RNA グアニン四重鎖は神経病理学的なαシヌクレイン凝集を促進する足場を形成する
DOI
10.1016/j.cell.2024.09.037
ジャーナル名
Cell
巻号
Volume 187, Issue 24
著者名(敬称略)
松尾 和哉、塩田 倫史、矢吹 悌 他
所属
熊本大学 発生医学研究所 ゲノム神経学分野
著者からのひと言
本研究では、RNAグアニン四重鎖がαシヌクレイン凝集のキーファクターであり、孤発性シヌクレイノパチー発症に寄与することを示しました。私たちの研究室では、RNAグアニン四重鎖が遺伝性神経変性疾患である脆弱X症候群関連疾患 (FXTAS) の病原タンパク質である FMRpolyG 凝集 (Sci Adv. 2021. doi: 10.1126/sciadv.abd9440.) やアルツハイマー病に寄与する Tau 凝集 (J Biol Chem. 2024. doi: 10.1016/j.jbc.2024.107971.) に寄与することを明らかにしています。これらの結果は、RNAグアニン四重鎖が多くの神経変性疾患発症に寄与する可能性を示唆しています。

抄訳

αシヌクレインの凝集はパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などのシヌクレイノパチーと呼ばれる進行性の神経変性を引き起こす。しかしながら、神経細胞内におけるαシヌクレイン凝集のメカニズムは依然として不明である。本研究では、RNAグアニン四重鎖がαシヌクレイン凝集の足場を形成し、神経変性に誘導することを明らかにした。αシヌクレインは、N末端を通してRNAグアニン四重鎖と特異的に直接結合した。Ca2+によってRNAグアニン四重鎖の液-液相分離が促進し、αシヌクレインのゾル-ゲル相転移が促進された。αシヌクレイン凝集シーズである pre-formed fibrilを処置した培養神経細胞では、過剰な細胞質へのCa2+流入を介して、シナプス関連タンパク質をコードするmRNA上で形成されるRNAグアニン四重鎖とαシヌクレインが共凝集することで、シナプス機能障害が誘導された。光遺伝学的手法を用いて人工的にRNAグアニン四重鎖の会合を神経細胞内で誘導すると、αシヌクレインが凝集し、神経機能障害と神経変性が引き起こされた。グアニン四重鎖に作用する薬剤は、RNAグアニン四重鎖の液相分離による会合を防ぎ、それによってαシヌクレイン凝集を抑制し、シヌクレイノパチーモデルマウスにおける神経変性を抑制した。すなわち、Ca2+流入によって誘導されるRNA グアニン四重鎖の会合は、αシヌクレイン相転移による凝集体化を促進し、シヌクレインパチー発症に寄与することが示された。

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2025/01/27

トリプトファン選択的脂肪鎖修飾型GLP-1ペプチドのGLP-1受容体に対する影響

論文タイトル
Effects of tryptophan-selective lipidated GLP-1 peptides on the GLP-1 receptor
論文タイトル(訳)
トリプトファン選択的脂肪鎖修飾型GLP-1ペプチドのGLP-1受容体に対する影響
DOI
10.1530/JOE-24-0026
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Accepted Manuscripts JOE-24-0026
著者名(敬称略)
Xuejing Lu 原田 範雄 他
所属
福井大学 学術研究院 医学系部門 内分泌・代謝内科学分野
京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学

抄訳

glucagon-like peptide-1 (GLP-1)は、食欲抑制作用およびインスリン分泌促進作用に加えて、食欲抑制など様々な作用を介して、血糖値と体重を低下させる。GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドやセマグルチドは、半減期を延長させるための26残基目リジン残基の脂肪酸修飾に、34番目リジン残基の置換操作を要する。一方で、トリプトファンはGLP-1ペプチドにおいて31残基目にのみ存在しており、脂肪酸結合の過程が比較的容易である。本研究ではトリプトファンにパルミチン酸(C16) を付加したGLP-1ペプチド2種類 [A (C16+miniPEG×1), B (C16+ miniPEG×3)]を合成し、in vitroとin vivoでのGLP-1受容体への影響を検討した。AとBはリラグルチド (L)と同等のcAMP産生能とインスリン分泌能を有した。マウスへのAとBとLの投与は、PBS (P)と比較してブドウ糖摂取後の血糖値低下とインスリン値上昇、消化管運動能の低下を認めた。AはLと同等の摂餌量低下を認めたが、PとB投与では認めなかった。LとAとBは、視床下部弓状核内c-FOS発現量増加、6週間投与後の体重減少を認めたが、Bの効果はLやAと比較して軽度であった。新規GLP-1ペプチドはLと同等の血糖低下と、胃排出抑制作用を有した。一方で付加したminiPEG数により食欲、体重への影響が異なることが示された。

