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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/08/18

基質とは別の膜リン脂質PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用が電位依存性ホスファターゼVSPの電気化学カップリングを制御する New

論文タイトル
Nonsubstrate PI(4,5)P2 interacts with the interdomain linker to control electrochemical coupling in voltage-sensing phosphatase (VSP)
論文タイトル(訳)
基質とは別の膜リン脂質PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用が電位依存性ホスファターゼVSPの電気化学カップリングを制御する
DOI
10.1073/pnas.2500651122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.31
著者名(敬称略)
水谷夏希 岡村 康司 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科/生命機能研究科統合生理学教室
著者からのひと言
VSPは海産無脊椎動物のホヤのゲノム情報を契機に2005年に発見された分子で、精子における生理機能は明らかにされてきたものの、およそ1週間を要する精子の成熟過程を通して適切な強さの酵素機能をどのように持続させているのかは大きな謎のままでした。今回見つかったVSPの制御機構は長年解けなかった謎の答えであり、これによって精子の動態の理解が進むことや男性不妊の治療法開発に貢献できることが期待されます。

抄訳

古くから、全ての生物は電気信号(細胞膜の電位変化)を巧みに利用して複雑な生命現象を実現させていることが知られてきました。電位依存性ホスファターゼVSPはこの電気信号を膜リン脂質PI(4,5)P2の脱リン酸化酵素反応に変換するユニークな分子であり、マウスを用いた研究から精子の運動制御に重要な役割を果たしていることが報告されてきましたが、VSPの機能を適切に調節するメカニズムは未解明でした。本研究では、蛍光を発する人工アミノ酸の一種であるAnapを用いたvoltage clamp fluorometry実験と分子動力学シミュレーションを組み合わせ、PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用によってVSPの機能が制御されることを明らかにしました。さらに、VSPが脱リン酸化する「基質の」PI(4,5)P2の影響を排除できる変異体においても同様の相互作用が観察されたことから、「基質とは別の」PI(4,5)P2による機能制御メカニズムの存在が示されました。

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2025/08/18

計算科学と実験手法を用いたヒト免疫グロブリンGの糖鎖に依存した構造動態変化の探査 New

論文タイトル
Exploring glycoform-dependent dynamic modulations in human immunoglobulin G via computational and experimental approaches
論文タイトル(訳)
計算科学と実験手法を用いたヒト免疫グロブリンGの糖鎖に依存した構造動態変化の探査
DOI
10.1073/pnas.2505473122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.32
著者名(敬称略)
谷中 冴子 加藤 晃一 他
所属
自然科学研究機構 生命創成探究センター
著者からのひと言
抗体は医薬品として広く使われており、そのはたらきを左右する糖鎖の役割が注目されています。本研究では、糖鎖の端に生じるわずかな変化が、まるで人体の“経絡”のように抗体分子の内部を伝わり、離れた部位の構造や結合性に影響を及ぼす様子を可視化しました。こうした遠隔的な制御機構の理解は、抗体医薬の設計に新たな視点をもたらします。

抄訳

ヒトIgG1抗体のFc領域に結合する糖鎖は、抗体の構造と機能に深く関与しています。本研究では、糖鎖構造の違い(ガラクトース付加とフコース除去)がFc領域の動的構造に与える影響を、安定同位体標識NMR分光法と分子動力学シミュレーションを組み合わせて解析しました。ガラクトースは糖鎖をCH2ドメインに固定する「錨」として、またドメインの動きを制限する「楔」として働き、Fc全体の柔軟性を低下させることで、Fcγ受容体(FcγR)や補体C1qとの結合を促進することが示されました。一方、フコースの除去はFcγRIIIaとの結合部位に局所的な動的構造変化をもたらします。これらの糖鎖修飾は異なる機構でありながら相乗的に抗体のエフェクター機能を高めることが明らかとなり、抗体医薬品の合理的設計に向けた重要な知見を提供します。

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2025/08/12

宿主真菌集団における持続的RNAウイルスのプラスミド様動態

論文タイトル
Plasmid-like dynamics of persistent RNA viruses in the host fungal population
論文タイトル(訳)
宿主真菌集団における持続的RNAウイルスのプラスミド様動態
DOI
10.1128/jvi.00582-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
千葉 悠斗 浦山 俊一 他
所属
国立大学法人 筑波大学 微生物サステイナビリティ研究センター[MiCS]
著者からのひと言
プラスミドのような生き方をしているRNAウイルスの話をすると、「それはRNAウイルスなの?」という質問をよく頂きます。この問いを持つと、「RNAウイルスって何だっけ?」という、それまで“当然”と思っていたものに意識が向きます。世界観の変質をお楽しみいただける論文です。

