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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/02/14

力学刺激を操作するゼブラフィッシュ心臓管腔内への磁気ビーズの留置法:メカノトランスダクション機構による心臓弁形成の解明にむけて New

論文タイトル
Magnetic Bead Grafting in the Zebrafish Cardiac Lumen for Controlled Force Amplification: Unraveling Mechanotransduction in Heart Valve Development
論文タイトル(訳)
力学刺激を操作するゼブラフィッシュ心臓管腔内への磁気ビーズの留置法:メカノトランスダクション機構による心臓弁形成の解明にむけて
DOI
10.3791/202562-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (215), e67604
著者名(敬称略)
Christina Vagena-Pantoula, 福井 一 他
所属
徳島大学先端酵素学研究所 生体力学シグナル分野
著者からのひと言
本手法は筆者らが2021年に報告した論文(Fukui et al., Science:374, 351-354)で開発した手技について詳しく説明したものになります。私たちはゼブラフィッシュ心臓管腔に力学刺激を入力しましたが、本手法は他の動物種、組織、細胞など、さまざまな研究に応用できる可能性をもちます。ご不明点・ご相談などありましたら、ホームページよりお問い合わせ頂ければと思います。

抄訳

心臓の管腔では血流や血圧、拍動による伸展収縮といった力学刺激が継続的に生じる。これらの力学刺激は心臓弁や肉柱といった心臓管腔の機能的構造形成に必須の役割を果たす。しかしながら、力学刺激がどのように生体応答機構を調節するのか、直接的な関係性を示す知見は乏しい。我々はゼブラフィッシュ胚の心臓管腔内部に磁気ビーズを生きたまま留置し、心臓管腔に異所性の力学刺激を与える新たな手法を開発した。本論文では、実際の手順を記述し、動画をふまえて紹介する。この手法を施すことで、磁気ビーズは拍動・血流に応じて心臓管腔表面に触れ、離れ、管腔内の力学環境が異所的に変化する。また管腔内の磁気ビーズは、磁力によって胚外部から人為的に操作できる。これらから、力学刺激とそれに直接的に応じる生体応答(メカノトランスダクション)機構の解析、さらには心臓弁を含む心臓管腔の組織形成機構の理解をすすめることができる。

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2025/01/30

晩期発症の小児慢性涙腺炎;COVID19感染症との病理学的解析

論文タイトル
Late onset paediatric dacryoadenitis associated with SARS-CoV-2 confirmed by histological analysis
論文タイトル(訳)
晩期発症の小児慢性涙腺炎;COVID19感染症との病理学的解析
DOI
10.1136/bcr-2023-257615
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
Vol. 17, No.12 (2024)
著者名(敬称略)
横山 宏司
所属
日本赤十字社 和歌山医療センター 小児科
著者からのひと言
COVID19感染症パンデミックを最初に警鐘を鳴らしたのは中国の眼科臨床医でした。私は小児科臨床医です。全身臓器を診療対象とする子どもの総合医として、日々向き合っています。今回の症例のように患者さんの一つ一つの症状・兆候を大切し新規の知見を積み重ねていきたいと思います。

抄訳

本論文は小児慢性涙腺炎とCOVID19感染症の関連を解析した報告になります。涙腺炎、あるいは眼窩部の腫大とCOVD19感染症の関連について、初めて評価したのが共著者の加瀬 諭先生でした。今回我々は小児例の解析・報告を行いました。加瀬先生が報告された成人症例はステロイド全身投与を必要としましたが、本症例はステロイド点眼薬のみで改善しており、病理学的にも炎症像は軽症でした。一般的にもCOVID19感染症において成人と比して小児例は軽症が多く、その機序ははっきりしていません。今回の解析で小児COVID19感染症がなぜ涙腺炎を引き起こすのか、成人と比して軽症なのかについて一助となると考えています。