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2025/01/17

レム睡眠に重要な役割を果たす脳幹神経回路の同定と、パーキンソン病におけるその回路の異常

論文タイトル
A pontine-medullary loop crucial for REM sleep and its deficit in Parkinson’s disease
論文タイトル(訳)
レム睡眠に重要な役割を果たす脳幹神経回路の同定と、パーキンソン病におけるその回路の異常
DOI
10.1016/j.cell.2024.08.046
ジャーナル名
Cell
巻号
Volume 187, Issue 22
著者名(敬称略)
林 悠、柏木 光昭 他
所属
東京大学, 大学院理学系研究科 生物科学専攻 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構

抄訳

ヒトは睡眠中、レム睡眠とノンレム睡眠という異なる2つのステージを交互に繰り返す。レム睡眠は、鮮明な夢をしばしば伴うことから、一般社会でも注目されてきたが、レム睡眠がどのような仕組みで生じるのかは大きな謎であった。 また、最近の疫学研究によると、レム睡眠の異常はさまざまな疾患や心身の不調の前兆であることも明らかとなってきた。特に近年、パーキンソン病の前駆症状として、レム睡眠行動障害が注目されている。レム睡眠行動障害では、レム睡眠中に本来起こるはずの筋脱力に異常が生じた結果、夢の内容を反映した発声や体動が出現する。パーキンソン病では、レム睡眠行動障害に加え多くの患者で疾患が進むにつれてレム睡眠そのものが失われていく。しかしながら、その原因となる神経メカニズムもまたわかっていなかった。 今回、私たちはマウスを用いて世界で初めてレム睡眠に中枢的な役割を果たす脳幹の神経回路を明らかにした。また、同定した神経回路を構成する特定の神経細胞群が、レム睡眠行動障害を伴うヒトのパーキンソン病患者の死後脳において特異的に脱落していることも発見し、レム睡眠行動障害の原因の一端を明らかにした。

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2025/01/14

マウスにおける動脈内薬剤投与のための総頸動脈の剥離と内頸動脈内注射

論文タイトル
Common Carotid Artery Isolation and Intracarotid Injection for Intraarterial Delivery in Mice
論文タイトル(訳)
マウスにおける動脈内薬剤投与のための総頸動脈の剥離と内頸動脈内注射
DOI
10.3791/201638-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (205), e66303
著者名(敬称略)
Daniel Ledbetter 清水 勇三郎 他
所属
順天堂大学医学部付属順天堂医院 脳神経外科

抄訳

悪性脳腫瘍に対する経動脈的薬剤投与法の開発のため、マウスモデルを使用した頸動脈内注射法が行われてきた。従来法は、薬剤を総頸動脈(CCA)に穿刺注入したあとCCAを結紮するため、頸動脈注射は1回だけに制限されていた。本研究では、CCAを穿刺後に修復し、その後の再注射を可能にする方法を開発した。注射の際には、外頸動脈に縫合糸を巻き付けた後に針をCCAに挿入し注入することで、治療薬は内頸動脈に送達される。CCA内注射の後に注射部位を縫合修復することで、CCA内の血流を回復させ、一部のマウスモデルで観察される脳虚血の合併症を回避することができる。また、頸動脈内注射による骨髄由来ヒト間葉系幹細胞(BM-hMSCs)の投与の実験で、注射部位修復の有無による頭蓋内腫瘍への投与効果を比較した。BM-hMSCsの投与は、いずれの方法でも有意な差は認めなかった。その結果、CCAの注射部位を修復することで、同じ動脈から繰り返し注射を行うことが可能となり、注入物質の分布や到達に影響を及ぼさないことが示された。これにより、柔軟性のあるモデルが提供され、ヒトにおける頸動脈内注射をより正確に再現することが可能となった。