抄訳

ウイルスは感染を拡大させる侵略者としてのイメージが強いが、全てのウイルスがそのような戦略を取っているわけではない。本研究でモデルとして利用したRNAウイルスは、宿主微生物(糸状菌)と共存し続ける戦略を有している。つまり、宿主の細胞内で大人しく暮らしており、細胞を食い破って外に出てまた新しい細胞に感染することを止めた生き方をしている。このようなRNAウイルスが、どのようなメカニズムで長きにわたり宿主集団中で維持されてきたのか、本研究ではそのメカニズムに実験的に迫った。結果、以前から想定されていた通り、ウイルスの伝播・脱離+宿主の適応度変化の総和が重要であることが明らかとなった。面白いことに、このメカニズムはプラスミドが細菌集団内で維持されてきた機構と類似しており、そのRNAウイルスの存在意義を考えるうえで重要な知見になると期待される。

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2025/08/08

日本の農地土壌から分離したKitasatospora sp. CMC57とStreptomyces sp. CMC78の全ゲノム配列

論文タイトル
Whole-genome sequences of Kitasatospora sp. CMC57 and Streptomyces sp. CMC78 isolated from Japanese agricultural soil
論文タイトル(訳)
日本の農地土壌から分離したKitasatospora sp. CMC57とStreptomyces sp. CMC78の全ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.00900-24
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
橋本 知義, 正田 岳志, 西澤 智康 他
所属
茨城大学農学部
片倉コープアグリ株式会社

抄訳

日本の農地(灰色低地土)から分離培養したキタサトスポラ(Kitasatospora)属放線菌CMC57株とストレプトマイセス(Streptomyces)属放線菌CMC78株の各ゲノムをロングリード用のOxford Nanopore Technologies(PromethION)とショートリード用のMGI Tech(DNBSEQ-G400)を用いてシーケンシングした。得られたショートリードとロングリードの遺伝情報を用いたハイブリッドアセンブリ法でほぼ完全なゲノム配列を決定し、それぞれのゲノム配列情報を報告した。 

 

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2025/08/07

サメ・エイ類は独自の性決定機構を備えた脊椎動物最古の性染色体を持つ

論文タイトル
Sharks and rays have the oldest vertebrate sex chromosome with unique sex determination mechanisms
論文タイトル(訳)
サメ・エイ類は独自の性決定機構を備えた脊椎動物最古の性染色体を持つ
DOI
10.1073/pnas.2513676122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.30
著者名(敬称略)
丹羽 大樹 工樂 樹洋 他
所属
国立遺伝学研究所分子生命史研究室
著者からのひと言
胚試料の組織学的観察に基づく性決定時期の見極めや、染色体構成に迫るエピゲノム情報解析、そしてY染色体の同定に繋がる細胞遺伝学的実験技術等を結集することにより、分子の研究が大きく遅れがちな軟骨魚類について、ゲノム配列の取得を超えて性決定のメカニズムの理解に近づくことができた。

抄訳

性は多くの生物が持っていますが、それを決める仕組みは同じではありません。私たちヒトを含む脊椎動物は遺伝的要因や胚発生時の温度など環境要因に頼った多様な性決定の仕組みを持っていますが、それがどのように進化してきたのかは大きな謎の一つです。サメやエイを含む軟骨魚類は、脊椎動物の他の系統とは深く隔たれ独自の進化を遂げてきた仲間ですが、他の系統とは対照的に軟骨魚類の性を決める仕組みはほとんど調べられていませんでした。総合研究大学院大学 大学院生の丹羽大樹、国立遺伝学研究所 分子生命史研究室の工樂樹洋教授(理化学研究所生命機能科学研究センター 客員研究員)、徳島大学大学院社会産業理工学研究部の宇野好宣准教授、沖縄美ら島財団総合研究センターの中村將参与、東京大学大気海洋研究所の髙木亙助教、および複数の水族館から成る研究グループは、軟骨魚類のゲノム配列の比較により、サメ・エイ類のX染色体が共通の遺伝子セットを保持し、Y染色体が大半の遺伝子を失っていること、そして、それらの性染色体が約3億年もの長い間保持されてきた可能性が高いことを明らかにしました。X染色体には雌雄での本数の差を埋め合わせる遺伝子量補償の仕組みが働いておらず、それこそがサメ・エイ類の性の決定に重要である可能性が示されました。本研究は、サメ・エイ類では他の脊椎動物とは異なる仕組みで性が決まっていることを示すものであり、性の成り立ちについてのこれまでの研究に一石を投じる成果です。

