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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2020/10/07

蛍光シグナル増幅のためのAmplibodyと膨張顕微鏡法を用いた一次繊毛および中心小体の実用的な超解像イメージング法

論文タイトル
Practical method for superresolution imaging of primary cilia and centrioles by expansion microscopy using an amplibody for fluorescence signal amplification
論文タイトル(訳)
蛍光シグナル増幅のためのAmplibodyと膨張顕微鏡法を用いた一次繊毛および中心小体の実用的な超解像イメージング法
DOI
10.1091/mbc.E20-04-0250
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 31, Issue 20(2157-2288)
著者名(敬称略)
加藤 洋平, 千葉秀平, 中山和久
所属
京都大学大学院 薬学研究科 生体情報制御学分野

抄訳

 一次繊毛は細胞膜から突出した構造であり、直径が約0.3μm、長さが約3μmである。このサイズは光の回折限界に近いため、回折限界以下の繊毛の構造は超解像顕微鏡や電子顕微鏡を用いなければ観察することができない。膨張顕微鏡法(ExM: Expansion microscopy)は、高吸水性ゲルを用いて試料を物理的に膨張させることで超解像イメージングを可能にする技術である。しかし、その有効性は十分には検証されておらず、さらなる改良が期待されている。本研究では、一次繊毛と中心小体の観察にExMを適用し、得られた画像を既存の超解像顕微鏡で得られた画像と比較した。さらに、物理的な膨張に伴う単位体積あたりの蛍光シグナルの低下と、プロテアーゼ処理によるタンパク質の部分的な分解によるシグナルの低下を補うために、蛍光シグナルを増幅するための新たなツール「Amplibody」を開発した。Amplibody用に最適化された ExM プロトコールと Airyscan 超解像顕微鏡を組み合わせて使用することで、一次繊毛と中心小体を高輝度かつ高分解能で観察できることを実証した。

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2020/10/07

B9ドメインタンパク質複合体MKS1–B9D2–B9D1の形成は一次繊毛における膜タンパク質の拡散障壁として必須である

論文タイトル
Formation of the B9-domain protein complex MKS1–B9D2–B9D1 is essential as a diffusion barrier for ciliary membrane proteins
論文タイトル(訳)
B9ドメインタンパク質複合体MKS1–B9D2–B9D1の形成は一次繊毛における膜タンパク質の拡散障壁として必須である
DOI
10.1091/mbc.E20-03-0208
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 31, Issue 20(2157-2288)
著者名(敬称略)
岡崎 美聖, 中山 和久, 加藤 洋平 他
所属
京都大学大学院 薬学研究科 生体情報制御学分野

抄訳

 繊毛は細胞のアンテナやプロペラとして機能する細胞膜から突出した構造である。繊毛による感覚機能と運動機能を達成するために、繊毛は細胞体とは異なるタンパク質と脂質の組成を維持している。トランジションゾーン(TZ)は繊毛の基部に存在する特殊な領域であり、繊毛の内部と外部を隔てるバリアとして機能している。TZは膜貫通型および可溶性の多くのタンパク質によって構成されている。MKS1、B9D1/MKS9、B9D2/MKS10は、メッケル症候群(MKS : Meckel syndrome)の原因遺伝子によってコードされている可溶性のTZタンパク質であり、共通してB9ドメイン(B9D)を有している。本研究では、これらのB9Dタンパク質がMKS1–B9D2–B9D1の順で3者複合体を形成すること、これらのTZへの局在化は相互依存的であることを明らかにした。MKS1-ノックアウト(KO)細胞とB9D2-KO細胞の表現型解析から、B9Dタンパク質は繊毛の形成に必須ではないが、正常な繊毛形成には必要であることが明らかになった。これらのKO細胞を用いたレスキュー実験によって、B9Dタンパク質複合体の形成が繊毛膜タンパク質に対する拡散障壁を構築するために不可欠であることが示された。

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2020/09/28

小児および若年者甲状腺分化癌遠隔転移例における治療効果とリスク因子の解析

論文タイトル
Distant Metastasis in Pediatric and Adolescent Differentiated Thyroid Cancer: Clinical Outcomes and Risk Factor Analyses
論文タイトル(訳)
小児および若年者甲状腺分化癌遠隔転移例における治療効果とリスク因子の解析
DOI
10.1210/clinem/dgaa545
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Vol.105 No.11 (dgaa545)
著者名(敬称略)
杉野 公則 他
所属
伊藤病院 外科