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2024/12/25

ネオセルフは全身性エリテマトーデスにおける自己応答性T細胞の主要な標的抗原である

論文タイトル
Neoself-antigens are the primary target for autoreactive T cells in human lupus
論文タイトル(訳)
ネオセルフは全身性エリテマトーデスにおける自己応答性T細胞の主要な標的抗原である
DOI
10.1016/j.cell.2024.08.025
ジャーナル名
Cell
巻号
Volume 187, Issue 21
著者名(敬称略)
筆頭著者:森 俊輔、連絡著者:荒瀬 尚
所属
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫化学研究室
著者からのひと言
従来の免疫学における基本概念では、T細胞が自己(セルフ)と病原体などの異物(ノンセルフ)を識別することとされてきました。しかし、この考え方だけでは、自己に対する免疫応答である自己免疫疾患を十分に説明することはできません。この論文は、T細胞がセルフと異常な自己抗原であるネオセルフを識別し、ネオセルフに対する免疫応答が自己免疫疾患の引き金となることを明らかにしました。この研究により、長年謎であった自己免疫疾患の病態が解明されるとともに、T細胞の新しい認識機構が発見されました。

抄訳

MHCクラスII(MHC-II)は全身性エリテマトーデス(SLE)の疾患感受性における最も強力な遺伝的要因であるが、どのような自己抗原がMHC-II分子に提示され自己免疫疾患の標的となるかは不明である。インバリアント鎖は、MHC-IIのペプチド抗原提示に必須の分子であるが、インバリアント鎖非存在下ではネオセルフと総称される異常な自己抗原がMHC-II上に提示される。我々は、ネオセルフがSLEでクローン増殖した自己応答性T細胞の主要な標的抗原であることを発見した。成熟マウスにおいてインバリアント鎖を低下させネオセルフの提示を誘導すると、ネオセルフ反応性T細胞が増殖し、ループス様の自己免疫疾患を発症した。さらに、SLE患者でもネオセルフ反応性T細胞が有意に増殖していることが判明した。高頻度のEBウイルス再活性化はSLEの環境的危険因子であることが報告されている。SLE患者の自己応答性T細胞は、EBウイルス再活性化によりインバリアント鎖が低下し提示されたネオセルフに反応し活性化された。これらの結果は、MHC-IIによるネオセルフ提示がSLEの発症に重要な役割を果たしていることを示している。

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2024/12/17

ヒツジ受胎産物は妊娠14–15日目にリン脂質分解阻害遺伝子を発現し、IFNT経路と相互作用する

論文タイトル
Ovine conceptuses express phospholipase inhibitory genes on days 14-15 of pregnancy, interacting with IFNT pathways
論文タイトル(訳)
ヒツジ受胎産物は妊娠14–15日目にリン脂質分解阻害遺伝子を発現し、IFNT経路と相互作用する
DOI
10.1530/REP-24-0286
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Accepted Manuscripts REP-24-0286
著者名(敬称略)
松野 雄太 今川 和彦 他
所属
東海大学 総合農学研究所
著者からのひと言
本研究では、ヒツジ受胎産物において着床前の時期特異的に高発現する未知遺伝子の中から、分泌型のリン脂質分解阻害活性ドメインを有する遺伝子を発見しました。リン脂質は着床制御に重要なプロスタグランジン類の産生経路です。今後、本研究で同定したリン脂質分解阻害遺伝子と子宮内のプロスタグランジンの産生制御との関連性を探っていきたいと考えています。

抄訳

本研究は、ヒツジの受胎産物と子宮内膜の相互作用に関与する新規分泌タンパク質の特定を目的とした。妊娠12、14、15、16、17、19、20、21 日目のヒツジ受胎産物のRNAシーケンスデータを解析し、発現量が高いが機能が解明されていない遺伝子に着目し、in silicoによるタンパク質機能解析を実施した。その結果、妊娠14-15日目にリン脂質分解阻害タンパク質をコードする遺伝子が高発現することを同定した。この遺伝子の組換えタンパク質を作製し、ウシ子宮内膜細胞の初代培養系とRNAシーケンス解析を用い、リン脂質分解阻害タンパク質が子宮内膜に及ぼす影響を解析した。その結果、インターフェロンタウ関連経路の遺伝子発現に影響を及ぼした。これらの結果から、これまで多数同定された因子に加えて、リン脂質分解阻害タンパク質が受胎産物と子宮内膜間の相互作用に関わる新たな候補分子であることが示唆された。