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2025/08/07

意識障害で受診した両側視床梗塞

論文タイトル
Bilateral thalamic infarctions presenting with disturbance of consciousness
論文タイトル(訳)
意識障害で受診した両側視床梗塞
DOI
10.1136/bcr-2025-265295
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Volume 18, Issue 7
著者名(敬称略)
(筆頭)江副優彦 (連絡)多胡 雅毅 
所属
佐賀大学医学部附属病院 総合診療部

抄訳

認知症のない、高血圧と慢性腎臓病を有する80代男性が、急性の意識障害で受診した。患者に偏食とアルコール多飲の既往はなかった。来院時は、GCS E1V2M5、体温 35.5℃、神経学的所見に異常は認められなかった。血液検査でも意識障害の原因となるような所見はなかった。
頭部MRI検査のDWIで両側視床にわずかに高信号を認めたが、FLAIRでの信号変化はなく、ADCマップとT2強調画像では低信号だった。1か月後の頭部MRIでは、DWIでの信号変化は認めず、ADCマップ、T2強調画像、およびFLAIR画像で両側視床に高信号域を認め、両側視床梗塞と確定診断した。
脳梗塞は通常片側性であるが、視床は解剖学的な特徴から両側性に梗塞を起こしうる。その多くは、後大脳動脈のP1セグメントから分岐し、両方の傍正中視床を灌流するペルシュロン動脈に起因する。意識障害を呈する両側視床梗塞をみた場合、本疾患を鑑別に挙げ、早期診断と治療介入を考慮する必要がある。

 

 

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2025/08/05

植物の気孔を閉鎖させるイオンチャネルの機能解析

論文タイトル
Structure reveals a regulation mechanism of plant outward-rectifying K+ channel GORK by structural rearrangements in the CNBD–Ankyrin bridge
論文タイトル(訳)
植物の気孔を閉鎖させるイオンチャネルの機能解析
DOI
10.1073/pnas.2500070122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.30
著者名(敬称略)
山梨太郎 魚住信之 他
所属
東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻

抄訳

植物は,気孔の開閉を通じて水分の蒸散を調節し,乾燥や病原菌などの環境ストレスに応答して気孔は閉鎖します.この時,孔辺細胞の細胞膜に存在するGORKチャネル(K⁺チャネル)が活性化し,孔辺細胞内のK⁺濃度が低下します.本論文では,GORKのpre-open状態およびclosed状態の分子構造を決定し,電気生理測定と円二色性解析を用いて,細胞質側C末領域の「環状ヌクレオチド結合ドメイン直後のCNBD–Ankyrin bridge」がGORKの活性化および不活化状態の制御に関与していることを明らかにしました.さらに,CNBD–Ankyrin bridge 内のセリン残基の(脱)リン酸化によるC末構造領域の構造変化を介して,GORKのK⁺チャネル活性が制御されていることを示しました.

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2025/07/31

楽観的な人たちは“同じように”思い描く:エピソード的未来思考における共有された神経表象

論文タイトル
Optimistic people are all alike: Shared neural representations supporting episodic future thinking among optimistic individuals
論文タイトル(訳)
楽観的な人たちは“同じように”思い描く:エピソード的未来思考における共有された神経表象
DOI
10.1073/pnas.2511101122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.30
著者名(敬称略)
柳澤邦昭 他
所属
神戸大学大学院人文学研究科

