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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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日本人論文紹介:一覧

2025/10/16

麹菌において Arg/N-degron 経路に必須なユビキチンリガーゼ UbrA はペプチダーゼ遺伝子発現に寄与する New

論文タイトル
Contribution of UbrA, a ubiquitin ligase essential for Arg/N-degron pathway, to peptidase gene expression in Aspergillus oryzae
論文タイトル(訳)
麹菌において Arg/N-degron 経路に必須なユビキチンリガーゼ UbrA はペプチダーゼ遺伝子発現に寄与する
DOI
10.1128/aem.00813-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
室町 和花 田中 瑞己 他
所属
東京農工大学大学院 農学研究院 応用生命化学部門
著者からのひと言
麹菌は120個以上のペプチダーゼ遺伝子を有しており、多くのペプチダーゼが発酵産業や食品産業をはじめとする様々な産業分野で利用されています。しかし、その遺伝子発現制御機構は非常に複雑であり、ほとんど解明されていません。本研究では、糸状菌において初めて Arg/N-degron 経路を詳細に解析し、Arg/N-degron 経路に必須なユビキチンリガーゼがペプチダーゼ遺伝子の発現制御に関与していることを明らかにしました。本研究をきっかけに、糸状菌ではこれまで注目されてこなかった Arg/N-degron 経路の代謝や細胞機能の制御における重要性が明らかになると期待されます。

抄訳

細胞内のタンパク質は N 末端アミノ酸に依存して N-degron(N-end rule)経路によって分解される。出芽酵母では、 N-degron 経路の一つである Arg/N-degron 経路が転写抑制因子の分解を介してジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子の発現を制御している。しかし、糸状菌における N-degron 経路についての情報はほとんどなく、真菌の窒素代謝における N-degron 経路の役割は明らかになっていない。本論文では、Arg/N-degron 経路に必須な E3 ユビキチンリガーゼ(UbrA)が麹菌のペプチダーゼ遺伝子発現を制御していることを示した。まず、ユビキチン融合 GFP をレポーターとして用いて、Arg/N-degron 経路が麹菌と出芽酵母で類似していることを明らかにした。麹菌の ubrA を破壊するとジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子だけでなく、主要なペプチダーゼ遺伝子やジペプチドおよびトリペプチドを切り出すペプチダーゼ遺伝子の発現量も減少した。このことから、UbrA がジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子だけでなく、その取り込み基質の生成に関与するペプチダーゼ遺伝子の発現も同時に制御していることが示された。

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2025/10/16

エボラウイルスとマールブルクウイルスのヌクレオカプシド形成に共通するターゲットを発見—新たな抗ウイルス薬開発の可能性 New

論文タイトル
Molecular insights into nucleocapsid assembly and transport in Marburg and Ebola viruses
論文タイトル(訳)
エボラウイルスとマールブルクウイルスのヌクレオカプシド形成に共通するターゲットを発見—新たな抗ウイルス薬開発の可能性
DOI
10.1128/mbio.01557-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
高松 由基 他
所属
長崎大学 熱帯医学研究所 ウイルス学分野
著者からのひと言
先進のライブセルイメージング顕微鏡解析により、エボラウイルスとマールブルクウイルスの共通するヌクレオカプシド形成メカニズムの一端を解明しました。特に、両ウイルスのヌクレオカプシドに会合するウイルスタンパク質VP30の共通モチーフを明らかにしたことで、このモチーフを標的とした新たな治療薬の開発が期待されます。

抄訳

エボラウイルス(EBOV)およびマールブルクウイルス(MARV)はフィロウイルス科に属し、ヒトを含む霊長類に致死的な出血熱を引き起こします。近年も中央アフリカや西アフリカでアウトブレイクを起こしていますが、これらウイルスに対する治療法は十分に整備されていません。
フィロウイルスのヌクレオカプシドは螺旋状のゲノムRNA-ウイルスタンパク質複合体で、ゲノムRNAの転写・複製を担います。本研究では、先進のライブセルイメージング技術を用いて、EBOVとMARVのヌクレオカプシド形成に関わる分子機構を解明しました。転写制御因子として知られるウイルスタンパク質VP30は、両ウイルス間で入れ替えてもヌクレオカプシドとともに機能し、転写・複製活性を発揮することがわかりました。
また、両ウイルスのNPタンパク質のC末端に存在するPPxPxYモチーフが、NP-VP30間の相互作用に不可欠であること、さらにVP30のヌクレオカプシドへの会合にも重要であることを明らかにしました。このモチーフはフィロウイルスで保存されているため、新たな抗ウイルス薬開発の標的となることが示唆されます。
本研究成果は、フィロウイルスのヌクレオカプシド形成機構の理解を深める重要な知見となるとともに、フィロウイルス感染症の新たな治療戦略の開発に寄与するものとなります。