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2024/12/16

ボルボックスの走光性における位置に依存した体細胞の役割

論文タイトル
Position-dependent roles of somatic cells in phototaxis of Volvox
論文タイトル(訳)
ボルボックスの走光性における位置に依存した体細胞の役割
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae444
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 10
著者名(敬称略)
原田 啓吾、村山 能宏 他
所属
東京農工大学工学部生体医用システム工学科

抄訳

緑藻の一種であるボルボックスは明るい方へ移動する正の走光性を示します。ボルボックスには細胞間の複雑な情報伝達機構は備わっておらず、個体の走光性は「暗から明の照度変化に対する鞭毛運動の一時停止」という個々の細胞のシンプルな応答により実現されています。さらに、ボルボックスは周囲の明るさに応じて走光性の感度を変えることができます。しかし、この感度調節機構が体細胞に備わっている機構であるのか、細胞集合体として個体に現れる性質なのかは定かでありませんでした。本論文では、感度調節機構が細胞に備わる性質であることを明らかにするとともに、感度の高い細胞を前方に、低い細胞を後方に配置させることで、個体の動きの巧妙な制御を実現している可能性があることを示しました。本研究で発見された位置に依存した細胞の性質の違いは、細胞の機能分化と多細胞化の関係や、細胞数に応じた生物の生存戦略という観点からも興味深い結果といえます。また、単純な機構で高度な機能が創発するしくみは、マイクロロボットや自動制御システムの開発への応用が期待されます。

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2024/12/16

環境フィードバックを考慮した進化ゲーム理論の完全な分類

論文タイトル
A complete classification of evolutionary games with environmental feedback
論文タイトル(訳)
環境フィードバックを考慮した進化ゲーム理論の完全な分類
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae455
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 11
著者名(敬称略)
伊東 啓、山道 真人
所属
長崎大学 熱帯医学研究所 環境医学部門 国際保健学分野
所属
国立遺伝学研究所
著者からのひと言
環境保全や天然資源の持続可能な管理、抗菌薬の過剰使用と病原体の薬剤耐性化、感染症の拡散とワクチン接種行動など、個々人の行動によって人々を取り巻く環境が変化し、環境の変化によって個人の行動がさらに影響されるような環境フィードバックが、今まさに起こっています。この研究が、環境と人間の行動が相互に影響を与え合う状況の理解に役立ち、両者を望ましい方向へ導くための土台となると期待しています。

抄訳

個人が自身の利益を追求する合理的な行動によって共有資源が枯渇する現象は「コモンズの悲劇」と呼ばれ、ゲーム理論における重要な研究テーマとなっている。コモンズの悲劇を理解するために、個人の行動が環境中の資源量を変え、その資源量の変化が個人の利益に影響する「フィードバック進化ゲーム」の枠組みが最近提唱されたが、資源が豊富な状況において、非協力者が常に増加する「囚人のジレンマ」ゲームにのみ焦点が当てられていた。本研究では、囚人のジレンマ以外の3つのゲーム(チキン・スタッグハント・トリビアル)を含む動態を解析し、完全な分類を行った。さらに、ジレンマ位相平面を用いてゲーム構造の変化を明らかにした。その結果、多様な初期値依存性(双安定性)が生じること、チキン・スタッグハントゲームが周期的な振動を引き起こすことを明らかにした。本研究は、環境フィードバックを含むゲーム理論をさらに拡張していく上で重要なステップとなる。

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2024/12/16

UDP-α-D-ガラクトフラノース: β-ガラクトフラノシド β-(1→5)-ガラクトフラノース転移酵素 GfsA の基質結合と触媒機構

論文タイトル
Substrate binding and catalytic mechanism of UDP-α-D-galactofuranose: β-galactofuranoside β-(1→5)-galactofuranosyltransferase GfsA
論文タイトル(訳)
UDP-α-D-ガラクトフラノース: β-ガラクトフラノシド β-(1→5)-ガラクトフラノース転移酵素 GfsA の基質結合と触媒機構
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae482
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 11
著者名(敬称略)
岡 拓二、角田 佳充 他
所属
崇城大学 生物生命学部 生物生命学科
著者からのひと言
GfsAの立体構造は、真核生物由来のガラクトフラノース転移酵素として世界で初めて解明されました。GfsAの触媒部位を選択的に阻害する化合物は、細胞壁を弱体化させることで、新規の作用機序を持つ抗真菌薬として利用できる可能性があります。さらに、GfsAは糸状菌に広く保存された酵素であり、肺アスペルギルス症だけでなく、その他の真菌感染症の治療薬や植物病に対する農薬の開発にも繋がることが期待できます。

