本文へスキップします。

H1

国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/03/17

Streptococcus mutans の細胞壁糖転移酵素が本菌のマウス各臓器への分布に与える影響

論文タイトル
Cell wall glycosyltransferase of Streptococcus mutans impacts its dissemination to murine organs
論文タイトル(訳)
Streptococcus mutans の細胞壁糖転移酵素が本菌のマウス各臓器への分布に与える影響
DOI
10.1128/iai.00097-24
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Vol. 93 No. 3
著者名(敬称略)
瀧澤 智美 他
所属
日本大学松戸歯学部 感染免疫学講座

抄訳

う蝕病原細菌のStreptococcus mutansは全身疾患に関与することが知られている。本菌が産生するグルカン合成酵素や細胞壁の糖転移酵素(RgpI)はう蝕病原因子であることが報告されている。そこで、これらの酵素が全身疾患へ関与する可能性について検討した。RgpI遺伝子を欠損したS. mutans、グルカン合成能が低下した変異株、野生株にルシフェラーゼ遺伝子を組込んだ菌体を作成後、マウスへ経尾静脈接種し、各臓器への分布を調べた。その結果、脾臓と腎臓からルシフェラーゼによる強い発光シグナルが検出された。野生株を接種したマウスで最も強く、これに比較すると低グルカン合成変異株を接種したマウスでは弱い発光であった。これら2種類の菌体を接種したマウスでは血中から炎症性サイトカインが検出され、生存率が減少した。一方、RgpI欠損株を接種したマウスでは発光量、血中の炎症性サイトカイン量が最も低く生存率100%であった。したがって、RgpIは全身疾患における病原因子である可能性が示唆された。

 

論文掲載ページへ

2025/03/14

中温絶対寄生性の新属新種バクテリアMinisyncoccus archaeiphilusの記載と、新科 Minisyncoccaceae、新目 Minisyncoccales、新綱 Minisyncoccia、およびCandidatus Patescibacteria/candidate phyla radiation を新門 Minisyncoccotaとして提案

論文タイトル
Minisyncoccus archaeiphilus gen. nov., sp. nov., a mesophilic, obligate parasitic bacterium and proposal of Minisyncoccaceae fam. nov., Minisyncoccales ord. nov., Minisyncoccia class. nov. and Minisyncoccota phyl. nov. formerly referred to as Candidatus Patescibacteria or candidate phyla radiation
論文タイトル(訳)
中温絶対寄生性の新属新種バクテリアMinisyncoccus archaeiphilusの記載と、新科 Minisyncoccaceae、新目 Minisyncoccales、新綱 Minisyncoccia、およびCandidatus Patescibacteria/candidate phyla radiation を新門 Minisyncoccotaとして提案
DOI
10.1099/ijsem.0.006668
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology Volume 75 Issue 2
著者名(敬称略)
中島 芽梨 Masaru K. Nobu(延優) 成廣 隆 黒田 恭平 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門
著者からのひと言
未知バクテリアの巨大系統群であるCPRはヒトなどの動物や、自然環境、廃水処理場などの人工生態系内に普遍的に存在していますが、培養の困難さからそれらが生態系や人工バイオプロセスおよびそれが支えるバイオ産業などにどのような影響を与えるのか不明な点が数多く残されていました。我々は、自由に利用可能なCPRバクテリアの培養に成功し、公的な菌株保存機関に寄託することで世界中の研究者が利用できるようにしました。これにより、CPRバクテリアに関する研究分野の発展が期待されます。

抄訳

産業技術総合研究所の黒田恭平、中島芽梨、成廣隆らと、海洋研究開発機構のMasaru K. Nobu(延優)は、北海道大学、東北大学と共同で、メタン生成アーキアに寄生する超微小バクテリアの培養に成功し、新属新種として記載しました。共同研究グループは、廃水処理システムにおいて中心的な役割を担うメタン生成アーキアに寄生してその生理活性を低下させるバクテリアを、世界に先駆けて発見しており、今回その培養に成功しました。本研究は、約40億年前に進化的に分かれ、生物学的に大きく異なっているアーキアに寄生するバクテリアを培養した世界初の例です。「Minisyncoccus archaeiphilus」と命名したこのバクテリアは、寄生できる宿主の範囲が非常に狭く、宿主アーキアの特定部位にのみ感染することが観察されました。さらに、本培養株が属する未知バクテリア巨大系統群である「Candidate phyla radiation (CPR)」を新門「Minisyncoccota」と命名しました。本研究において系統学的に整理し、分離株を公的菌株保存機関へ寄託することにより、これまで謎に包まれていたCPRに属するバクテリアの生理や生態学的役割の理解が進むことが期待されます。

 

論文掲載ページへ

2025/03/12

日本発の甲状腺クリーゼガイドラインは有用である:前向き多施設レジストリ研究より

論文タイトル
Prospective Multicenter Registry–Based Study on Thyroid Storm: The Guidelines for Management From Japan Are Useful
論文タイトル(訳)
日本発の甲状腺クリーゼガイドラインは有用である:前向き多施設レジストリ研究より
DOI
10.1210/clinem/dgae124
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 1, January 2025
著者名(敬称略)
古川 安志 赤水 尚史 他
所属
隈病院/和歌山県立医科大学 内科学第一講座 
著者からのひと言
甲状腺クリーゼの致死率は10%を超えると報告されてきた。その予後を改善すべく、著者らはこれまでに診断基準の確立、全国疫学調査による実態調査を行い、さらに世界初の診療ガイドラインを作成してきた。今回、同ガイドラインの妥当性を検証するために、全国多施設前向きレジストリ調査を行った。その結果、登録された患者が前回の調査に比してより重症であるにも関わらず、致死率が5.5%と半減していることが判明し、同ガイドラインの有用性が示された。