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2025/10/16

日本産イチゴから単離された真のPseudomonas fluorescensPseudomonas fluorescens sensu stricto)のドラフトゲノム解析 New

論文タイトル
Draft genome sequences of two strains of Pseudomonas fluorescens sensu stricto isolated from strawberry in Japan
論文タイトル(訳)
日本産イチゴから単離された真のPseudomonas fluorescensPseudomonas fluorescens sensu stricto)のドラフトゲノム解析
DOI
10.1128/mra.00620-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 10
著者名(敬称略)
諸星 知広 他
所属
宇都宮大学工学部基盤工学科生物工学研究室
著者からのひと言
Pseudomonas fluorescensは非常に有名な細菌ですが、これまでに報告されたP. fluorescens菌株をゲノムレベルで解析すると、真のP. fluorescensに分類される菌株は1割にも満たないという事実が明らかになりました。P. fluorescensは、環境中ではありふれた細菌と考えられてきましたが、実はかなりマイナーな存在であるということがこの研究から明らかになりました。

抄訳

Pseudomonas fluorescensは、世界中で様々な研究に利用されている細菌である。2025年6月現在、約200株のP. fluorescensのゲノム配列がRefSeqデータベースに登録されているが、平均ヌクレオチド同一性(ANI)で真のP. fluorescensP. fluorescens sensu stricto)と同定された株はわずか9株であり、世界中で利用されてきたP. fluorescensの大部分がP. fluorescens sensu strictoではないことを意味している。本研究では、日本産イチゴから単離されたP. fluorescens sensu stricto の候補であるMAFF 301597株及びMAFF 301598株のドラフトゲノム配列を取得し、P. fluorescens ATCC 13525基準株とのANIを計算したところ、同種と判断できる閾値(95%)を大幅に上回ったため、P. fluorescens sensu strictoに分類できることが実証された。

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2025/10/16

結晶材料中のスピンと軌道がもつれ合う4f電子の可視化 New

論文タイトル
Visualization of spin–orbit-entangled 4f electrons in crystalline materials
論文タイトル(訳)
結晶材料中のスピンと軌道がもつれ合う4f電子の可視化
DOI
10.1073/pnas.2500251122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.41 e2500251122
著者名(敬称略)
鬼頭 俊介 他
所属
東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻物質系専攻 物性・光科学講座 有馬・徳永研究室
著者からのひと言
物質中における価電子の分布は物性を決める「設計図」のようなものです。今回の研究において、4f電子を直接観測できるようになったことは、磁石や蛍光体の高性能化、量子コンピュータやスピントロニクス素子の開発など、次世代技術の基盤に大きなインパクトを与える成果です。

抄訳

ランタノイドにおける4f電子の異方的な空間分布は、磁性から量子現象に至るまで、さまざまな材料特性を支配する上で重要な役割を担っている。しかし、その顕著な異方性と微弱な信号ゆえに、4f電子の可視化は長らく大きな課題とされてきた。本研究では、高エネルギーX線回折と独自に開発した価電子密度解析を組み合わせた革新的アプローチを導入することで、パイロクロア酸化物中における4f電子分布の直接観測を実現した。この成果は、4f電子の本質的な性質を明らかにするだけでなく、幅広い物質系における4f電子の役割を探求する新たな道を開き、材料科学の革新へとつながるものである。

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2025/10/15

ヒトヘルペスウイルス6BのU65タンパク質はヒストンと結合し、インターフェロン産生を抑制する New

論文タイトル
Human herpesvirus 6B U65 binds to histone proteins and suppresses interferon production
論文タイトル(訳)
ヒトヘルペスウイルス6BのU65タンパク質はヒストンと結合し、インターフェロン産生を抑制する
DOI
10.1128/jvi.00984-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
Haokun Li 本田 知之 他
所属
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・医学部 病原ウイルス学
著者からのひと言
HHV-6Bが宿主免疫を回避する機構の一端を明らかにしました。U65タンパク質がヒストンと結合しIFNβ産生を抑制する仕組みは、HHV-6Bと免疫系の複雑な相互作用を理解する手がかりになると考えています。

抄訳

ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)は、突発性発疹の原因として知られ、神経炎症性疾患との関連も報告されています。本研究では、HHV-6Bのテグメントタンパク質「U65」が宿主の特定のヒストンバリアントタンパク質と相互作用し、ウイルス防御に重要なインターフェロンβ(IFNβ)の産生を抑制することを発見しました。本研究は、U65がウイルス感染中に免疫回避を助ける重要な因子であることを初めて示した報告であり、HHV-6Bが宿主免疫を巧妙に回避する新たなメカニズムはHHV-6Bの新たな治療標的となる可能性を秘めています。