抄訳

糖転移酵素は複雑な糖鎖を合成する酵素であり、細胞において重要な役割を果たしています。糸状菌はガラクトフラノースという珍しい糖を含む糖鎖を合成し、それを細胞壁に組み込んでいます。GfsAは、糖鎖の非還元末端側のβ-ガラクトフラノース残基の5位の水酸基にUDP-α-D-ガラクトフラノースからβ-ガラクトフラノースを転移する酵素です。本研究では、肺アスペルギルス症を引き起こすAspergillus fumigatus由来のGfsAの基質結合構造と触媒機構を解明しました。マンガンイオン (Mn²⁺)、糖供与基質の生成物 (UDP)、および受容基質 (β-ガラクトフラノース) を含む複合体構造を明らかにしました。GfsAは、糖転移酵素に典型的なGT-Aフォールドドメインに加え、N末端およびC末端によって形成される独自のドメインを持っていました。N末端は他のGfsAのGT-Aドメインと相互作用し、二量体を形成していました。Mn²⁺、UDP、およびβ-ガラクトフラノースを含む活性中心は溝状の構造を形成しており、この構造は他の真菌類由来のGfsAにおいて高度に保存されていました。本研究は、ガラクトフラノース糖鎖合成の理解に必要な基礎的知見を提供し、将来的な新規抗真菌薬の開発に貢献する可能性があります。

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2024/12/13

全自動システムによるリコンビナントタンパク質の迅速糖鎖品質評価

論文タイトル
Rapid Glyco-Qualitative Assessment of Recombinant Proteins Using a Fully Automated System
論文タイトル(訳)
全自動システムによるリコンビナントタンパク質の迅速糖鎖品質評価
DOI
10.3791/66571
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments (JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (208), e66571
著者名(敬称略)
布施谷 清香 久野 敦 他
所属
産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門 分子細胞マルチオミクス研究グループ
著者からのひと言
従来、糖鎖分析は多くの時間と手間を要し、基本的に手作業で行われていました。しかし、新しいシステムの導入により、全自動での分析が可能となり、糖鎖の構造や修飾を効率的に識別し、短時間でタンパク質の質的特徴を評価できるようになりました。このシステムは、組換えタンパク質の製造過程における品質管理の向上や、製造プロセスの最適化に大きく貢献することが期待されます。

抄訳

タンパク質のグリコシル化は、重要な翻訳後修飾であり、バイオ医薬品を含む組換えタンパク質の安定性、有効性、免疫原性に影響を与える。糖鎖構造は、生産細胞の種類、培養条件、精製方法によって異なる大きな不均一性を示すため、組換えタンパク質の糖鎖構造のモニタリングと評価は非常に重要である。加えて、産業界で適応させるためには、自動化されたハイスループットな手段が必要である。そこで、「bead array in a single tip (BIST)」技術のコンセプトを活用して世界初の全自動レクチンベースの糖鎖プロファイリングシステムを開発した。本システムでは、糖鎖を認識するレクチン固定化ビーズをそれぞれ1,000個単位で調製・保存することができ、様々な目的に合わせてチップを作製、カスタマイズ可能である。システムの汎用性を高めるため、N型糖鎖やO型糖鎖を認識する15種類のレクチンを選択し、内包したチップを「標準GlycoBISTチップ」と名付けた。本システムの信頼性は再現性試験や長期保存試験を通じて確認され、さらにサンプルのラベリングプロセスを最適化し、全体の処理時間を30分短縮した。また、データの視認性向上のために、レクチン結合シグナルは機器モニターにドットコードとして表示される。このユーザーフレンドリーで迅速な糖鎖分析装置は、糖質科学に馴染みのない研究者による分析を容易にし、実用的な有用性を広げることが期待される。

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2024/12/09

覚醒コモンマーモセットにおける同種他個体の鳴き声を聴いている間の頭皮上脳波計測

論文タイトル
Electroencephalography Measurements in Awake Marmosets Listening to Conspecific Vocalizations
論文タイトル(訳)
覚醒コモンマーモセットにおける同種他個体の鳴き声を聴いている間の頭皮上脳波計測
DOI
10.3791/66869
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments (JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (209), e66869
著者名(敬称略)
鴻池 菜保 中村 克樹 他
所属
京都大学ヒト行動進化研究センター 高次脳機能分野/認知神経機構学分科 京都大学白眉センター
著者からのひと言
サルの頭皮上から脳波を計測して、主に聴覚情報処理にかかわる神経メカニズムを明らかにする一連の研究を開発者の新潟大学脳研究所の伊藤浩介先生とともに実施してきました。今回は、実際の計測手法を動画形式で示すことにより、興味をもった方に実際に試していただけるように工夫しました。是非、ご覧ください!