抄訳

背景:甲状腺機能亢進症(TS)の死亡率は10%以上と報告されている。
目的:日本甲状腺学会と日本内分泌学会が提唱した2016年のTS診療ガイドラインの有効性を評価した。
方法:WEBプラットフォーム(REDCap)を用いて、前向きに全国の多施設から患者登録を行ってもらうレジストリ研究を実施した。即ち、新規発症時にTS患者が登録され、その後入院後30日目と180日目に各患者の臨床情報と予後が報告された。
結果:4年間で 110例のTS患者が登録された。APACHE IIスコアの中央値は13点であり、以前の全国疫学調査のスコアである10点よりも高くより重症であった(p=0.001)。それにもかかわらず、30日目の死亡率は5.5%と、前回の全国調査の10.7%に比較して約半減していた。左室駆出率低下、低BMI、ショック、38℃以上の発熱がないことが予後不良因子であった。当診療ガイドラインに従わなかった場合、ガイドラインに従った場合の死亡率より有意に高かった(50% vs 4.7%, p=0.01)。
結論:予後は前回の全国調査よりも良好であり、半減していた。診療ガイドラインに従った場合、死亡率は有意に低値であった。以上より、本ガイドラインはTS診療に有用であることが示された。

 

 

論文掲載ページへ

2025/03/12

ファージ特異的抗体:ファージセラピー成功の障壁となるか?

論文タイトル
Phage-specific antibodies: are they a hurdle for the success of phage therapy?
論文タイトル(訳)
ファージ特異的抗体:ファージセラピー成功の障壁となるか?
DOI
10.1042/EBC20240024
ジャーナル名
Essays in Biochemistry
巻号
Essays Biochem (2024) 68 (5): 633–644
著者名(敬称略)
鷲﨑 彩夏 安藤 弘樹 他
所属
岐阜大学大学院 医学系研究科 ファージバイオロジクス研究講座
著者からのひと言
本総説が公表されるにあたり、当研究室の満仲 耀(みつなか ひかる)さんのイラストがEssays in Biochemistryのカバーイメージに採用されました。ファージ特異的抗体に対して ”barrier” をまとった改変型ファージを描いています。ぜひご覧ください。

抄訳

薬剤耐性菌の蔓延に伴い、ファージセラピーが注目されている。ファージセラピーは細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージ(ファージ)を利用した細菌感染症に対する治療法であり、その有効性は多数報告されてきた。一方、治療中に産生されるファージ特異的抗体は体内でのファージの代謝を早めたり、ファージを中和して細菌への感染能を失わせたりするため、ファージセラピーへの影響が懸念されている。ファージ特異的抗体については、in vitroや非臨床試験などで研究が進められており、例えば、ファージを修飾することで抗体に認識されにくくする、血中での半減期を伸ばす、といった研究が報告されている。しかしながら、臨床試験ではファージ特異的抗体の影響について相反する結果が得られており議論が続いている。本総説ではファージ特異的抗体に焦点をあて、具体的な臨床試験の結果を挙げながらファージ特異的抗体がファージセラピーに与える影響について解説する。さらに、ファージ特異的抗体の影響を最小限にする取り組みについても紹介する。

論文掲載ページへ

2025/03/12

甲状腺クリーゼに対するヨウ素の効果:観察研究

論文タイトル
Potassium Iodide Use and Patient Outcomes for Thyroid Storm: An Observational Study
論文タイトル(訳)
甲状腺クリーゼに対するヨウ素の効果:観察研究
DOI
10.1210/clinem/dgae187
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 2, February 2025
著者名(敬称略)
松尾 裕一郎
所属
東京大学大学院医学系研究科 社会医学専攻 臨床疫学・経済学
著者からのひと言
理論的には、ヨウ素はバセドウ病による甲状腺中毒症に対して効果が期待されるが、バセドウ病以外の疾患による甲状腺中毒症では効果を期待できない。今回の研究では、甲状腺クリーゼにおいてもその傾向が確認され妥当な結果である。一方で実際の臨床場面では、甲状腺クリーゼの診断段階では背景の甲状腺疾患が明確に特定できないこともある。本研究でバセドウ病の診断が無い患者でもヨウ素の投与により院内死亡率は上昇しなかったことから、たとえ初診時に背景の甲状腺疾患が不明であってもヨウ素を投与することは許容されると考えられる。

