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国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2024/10/01

Znrf3エクソン2欠失マウスは先天性副腎低形成症を再現しない

論文タイトル
Znrf3 exon 2 deletion mice do not recapitulate congenital adrenal hypoplasia
論文タイトル(訳)
Znrf3エクソン2欠失マウスは先天性副腎低形成症を再現しない
DOI
10.1530/JME-24-0015
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Accepted Manuscripts JME-24-0015
著者名(敬称略)
内田登、長谷川奉延 他
所属
慶應義塾大学医学部 小児科学教室

抄訳

ZNRF3エクソン2欠失は先天性副腎低形成症の病因となる。本研究では遺伝子改変マウスを作成し、Znrf3エクソン2欠失(Δ2)が副腎皮質発生に及ぼす影響を検討した。ホモ接合性Znrf3エクソン2欠失(Znrf3Δ2/Δ2)マウスと同胞の野生型マウスを比較した。Znrf3Δ2/Δ2マウスの副腎は低形成を示さず、成長とともに腫大した。6週齢では、活性型β-カテニン陽性細胞数およびWnt/β-カテニン標的遺伝子Axin2 陽性細胞数が減少していた。血中ACTHおよびコルチコステロン濃度は変化していなかった。活性型β-カテニンおよびAxin2陽性細胞数の減少は、エクソン2を欠失したZnrf3がWnt/β-カテニンシグナル伝達を不活化することを示唆するが、Znrf3Δ2/Δ2マウスは先天性副腎低形成症を再現しなかった。ZNER3/Znrf3エクソン2欠失の副腎皮質発生に関する影響には種差があると考える。

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2024/10/01

頸部腫瘤の甲状腺癌転移スクリーニングにおける穿刺針洗浄液中サイログロブリンのカットオフ値について

論文タイトル
Cutoff value of thyroglobulin in needle aspirates for screening neck masses of thyroid carcinoma
論文タイトル(訳)
頸部腫瘤の甲状腺癌転移スクリーニングにおける穿刺針洗浄液中サイログロブリンのカットオフ値について
DOI
10.1530/ERC-24-0067
ジャーナル名
Endocrine-Related Cancer
巻号
Accepted Manuscripts ERC-24-0067
著者名(敬称略)
坂本 耕二 他
所属
日本医科大学付属病院 耳鼻咽喉科学教室

抄訳

穿刺吸引細胞診で用いた針の洗浄液中サイログロブリン測定(FNA-Tg)は甲状腺癌リンパ節転移の診断に有用であるが、そのカットオフ値は特に頸部腫瘤のスクリーニング検査において定まっていない。そのため当院で術前FNAC、FNA-Tg施行後病理検査を行った甲状腺外の頸部腫瘤病変を対象に後方視的研究を行った。210病変中57病変が甲状腺由来で、甲状腺由来病変ではFNA-Tg値が有意に高く(p:0.001)、ROC曲線で特異度100%となる最小のFNA-Tg値をカットオフとすると32.2ng/mlであった。甲状腺乳頭癌症例では、FNACよりもFNA-Tgの感度が高かった。今回のFNA-Tgのカットオフ値は、リンパ節以外の病変や甲状腺以外の転移リンパ節が比較的高値だったため、過去の報告より高くなった。FNA-Tgを頸部腫瘤のスクリーニング検査として用いるのであれば、より高いカットオフ値を設定する必要がある。

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2024/09/12

間質流の再現による多層化した小腸組織モデルの開発

論文タイトル
Construction of multilayered small intestine-like tissue by reproducing interstitial flow
論文タイトル(訳)
間質流の再現による多層化した小腸組織モデルの開発
DOI
10.1016/j.stem.2024.06.012
ジャーナル名
Cell Stem Cell
巻号
Volume 31, Issue 9
著者名(敬称略)
出口 清香、高山 和雄 他
所属
京都大学 iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門 高山研究室
著者からのひと言
本研究によって、間質流という力学刺激の臓器形成における重要性を見出すことができました。今後も、間質流のみならず、臓器構築に寄与する様々な力学刺激を探索したいと考えています。

抄訳

胎児期の小腸組織は、小腸の側底側に接続した血管から染み出す体液が形成する間質流に晒されている。そのため、発生を模倣しながらヒトES/iPS細胞から小腸組織を構築するためには、間質流を考慮した培養系が望ましい。本研究では、マイクロ流体デバイスを用いて間質流を再現した条件で、ヒトES/iPS細胞から小腸組織(マイクロ小腸システム)の構築を試みた。マイクロ小腸システムの小腸上皮細胞は、間質流に晒されることで発達した柔毛様構造を有する上皮層を構築し、その直下には間質層が整列していた。さらに、間質流を作用したマイクロ小腸システムは、小腸上皮細胞から分泌された粘液層を有していた。これらの結果から、マイクロ小腸システムは粘液層および上皮層、間質層から構成される、生体小腸に類似した多層構造を有することが分かった。また、マイクロ小腸システムは、薬物動態研究や腸管感染症研究に応用できることを確認した。今後、マイクロ小腸システムを普及させ、各種腸管疾患研究を加速したい。