抄訳

我々は南米原産の小型霊長類であるコモンマーモセットを対象として、覚醒状態で頭皮上に設置した電極から脳活動を非侵襲的に記録する手法を開発した。本手法は、非侵襲的であり動物に負担をかけず、麻酔することなく、覚醒状態の動物から長期的な脳活動の計測が可能であるという利点がある。この手法を用いて、音声処理脳内メカニズムを理解することを目的として、9頭のマーモセットから脳波を計測し、マーモセット特有の鳴き声を聴かせている間の事象関連電位と時間周波数マップを得た。その結果、脳活動の周波数特性とその変化が年齢によって変化することが明らかになった。本手法を用いれば、音声コミュニケーションが豊富なマーモセットのデータとヒトの頭皮上脳波データの直接比較が可能となり、言語や音声処理の進化的視点に立った研究に取り組むことが可能となる。動画では、動物のハンドリング、事前の馴致訓練、脳波計測実験の各プロトコールを紹介している。

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2024/12/04

深部帯水層から単離された新属新種バクテリアFidelibacter multiformis、及び、候補門Marine Group A(または、SAR406、Marinimicrobia)改め新門Fidelibacterotaの提案

論文タイトル
Fidelibacter multiformis gen. nov., sp. nov., isolated from a deep subsurface aquifer and proposal of Fidelibacterota phyl. nov., formerly called Marine Group A, SAR406 or Candidatus Marinimicrobia
論文タイトル(訳)
深部帯水層から単離された新属新種バクテリアFidelibacter multiformis、及び、候補門Marine Group A(または、SAR406、Marinimicrobia)改め新門Fidelibacterotaの提案
DOI
10.1099/ijsem.0.006558
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 74 Issue 10
著者名(敬称略)
片山 泰樹
所属
産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ
著者からのひと言
原核生物の大多数は人工的な培地上で培養できず、性質も未解明である。我々は4年の歳月をかけて門レベルで新しいバクテリアIA91株を分離培養した。培養試験により、自身の増殖に不可欠な細胞壁の合成を他の細菌から放出される細胞壁断片に委ねるという教科書レベルの常識を覆す特徴と、微生物同士の新奇な相互作用が明らかとなった。未培養微生物の魅力と培養手法の重要性を端的に示している。

抄訳

グラム陰性、絶対嫌気性、化学従属栄養細菌IA91株が、日本の深部帯水層の堆積物と地層水から分離培養された。IA91株は、増殖する他の細菌から放出される細胞壁断片ムロペプチドを、自身の細胞壁ペプチドグリカン、エネルギー源、炭素源として利用し、細胞壁の形成、増殖、更には細胞の形状に至るまで他の細菌に依存した。 IA91株細胞は桿状であるが、他の細菌に由来するムロペプチドがない場合あるいは枯渇すると球状に変化し、やがて死滅した。IA91株は非常に限られた基質、酵母エキス、ムロペプチド、D-乳酸のみを利用し増殖した。酵母エキス分解の主な最終生成物は酢酸、水素、二酸化炭素であった。水素を除去するメタン生成古細菌との共培養はIA91株の増殖を強く促進した。16S rRNA遺伝子、及び、保存タンパク質配列に基づく分子系統解析の結果、IA91株は培養株の存在しない候補門Marine Group A(またはSAR406、Ca. Marinimicrobia)に属することが示された。表現型および系統学的特徴に基づき、IA91株を新属新種Fidelibacter multiformis、新科Fidelibacteraceae、新目Fidelibacterales、新綱Fidelibacteria、新門Fidelibacterotaとして提案した。

