抄訳
2006年に世界でロタウイルス(RV)ワクチンが導入される以前、Wa-like株はヒトでの胃腸炎流行の主要な遺伝子型であったが、RVワクチンの普及により、それ以外の遺伝子型の流行も見られるようになった。RVワクチンの導入を経たRVの分子進化を理解するためには、現在および過去の株のゲノム情報を併せて評価する必要がある。我々は、1981-1989年に札幌乳児院で見られた6つのWa-like RVの流行で採取された便検体の全ゲノム解析を行い、それらのゲノム情報を含めて1974-2020年の世界のWa-like RVの分子疫学的検討を行った。系統樹解析では、2000年代までの株が複数の系統に分かれた一方、2010年代以降の株はRVワクチン株とは異なる一つの系統に収束する傾向にあることがわかった。VP7 (G1), VP4 (P[8])タンパクにおいて、主な2010年代の株の属する系統は、既知の中和エピトープにRVワクチン株とは異なるアミノ酸を特異的に有していた。しかし,Bayesian Skyline plotでの有効個体数は1970-2020年の間ほぼ一定で、RVワクチン導入前後で大きな変化はなく、ワクチン導入がWa-like RVの分子進化に影響を与えているという証拠は得られなかった。2022年時点で世界のRVワクチン接種率は51%程度であり、RVワクチン導入による影響を評価するには,より長期の分子疫学的検討が必要である。