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2024/09/12

転写因子Ikzf1はFoxp3と結合して制御性T細胞の遺伝子発現を抑制し、自己免疫応答および抗腫瘍免疫応答を制限する

論文タイトル
Transcription factor Ikzf1 associates with Foxp3 to repress gene expression in Treg cells and limit autoimmunity and anti-tumor immunity
論文タイトル(訳)
転写因子Ikzf1はFoxp3と結合して制御性T細胞の遺伝子発現を抑制し、自己免疫応答および抗腫瘍免疫応答を制限する
DOI
10.1016/j.immuni.2024.07.010
ジャーナル名
Immunity
巻号
Volume 57, Issue 9
著者名(敬称略)
市山 健司 他
所属
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター

抄訳

制御性T細胞(Treg)は免疫自己寛容の確立において中心的な役割を担う細胞である。Tregのマスター転写因子Foxp3は、他の転写因子や修飾酵素と相互作用することで複合体を形成し、特定の遺伝子発現を制御することが知られている。しかしながら、これら相互作用のTregにおける生理的意義はこれまで不明であった。今回我々は、転写因子Ikzf1が自身のexon 5領域(IkE5)を介してFoxp3と相互作用することを見出した。さらに、Treg特異的にIkE5を欠損させることでFoxp3とIkzf1の相互作用を阻害すると、TregはIFN-yの過剰産生を介した機能障害を示し、その結果として、致死性の自己免疫疾患の発症および強力な抗腫瘍免疫応答が引き起こされることが明らかとなった。以上の結果から、Ikzf1とFoxp3の相互作用はTregの機能維持に必須であり、今後、この相互作用を標的とした自己免疫疾患や癌に対する新たな治療法の開発に繋がることが期待される。

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2024/09/11

膵β細胞においてCREBはMafAプロモーターを近位のE-boxとCCAATモチーフを介して活性化する

論文タイトル
CREB activates the MafA promoter through proximal E-boxes and a CCAAT motif in pancreatic β-cells
論文タイトル(訳)
膵β細胞においてCREBはMafAプロモーターを近位のE-boxとCCAATモチーフを介して活性化する
DOI
10.1530/JME-24-0023
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Accepted Manuscripts JME-24-0023
著者名(敬称略)
會田 侑希 片岡 浩介
所属
横浜市立大学 生命医科学研究科 生体機能医科学研究室
著者からのひと言
本論文では、MafA遺伝子の転写制御を調べる中で、転写因子CREBが本来の結合配列CREに依存せずに転写を活性化することを見出し、報告しました。β細胞では、CREBはCREに加えてNF-Yにも依存するようで、そのような遺伝子としてIslet1やNkx6.1を見出しました。これらもβ細胞で重要な転写因子で、それらの発現がインクレチンによって制御される仕組みにアプローチできたと考えています。

抄訳

InsulinやGlut2遺伝子を標的とする転写因子MafAは、β細胞の機能に必須である。二型糖尿病に伴うβ細胞の機能不全は、MafAの発現低下によって起きると考えられている。一方、二型糖尿病の治療薬でもあるインクレチンは、転写因子CREBを活性化してMafAの発現上昇を促すが、その詳細は不明であった。ChIP-seqによるとCREBはMafA遺伝子の遠位β細胞エンハンサーとプロモーターの両方に結合していた。エンハンサーにはCREBの結合配列CREがあり、活性化に必須なことをレポーターアッセイで示した。一方でプロモーターにはCRE配列がなく、β細胞転写因子NeuroD1の結合配列E-boxとユビキタスな転写因子NF-Yの結合配列CCAATの両方が活性化に必要であった。ゲノム全体でもCREBはCCAAT配列の近傍に結合しており、NF-Yを介したDNAへのアクセスも重要なことが示唆された。

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2024/09/10

医療機関間での血清クレアチニン値乖離が単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)の診断に至った一例

論文タイトル
Discrepant serum creatinine concentrations caused by paraprotein interference preceding diagnosis of monoclonal gammopathy of undetermined significance
論文タイトル(訳)
医療機関間での血清クレアチニン値乖離が単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)の診断に至った一例
DOI
10.1136/bcr-2023-256242
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
Vol.17 Iss.4 (2024)
著者名(敬称略)
小原 幸、稲葉 亨、中田 徹男、的場 聖明
所属
京都薬科大学 病態薬科学系 - 臨床薬理学分野
著者からのひと言
クレアチニン値に乖離を認めたことより、精査の結果MGUSが診断された症例を経験しました。本ケースは自動検体測定装置からのアラート発出も無く、偽検査結果も極端な基準値からの逸脱でなかったことより、偽結果がそのまま患者本人に返却されました。臨床医は、血液検査結果に乖離を認めた際、本症例の様なパラプロテイン干渉による偽結果も念頭に置き、診療に携わる必要があると考えられました。

抄訳

かかりつけ医療機関と他医での健康診断の際の血清クレアチニン値に乖離が生じており、精査の結果パラプロテイン干渉による検査値異常が見いだされ、MGUSの診断に至った一例を経験した。 症例は70歳代男性。労作性狭心症等で内服薬による加療を受けていた。健康診断を別医療機関で受診し、クレアチニン高値 (1.75 mg/dL)により、腎機能障害を指摘された。かかりつけ医療機関でのクレアチニン値(0.87 mg/dL)と乖離が見られたため、臨床検査部、検査試薬企業検査部とともに精査をすすめた。患者同一検体を用いて、2医療機関で使用されたクレアチニン測定キットを含む複数のキットでの測定結果を、リファレンスとして測定した液体クロマトグラフィーによる結果と検証した。クレアチニン値の測定キットは全て酵素法であったが、検診時の採用キットのみ測定の第一過程で検査試薬添加時に検体の混濁が認められ、最終検査結果に影響を与えたと考えられた。パラプロテイン干渉が疑われ、Mタンパク血漿(monoclonal γgl 0.3 g/dL, IgG-λ)が認められ、MGUSと診断された。検査機関により、血液検査結果に乖離がある場合、パラプロテイン血症による偽結果も念頭におき診療する必要があると考えられる。