抄訳

【背景】多くの臨床ガイドラインにおいて、甲状腺クリーゼの初期治療として抗甲状腺薬、β遮断薬、ステロイドに加えてヨウ素の使用が推奨されている。しかし、甲状腺クリーゼに対するヨウ素の臨床効果を検証した研究は乏しい。【方法】厚生労働科学研究DPCデータ調査研究班のデータベースを利用した後ろ向きコホート研究を実施した。2010年7月から2022年3月までに甲状腺クリーゼにより入院した患者を同定し、入院2日以内にヨウ素を投与された患者(ヨウ素投与群)と投与されなかった患者(ヨウ素非投与群)の院内死亡を、ロジスティック回帰分析により比較した。また、背景疾患としてのバセドウ病の診断の有無で層別化したサブグループ解析も実施した。【結果】3,188人(ヨウ素投与群 2,350人、ヨウ素非投与群 838人)の甲状腺クリーゼ患者が対象となり、粗院内死亡率はそれぞれ6.1%と7.8%であった。ヨウ素非投与群を対照とするヨウ素投与群の院内死亡の調整後オッズ比は0.91(95%信頼区間 0.62–1.34)で有意差を認めなかった。バセドウ病患者では調整後オッズ比 0.46(95%信頼区間 0.25–0.88)とヨウ素投与群で院内死亡率が有意に低く、非バセドウ病患者では調整後オッズ比 1.11(95%信頼区間 0.67–1.85)と有意差を認めなかった。【結論】バセドウ病による甲状腺クリーゼ患者では、ヨウ素の投与により院内死亡率が低下する可能性が示唆される。

論文掲載ページへ

2025/03/11

RNA結合タンパク質NrdAの過剰発現によるAspergillus属糸状菌の二次代謝の変化

論文タイトル
Overexpression of the RNA-binding protein NrdA affects global gene expression and secondary metabolism in Aspergillus species
論文タイトル(訳)
RNA結合タンパク質NrdAの過剰発現によるAspergillus属糸状菌の二次代謝の変化
DOI
10.1128/msphere.00849-24
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere Vol. 10 No. 2
著者名(敬称略)
門岡 千尋 二神 泰基 他
所属
鹿児島大学 農学部 附属焼酎・発酵学教育研究センター
著者からのひと言
Aspergillus 属を含むチャワンタケ亜門のゲノムにおいて、nrdA 遺伝子は、クエン酸合成酵素遺伝子 citAおよびクエン酸輸送体遺伝子 yhmAと共にシンテニー領域に存在しています。私たちは白麹菌におけるクエン酸高生産機構の全容解明を目指しており、NrdAの研究を開始しました。このシンテニーに意味があるのかは未だ不明ですが、NrdAが二次代謝に関与することが明らかになりました。

抄訳

酵母において、RNA結合タンパク質Nrd1はRNA polymerase IIによる転写の終結に関与する。本研究では、Aspergillus属糸状菌においてNrdA(Nrd1のホモログ)の機能を解析し、二次代謝への関与を明らかにした。まず、白麹菌Aspergillus kawachiiにおいてRNA免疫沈降(RIP)解析を行い、NrdAがタンパク質コード遺伝子の約32%のmRNAと相互作用することが示唆された。また、NrdAの過剰発現が二次代謝に影響を及ぼすことが示唆された。そこで、モデル菌Aspergillus nidulans、病原性糸状菌Aspergillus fumigatus、黄麹菌Aspergillus oryzaeにおいてNrdAを過剰発現させた結果、ペニシリンなどの二次代謝産物の生産量が変化することが確認された。

論文掲載ページへ

2025/03/11

バンドパスフィルターを通過した222-nm遠紫外線によって生成される活性酸素種は大腸菌に対する殺菌機序において重要な役割を果たす

論文タイトル
Reactive oxygen species generated by irradiation with bandpass-filtered 222-nm Far-UVC play an important role in the germicidal mechanism to Escherichia coli
論文タイトル(訳)
バンドパスフィルターを通過した222-nm遠紫外線によって生成される活性酸素種は大腸菌に対する殺菌機序において重要な役割を果たす
DOI
10.1128/aem.01886-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol.91 No.2
著者名(敬称略)
成田 浩司 中根 明夫 他
所属
弘前大学大学院医学研究科感染生体防御学講座
著者からのひと言
我々の研究室はfiltered 222-nm Far-UVCの病原体への殺菌有効性だけでなく、哺乳類での安全性についての研究を進めてきました。近年、医療環境や食品衛生分野等の感染リスクが高い領域の有人環境で、filtered 222-nm Far-UVCが利用され始めています。光回復は紫外線殺菌の課題の一つでした。殺菌用途において、filtered 222-nm Far-UVCにおける光回復阻害は大きなメリットです。光回復阻害の機序が明らかになることで、filtered 222-nm Far-UVCによる新たな殺菌戦略の構築が期待されます。

抄訳

従来から殺菌に使用されている紫外線(254-nm UVC)は哺乳類に対し有害である。一方、バンドパスフィルターを装着したKrClエキシマランプが発するUVC(filtered 222-nm Far-UVC)は殺菌作用を持つが哺乳類に対する安全性が高い。254-nm UVCは細菌にDNA損傷の一種であるシクロブタン型ピリミジン二量体 (CPD) を誘導し殺菌作用を示す。しかし細菌は光回復によってCPDを修復し増殖能を回復する。ところがfiltered 222-nm Far-UVCで大腸菌に誘導されたCPDは光回復で修復されなかった。さらにfiltered 222-nm Far-UVCを照射された大腸菌では活性酸素種(ROS)、カルボニル化タンパク質の増加、菌体の形態変化が見られた。これらの結果からfiltered 222-nm Far-UVCによって生成されたROSがその殺菌機序に重要な役割を果たしている可能性がある。

論文掲載ページへ

2025/03/10

腹部肥満および心血管イベントリスクの簡便な人体計測指標としての体型指数(ABSI: a body shape index)