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2025/01/29

RNA グアニン四重鎖は神経病理学的なαシヌクレイン凝集を促進する足場を形成する

論文タイトル
RNA G-quadruplexes form scaffolds that promote neuropathological α-synuclein aggregation
論文タイトル(訳)
RNA グアニン四重鎖は神経病理学的なαシヌクレイン凝集を促進する足場を形成する
DOI
10.1016/j.cell.2024.09.037
ジャーナル名
Cell
巻号
Volume 187, Issue 24
著者名(敬称略)
松尾 和哉、塩田 倫史、矢吹 悌 他
所属
熊本大学 発生医学研究所 ゲノム神経学分野
著者からのひと言
本研究では、RNAグアニン四重鎖がαシヌクレイン凝集のキーファクターであり、孤発性シヌクレイノパチー発症に寄与することを示しました。私たちの研究室では、RNAグアニン四重鎖が遺伝性神経変性疾患である脆弱X症候群関連疾患 (FXTAS) の病原タンパク質である FMRpolyG 凝集 (Sci Adv. 2021. doi: 10.1126/sciadv.abd9440.) やアルツハイマー病に寄与する Tau 凝集 (J Biol Chem. 2024. doi: 10.1016/j.jbc.2024.107971.) に寄与することを明らかにしています。これらの結果は、RNAグアニン四重鎖が多くの神経変性疾患発症に寄与する可能性を示唆しています。

抄訳

αシヌクレインの凝集はパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などのシヌクレイノパチーと呼ばれる進行性の神経変性を引き起こす。しかしながら、神経細胞内におけるαシヌクレイン凝集のメカニズムは依然として不明である。本研究では、RNAグアニン四重鎖がαシヌクレイン凝集の足場を形成し、神経変性に誘導することを明らかにした。αシヌクレインは、N末端を通してRNAグアニン四重鎖と特異的に直接結合した。Ca2+によってRNAグアニン四重鎖の液-液相分離が促進し、αシヌクレインのゾル-ゲル相転移が促進された。αシヌクレイン凝集シーズである pre-formed fibrilを処置した培養神経細胞では、過剰な細胞質へのCa2+流入を介して、シナプス関連タンパク質をコードするmRNA上で形成されるRNAグアニン四重鎖とαシヌクレインが共凝集することで、シナプス機能障害が誘導された。光遺伝学的手法を用いて人工的にRNAグアニン四重鎖の会合を神経細胞内で誘導すると、αシヌクレインが凝集し、神経機能障害と神経変性が引き起こされた。グアニン四重鎖に作用する薬剤は、RNAグアニン四重鎖の液相分離による会合を防ぎ、それによってαシヌクレイン凝集を抑制し、シヌクレイノパチーモデルマウスにおける神経変性を抑制した。すなわち、Ca2+流入によって誘導されるRNA グアニン四重鎖の会合は、αシヌクレイン相転移による凝集体化を促進し、シヌクレインパチー発症に寄与することが示された。

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2025/01/27

トリプトファン選択的脂肪鎖修飾型GLP-1ペプチドのGLP-1受容体に対する影響

論文タイトル
Effects of tryptophan-selective lipidated GLP-1 peptides on the GLP-1 receptor
論文タイトル(訳)
トリプトファン選択的脂肪鎖修飾型GLP-1ペプチドのGLP-1受容体に対する影響
DOI
10.1530/JOE-24-0026
ジャーナル名
Journal of Endocrinology
巻号
Accepted Manuscripts JOE-24-0026
著者名(敬称略)
Xuejing Lu 原田 範雄 他
所属
福井大学 学術研究院 医学系部門 内分泌・代謝内科学分野
京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学

抄訳

glucagon-like peptide-1 (GLP-1)は、食欲抑制作用およびインスリン分泌促進作用に加えて、食欲抑制など様々な作用を介して、血糖値と体重を低下させる。GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドやセマグルチドは、半減期を延長させるための26残基目リジン残基の脂肪酸修飾に、34番目リジン残基の置換操作を要する。一方で、トリプトファンはGLP-1ペプチドにおいて31残基目にのみ存在しており、脂肪酸結合の過程が比較的容易である。本研究ではトリプトファンにパルミチン酸(C16) を付加したGLP-1ペプチド2種類 [A (C16+miniPEG×1), B (C16+ miniPEG×3)]を合成し、in vitroとin vivoでのGLP-1受容体への影響を検討した。AとBはリラグルチド (L)と同等のcAMP産生能とインスリン分泌能を有した。マウスへのAとBとLの投与は、PBS (P)と比較してブドウ糖摂取後の血糖値低下とインスリン値上昇、消化管運動能の低下を認めた。AはLと同等の摂餌量低下を認めたが、PとB投与では認めなかった。LとAとBは、視床下部弓状核内c-FOS発現量増加、6週間投与後の体重減少を認めたが、Bの効果はLやAと比較して軽度であった。新規GLP-1ペプチドはLと同等の血糖低下と、胃排出抑制作用を有した。一方で付加したminiPEG数により食欲、体重への影響が異なることが示された。