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2024/09/06

脳血管内治療における低線量モードButterfly CBCTの画質評価

論文タイトル
Image Quality Evaluation for Brain Soft Tissue in Neuro -endovascular Treatment by Dose-reduction Mode of Dual-axis “Butterfly” Scan
論文タイトル(訳)
脳血管内治療における低線量モードButterfly CBCTの画質評価
DOI
10.3174/ajnr.A8472
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
Accepted Manuscripts
著者名(敬称略)
細尾 久幸 他
所属
筑波大学附属病院 脳卒中科/筑波大学 医学医療系 脳卒中予防治療学講座
著者からのひと言
同一平面上のみならず垂直方向の振り子状の動きも加わった撮像法Butterfly CBCTは、従来のCBCTと比較し画質が向上した。本撮像法は、若干高線量であったため、今回線量低減モードを用いた。結果、線量が減ってもアーティファクト軽減、後頭部を除くコントラスト改善がみられた。これら結果から、例えば早期脳虚血性変化検出には通常モード、出血性合併症検出には70%線量、複数回治療や小児では50%線量を選択するなど、目的に応じた使い分けを提案する。

抄訳

【背景】脳血管内治療において出血性合併症を検出のため、Flat panel CBCTによるCT like imageの撮像は必須である。従来のCBCTと比較し、1軸平面に加え、垂直方向の振り子様の動きも加わったButterfly CBCTでは、画質が向上したが若干高線量だった。本研究では、線量を低減したButterfly CBCTの画質を評価した。【方法】予定脳血管内治療症例で、70%線量と50%線量Butterfly CBCTに振り分け、従来のCBCTと画質を比較した。【結果】20例ずつ計40例。従来のCBCTと比較し70%線量Butterflyではアーティファクト軽減、コントラストおよび皮髄境界識別能改善がみられた。50%線量ではアーティファクト軽減、後頭部を除くコントラスト軽減は認めたが、皮髄境界識別能は改善なかった。【結論】線量を低減しても、Butterfly CBCTの軌道により、アーチファクト軽減、コントラスト向上、皮髄境界識別能の改善を認めた。しかし、特に骨の干渉のある後頭部においては、コントラストや皮髄境界識別能に、線量低減の影響がみられた。

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2024/08/20

加齢造血幹細胞はSDHAF1を介したミトコンドリアATP産生によって代謝可塑性を獲得する

論文タイトル
SDHAF1 confers metabolic resilience to aging hematopoietic stem cells by promoting mitochondrial ATP production
論文タイトル(訳)
加齢造血幹細胞はSDHAF1を介したミトコンドリアATP産生によって代謝可塑性を獲得する
DOI
10.1016/j.stem.2024.04.023
ジャーナル名
Cell Stem Cell
巻号
Cell Stem Cell Volume 31 Issue 8
著者名(敬称略)
綿貫慎太郎、小林 央、田久保圭誉 他
所属
東北大学大学院医学系研究科、国立国際医療研究センター研究所
著者からのひと言
この論文の最初の着想は、加齢造血幹細胞が解糖系を欠失した状況でも生存可能という現象の発見でした。そこから足かけ6年以上かかりましたが、単一細胞ATP測定技術や少数細胞の同位体トレーサー解析など総力を結集して、当初のきっかけであった解糖系に留まらない加齢造血幹細胞の生存を優位にさせる代謝プログラムを明らかにし、幹細胞の老化の新たな一面を明らかにできたと考えています。

抄訳

幹細胞は加齢に伴って数と機能が低下すると一般に考えられていますが、血液を産生する造血幹細胞(HSC)は、加齢により数が増加するという一見矛盾する挙動を示します。本研究では、加齢マウスを用いた実験で、HSCが老化に伴い、通常であれば細胞死を招くような様々な代謝ストレスに対して耐性を持ち、生存優位性を獲得することを発見しました。さらに、加齢HSCでは、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体の活性を上昇させるSDHAF1が蓄積し、その結果、酸化的リン酸化によるATPの産生が増強され、代謝ストレスに対する耐性が向上することが判明しました。実際に、若齢HSCにSDHAF1を過剰発現させると、加齢HSCと同様の代謝特性や細胞死耐性が見られました。これらの研究結果から、加齢HSCは単なる機能低下した細胞ではなく、エネルギー代謝の観点から見ると“強い”HSCであることが明らかになりました。この知見に基づき、加齢に関連する血液異常を改善する新たな治療法の開発が期待されます。

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2024/08/16

細胞外の脂質代謝は線維芽細胞との相互作用を介してマスト細胞成熟とアナフィラキシー感受性を制御する

論文タイトル
Lipid-orchestrated paracrine circuit coordinates mast cell maturation and anaphylaxis through functional interaction with fibroblasts
論文タイトル(訳)
細胞外の脂質代謝は線維芽細胞との相互作用を介してマスト細胞成熟とアナフィラキシー感受性を制御する
DOI
10.1016/j.immuni.2024.06.012
ジャーナル名
Immunity
巻号
Volume 57 Issue 8
著者名(敬称略)
武富 芳隆, 村上 誠 他
所属
東京大学 大学院医学系研究科