論文タイトル
A Body Shape Index as a Simple Anthropometric Marker of Abdominal Obesity and Risk of Cardiovascular Events
論文タイトル(訳)
腹部肥満および心血管イベントリスクの簡便な人体計測指標としての体型指数(ABSI: a body shape index)
DOI
10.1210/clinem/dgae282
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 109, Issue 12, December 2024
著者名(敬称略)
梶川 正人 東 幸仁 他
所属
広島大学病院 未来医療センター
著者からのひと言
ABSIは、体重、血管内皮機能、心血管リスク因子、および死亡率の独立した危険因子です。 さらに、ABSIは、代謝異常に関連する病態を識別する能力において、body mass index(身体重比)よりも優れています。ABSIは、臨床において、さまざまなリスクパラメータの評価や治療戦略の決定に活用できる包括的なツールとなり得ます。また、心血管イベントの有効な予測因子となり得ることが期待されます。

抄訳

A Body Shape Index(ABSI)は、心血管リスク因子と関連していることが報告されている。しかし、ABSIと心血管イベント発生率との関連についての情報はない。本研究では、FMD-Jレジストリおよび広島大学血管機能レジストリのデータベースから1,857名の対象者を抽出し、ABSIと心血管イベント(心血管疾患による死亡、非致死性急性冠症候群、非致死性脳卒中)との関連を検討した。心血管イベントを予測するためのABSIのROC曲線下面積は、BMIおよび女性のウエスト周囲径よりも優れていた。中央値41.6か月の追跡期間中に、56名が死亡(23名は心血管疾患による死亡)、16名が非致死性急性冠症候群、14名が非致死性脳卒中を発症した。主要心血管イベントの発生率は、高ABSI群において、低ABSI群に比し、有意に高値であった。多変量解析により、高ABSIは心血管イベントの独立した予測因子であることが示された。心血管リスクの評価において、ABSIの計算を実施することが推奨される。

論文掲載ページへ

2025/03/10

原発性副甲状腺機能亢進症における腫瘍体積を術前臨床データから予測する

論文タイトル
Predicting Tumor Volume in Primary Hyperparathyroidism From Preoperative Clinical Data
論文タイトル(訳)
原発性副甲状腺機能亢進症における腫瘍体積を術前臨床データから予測する
DOI
10.1210/clinem/dgae185
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 2, February 2025
著者名(敬称略)
中居 伴充 他
所属
東京女子医科大学 内分泌外科
著者からのひと言
原発性副甲状腺機能亢進症における副甲状腺腫瘍の体積と臨床データとの相関について解析しました。臨床内分泌領域の分野で権威ある雑誌に掲載され光栄です。今後も医療における臨床上の疑問点(Clinical Question)を提示し、妥当性の高い答えを得るために、不断に学び続けます。そして細心の注意を払い論文化すること、そのプロセスを繰り返すことで身に付く態度を臨床実践の態度に繋げ、患者のために精進していきます。

抄訳

〔背景〕本研究は、原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)における責任病変の腫瘍体積を術前臨床データから予測することを目的とする。PHPTの治療には副甲状腺摘出術が有効であり、術前診断には超音波検査、CT、MIBIシンチグラフィーが用いられるが、外科治療が不成功に終わることもある。責任病変のサイズと術前臨床データの関連が想定され、予測モデルも開発されているが、多数例での検討は少ない。〔方法〕2000年1月~2021年12月に当科で手術を受けたPHPT患者1106人を対象に、摘出した副甲状腺腫瘍の体積と術前臨床データの関連を多変量解析で評価した。〔結果〕腫瘍体積は術前血中intact PTH値(相関係数0.557)およびCa値(相関係数0.345)と正の相関を示した。重回帰分析では、男性、ln-PTH(intact PTHを対数変換したもの)、Ca値が腫瘍体積の有意な予測因子であり、モデルの調整済R²は0.325であった。〔結論〕術前血中intact PTH値は腫瘍体積と相関するが、正確な予測には限界があるものの、大まかな推定には活用可能である。

論文掲載ページへ

2025/03/07

Sagittal adjusting screwと骨折整復デバイスを用いた胸腰椎破裂骨折に対する最小侵襲治療

論文タイトル
Minimally Invasive Treatment for Thoracolumbar Burst Fracture Using Sagittal Alignment Screws and A Trauma Reduction Device
論文タイトル(訳)
Sagittal adjusting screwと骨折整復デバイスを用いた胸腰椎破裂骨折に対する最小侵襲治療
DOI
10.3791/66957
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (213), e66957
著者名(敬称略)
小川 穣示 岡野 市郎 他
所属
昭和大学医学部 整形外科学講座

抄訳

Sagittal adjusting screw(SAS)は、可動性のある鞍状のヘッドを持つmonoaxial screwであり、矢状面においてロッドの可動性を許容し、胸腰椎破裂骨折に用いられる。専用の整復デバイスを併用することで、伸展力によるligamentotaxisを利用した椎体高・脊柱管内突出骨片の整復および角度矯正が可能である。また、SASシステムは経皮的に使用可能な最小侵襲手技として用いることが可能であり、従来のシャンツスクリューや通常の多軸椎弓根スクリューと比較して、多くの点で優れている。本プロトコールでは、胸腰椎破裂骨折の治療におけるSASシステムについて各ステップを概説し、整復および固定術の手技について手術動画を用いて解説する。また、単一施設のSASシステムを使用した症例シリーズにおいて、術後の後弯角変化率および椎体高変化率について提示する。