抄訳

成人に比して小児甲状腺分化癌の特徴として、遠隔転移の頻度が高いことから、遠隔転移例の治療成績および危険因子について検討した。1979年から2014年までの間に初回手術を行った18歳以下の171例の甲状腺分化癌症例について後方視的に検討した。放射性ヨウ素(RAI)治療に対する効果を米国甲状腺学会のガイドラインおよびRECIST基準によって判定した。遠隔転移は29例(17%)に認め、全例肺転移であった。陰影像により、大結節影(1cm以上)、小結節影(1cm未満)および無結節影(RAIシンチグラフィのみで検出)にわけた。最も良好な効果を得られたのは無結節影群であった。遠隔転移に関わる因子は性別、術前判明リンパ節転移、腺外浸潤、転移リンパ節数であった。危険因子数により、低危険度(なし)、中危険度(1つ)および高危険度(2つ以上)の3群にわけた。20年無遠隔転移生存率は、それぞれ99%、72%、29%であった。治療効果に得るためには、結節影を認める前に診断することが重要であり、そのためには危険度に応じた選択的治療が望まれる。

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2020/09/24

血管壁の恒常性維持と病態形成におけるメカノトランスダクションの分子機序

論文タイトル
The molecular mechanism of mechanotransduction in vascular homeostasis and disease
論文タイトル(訳)
血管壁の恒常性維持と病態形成におけるメカノトランスダクションの分子機序
DOI
10.1042/CS20190488
ジャーナル名
Clinical Science
巻号
Clinical Science Vol.134 No.17 (2399–2418)
著者名(敬称略)
山城 義人, 柳沢 裕美
所属
筑波大学生存ダイナミクス研究センター

抄訳

血管壁は、血流のずり応力や心拍出に伴う伸展刺激などのメカニカルストレスを細胞内の生化学的シグナルに変換する「メカノトランスダクション 」の機構を備えている。細胞外マトリクスは、血管壁の構造維持と同時に、力学的環境に応答しメカノトランスダクションを惹起するが、その詳細は不明である。本総説では、まず血管壁のメカニカルストレスを解説し、それらを感知するセンサーを紹介し、メカノトランスダクションをいくつかの主要な転写因子の活性経路に対応させて解説する。最後に、マトリクス・メカノトランスダクション におけるフィブロネクチン―内皮細胞、トロンボスポンジン1―平滑筋細胞を中心に、最近の動向を紹介する。内皮細胞や平滑筋細胞におけるメカノトランスダクションの異常が、動脈硬化症、高血圧、大動脈瘤などの血管疾患の分子基盤として関与していることが示唆され、血管疾患に対する新しい治療標的分子の発見が期待される。

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2020/09/24

Arum maculatumの付属体におけるミトコンドリアalternative oxidaseの分解

論文タイトル
Degradation of mitochondrial alternative oxidase in the appendices of Arum maculatum
論文タイトル(訳)
Arum maculatumの付属体におけるミトコンドリアalternative oxidaseの分解
DOI
10.1042/BCJ20200515
ジャーナル名
Biochemical Journal
巻号
Biochemical Journal Vol.477 No.17 (3417–3431)
著者名(敬称略)
伊藤 菊一 他
所属
岩手大学農学部応用生物化学科生体熱制御システム学研究室

抄訳

シアン耐性alternative oxidase(AOX)は、ミトコンドリア内膜に局在するキノールオキシダーゼである。本研究においては、ミトコンドリアにおけるAOXタンパク質の分解に関わるメカニズムを明らかにするため、Arum maculatumの発熱器官である付属体から調製したミトコンドリアを用いた一連の生化学的解析を行った。その結果、AOXタンパク質は本植物の発熱温度に近い30℃において分解されるとともに、このような温度依存性プロテアーゼ活性は、システインプロテアーゼ阻害剤であるE-64により特異的に阻害されることが判明した。また、問題とするプロテアーゼの精製を行った結果、AOX分解活性を有するプロテアーゼはPhoenix dactyliferaのシステインプロテアーゼ1様タンパク質と同一の部分ペプチド配列を有することが判明した。これらの結果は、AOXがA. maculatumの発熱性付属体においてシステインプロテアーゼの標的タンパク質であることを示唆している。