抄訳

マスト細胞の成熟はアレルギー感受性と関連する。線維芽細胞のSCFとマスト細胞のSCF受容体(Kit)のシグナル伝達に加え、接着因子やIL-33などがマスト細胞成熟に関わることが示唆されてきたが、その分子機序は不明であった。脂質関連分子の欠損マウスの表現型スクリーニングを通じ、リン脂質分解酵素PLA2G3、PGD₂の合成酵素L-PGDSと受容体DP1、リゾリン脂質LPAの受容体LPA₁がマスト細胞成熟不全とアナフィラキシー低応答性を示すことを見出した。PLA2G3はマスト細胞から分泌され、細胞外小胞のリン脂質を分解し、線維芽細胞由来のLPA産生酵素ATXと協調してLPAを動員した。LPAは線維芽細胞のLPA₁受容体を活性化し、インテグリンによる細胞接着、IL-33シグナル、PGD₂-DP1受容体シグナル、ATX-LPA₁の発現を統括することにより、マスト細胞成熟を誘導した。このことから、本経路を標的とした創薬はマスト細胞が関連するアレルギー疾患の予防治療に有効であることが期待される。

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2024/08/13

放射光X線µCTを用いた非破壊・3次元可視化によるグラニュール汚泥の微生物・空隙分布の解明

論文タイトル
Nondestructive and three-dimensional visualization by identifying elements using synchrotron radiation microscale X-ray CT reveals microbial and cavity distributions in anaerobic granular sludge
論文タイトル(訳)
放射光X線µCTを用いた非破壊・3次元可視化によるグラニュール汚泥の微生物・空隙分布の解明
DOI
10.1128/aem.00563-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
浦崎 幹八郎 諸野 祐樹 久保田 健吾 他
所属
東北大学 大学院環境科学研究科
著者からのひと言
微生物は多様な環境に生息しています。その群集構造に影響を与える要因の一つが、周囲の物理的環境です。本研究では、従来のアプローチでは難しかったバイオフィルム中の微生物分布を、放射光X線μCTを用いて3次元的に非破壊検出することに成功しました。この技術では、約200nmのボクセルサイズにより個々の微生物細胞を識別可能で、微生物とその生息環境との関係解明に有用だと考えています。

抄訳

微生物とその周囲の生息環境の関係を理解するために、放射光X線µCTを利用した非破壊3次元微生物可視化法を開発した。全ての微生物細胞をオスミウム染色するためにオスミウム・チオカルボヒドラジド・オスミウム法を、特定の系統群の微生物を金標識するためにgold in situ hybridization法を、それぞれ採用した。染色したサンプルは、エポキシ樹脂に包埋しCT撮影を行った。L3吸収端前後の撮影画像を用いた減算法により、オスミウムと金のシグナルをそれぞれ可視化した。Escherichia coliとComamonas testosteroniの混合物を用いてプロトコルを最適化したところ、オスミウム染色した細胞は検出できたが、金標識した細胞は検出できなかった。次に、嫌気性グラニュール汚泥にも本技術を適用し、微生物細胞と細胞外高分子物質の分布を可視化した。その結果を基に汚泥中の空隙分布を可視化したところ、大きさの異なる多数の独立した空隙が確認された。開発した方法は、他の様々な環境サンプルにも適用可能である。

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2024/08/01

単純ヘルペスウイルス1型のICP22とFACTの相互作用がウイルス遺伝子発現および病原性に与える影響

論文タイトル
Impact of the interaction between herpes simplex virus 1 ICP22 and FACT on viral gene expression and pathogenesis
論文タイトル(訳)
単純ヘルペスウイルス1型のICP22とFACTの相互作用がウイルス遺伝子発現および病原性に与える影響
DOI
10.1128/jvi.00737-24
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
劉 少聰、丸鶴 雄平、川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
ICP22欠損ウイルスの表現型から、ICP22がHSV-1の効率的な遺伝子発現に必要であることは長く知られていましたが、その機能発現機構には不明な点が多く残されていました。この論文によりICP22とFACTの相互作用がHSV-1の遺伝子発現に貢献することが明らかになったことで、「ICP22はFACTの機能を制御し、HSV-1遺伝子の転写を促進する」という、ICP22の機能発現機構の一端を明らかにすることができました。

抄訳

Facilitates chromatin transcription(FACT)は、ヌクレオソームと相互作用し、RNAポリメラーゼII (pol II)の下流および上流でヌクレオソームの解離と再構成を制御することで転写を促進する。先行研究では、HSV-1(単純ヘルペスウイルス1型)タンパク質ICP22が感染細胞においてFACTと相互作用し、FACTをウイルスDNAにリクルートすることが報告されていたが、ウイルス生活環における両者の相互作用の意義は不明であった。本研究は、ICP22がFACTと効率的に相互作用する為に必要な最小ドメインとして、ICP22内の5つの塩基性アミノ酸から成るクラスターを同定した。この塩基性アミノ酸クラスターにアラニン置換変異を導入した組換えHSV-1は、感染細胞におけるUL54、 UL38、 及びUL44のmRNA量、ウイルスDNAにおけるpol II結合量、感染マウスの致死率が野生株と比較して有意に低下した。更に、FACT阻害剤であるCBL0137はHSV-1感染によるマウスの致死率を有意に低下させた。これらの結果は、ICP22とFACTの相互作用が効率的なHSV-1遺伝子発現と病原性に必要であり、FACTがHSV感染症の治療標的となることを示唆する。