論文掲載ページへ

2025/03/07

tRNAのキューオシン修飾およびその糖付加体の生合成とヒトの健康・疾患における役割

論文タイトル
Biogenesis and roles of tRNA queuosine modification and its glycosylated derivatives in human health and diseases
論文タイトル(訳)
tRNAのキューオシン修飾およびその糖付加体の生合成とヒトの健康・疾患における役割
DOI
10.1016/j.chembiol.2024.11.004
ジャーナル名
Cell Chemical Biology
巻号
Cell Chemical Biology Volume 32, Issue 2
著者名(敬称略)
鈴木 勉 他
所属
東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻
著者からのひと言
本総説で題材に取り上げたtRNA修飾は1970年代に故西村暹先生のグループが見つけました。修飾酵素の探索には海外のグループも参戦し、厳しい競争がありましたが、同じ日本人である私たちがその酵素を見つけたのは何かの縁であり、とても誇らしく感じております。

抄訳

tRNAには多様な転写後修飾を持ち、タンパク質合成において重要な役割を果たしています。キューオシン(Queuosine,
Q)は、7-デアザグアノシン(7-deazaguanosine)をコア構造とし、シクロペンテン基を含むかさ高い側鎖を持つ特徴的なtRNA修飾です。Qおよびその誘導体は、細菌と真核生物の特定のtRNAのアンチコドンに存在します。また、後生動物のtRNAにおいては、Qはさらにガラクトースまたはマンノースによって糖付加されます。これらの糖付加Qの機能は、その発見以来約半世紀にわたり不明のままでした。しかし最近、私たちの研究グループは、これらの糖付加Q修飾を担う2種類の糖転移酵素を同定し、その生物学的役割を解明しました。本総説では、Qおよびその糖付加Qの生化学的・生理学的機能について概説し、さらにがん、炎症性疾患、神経疾患などのヒト疾患との関連についても考察します。

論文掲載ページへ

2025/03/07

KAI2のシグナル伝達を活性化するリガンド分子の構造要求性の解明

論文タイトル
Structural requirements of KAI2 ligands for activation of signal transduction
論文タイトル(訳)
KAI2のシグナル伝達を活性化するリガンド分子の構造要求性の解明
DOI
10.1073/pnas.2414779122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.8
著者名(敬称略)
櫛原 立冬 竹内 純 他
所属
静岡大学農学部応用生命科学科植物化学研究室
著者からのひと言
本成果は,10年以上にわたって未発見なKAI2の植物内生リガンド(KL)の構造的特徴に関する新たな知見を提供するものであり,KLの探索研究を大きく前進させるものと期待されます。

抄訳

 KARRIKIN INSENSITIVE 2(KAI2)は山火事などで植物が燃焼した際の煙に含まれる発芽誘導物質カリキンと結合するタンパク質として同定されたが,未だ植物内生リガンド(KAI2 ligand; KL)は発見されていない。最近,KAI2のシグナル伝達機構に関してはその概要が明らかになってきたが,リガンド認識機構については未解明な点が残されている。本研究では,KAI2リガンドの構造要求性およびKAI2活性化機構の解明を目的として,KAI2アゴニスト(dMGer)を構造改変することで,KAI2によって加水分解されない分子構造としたdMGerアナログ(1'-carba-dMGerと6'-carba-dMGer)を設計した。合成したdMGerアナログのKAI2結合活性および植物に対する生理活性を詳細に解析した結果,KAI2のシグナル伝達には,リガンドがKAI2と結合するだけでは不十分であり,リガンドのブテノライド環が加水分解され,その後KAI2の触媒残基と共有結合を形成することが重要であると明らかにした。本知見は,KLもKAI2によって加水分解・切断されるブテノライド環を有していることを示唆している。

論文掲載ページへ

2025/03/07

マルチオミクス解析によりKCNJ5変異陽性アルドステロン産生腺腫における臨床的意義を持つ細胞生態系が明らかに

論文タイトル
Multiomics analysis unveils the cellular ecosystem with clinical relevance in aldosterone-producing adenomas with KCNJ5 mutations
論文タイトル(訳)
マルチオミクス解析によりKCNJ5変異陽性アルドステロン産生腺腫における臨床的意義を持つ細胞生態系が明らかに
DOI
10.1073/pnas.2421489122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America Vol.122 No.9
著者名(敬称略)
馬越 真希、藤田 政道、馬越 洋宜、小川 佳宏 他
所属
九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野
(九州大学病院 内分泌代謝・糖尿病内科)
著者からのひと言
本研究では、最先端の単一細胞解析技術と空間トランスクリプトーム解析を組み合わせることで、アルドステロン産生腺腫の内部に存在する複雑な細胞社会を可視化することに成功しました。特に、腫瘍内でのコルチゾール産生が血中コルチゾール濃度上昇や椎体骨折に関連するという発見は、これまで説明が困難だった臨床症状の分子メカニズムを解明するものです。この知見は、より効果的な内科的治療法の開発につながる可能性があり、患者さんのQOL向上に貢献できると期待しています。