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2020/09/15

DRO1ホモログによる根の角度改良は塩害水田でのイネの収量を増加させる

論文タイトル
Root angle modifications by the DRO1 homolog improve rice yields in saline paddy fields
論文タイトル(訳)
DRO1ホモログによる根の角度改良は塩害水田でのイネの収量を増加させる
DOI
10.1073/pnas.2005911117
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS September 1, 2020 117 (35) 21242-21250
著者名(敬称略)
木富悠花、宇賀優作 他
所属
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構次世代作物開発研究センター

抄訳

根系構造は、干ばつ、冠水、塩害などのストレス条件における作物生産に影響を及ぼす。塩害は世界的に大きな農業問題であるが、これまで塩害回避に役立つ根系構造の遺伝子は発見されていなかった。そこで我々は、イネの根伸長角度に関与する量的形質遺伝子座(qSOR1)をクローニングした。さらに、非機能型のqSOR1により生じる地表根(土壌表面近くに張る根)が塩害水田で生じる土壌還元ストレスを回避し、地表根を形成しない品種よりも増収になることを明らかにした。また、qSOR1は根伸長角度を制御する既知の遺伝子DRO1のホモログであることがわかった。qSOR1DRO1の機能型と非機能型の対立遺伝子座を組み合わせた4つのイネ系統は、深根、中間型、浅根、極浅根の異なる根系構造を示した。以上のことから、多様な環境ストレスに適応した根系構造に作物を改良するうえで、DRO1ホモログ遺伝子は有用な育種素材になると期待される。

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2020/09/14

マウスへのレシニフェラトキシン脳室内投与法および疼痛行動解析

論文タイトル
Intracerebroventricular Treatment with Resiniferatoxin and Pain Tests in Mice
論文タイトル(訳)
マウスへのレシニフェラトキシン脳室内投与法および疼痛行動解析
DOI
10.3791/57570
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (163), e57570, doi:10.3791/57570 (2020)
著者名(敬称略)
福島 章紘、藤井 萌子、小野 秀樹
所属
武蔵野大学大学院薬科学研究科 薬科学専攻

抄訳

Transient receptor potential vanilloid type 1 (TRPV1)の強力なアゴニストであるレシニフェラトキシン(RTX)はTRPV1の長期的な脱感作を引き起こす。この脱感作モデルはTRPV1の機能を調べる方法のひとつとして用いられてきた。本稿ではRTXのマウス脳室内投与法を紹介するとともに、末梢TRPV1刺激および機械刺激を用いた疼痛試験法も併せて紹介する。RTX脳室内投与群は対照群と同等の疼痛反応を示したが、脳室内投与群ではアセトアミノフェンの鎮痛作用が抑制されたことから、RTX脳室内投与は中枢選択的なTRPV1脱感作を誘導することが示唆された。これまで末梢組織でのTRPV1の機能について多くの報告がなされているが、脳内TRPV1の機能については不明な点が多い。本マウスモデルは、中枢神経系に存在するTRPV1およびTRPV1発現細胞の生理機能の探索に用いることが可能と考えられた。なお本手法は他の薬物の中枢作用研究にも応用可能である。

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2020/09/11

もやもや病患者の白質におけるミエリン・軸索障害

論文タイトル
Myelin and Axonal Damage in Normal-Appearing White Matter in Patients with Moyamoya Disease
論文タイトル(訳)
もやもや病患者の白質におけるミエリン・軸索障害
DOI
10.3174/ajnr.A6708
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 41, No. 9 (1618-1624)
著者名(敬称略)
原 祥子 他
所属
東京医科歯科大学 脳神経機能外科