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2024/07/31

白色か褐色か ―機械学習を使って木材腐朽菌を糖関連酵素の遺伝子数から分類してみた―

論文タイトル
Random forest machine-learning algorithm classifies white- and brown-rot fungi according to the number of the genes encoding Carbohydrate-Active enZyme families
論文タイトル(訳)
白色か褐色か ―機械学習を使って木材腐朽菌を糖関連酵素の遺伝子数から分類してみた―
DOI
10.1128/aem.00482-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol.90 No.7
著者名(敬称略)
長谷川 夏樹 五十嵐 圭日子 他
所属
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
著者からのひと言
木材腐朽菌(きのこ)は、地球上で最も強力な分解者であると言われていますが、あのように硬い木を、どのようにして常温常圧で分解するのかは未だに理解されていません。この仕組みが分かれば、木の成分から燃料やプラスチック等の様々な物質を作ることができるようになります。今回の研究ではAIを用いて、これまで人間の目では解析しきれなかったその仕組みに迫ることができたと考えています。

抄訳

一般的に「きのこ」と総称される糸状菌の大部分は「木材腐朽菌」と呼ばれる担子菌類に分類されますが、木材腐朽菌はさらに腐朽した後の木材の色の違いによって「白色腐朽菌」と「褐色腐朽菌」とに大別されます。白色腐朽菌は、木材の三大成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンを一様に分解するのに対して、褐色腐朽菌は主に多糖(セルロースとヘミセルロース)を選択的に分解することから、これまで両者の違いはリグニンの分解性の違いによって説明されてきました。そこで本研究では、232種類の木材腐朽菌ゲノムに含まれる11万4千の糖関連酵素遺伝子の数を、ランダムフォレストという機械学習アルゴリズムを用いて学習させ、それらの遺伝子数の違いが腐朽様式の違いに与える影響を調べました。その結果、糖加水分解酵素(GH)ファミリー7に属するセロビオヒドロラーゼ(Cel7)やリグニン分解酵素として代表的なAAファミリー2のペルオキシダーゼも両腐朽様式を見分けるために重要とされましたが、もっとも重要であったのがセルロースの表面を酸化して他のセルロース分解酵素の働きを助けるLPMOであることが分かりました。この発見は、昨今多糖の分解での機能が注目されてきたLPMOが、リグニンの分解にも関与している可能性を示唆するとともに、人間が見つけることができない両腐朽様式での違いを、機械学習で発見できることを明らかにしました。木材腐朽菌は地球上で唯一木材を単独で分解できる生き物であることから、このような生物種によって木の成分がどのように利用されているかを知ることで、より高度なバイオマスの利用法が期待できます。

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2024/07/12

ランダム行列の観点から解き明かす複雑な生態系における創発的ネットワーク不確定性

論文タイトル
Unraveling emergent network indeterminacy in complex ecosystems: A random matrix approach
論文タイトル(訳)
ランダム行列の観点から解き明かす複雑な生態系における創発的ネットワーク不確定性
DOI
10.1073/pnas.2322939121
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Vol. 121 No. 27
著者名(敬称略)
川津 一隆
所属
東北大学 大学院生命科学研究科
著者からのひと言
「風が吹けば桶屋が儲かる」は因果の連鎖が意外な結果を引き起こすことの例えとしてよく知られています。ですが、実生活でこのような体験が頻繁に起こることはないのではないでしょうか?本研究では「桶屋が儲かる」が事前に分かる条件、すなわち「どんなネットワークでどんな風が吹いたか」を理論的に明らかにしたもので、生態学のみならず人間社会全般でインパクトを与える結果になると考えています。

抄訳

第三者を介した間接的な相互作用は、「敵の敵は味方」のように、直接的な種間関係からは予期できない結果を引き起こす。特に、複雑なネットワークでは、膨大な数になる間接効果が撹乱の影響を予測困難にすると考えられてきた。しかしながら、このネットワーク不確定性がどのような生態系で生じるかについてはほとんど分かっていなかった。そこで著者はランダム行列理論と呼ばれる数学理論を応用し、多様な種間関係のバランスが不確定性を創発する鍵であることを世界で初めて明らかにした。具体的には、不確定性は上位捕食者が卓越する食物網で一般的なのに対し、従来の予測に反して競争/協力関係を多く擁する群集では起こりにくいことが分かった。本研究で提示した生態系応答の予測可能条件は、生物多様性保全に重要な示唆を与えるほか、結果から因果関係を推定するネットワーク同定の逆問題にも応用でき、医学などの他分野への貢献も期待される。

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2024/07/10

酵母Rim11キナーゼはリン脂質生合成遺伝子の転写量を制御することでグルタチオン誘導ストレスに応答する

論文タイトル
Yeast Rim11 kinase responds to glutathione-induced stress by regulating the transcription of phospholipid biosynthetic genes
論文タイトル(訳)
酵母Rim11キナーゼはリン脂質生合成遺伝子の転写量を制御することでグルタチオン誘導ストレスに応答する
DOI
10.1091/mbc.E23-03-0116
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 35, No. 1
著者名(敬称略)
安川 泰史 野田 陽一 他
所属
安川 泰史:三菱商事ライフサイエンス株式会社
野田 陽一:東京大学大学院 農学生命科学研究科・応用生命工学専攻
著者からのひと言
この論文は、代表的な抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の量が、細胞内で一定の範囲内で制御される仕組みの解明に迫るものです。出芽酵母を用いた類似の先行研究では、過剰量のGSHで還元ストレスと増殖遅延が引き起こされ、その後小胞体ストレス応答(UPR)によって増殖が回復することが報告されています(C. Kumar, 2011)。今回興味深いことに、Rim11がUPRとは別経路で機能することも分かりました。システイン化合物であるGSHを細胞がどのようにして「手なずけている」のか、このメカニズムの解明は、GSH高生産細胞の作出にも応用できると期待されます。