抄訳

アルドステロン産生腺腫(APA)は、副腎の良性腫瘍であり、アルドステロンの過剰産生による二次性高血圧を引き起こします。APAの多くはKCNJ5遺伝子に変異を持ち、通常の高血圧と比べて様々な臓器の合併症が起こりやすい特徴がありますが、詳しい分子メカニズムは不明でした。本研究では、最新のマルチオミクス解析技術を用い、APAには4つの異なる腫瘍細胞集団(①ストレス応答性細胞、②アルドステロン産生細胞、③コルチゾール産生細胞、④間質様細胞)が存在することを発見しました。腫瘍細胞はストレス応答性細胞から、アルドステロン産生細胞あるいはコルチゾール産生細胞へと分化し、後者は増殖能力の高い間質様細胞に進展することを明らかにしました。腫瘍内には脂質関連マクロファージが多く存在し、コルチゾール産生細胞や間質様細胞との相互作用により、腫瘍のコルチゾール産生の増加や腫瘍増大に関連することが示唆されました。さらに、腫瘍内のコルチゾール産生が、血中コルチゾール濃度を上昇させ、それが椎体骨折の発症に関連することが明らかになりました。本研究により、複雑な細胞間相互作用を特徴とするAPAの多様な細胞生態系の分子メカニズムと臨床的意義が明らかになりました。

論文掲載ページへ

2025/03/06

Candida aurisにおいてTAC1b変異はCDR1の発現を上昇させ、manogepixへの感受性を低下させる

論文タイトル
TAC1b mutation in Candida auris decreases manogepix susceptibility owing to increased CDR1 expression
論文タイトル(訳)
Candida aurisにおいてTAC1b変異はCDR1の発現を上昇させ、manogepixへの感受性を低下させる
DOI
10.1128/aac.01508-24
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Vol.69 No.2
著者名(敬称略)
平山 達朗 他
所属
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 薬物治療学

抄訳

Candida aurisは、既存の抗真菌薬に対して高い耐性を示す新興の病原真菌である。一方、manogepix (MGX)はGPIアンカーの生合成を阻害することにより抗真菌活性を発揮する新規抗真菌薬であり、臨床応用が期待されている。C. aurisのMGX耐性機構を解析するため、C. aurisの臨床分離株をMGXに曝露し感受性株を作製した。低感受性株では薬剤排出ポンプCDR1の転写因子であるTAC1bのD865Nアミノ酸変異が確認された。CRISPR-Cas9システムを用いて、このアミノ酸変異を導入すると、D865N変異株は親株に比べて明らかにMGX感受性が低下し、CDR1の発現が上昇していた。さらに、CDR1欠損株を作製し、MGXに対する感受性が有意に上昇することを確認した。これらの結果より、C. aurisのTAC1b変異はCDR1の発現を上昇させ、MGXに対する感受性を低下させることが明らかとなった。

論文掲載ページへ

2025/03/05

小口径眼内レンズ(IC8)挿入眼に生じた裂孔原性網膜剥離に対し眼内視鏡併用硝子体手術を施行した一例

論文タイトル
Endoscope-assisted vitreous surgery for rhegmatogenous retinal detachment in a patient with a small-aperture IC-8 intraocular lens
論文タイトル(訳)
小口径眼内レンズ(IC8)挿入眼に生じた裂孔原性網膜剥離に対し眼内視鏡併用硝子体手術を施行した一例
DOI
10.1136/bcr-2024-260476
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
Vol. 17, No. 12 (2024)
著者名(敬称略)
吉岡 和樹 横山 翔 他
所属
独立行政法人 地域医療機能推進機構 中京病院 眼科    飯田市立病院 眼科
著者からのひと言
近年、眼内レンズの改良に伴い、白内障手術により老視の改善が期待できるようになっています。様々なレンズが挿入されていますが、網膜剥離のように後眼部の手術が必要となった際、個々のレンズを通してどのように後眼部が透見できるかの知見は十分に得られていません。今回、IC8眼内レンズ挿入眼の後眼部手術において、広角眼底観察システム下、内視鏡下での手術についての知見と、内視鏡下では眼内レンズの影響を受けず硝子体手術を完遂できる可能性が示唆されました。

抄訳

IC-8 眼内レンズが挿入された眼における裂孔原性網膜剥離の症例を報告する。IC-8はレンズ中央に3.23 mmの黒い不透明部と1.36 mmの開口部を備え、ピンホール技術により焦点深度を拡張している。老視の矯正効果を示す一方で、不透明なリングは後眼部の視覚化を妨げる可能性がある。最初に、Constellation Vision SystemとResight 700広視野角システムを使用して25ゲージ 3ポートの経毛様体扁平部硝子体切除術が行われた。しかし、レンズの不透明部の影響により網膜周辺部の視認性が低いため、その後の処置では眼内視鏡を使用した。眼内視鏡下で、網膜裂孔周囲の硝子体切除、周辺硝子体切除、網膜下液の排出、網膜光凝固術を完遂した。IC-8の不透明なリングは内視鏡観察を妨げなかった。この症例は、IC-8眼内レンズを使用した眼の硝子体手術の安全性と適応性の向上を強調し、困難な眼科手術における広角視野システムと内視鏡システムの両方の有効性を実証しています。