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2025/01/17

レム睡眠に重要な役割を果たす脳幹神経回路の同定と、パーキンソン病におけるその回路の異常

論文タイトル
A pontine-medullary loop crucial for REM sleep and its deficit in Parkinson’s disease
論文タイトル(訳)
レム睡眠に重要な役割を果たす脳幹神経回路の同定と、パーキンソン病におけるその回路の異常
DOI
10.1016/j.cell.2024.08.046
ジャーナル名
Cell
巻号
Volume 187, Issue 22
著者名(敬称略)
林 悠、柏木 光昭 他
所属
東京大学, 大学院理学系研究科 生物科学専攻 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構

抄訳

ヒトは睡眠中、レム睡眠とノンレム睡眠という異なる2つのステージを交互に繰り返す。レム睡眠は、鮮明な夢をしばしば伴うことから、一般社会でも注目されてきたが、レム睡眠がどのような仕組みで生じるのかは大きな謎であった。 また、最近の疫学研究によると、レム睡眠の異常はさまざまな疾患や心身の不調の前兆であることも明らかとなってきた。特に近年、パーキンソン病の前駆症状として、レム睡眠行動障害が注目されている。レム睡眠行動障害では、レム睡眠中に本来起こるはずの筋脱力に異常が生じた結果、夢の内容を反映した発声や体動が出現する。パーキンソン病では、レム睡眠行動障害に加え多くの患者で疾患が進むにつれてレム睡眠そのものが失われていく。しかしながら、その原因となる神経メカニズムもまたわかっていなかった。 今回、私たちはマウスを用いて世界で初めてレム睡眠に中枢的な役割を果たす脳幹の神経回路を明らかにした。また、同定した神経回路を構成する特定の神経細胞群が、レム睡眠行動障害を伴うヒトのパーキンソン病患者の死後脳において特異的に脱落していることも発見し、レム睡眠行動障害の原因の一端を明らかにした。

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2025/01/14

マウスにおける動脈内薬剤投与のための総頸動脈の剥離と内頸動脈内注射

論文タイトル
Common Carotid Artery Isolation and Intracarotid Injection for Intraarterial Delivery in Mice
論文タイトル(訳)
マウスにおける動脈内薬剤投与のための総頸動脈の剥離と内頸動脈内注射
DOI
10.3791/201638-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (205), e66303
著者名(敬称略)
Daniel Ledbetter 清水 勇三郎 他
所属
順天堂大学医学部付属順天堂医院 脳神経外科

抄訳

悪性脳腫瘍に対する経動脈的薬剤投与法の開発のため、マウスモデルを使用した頸動脈内注射法が行われてきた。従来法は、薬剤を総頸動脈(CCA)に穿刺注入したあとCCAを結紮するため、頸動脈注射は1回だけに制限されていた。本研究では、CCAを穿刺後に修復し、その後の再注射を可能にする方法を開発した。注射の際には、外頸動脈に縫合糸を巻き付けた後に針をCCAに挿入し注入することで、治療薬は内頸動脈に送達される。CCA内注射の後に注射部位を縫合修復することで、CCA内の血流を回復させ、一部のマウスモデルで観察される脳虚血の合併症を回避することができる。また、頸動脈内注射による骨髄由来ヒト間葉系幹細胞(BM-hMSCs)の投与の実験で、注射部位修復の有無による頭蓋内腫瘍への投与効果を比較した。BM-hMSCsの投与は、いずれの方法でも有意な差は認めなかった。その結果、CCAの注射部位を修復することで、同じ動脈から繰り返し注射を行うことが可能となり、注入物質の分布や到達に影響を及ぼさないことが示された。これにより、柔軟性のあるモデルが提供され、ヒトにおける頸動脈内注射をより正確に再現することが可能となった。