抄訳

グルタチオン(GSH)はγ-Glu-Cys-Glyで構成され、活性酸素種の消去や蛋白質の立体構造化に関与する。GSH欠乏の報告は多数存在する一方、高レベルのGSHに対する細胞生理学的研究は少ない。本研究では、S. cerevisiaeにGSH膜輸送体Hgt1経由で過剰量のGSHを細胞内に流入させ増殖遅延を誘導し(この状態をGSHストレスと定義する)、この遅延を抑圧する多コピーサプレッサーをゲノムワイドに探索した。その結果、糖飢餓応答因子として知られるリン酸化酵素RIM11が取得された。表現型解析の結果、RIM11が自己リン酸化活性を通じてGSHストレス応答で機能することを見出した。次にRNA-seq解析より、糖濃度の感知に関わるHXT1/2(低/高親和性ヘキソース輸送体)およびリン脂質生合成遺伝子の転写量が、Rim11活性に正に依存する知見を得た。さらにリピドミクス解析より、GSHストレス誘導によってホスファチジルコリン/セリン/エタノールアミンが減少し、ホスファチジルイノシトールは増加した。ここにRIM11を過剰発現させると、これらリン脂質が一様に増加に転じ、GSHストレスを抑圧する効果が見られた。しかし,RIM11 K68Aの過剰発現では、この効果は得られなかった。以上より我々は、Rim11が糖飢餓応答を活性化させ、GSHストレス誘導によるリン脂質構成の不均衡を部分的に解除することで、GSHストレスを減弱化させるモデルを提唱する。

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2024/07/10

頭蓋内動脈硬化性脳主幹動脈閉塞症に対する最適な治療手技

論文タイトル
Optimal endovascular therapy technique for isolated intracranial atherothrombotic stroke-related large vessel occlusion in the acute to subacute stage
論文タイトル(訳)
頭蓋内動脈硬化性脳主幹動脈閉塞症に対する最適な治療手技
DOI
10.3174/ajnr.A8399
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology July 2024
著者名(敬称略)
別府 幹也 内田 和孝 他
所属
別府 幹也:済生会野江病院
内田 和孝:兵庫医科大学 脳神経外科
著者からのひと言
現時点では、ICAD-LVOに対する最適な治療手技は確立していません。一方、機械的血栓回収のみでは、すぐに再閉塞をきたす症例を経験することもあります。本研究は、GP IIb/IIIa阻害薬が未承認である我が国においてのリアルワールドの結果を反映していると考えています。この研究結果が臨床医の一助になれば幸いです。

抄訳

背景と目的
欧米と比較し頻度の高い頭蓋内動脈硬化性脳主幹動脈閉塞症(ICAD-LVO)に対する血管内治療 (EVT)は、機械的血栓回収術 (MT)無効例が多く、開通しても早期再閉塞率が高いため、最適な治療手技は確立していない。本研究では、日本国内において、頭蓋内動脈硬化性脳主幹動脈閉塞症(ICAD-LVO)に対する最適な血管内治療 (EVT)検討した。
方法と対象
2017年1月から2019年12月の間、国内51施設で行われた多施設共同観察研究で、Tandem Groupを除く509例を対象とした。EVT治療手技を、MT単独 (MT-only)、経皮的血管形成術 (PTA)、ステント留置術 (Stent)の3群に分類した。EVT中に一度でもPTAを施行した群はPTA群、手技中にStentを留置した群はStent群に分類した。主要評価項目は、EVT後90日以内の治療血管の再閉塞、副次評価項目は治療直後の再開通率、90日後の転帰、90日以内の頭蓋内出血とした。
結果
MT-only群(207例)、PTA群(226例)、Stent群(76例)に分類し比較検討した。患者背景は心不全の既往や、M2閉塞はMT-only群で多く、VA閉塞は、Stent群で多かった 。抗血小板薬は、発症後、特に治療中に抗血小板薬を追加した症例がPTA群、Stent群で多かった。70%以上の残存狭窄は、MT-only群で多く、術中合併症は、PTA群、Stent群で多かった。主要評価項目である再閉塞は、MT-only群で多く、MT-only群に対するPTA群の調整ハザード比は0.48(95%信頼区間0.29–0.80)であった。また再閉塞患者の83.5%は、治療10日以内に再閉塞し、特に62%の患者は治療2日以内に再閉塞を認めた。副次評価項目である治療直後のTICI 2b以上の有効再開通率は、PTA群、Stent群で高く、90日後の転帰や頭蓋内出血は、3群間で有意差がなかった。
結語
ICAD-LVOに対するEVTにおいて、PTA群は有意に再閉塞率が低かった。GP IIb/IIIa阻害薬が未承認である我が国において、ICAD-LVOと診断した場合は、PTAが第一選択肢になり得る。また、再閉塞患者の62%は、2日以内に再閉塞するため、ICAD-LVOを疑えば、できるだけ早期に抗血小板薬を開始することが望まれる。