論文掲載ページへ

2025/03/05

クロロキン耐性トランスポーター遺伝子の欠失は、マウスマラリア原虫 Plasmodium berghei にピペラキン感受性の低下をもたらす

論文タイトル
Deletion of the chloroquine resistance transporter gene confers reduced piperaquine susceptibility to the rodent malaria parasite Plasmodium berghei
論文タイトル(訳)
クロロキン耐性トランスポーター遺伝子の欠失は、マウスマラリア原虫 Plasmodium berghei にピペラキン感受性の低下をもたらす
DOI
10.1128/aac.01589-24
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
平井 誠 他
所属
順天堂大学 医学部 熱帯医学・寄生虫病学講座
著者からのひと言
マラリア原虫は、生存に必須な遺伝子に非同義変異が生じることで薬剤耐性を獲得することが知られています。一方、本研究では、従来の常識とは異なり、必須ではない遺伝子の機能を完全に破壊することで原虫が薬剤耐性を獲得することを証明しました。この結果は、これまで知られていなかった新規の薬剤耐性機構の存在を示唆します。さらに研究を進めることで、耐性が生じにくい、より効果的なマラリア新薬の開発につながることが期待されます。

抄訳

マラリア原虫は遺伝的変化を通じて薬剤耐性を獲得するが、そのメカニズムは完全には解明されていない。薬剤耐性のメカニズムを解明するには、新たな遺伝学的ツールの開発が必要である。私たちは先行研究において、突然変異率が増加したマウスマラリア原虫 Plasmodium berghei mutator(PbMut)を開発し、抗マラリア薬ピペラキン(PPQ)耐性を示す変異体を単離した。そして、その原因としてクロロキン耐性トランスポーター(PbCRT)の N331I 変異を同定した。本研究では、新たに作成した PbMut から再び PPQ 耐性変異体を単離し、原因遺伝子変異としてPbCRTのアミノ酸119番にナンセンス変異を見出した。ヒト熱帯熱マラリア原虫 Plasmodium falciparum の PbCRT オルソログである PfCRT は、P. falciparum の生存に必須である。そこで、PbCRT の必須性を検討するため、野生型原虫から PbCRT 遺伝子を完全に欠失 [PbCRT(-)] させることに成功した。この結果から、PbCRT は P. berghei の生存に必須ではないことを初めて明らかにした。さらに、PbCRT(-) 原虫は PPQ 耐性を示すと同時に、マウスおよび蚊体内での生存適応度が低下することが確認された。本研究は、PbCRT の機能を完全に失うことによって P. berghei が PPQ 耐性を獲得し得ることを初めて証明したものである。

論文掲載ページへ

2025/02/26

CRISPR-Cas9を用いたアレル特異的な染色体切断によるトリソミー21細胞の核型正常化

論文タイトル
Trisomic rescue via allele-specific multiple chromosome cleavage using CRISPR-Cas9 in trisomy 21 cells
論文タイトル(訳)
CRISPR-Cas9を用いたアレル特異的な染色体切断によるトリソミー21細胞の核型正常化
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf022
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
橋詰 令太郎 他
所属
三重大学大学院医学系研究科修復再生病理学・三重大学病院ゲノム医療部

抄訳

ダウン症候群は、21番染色体の3番目のコピーが存在することによって引き起こされ、700出生に1人の割合で発症する。過剰染色体そのものを消去する治療法は現在ない。本研究では、CRISPR-Cas9システムを使用して、トリソミーのiPS細胞と皮膚線維芽細胞の両方において、過剰染色体を切断することにより標的染色体を細胞から消去できることを示した。染色体のDNA修復能力を抑制すると、標的染色体の除去率が上昇した。また、染色体の消去により遺伝子発現と細胞の表現型が可逆的に回復した。しかし、この技術では、標的染色体が消去されなかった場合、当該染色体に変異が導入される可能性がある。したがって、このアプローチをそのまま臨床応用することはできない。本研究は、あくまでも体外の細胞レベルでの概念実証研究である。一方で、過剰染色体を取り除くという発想と、その原理を提案できた意義があると思われる。

論文掲載ページへ

2025/02/26

急性肝障害の初期段階における層別化と急性肝不全への進展予測

論文タイトル
Stratifying and predicting progression to acute liver failure during the early phase of acute liver injury
論文タイトル(訳)
急性肝障害の初期段階における層別化と急性肝不全への進展予測
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf004
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
吉村 雷輝1, 田中 正剛2,3, 黒川 美穂2,3, 岩見 真吾1,4,5,6, 小川 佳宏2,3 他
所属
名古屋大学大学院 理学研究科理学専攻 異分野融合生物学研究室1
九州大学大学院 医学研究院 病態制御内科学2
九州大学病院 肝臓・膵臓・胆道内科3
九州大学マス・フォア・インダストリ研究所4
理化学研究所 数理創造プログラム5
京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点6

著者からのひと言
急性肝障害・急性肝不全の成因はウイルス性肝炎や薬物性肝障害など多岐にわたりますが、同じ成因でも臨床経過はまちまちです。従来の臨床研究的手法では既知の因子に基づいて分類するため、このような不均一な集団を未知の病態に基づいて分類することが困難でした。本研究では人工知能技術を用いた機械学習的アプローチにより、データ駆動型に後方視的解析を行うことにより治療反応性、ひいては病態を反映する分類を実現しました。このような臨床医学と数理科学の異分野融合的アプローチは、他の急性疾患の病態解明にも応用できる可能性があります。