抄訳

【背景と目的】慢性虚血動物モデルではミエリン・軸索障害が存在することが知られているが、もやもや病患者でも存在するか明らかでない。
今回、もやもや病患者において、MRIによりミエリン・軸索障害の有無を評価し、認知機能障害との関連を検討した。
【対象と方法】18名の成人もやもや病患者(16−55歳)と18名の健常人(年齢性別合致)において、magnetization transfer saturation法(MTsat)と拡散MRI(NODDI)を撮影し、大脳各領域でのミエリン含有量・軸索含有量を評価した。もやもや病患者と健常人の各含有量を比較し、もやもや病患者においては各含有量と認知機能検査との相関を評価した。
【結果】もやもや病患者では健常人と比較し、ミエリン含有量がすべての白質領域で低下し、軸索含有量は両側中大脳動脈領域で低下していた(P<.05)。もやもや病患者における認知機能検査との相関は、ミエリン含有量とは認められず、軸索含有量とのみ認めた(右中大脳動脈領域・右大脳動脈領域でr=0.52-0.53; P<.03)。
【結論】もやもや病患者ではミエリン・軸索障害が存在し、認知機能との関連はミエリンより軸索のほうが強い可能性がある。

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2020/09/10

免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎のMRI所見

論文タイトル
MRI Findings of Immune Checkpoint Inhibitor–Induced Hypophysitis: Possible Association with Fibrosis
論文タイトル(訳)
免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎のMRI所見
DOI
10.3174/ajnr.A6692
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 41, No. 9 (1683-1689)
著者名(敬称略)
黒川 遼、五ノ井 渉 他
所属
東京大学医学部附属病院 放射線科

抄訳

下垂体炎は免疫チェックポイント阻害薬治療による合併症の一つであり、長期的なホルモン補充療法を要する下垂体機能低下症の原因となる。頻度が高く臨床的にも重要な合併症だが、MRIにおける特徴的な画像所見は知られていなかった。本研究では日米の2施設にて悪性黒色腫に対して免疫チェックポイント阻害薬治療を行い、下垂体炎を発症した20症例を後方視的に解析し、MRI所見の特徴やホルモン異常の有無を調べた。その結果、19/20例で下垂体前葉に特徴的な地図状の造影不良域が認められ、同部はT2強調像で主に低信号を示し、造影ダイナミックMRIの撮像された2例では漸増性の造影増強効果を呈した。内分泌学的には期間中に不可逆的であった甲状腺刺激ホルモンと副腎皮質刺激ホルモンの分泌低下が半数以上の症例で認められた。MRIで認められた「T2強調像で低信号を示し漸増性に造影される」という特徴は線維化を示唆する所見であり、免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎の病態の解明や、その他の原因による下垂体炎・腫瘍との鑑別に有用であると考えられる。

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2020/09/10

アカゲザルの周産期における胎児の頭蓋骨と母親の骨盤の共変異と霊長類の出産の進化

論文タイトル
Covariation of fetal skull and maternal pelvis during the perinatal period in rhesus macaques and evolution of childbirth in primates
論文タイトル(訳)
アカゲザルの周産期における胎児の頭蓋骨と母親の骨盤の共変異と霊長類の出産の進化
DOI
10.1073/pnas.2002112117
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS September 1, 2020 117 (35) 21251-21257
著者名(敬称略)
川田 美風、森本 直記 他
所属
京都大学大学院理学研究科 自然人類学研究室

抄訳

大脳化と直立二足歩行への適応により、ヒトでは新生児の頭部と母親の骨盤のサイズ比(児頭骨盤比)が大きく、特徴的に難産である。ヒトでは難産への対応として、子の頭と母親の骨盤の間で形態共変異(児頭骨盤共変異)が進化しているという仮説が近年提唱された。しかし、実際の親子で新生児の頭と母親の骨盤の形態関係を観察することはヒトでは実質的に不可能であり、間接的な証拠の提示に留まっていた。そこで我々は、ヒトと同様に児頭骨盤比が高いアカゲザルの妊娠後期個体(母親とその胎児)のCTデータを用いた3次元形態測定により、児頭骨盤共変異を直接的に検証した。児頭骨盤共変異は産道において特に強く発現すること、丸い頭と丸い断面の産道というように、子の頭と母親の骨盤の形態は互いに対応していることから、観察された児頭骨盤共変異は難産を緩和する機構であると考えられる。本研究結果から、児頭骨盤共変異はヒトのみでなく他の霊長類系統においても並行に、もしくは初期狭鼻類においてすでに進化していた可能性が示唆される。

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