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2025/10/15

社会的な経験に応じた意思決定を司る多階層ギャップ結合ネットワーク New

論文タイトル
A multilayered gap junction network is essential for social decision-making
論文タイトル(訳)
社会的な経験に応じた意思決定を司る多階層ギャップ結合ネットワーク
DOI
10.1073/pnas.2510579122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.41 e2510579122
著者名(敬称略)
中山 愛梨 中野 俊詩 他
所属
名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 生体機序論講座
著者からのひと言
従来、社会環境による神経回路制御には分泌性因子(ホルモン)の関与が中心と考えられていた。本研究から、非分泌型のギャップ結合ネットワークが意思決定の中枢で機能することが示唆された。今後、このネットワークにおける詳細な分子機構の解明が期待される。

抄訳

社会環境は、動物の行動選択に大きな影響を与える。たとえば採餌行動では、動物は既知の餌場に留まって資源を得ようとするが、競合個体が多数存在する状況では、新たな資源を求めて未知の環境へ移動する傾向が強まる。同種個体の存在や集団内での競合といった社会環境は、このような行動選択の方向性を大きく変化させる。こうした意思決定の仕組みは、動物の生存戦略を規定する根本的な原理である。
 この研究では、線虫の温度走性行動をモデルとして、社会環境に応じた意思決定の神経基盤を追究した。線虫は、個体密度が低い条件では餌と連合した温度域を好むが、個体密度が高い条件では集団の一部が異なる温度域を選好するようになる。この行動変容には複数の神経細胞を結ぶギャップ結合ネットワークが必須である。このネットワークは、個体密度を感知する感覚ニューロンから温度情報を処理する神経回路へと個体密度の情報を伝達し、その結果、餌と連合した温度に対する情動的価値(好嫌)が変容する。以上のことから、幼少期の社会経験に応じた行動変容を促す神経基盤として、ギャップ結合ネットワークが作動していることが示された。

 

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2025/10/15

ラフィド藻Heterosigma akashiwoに対するウイルス感染は細胞内有機物組成と沿岸性原核生物群集の動態に影響を及ぼす New

論文タイトル
Viral infection to the raphidophycean alga Heterosigma akashiwo affects both intracellular organic matter composition and dynamics of a coastal prokaryotic community
論文タイトル(訳)
ラフィド藻Heterosigma akashiwoに対するウイルス感染は細胞内有機物組成と沿岸性原核生物群集の動態に影響を及ぼす
DOI
10.1128/msystems.00816-25
ジャーナル名
mSystems
巻号
mSystems Ahead of Print
著者名(敬称略)
武部 紘明 吉田 天士 他
所属
京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻海洋分子微生物学分野

抄訳

海洋性微細藻類による一次生産と、原核生物による一次生産物の消費は、生物地球化学的循環に大きく貢献しています。微細藻類はしばしばウイルスに感染しており、感染細胞では、ウイルスは自身の複製や代謝産物の生成のため、宿主の代謝を制御します。しかし、微細藻類の感染細胞が原核生物群集に与える影響については、十分には解明されていませんでした。本研究では、世界的に分布し有害藻類ブルームを形成するラフィド藻類Heterosigma akashiwoの感染細胞の溶藻液(感染終盤に細胞が溶解するときに放出される液体画分)が、原核生物群集に及ぼす影響を調査しました。その結果、H. akashiwoの感染細胞内での生化学的特性の変化が、溶藻液中に含まれる、特定の有機化合物を代謝できる一部の細菌群の増殖を促進することが示唆されました。さらに、これらの細菌群には魚類の病原菌も含まれていたことから、H. akashiwoへのウイルス感染が、海洋生態系における高次消費者に対しても間接的に影響を与える可能性があると考えられました。

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2025/10/14

肺非結核性抗酸菌症に対する分子疫学的動態解析:単施設前向きコホート研究 New

論文タイトル
Molecular epidemiological surveillance for non-tuberculous mycobacterial pulmonary disease: a single-center prospective cohort study
論文タイトル(訳)
肺非結核性抗酸菌症に対する分子疫学的動態解析:単施設前向きコホート研究
DOI
10.1128/spectrum.00436-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Vol. 13, No. 10
著者名(敬称略)
橋本 和樹 福島 清春 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫内科学
著者からのひと言
本研究では、肺非結核性抗酸菌症の菌株動態を迅速・簡便に解析するデジタルVNTR法を開発した。本手法は携帯型次世代シーケンサーMinIONに適用可能であり、従来は研究施設でしか行えなかった再感染と再燃の鑑別が、各病院の細菌検査室レベルで可能となる。臨床現場でも高精度かつ即時的な菌種・菌株同定が可能となり、個別化治療の発展につながることが期待される。