抄訳

急性肝不全(ALF)は、急性肝障害(ALI)から進行する重篤な疾患であり、多くは多臓器不全から最終的には死に至る。現在、ALFの予後を改善できる治療は肝移植しかないが、ALIは非常に不均一な疾患であるため、どのALI患者がALFに進行し、肝移植を要するかを予測する定量的な指標が存在しなかった。本研究では、ALI 319例のデータを機械学習的アプローチにより後方視的に解析し、ALIの状態を反映するバイオマーカーとしてプロトロンビン時間活性率(PT%)を同定した。ALF患者における肝移植の必要性を予測する先行研究とは異なり、本研究ではPT%の動態に注目することにより、非常に不均一なALI患者を、臨床経過と予後が異なる6つのグループ、すなわち、自己終息群、内科集中治療反応群、内科集中治療不応群に層別化することができた。驚くべきことに、これらのグループは入院時に得られる臨床データによって高精度に予測可能であった。さらに、数理モデリングと機械学習により、個々のPT%動態が予測できる可能性が示された。この知見により、医療資源配分の最適化、個別化治療の早期導入が可能となり、ALF予後の改善が期待できる。

論文掲載ページへ

2025/02/26

子宮内膜細胞における亜鉛トランスポーターSlc39a10/Zip10は、マウスのプロゲステロン応答を介した妊娠の成立に必須である

論文タイトル
Endometrial zinc transporter Slc39a10/Zip10 is indispensable for progesterone responsiveness and successful pregnancy in mice
論文タイトル(訳)
子宮内膜細胞における亜鉛トランスポーターSlc39a10/Zip10は、マウスのプロゲステロン応答を介した妊娠の成立に必須である
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf047
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
川田 由以, 寺川 純平, 伊藤 潤哉 他
所属
麻布大学 獣医学部
著者からのひと言
今回、必須微量元素である亜鉛がマウス・ヒトに共通して子宮内膜の機能に必須な役割を持つことを明らかにすることができました。今後さらに研究を進め、ヒトの不妊症や不育症の予防・治療に役立てていきたいと考えています。

抄訳

亜鉛は、雌雄の生殖器系を含むさまざまな生物学的機能に重要な微量元素ですが、根底にある分子メカニズムは明らかにされていませんでした。今回我々は、子宮で亜鉛輸送体ZIP10を欠損したマウスを解析し、このマウスでは胚着床の初期反応は認められるものの、胚が子宮内膜に浸潤できず、結果として胎盤の形成が不完全となり、不妊(不育)を引き起こすことを明らかにしました。その原因として、子宮内膜細胞でZIP10が欠損すると、細胞内に亜鉛イオンが取り込まれず、妊娠の成立と維持に重要なプロゲステロンのシグナル伝達に異常をきたすことを明らかにしました。特に、亜鉛イオンはZinc Finger転写因子(GLI1)の核―細胞質間輸送を制御しており、そのメカニズムはマウスのみならずヒト子宮内膜細胞でも同様であることを確認しました。本研究の結果は、妊娠を望む女性での「亜鉛」の摂取が、妊娠しやすい体づくりに重要であることを分子レベルで示したものです。また、成人女性の多くは潜在的な亜鉛欠乏であるとする研究報告もあり、本研究は妊娠における亜鉛の重要性を改めて示しました。

論文掲載ページへ

2025/02/14

力学刺激を操作するゼブラフィッシュ心臓管腔内への磁気ビーズの留置法:メカノトランスダクション機構による心臓弁形成の解明にむけて

論文タイトル
Magnetic Bead Grafting in the Zebrafish Cardiac Lumen for Controlled Force Amplification: Unraveling Mechanotransduction in Heart Valve Development
論文タイトル(訳)
力学刺激を操作するゼブラフィッシュ心臓管腔内への磁気ビーズの留置法:メカノトランスダクション機構による心臓弁形成の解明にむけて
DOI
10.3791/202562-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (215), e67604
著者名(敬称略)
Christina Vagena-Pantoula, 福井 一 他
所属
徳島大学先端酵素学研究所 生体力学シグナル分野
著者からのひと言
本手法は筆者らが2021年に報告した論文(Fukui et al., Science:374, 351-354)で開発した手技について詳しく説明したものになります。私たちはゼブラフィッシュ心臓管腔に力学刺激を入力しましたが、本手法は他の動物種、組織、細胞など、さまざまな研究に応用できる可能性をもちます。ご不明点・ご相談などありましたら、ホームページよりお問い合わせ頂ければと思います。

抄訳

心臓の管腔では血流や血圧、拍動による伸展収縮といった力学刺激が継続的に生じる。これらの力学刺激は心臓弁や肉柱といった心臓管腔の機能的構造形成に必須の役割を果たす。しかしながら、力学刺激がどのように生体応答機構を調節するのか、直接的な関係性を示す知見は乏しい。我々はゼブラフィッシュ胚の心臓管腔内部に磁気ビーズを生きたまま留置し、心臓管腔に異所性の力学刺激を与える新たな手法を開発した。本論文では、実際の手順を記述し、動画をふまえて紹介する。この手法を施すことで、磁気ビーズは拍動・血流に応じて心臓管腔表面に触れ、離れ、管腔内の力学環境が異所的に変化する。また管腔内の磁気ビーズは、磁力によって胚外部から人為的に操作できる。これらから、力学刺激とそれに直接的に応じる生体応答(メカノトランスダクション)機構の解析、さらには心臓弁を含む心臓管腔の組織形成機構の理解をすすめることができる。

論文掲載ページへ