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2024/07/03

転位のない上腕骨遠位端骨折後の遅発性無腐性壊死

論文タイトル
Delayed avascular necrosis after non-displaced distal humerus fracture
論文タイトル(訳)
転位のない上腕骨遠位端骨折後の遅発性無腐性壊死
DOI
10.1136/bcr-2024-260607
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.17 Iss.6 (2024)
著者名(敬称略)
高木 岳彦
所属
国立成育医療研究センター 整形外科
著者からのひと言
上腕骨顆上骨折をはじめとする上腕骨遠位端骨折後では転位がほとんどないにもかかわらず、疼痛を伴う上腕骨遠位の無腐性壊死が受傷後数年で発生することがあり注意が必要です。転位がなくても関節包の拡張に伴う遠位骨片の圧迫により血液供給が障害されることで、成長段階で骨化が始まる時期に疼痛を伴う壊死が発生するとされていますが、壊死による激痛があっても、時間の経過とともに痛みが徐々に軽減するため、経過観察で十分な場合があります。

抄訳

転位がほとんどないにもかかわらず上腕骨顆上骨折後数年の経過で誘因なく疼痛が生じ、上腕骨遠位の無腐性壊死が認められた症例を経験したので、その臨床的特徴について述べる。
本症例は6歳頃にすべり台から転落し、上腕骨顆上骨折をきたしたが転位がほとんどないため、3週間の外固定ののち可動域訓練を開始し、受傷後3ヵ月で疼痛、可動域制限なくフォロー終了となった。ところが約5年後に外傷歴がないにも関わらず肘の激痛が生じ、単純X線像やMRIにて、上腕骨遠位の中央部分に不整像を認め、経過と共にfish-tail変形と呼ばれる円形の欠損像がみられるようになった。徐々に疼痛は軽減し、発症から約3年半で可動域制限、疼痛は消失し現在に至っている。
転位のない上腕骨遠位端骨折でも関節包の拡張に伴う遠位骨片の圧迫により血液供給が障害され、成長期に骨化が始まると疼痛を伴う壊死を生じることがあるので注意が必要である。

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2024/07/01

VAMP5はマクロファージおけるFcγ受容体依存性ファゴサイトーシスを促進し、形成されたファゴソームの成熟反応を制御する

論文タイトル
VAMP5 promotes Fcγ receptor-mediated phagocytosis and regulates phagosome maturation in macrophages
論文タイトル(訳)
VAMP5はマクロファージおけるFcγ受容体依存性ファゴサイトーシスを促進し、形成されたファゴソームの成熟反応を制御する
DOI
10.1091/mbc.E23-04-0149
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 35, No. 3
著者名(敬称略)
櫻井 千恵 初沢 清隆 他
所属
鳥取大学 医学部 生命科学科 分子生物学分野
著者からのひと言
本論文は、細胞膜に局在するSNAREタンパク質の1つVAMP5が、Fcγ受容体依存性ファゴサイトーシスの制御を担うことを初めて示したものです。具体的には、VAMP5はファゴソーム形成を促進するだけでなく、ファゴソームからの速やかな解離によってファゴソーム成熟を制御すること、また、この解離はVAMP5の特定アミノ酸配列およびクラスリンとダイナミンの活性依存的に起こることを明らかにした論文です。

抄訳

細胞膜局在のSNAP23(synaptosomal-associated protein of 23 kDa)は膜融合装置SNAREタンパク質の一つであり、Fcγ受容体依存性ファゴサイトーシスに機能する。一方、細胞膜局在SNAREタンパク質であるVAMP5(vesicle-associated membrane protein 5)は、SNAP23との相互作用は知られているがファゴサイトーシスにおける機能は不明である。 本研究では、VAMP5を過剰発現あるいは発現抑制したマクロファージの解析から①VAMP5はファゴソーム形成に機能すること、また、②VAMP5とSNAP23はともに形成されたファゴソームに局在化するが、SNAP23とは異なりVAMP5は早い段階でファゴソームから解離することを見出した。また、③このVAMP5の解離はクラスリンとダイナミンの活性依存的であり、④VAMP5の解離阻害はSNAP23の立体構造に影響を与えファゴソーム成熟化が遅延することがわかった。 以上から、VAMP5を介するメンブレントラフィック機構が、自然免疫の最前線のファゴサイトーシス反応の厳密な制御に寄与することが明らかになった。

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2024/07/01

ロタウイルスワクチン導入を経た50年間の世界のWa-like G1/G3ロタウイルス分子進化の概要:1974-2020

論文タイトル
Whole-genome analysis of human group A rotaviruses in 1980s Japan and evolutionary assessment of global Wa-like strains across half a century
論文タイトル(訳)
ロタウイルスワクチン導入を経た50年間の世界のWa-like G1/G3ロタウイルス分子進化の概要:1974-2020
DOI
10.1099/jgv.0.001998
ジャーナル名
Journal of General Virology
巻号
Journal of General Virology Volume 105, Issue 6
著者名(敬称略)
福田 裕也 他
所属
札幌医科大学 医学部 小児科学講座
著者からのひと言
ロタウイルスワクチンが普及したことによりロタウイルス胃腸炎患者は激減しました。しかし、我々のようにワクチン導入前後約50年という長い期間で世界中のロタウイルス全11遺伝子分節の分子進化を検討した報告はありません。本論文ではロタウイルスワクチンの普及がWa-likeロタウイルスの分子進化に影響を与えているという確たる証拠を提示することはできませんでしたが、世界中の2010年代以降の株が一つの系統に収束する傾向にあるという興味深い結果が得られました。ロタウイルスがワクチンから逃避しようとした結果を反映している可能性はあり、今後もロタウイルス陽性検体の解析を地道に続けていくことで明らかになるかもしれません。