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2024/12/25

ネオセルフは全身性エリテマトーデスにおける自己応答性T細胞の主要な標的抗原である

論文タイトル
Neoself-antigens are the primary target for autoreactive T cells in human lupus
論文タイトル(訳)
ネオセルフは全身性エリテマトーデスにおける自己応答性T細胞の主要な標的抗原である
DOI
10.1016/j.cell.2024.08.025
ジャーナル名
Cell
巻号
Volume 187, Issue 21
著者名(敬称略)
筆頭著者:森 俊輔、連絡著者:荒瀬 尚
所属
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫化学研究室
著者からのひと言
従来の免疫学における基本概念では、T細胞が自己(セルフ)と病原体などの異物(ノンセルフ)を識別することとされてきました。しかし、この考え方だけでは、自己に対する免疫応答である自己免疫疾患を十分に説明することはできません。この論文は、T細胞がセルフと異常な自己抗原であるネオセルフを識別し、ネオセルフに対する免疫応答が自己免疫疾患の引き金となることを明らかにしました。この研究により、長年謎であった自己免疫疾患の病態が解明されるとともに、T細胞の新しい認識機構が発見されました。

抄訳

MHCクラスII(MHC-II)は全身性エリテマトーデス(SLE)の疾患感受性における最も強力な遺伝的要因であるが、どのような自己抗原がMHC-II分子に提示され自己免疫疾患の標的となるかは不明である。インバリアント鎖は、MHC-IIのペプチド抗原提示に必須の分子であるが、インバリアント鎖非存在下ではネオセルフと総称される異常な自己抗原がMHC-II上に提示される。我々は、ネオセルフがSLEでクローン増殖した自己応答性T細胞の主要な標的抗原であることを発見した。成熟マウスにおいてインバリアント鎖を低下させネオセルフの提示を誘導すると、ネオセルフ反応性T細胞が増殖し、ループス様の自己免疫疾患を発症した。さらに、SLE患者でもネオセルフ反応性T細胞が有意に増殖していることが判明した。高頻度のEBウイルス再活性化はSLEの環境的危険因子であることが報告されている。SLE患者の自己応答性T細胞は、EBウイルス再活性化によりインバリアント鎖が低下し提示されたネオセルフに反応し活性化された。これらの結果は、MHC-IIによるネオセルフ提示がSLEの発症に重要な役割を果たしていることを示している。

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2024/12/17

ヒツジ受胎産物は妊娠14–15日目にリン脂質分解阻害遺伝子を発現し、IFNT経路と相互作用する

論文タイトル
Ovine conceptuses express phospholipase inhibitory genes on days 14-15 of pregnancy, interacting with IFNT pathways
論文タイトル(訳)
ヒツジ受胎産物は妊娠14–15日目にリン脂質分解阻害遺伝子を発現し、IFNT経路と相互作用する
DOI
10.1530/REP-24-0286
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Accepted Manuscripts REP-24-0286
著者名(敬称略)
松野 雄太 今川 和彦 他
所属
東海大学 総合農学研究所
著者からのひと言
本研究では、ヒツジ受胎産物において着床前の時期特異的に高発現する未知遺伝子の中から、分泌型のリン脂質分解阻害活性ドメインを有する遺伝子を発見しました。リン脂質は着床制御に重要なプロスタグランジン類の産生経路です。今後、本研究で同定したリン脂質分解阻害遺伝子と子宮内のプロスタグランジンの産生制御との関連性を探っていきたいと考えています。