抄訳

肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)では、治療や経過観察中に喀痰から検出される菌種が変化することが知られるが、菌株レベルでの変化は十分に解明されていない。可変数タンデムリピート(VNTR)解析は菌株同定の標準手法であるものの、手作業が多く時間を要するため、日常診療への応用は限られている。本研究では、全ゲノムシーケンスを基盤とした簡便かつ迅速なデジタルVNTR法を開発し、菌種・菌株動態および薬剤感受性の変化を検討した。肺NTM症112例を前向きに解析した結果、1.5年間で13例(11.6%)で菌種・亜種、16例(14.3%)で菌株の変化を認めた。マクロライドおよびアミカシン感受性の変化は両群で観察され、耐性は菌株変化のない群で高頻度であった。デジタルVNTRは従来法と一致し、各病院の細菌検査室で迅速に菌株同定が可能な新たな分子タイピング法として、臨床現場でのNTM管理に貢献しうる。

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2025/10/14

細胞増殖法則における大域的制約原理 New

論文タイトル
Global constraint principle for microbial growth laws
論文タイトル(訳)
細胞増殖法則における大域的制約原理
DOI
10.1073/pnas.2515031122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.40
著者名(敬称略)
山岸 純平 畠山 哲央
所属
東京科学大学 未来社会創成研究院 地球生命研究所
著者からのひと言
細胞の増殖速度がどのようにして決まるのかというのは、非常に古くからある問題です。この論文で議論しているMonod則とLiebigの最小律は、それぞれ約80年前と約180年前に提唱された経験則です。我々の論文では、これらの古くからの経験則を統一する新たな原理を理論的に発見しました。古くから知られ、当たり前のように思われている経験則の中にこそ、研究のフロンティアがあると、我々は考えています。

抄訳

生物の複雑な挙動を理解するには、種や分子の詳細に依存しない普遍的な法則を見出す必要がある。細胞増殖の古典的法則であるMonod則は、単一基質に対する飽和的成長を記述する経験則だが、実際の細胞成長は多数の代謝反応と資源制約の協調によって決まる。本研究では、細胞内資源配分の一般的理論に基づき、細胞成長を支配する普遍原理として「大域的制約原理」を提唱した。この原理は、ある栄養素を増やすと他の資源が成長を制約する要因となり、その制約の数が段階的に増えるため、栄養濃度に対する増殖曲線が単調増加かつ凹関数となることを示すものである。さらに、この枠組みは複数の栄養素に対する増殖依存性を統一的に扱い、Monod則とLiebig最小律という二つの古典的法則を統合する。加えて、その概念を視覚的に表すものとして、Terraced Liebig’s barrel(リービッヒの段々樽)という新たなモデルを提示した。

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2025/10/09

大腸菌ファージの生理学的特性あるいはゲノムに基づく分類と受容体特異性との相関性

論文タイトル
From phenotype to receptor: validating physiological clustering of Escherichia coli phages through comprehensive receptor analysis
論文タイトル(訳)
大腸菌ファージの生理学的特性あるいはゲノムに基づく分類と受容体特異性との相関性
DOI
10.1128/jvi.01061-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology, Ahead of Print
著者名(敬称略)
金子知義 常田聡 他
所属
早稲田大学 先進理工学部 生命医科学科
早稲田大学 総合研究機構 ファージセラピー研究所
著者からのひと言
薬剤耐性菌に対する新たな治療法として注目されるファージ療法では、異なる受容体を標的とするファージを組み合わせたカクテルが投与されますが、受容体同定は労力を要します。本研究は、生理学的特性、ゲノム配列、尾部繊維系統という独立した分類法がいずれも受容体特異性と高度に相関することを実証しました。この基礎的知見は、ファージの理解を深めるとともに、ファージ療法において、異なる受容体を標的とする多様なファージカクテルを効率的に設計する実用的な指針を提供します。

抄訳

細菌に感染するウイルスであり次世代の抗菌薬として着目されるバクテリオファージ(ファージ)の分類と標的受容体との関係を理解することは、ファージ生態学および応用研究において重要である。本研究では、13種の大腸菌ファージを生理学的特性、全ゲノム配列、尾部繊維タンパク質系統に基づいて比較した。生理学的特性に基づく分類では、宿主域評価のための細菌パネルの最適化、および量質混合データ型に適した距離指標の実装によって既報の手法を改良し、各分類法にシルエット係数解析による最適分割数の客観的評価を採り入れた。ファージ耐性株のゲノム解析と相補実験、およびリポ多糖(LPS)構造解析などによるファージ標的受容体の同定の結果、本研究のファージはLPS R-coreの異なる部位、膜タンパク質、あるいは鞭毛を標的とすることが明らかとなった。特に、LPSのヘプトースリン酸化などの微細な化学修飾がファージ認識において重要であることが示された。さらに、これら分類法による結果は極めて類似しており、新たなファージを追加すると類似度が増加したことから、各手法に互換性と一般性があることが示された。

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