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2024/11/08

生体内CRISPRスクリーンがトキソプラズマ原虫の病原性に必須の遺伝子を同定した

論文タイトル
CRISPR screens identify genes essential for in vivo virulence among proteins of hyperLOPIT-unassigned subcellular localization in Toxoplasma
論文タイトル(訳)
生体内CRISPRスクリーンがトキソプラズマ原虫の病原性に必須の遺伝子を同定した
DOI
10.1128/mbio.01728-24
ジャーナル名
mBio
巻号
Volume 15, Issue 9 (2024)
著者名(敬称略)
橘 優汰 山本 雅裕 他
所属
大阪大学微生物病研究所 感染病態分野
著者からのひと言
トキソプラズマ症やマラリアといったアピコンプレクサに属する寄生虫による感染症は依然として人類の脅威です。トキソプラズマ原虫は実験がしやすいことからアピコンプレクサのモデル生物と言われています。今後もCRISPRを基盤技術としたトキソプラズマの研究を通じてアピコンプレクサ全体に保存された知見を得ていき、最終的には病原体のサイエンスを通じて、感染症領域において臨床に還元できる研究成果を発信したいと思っています。

抄訳

寄生虫の一種であるトキソプラズマ原虫は免疫不全患者や新生児に重篤な感染症を引き起こす。トキソプラズマ原虫がコードする8000個以上のタンパク質の多くは細胞内の局在および機能が不明であり、病原性への関与も未知数な状態であった。我々が樹立した生体内CRISPRスクリーニング技術を駆使することで、約600個のトキソプラズマ遺伝子の必須性をマウスの生体内で網羅的にスクリーニングした。その結果、トキソプラズマ原虫の病原性に必須の因子を多数同定することに成功した。その中でも医学的に最も重要な寄生虫の集団である『アピコンプレクサ』に保存されているRimM遺伝子に着目した。RimMは寄生虫の葉緑体類似器官であるアピコプラストに局在し、寄生虫の生存に必須であることを証明した。本研究成果によりアピコンプレクサが引き起こすトキソプラズマ症やマラリアの病態解明、ひいては新規治療薬やワクチン開発につながることが期待される。

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2024/10/31

動物界の排卵:全動物の排卵に共通の細胞メカニズムを求めて(総説)

論文タイトル
An attempt to search for the common cellular mechanism of ovulation across all metazoans: A review
論文タイトル(訳)
動物界の排卵:全動物の排卵に共通の細胞メカニズムを求めて(総説)
DOI
10.1530/REP-24-0184
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Accepted Manuscripts REP-24-0184
著者名(敬称略)
高橋 孝行 荻原 克益
所属
北海道大学 大学院理学研究院 生殖発生生物学研究室 荻原グループ
著者からのひと言
これまで様々な動物種を用いて行われてきた排卵研究の知識を整理し,動物界の排卵に共通するメカニズムの追究を試みた初めての総説論文で,reviewersによりherculean effortにより仕上げられたencyclopedic reviewと評された。著者らが永年に亘り従事してきた排卵研究の経験を基に,5年の歳月をかけて2024年までの排卵研究の情報をまとめている。現在,排卵研究に携わっている研究者,これから排卵研究に参入しようとしている若い研究者,さらには動物の卵巣においてどのように卵が成長し排卵に至るのかについて知りたい大学院生のみならず生殖生物学とは無縁の研究者など,排卵研究の現状の把握や基本知識の習得に本総説論文は役立つものと信じる。

抄訳

排卵は卵巣から受精可能な卵が放出される現象を指し,有性生殖により子孫を残すすべての動物にとって不可欠な過程である。10動物門に属する11種の動物の排卵について文献調査から,多くの動物では濾胞破裂という様式によって排卵すること,さらに濾胞破裂による排卵する動物の濾胞においては,2つの重要な細胞学的イベントが共通して誘起されることを提唱した。1)卵を取り囲む濾胞細胞の細胞結合システム(Cell-Cell junctions およびcell-ECM junctions)に変化が起こり,それによって濾胞細胞内の細胞骨格タンパク質の再配置が誘導され,同時に,2)濾胞細胞間を埋めるECMタンパク質の分解が起こることによって,濾胞細胞が変形および移動性を獲得し,濾胞壁の一部に卵を濾胞外に送り出すための通路が形成される。哺乳類や魚類などの脊椎動物の濾胞においては多量のECMタンパク質が濾胞壁に蓄積しており,これらの動物の排卵ではECMタンパク質の分解がより一層重要性を増す。本論文では,動物の排卵の進化および今後の排卵研究の課題についても論じている

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