抄訳

本研究は、ヒツジの受胎産物と子宮内膜の相互作用に関与する新規分泌タンパク質の特定を目的とした。妊娠12、14、15、16、17、19、20、21 日目のヒツジ受胎産物のRNAシーケンスデータを解析し、発現量が高いが機能が解明されていない遺伝子に着目し、in silicoによるタンパク質機能解析を実施した。その結果、妊娠14-15日目にリン脂質分解阻害タンパク質をコードする遺伝子が高発現することを同定した。この遺伝子の組換えタンパク質を作製し、ウシ子宮内膜細胞の初代培養系とRNAシーケンス解析を用い、リン脂質分解阻害タンパク質が子宮内膜に及ぼす影響を解析した。その結果、インターフェロンタウ関連経路の遺伝子発現に影響を及ぼした。これらの結果から、これまで多数同定された因子に加えて、リン脂質分解阻害タンパク質が受胎産物と子宮内膜間の相互作用に関わる新たな候補分子であることが示唆された。

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2024/12/16

ボルボックスの走光性における位置に依存した体細胞の役割

論文タイトル
Position-dependent roles of somatic cells in phototaxis of Volvox
論文タイトル(訳)
ボルボックスの走光性における位置に依存した体細胞の役割
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae444
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 10
著者名(敬称略)
原田 啓吾、村山 能宏 他
所属
東京農工大学工学部生体医用システム工学科

抄訳

緑藻の一種であるボルボックスは明るい方へ移動する正の走光性を示します。ボルボックスには細胞間の複雑な情報伝達機構は備わっておらず、個体の走光性は「暗から明の照度変化に対する鞭毛運動の一時停止」という個々の細胞のシンプルな応答により実現されています。さらに、ボルボックスは周囲の明るさに応じて走光性の感度を変えることができます。しかし、この感度調節機構が体細胞に備わっている機構であるのか、細胞集合体として個体に現れる性質なのかは定かでありませんでした。本論文では、感度調節機構が細胞に備わる性質であることを明らかにするとともに、感度の高い細胞を前方に、低い細胞を後方に配置させることで、個体の動きの巧妙な制御を実現している可能性があることを示しました。本研究で発見された位置に依存した細胞の性質の違いは、細胞の機能分化と多細胞化の関係や、細胞数に応じた生物の生存戦略という観点からも興味深い結果といえます。また、単純な機構で高度な機能が創発するしくみは、マイクロロボットや自動制御システムの開発への応用が期待されます。

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2024/12/16

環境フィードバックを考慮した進化ゲーム理論の完全な分類

論文タイトル
A complete classification of evolutionary games with environmental feedback
論文タイトル(訳)
環境フィードバックを考慮した進化ゲーム理論の完全な分類
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae455
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 11
著者名(敬称略)
伊東 啓、山道 真人
所属
長崎大学 熱帯医学研究所 環境医学部門 国際保健学分野
所属
国立遺伝学研究所
著者からのひと言
環境保全や天然資源の持続可能な管理、抗菌薬の過剰使用と病原体の薬剤耐性化、感染症の拡散とワクチン接種行動など、個々人の行動によって人々を取り巻く環境が変化し、環境の変化によって個人の行動がさらに影響されるような環境フィードバックが、今まさに起こっています。この研究が、環境と人間の行動が相互に影響を与え合う状況の理解に役立ち、両者を望ましい方向へ導くための土台となると期待しています。

抄訳

個人が自身の利益を追求する合理的な行動によって共有資源が枯渇する現象は「コモンズの悲劇」と呼ばれ、ゲーム理論における重要な研究テーマとなっている。コモンズの悲劇を理解するために、個人の行動が環境中の資源量を変え、その資源量の変化が個人の利益に影響する「フィードバック進化ゲーム」の枠組みが最近提唱されたが、資源が豊富な状況において、非協力者が常に増加する「囚人のジレンマ」ゲームにのみ焦点が当てられていた。本研究では、囚人のジレンマ以外の3つのゲーム(チキン・スタッグハント・トリビアル)を含む動態を解析し、完全な分類を行った。さらに、ジレンマ位相平面を用いてゲーム構造の変化を明らかにした。その結果、多様な初期値依存性(双安定性)が生じること、チキン・スタッグハントゲームが周期的な振動を引き起こすことを明らかにした。本研究は、環境フィードバックを含むゲーム理論をさらに拡張していく上で重要なステップとなる。

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