抄訳

楽観主義とは、未来に対して肯定的な期待を抱く傾向であり、心身の健康や社会的つながりにポジティブな影響を与える心理的資源とされている。本研究では、2つのfMRI実験を通じて、楽観性の高さが未来を思い描く際の脳の働きにどのように関与するかを検討した。参加者に、感情価の異なる未来の出来事を、自分自身または配偶者の身に起こることとして想像してもらい、その際の脳活動を計測した。その結果、楽観性の高い人同士は内側前頭前野(MPFC)において類似した神経活動パターンを示す一方で、楽観性の低い人はより多様なパターンを示すことが明らかになった。さらに、MPFCの活動パターンに着目した分析から、楽観的な人ほどポジティブとネガティブな出来事を明確に区別して想像する傾向が示唆された。これらの結果は、楽観性の心理的・社会的適応の背景に、共通した認知構造が存在する可能性を示しており、楽観性の神経基盤に関する新たな理解につながる知見である。

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2025/07/31

サイトカラシンDによるアクチン重合阻害と切断の分子機構:TIRF顕微鏡と結晶構造解析による解明

論文タイトル
Microscopic and structural observations of actin filament capping and severing by cytochalasin D
論文タイトル(訳)
サイトカラシンDによるアクチン重合阻害と切断の分子機構:TIRF顕微鏡と結晶構造解析による解明
DOI
10.1073/pnas.2502164122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.29
著者名(敬称略)
三谷隆大 藤原郁子 武田修一 他
所属
長岡技術科学大学 大学院工学研究科 物質生物系
著者からのひと言
長年の疑問だった「サイトカラシンDがどうやってアクチンの伸び縮みを止めているのか」を、世界で初めて分子レベルで明らかにできました。1本のアクチン線維をリアルタイムに観察し、原子分解能で構造変化を捉えられたのは非常に感慨深く、今後の薬剤開発や基礎研究に役立つことを期待しています。

抄訳

サイトカラシンDはアクチンフィラメント(線維)の重合を阻害する薬剤として広く使われていますが、その作用機構は分子レベルでは未解明でした。本研究では、TIRF顕微鏡、結晶構造解析、分子動力学シミュレーションを組み合わせて、サイトカラシンDの濃度に応じた3段階の作用を明らかにしました。低濃度では線維中の2本のプロトフィラメントの一方に結合する“ゆるい”キャップとして作用します。中濃度では2分子が強固に結合して線維端を安定化させ、高濃度では線維を切断します。1.7Å分解能で捉えた構造変化は、アクチン制御における適切な薬剤使用への指針となる知見を提供します。

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2025/07/31

日本の臨床分離NAGビブリオ株のゲノム解析事例

論文タイトル
Genomic insights into clinical non-O1/non-O139 Vibrio cholerae isolates in Japan
論文タイトル(訳)
日本の臨床分離NAGビブリオ株のゲノム解析事例
DOI
10.1128/spectrum.00175-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum 2025 Jun 24:e0017525.
著者名(敬称略)
小林 洋平 鈴木 仁人 柴山 恵吾 柴田 伸一郎 他
所属
名古屋市衛生研究所微生物部
著者からのひと言
本研究では、日本国内で報告されたNAGビブリオ感染事例に対し、地方衛生研究所が主体となって起因株のゲノム解析を行い、感染源が複数存在する可能性を示唆するとともに、病原性関連遺伝子の特徴を明らかにしました。こうした事例について得られた知見を発信していくことは、公衆衛生の現場から社会への貢献につながる重要な取り組みです。

抄訳

Non-O1/O139型コレラ菌(NAGビブリオ)は、腸管感染症や敗血症などを引き起こす病原細菌であり、近年は地球温暖化などの影響によって環境中での増殖が促進され、感染拡大への懸念が高まっています。一方で、国内におけるNAGビブリオ感染症は感染症法に基づく病原体サーベイランスの対象外であり、臨床分離株の分子疫学情報は限られていました。本研究では、2020年に名古屋市で報告された3例のNAGビブリオ感染症に由来するコレラ菌株についてゲノム解析を行い、世界各地で過去に報告された臨床分離株との比較解析を実施しました。系統解析の結果、3株は遺伝的に多様であり、短期間に複数の汚染源から散発的に発生した可能性が示唆されました。さらに、細菌毒素、付着因子、III型およびVI型分泌機構関連遺伝子など病原性関連遺伝子の多様性などを明らかにしました。本研究は、日本におけるNAGビブリオ感染事例起因株の分子疫学的特徴を明らかにし、今後の感染症対策や監視体制の構築に資する重要な知見を提供するものです。

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