抄訳
細胞内のタンパク質は N 末端アミノ酸に依存して N-degron(N-end rule)経路によって分解される。出芽酵母では、 N-degron 経路の一つである Arg/N-degron 経路が転写抑制因子の分解を介してジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子の発現を制御している。しかし、糸状菌における N-degron 経路についての情報はほとんどなく、真菌の窒素代謝における N-degron 経路の役割は明らかになっていない。本論文では、Arg/N-degron 経路に必須な E3 ユビキチンリガーゼ(UbrA)が麹菌のペプチダーゼ遺伝子発現を制御していることを示した。まず、ユビキチン融合 GFP をレポーターとして用いて、Arg/N-degron 経路が麹菌と出芽酵母で類似していることを明らかにした。麹菌の ubrA を破壊するとジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子だけでなく、主要なペプチダーゼ遺伝子やジペプチドおよびトリペプチドを切り出すペプチダーゼ遺伝子の発現量も減少した。このことから、UbrA がジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子だけでなく、その取り込み基質の生成に関与するペプチダーゼ遺伝子の発現も同時に制御していることが示された。