抄訳

2006年に世界でロタウイルス(RV)ワクチンが導入される以前、Wa-like株はヒトでの胃腸炎流行の主要な遺伝子型であったが、RVワクチンの普及により、それ以外の遺伝子型の流行も見られるようになった。RVワクチンの導入を経たRVの分子進化を理解するためには、現在および過去の株のゲノム情報を併せて評価する必要がある。我々は、1981-1989年に札幌乳児院で見られた6つのWa-like RVの流行で採取された便検体の全ゲノム解析を行い、それらのゲノム情報を含めて1974-2020年の世界のWa-like RVの分子疫学的検討を行った。系統樹解析では、2000年代までの株が複数の系統に分かれた一方、2010年代以降の株はRVワクチン株とは異なる一つの系統に収束する傾向にあることがわかった。VP7 (G1), VP4 (P[8])タンパクにおいて、主な2010年代の株の属する系統は、既知の中和エピトープにRVワクチン株とは異なるアミノ酸を特異的に有していた。しかし,Bayesian Skyline plotでの有効個体数は1970-2020年の間ほぼ一定で、RVワクチン導入前後で大きな変化はなく、ワクチン導入がWa-like RVの分子進化に影響を与えているという証拠は得られなかった。2022年時点で世界のRVワクチン接種率は51%程度であり、RVワクチン導入による影響を評価するには,より長期の分子疫学的検討が必要である。

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2024/07/01

単純ヘルペスウイルス1型の孤児遺伝子UL31.6にコードされる新規神経病原性因子の同定

論文タイトル
Identification of a novel neurovirulence factor encoded by the cryptic orphan gene UL31.6 of herpes simplex virus 1
論文タイトル(訳)
単純ヘルペスウイルス1型の孤児遺伝子UL31.6にコードされる新規神経病原性因子の同定
DOI
10.1128/jvi.00747-24
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
加藤 哲久, 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門
著者からのひと言
 本研究は、DNAウイルス研究のプロトタイプであるHSV-1でさえ、病態発現を司るHSV-1遺伝子の全容は未解明であることを示しています。HSV-1病態発現機構を包括的に理解するためには、最先端オミックス解析による新規HSV-1遺伝子の包括的な解読だけでなく、今後も個々の新規HSV-1遺伝子に対して、労力を要する伝統的な性状解析を、着実に継続していく必要があると我々は信じ、研究を継続しております。

抄訳

 近年、最先端オミックス解析により、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)がコードする新規遺伝子が多数報告されている。しかしながら、一連の新規遺伝子の生物学的意義は、ほぼ不明であり、孤児遺伝子として放置されていた。本研究では、新規遺伝子UL31.6に着目し、UL31.6欠損は、(i) 3種類の神経系細胞におけるHSV-1プラーク形成能を有意に減少させたが、4種類の非神経細胞では影響しないこと、(ii) 頭蓋内感染マウスの死亡率および脳内における子孫ウイルス量を有意に減少させたが、眼球およびその周辺の病態発現や涙液に検出される子孫ウイルス量にはほぼ影響しないこと、を明らかとした。一連の結果より、UL31.6は、おそらく中枢神経系組織において神経細胞間のHSV-1感染を促進することで、特異的に神経病原性因子として機能することが示唆された。孤児遺伝子UL31.6がHSV-1の病態発現を司るという本知見を鑑みると、従来ジャンクとして放置されてきた孤児遺伝子も、様々な生物学的意義を有している可能性が考えられる。

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2024/06/26

SoloはPDZ-RhoGEFの細胞内局在と活性を制御することで、基質の硬さに応じたアクチン骨格の再構築に寄与する

論文タイトル
Solo regulates the localization and activity of PDZ-RhoGEF for actin cytoskeletal remodeling in response to substrate stiffness
論文タイトル(訳)
SoloはPDZ-RhoGEFの細胞内局在と活性を制御することで、基質の硬さに応じたアクチン骨格の再構築に寄与する
DOI
10.1091/mbc.E23-11-0421
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 35, No. 6
著者名(敬称略)
國富 葵 大橋 一正 他
所属
東北大学大学院 生命科学研究科 分子細胞生物分野 大橋研究室

抄訳

細胞は機械刺激を感知すると、アクチン骨格を適切に再構築することで多様な力学的環境に適応する。我々はこれまで、機械刺激応答に関与するRhoGEF(低分子量Gタンパク質Rhoの活性化因子)としてSoloを見出し、その機能解析を進めてきた。今回、Soloの相互作用タンパク質を網羅的に探索し、同じRhoAのGEFであるPDZ-RhoGEF(PRG)を特定し、PRGがSoloの下流で働くことを明らかにした。PRGは、Solo依存的に細胞基底部のSolo集積箇所に局在が誘導され、Soloとの結合で直接GEF活性が活性化し、その結果、Solo集積箇所のアクチン重合が促進することが示された。さらに、この相互作用は細胞が接着する基質の硬さに応じたストレスファイバー形成を行うために必要であることを明らかにした。本研究により、基質の硬さに応じたアクチン骨格の再構築に寄与する新規のRhoGEFカスケードの存在が明らかになった。

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