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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2020/02/18

ヒスタミン受容体アゴニストが心腎連関障害を改善
– 心腎不全モデルマウスの遺伝情報解析による抗炎症作用の同定 –

論文タイトル
Histamine receptor agonist alleviates severe cardiorenal damages by eliciting anti-inflammatory programming
論文タイトル(訳)
ヒスタミン受容体アゴニストが心腎連関障害を改善
– 心腎不全モデルマウスの遺伝情報解析による抗炎症作用の同定 –
DOI
10.1073/pnas.1909124117
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS February 11, 2020 117 (6) 3150-3156
著者名(敬称略)
野口 和之、石田 純治、深水 昭吉 他
所属
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター 深水研究室(ゲノム情報生物学)

抄訳

「心腎連関」は、心臓と腎臓それぞれの障害が相互作用し、両臓器の機能が低下することに由来する概念です。しかし、腎臓の機能低下による心臓血管病の発症リスクの増加や、心臓血管病患者が高率に腎機能障害を引き起こす仕組みの詳細は未解明です。我々は、血圧上昇ホルモンであるアンジオテンシンIIの投与(A)、片腎摘出(N)、食塩水負荷(S)によって心不全を誘導するマウス(ANSマウス)を用い、ANSマウスが心不全に加え、腎臓の糸球体濾過機能の低下やタンパク尿、尿細管障害など、慢性腎臓病様の病態を示すことを見出しました。また、ANSマウスの血中で低分子アミンであるヒスタミンが増加していること、ANSマウスへのヒスタミン受容体阻害剤の投与や、遺伝的にヒスタミンを産生できないANSマウスでは、心腎障害が悪化したのに対し、ヒスタミンH3受容体アゴニストのイメトリジン(Imm)がANSマウスの心腎連関障害に保護的に作用することを突き止めました。さらに、ANSマウスで急性期炎症が生じていることが判明しましたが、網羅的な遺伝子発現解析から、ANSマウスの腎臓では炎症関連遺伝子の発現が有意に亢進し、これらの変化はImmの投与で軽減したことから、Immの抗炎症作用が証明されました。今後、心腎連関の発症メカニズムの理解や薬剤開発の促進が期待されます。

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2020/02/17

多様な遺伝的系統のHaemophilus influenzaeから誘導したフルオロキノロン耐性変異株での新規フルオロキノロン耐性関連遺伝子変異の同定

論文タイトル
In Vitro Derivation of Fluoroquinolone-Resistant Mutants from Multiple Lineages of Haemophilus influenzae and Identification of Mutations Associated with Fluoroquinolone Resistance
論文タイトル(訳)
多様な遺伝的系統のHaemophilus influenzaeから誘導したフルオロキノロン耐性変異株での新規フルオロキノロン耐性関連遺伝子変異の同定
DOI
10.1128/AAC.01500-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 2
著者名(敬称略)
本田 宏幸、佐藤 豊孝 他
所属
札幌医科大学 医学部 微生物学講座

抄訳

Haemophilus influenzaeは呼吸器感染症を引き起こす病原菌であるが、β-lactam系抗菌薬耐性、特にβ-lactamase-negative high-level ampicillin-resistant H. influenzae (high-BLNAR)の増加が問題となっている。また、その治療薬となるフルオロキノロンに耐性を示す株も報告されている。本薬剤耐性の出現メカニズムの解明の為、我々は、フルオロキノロン感受性臨床分離株29株をモキシフロキサシン存在下(0.03~128 mg/L)で継代培養し本耐性変異株を選択した。17株(58.6%)がモキシフロキサシに感受性低下を示し、その内10株(34.5%)が、CLSIのbreakpoint(MIC >1mg/ L)を超えた(10株中7株はhigh-BLNAR)。これら変異株から既知のキノロン耐性決定領域(QRDR)での遺伝子変異に加え、45の遺伝子に56の新規な遺伝子変異を同定した。その中で、GyrA のGlu153Leu、ΔGlu606、GyrBのSer467Tyr、Glu469Asp、そしてOmpP2変異がフルオロキノロン耐性に関与していることを見出した。以上から、本研究ではH. influenzaeは複数の新規変異を伴いフルオロキノロン耐性を獲得し、本耐性はhigh-BLNARに高頻度に付与されることを明らかにした。high-BLNARが増加している背景から、臨床現場でのフルオロキノロン耐性H. influenzaeの動向には注視する必要がある。

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2020/01/31

Nigrosome 1の解剖学的な傾斜構造から考える描出能

論文タイトル
Visualization of Nigrosome 1 from the Viewpoint of Anatomic Structure
論文タイトル(訳)
Nigrosome 1の解剖学的な傾斜構造から考える描出能
DOI
10.3174/ajnr.A6338
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 41, No. 1 (86-91)
著者名(敬称略)
荒井 信行 他
所属
名古屋市立大学病院 診療技術部 放射線技術科

抄訳

黒質緻密部に存在するnigrosome1は,MRIにおいてパーキンソン病の進行例では描出されにくくなるが,健常者やパーキンソン病の軽度進行例においても本来描出されるべきnigrosome1が描出不良となったり左右非対称に描出されることがあり,鑑別が困難となることがある.今回われわれは静磁場方向に対する頭部の傾きと魔法角,さらに磁化率に着目し,nigrosome1の解剖学的な傾斜構造を考慮した描出不良の原因について初めてアプローチした.9点マルチエコーのスポイルド型3D-GRE法を使用し,魔法角の影響を調べるために静磁場方向に対して健常ボランティアの頭部を右傾斜,左傾斜,0°に設定し,傾斜角度と左右のnigrosome1の描出能の関係と磁化率の関係,さらに局所磁場の影響について調べた.頭部を右傾斜,左傾斜にした方が0°の時よりも有意にコントラストが上昇した.そして0°の時は魔法角の影響が顕著であり,これは磁化率強調像で裏付けられた.nigrosome1の解剖学的な傾斜構造は,磁気双極子相互作用による魔法角と干渉し,これによりnigrosome1は非対称の描出,もしくは描出不良となることがある.

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2020/01/31

CENP-Aヌクレオソームを含むセントロメアトリヌクレオソームのクライオ電子顕微鏡構造

論文タイトル
Cryo-EM Structures of Centromeric Tri-nucleosomes Containing a Central CENP-A Nucleosome
論文タイトル(訳)
CENP-Aヌクレオソームを含むセントロメアトリヌクレオソームのクライオ電子顕微鏡構造
DOI
10.1016/j.str.2019.10.016
ジャーナル名
Structure
巻号
Structure, Volume 28, Issue 1, P44-53.E4, January 07, 2020
著者名(敬称略)
滝沢 由政、何 承翰、立和名 博昭、胡桃坂 仁志 他
所属
東京大学定量生命化学研究所 胡桃坂研究室

抄訳

ヒストンH3のバリアントであるCENP-Aは、セントロメアを規定するために必要不可欠なエピジェネティックマーカーである。CENP-Aを含むヌクレオソームは、特徴的な構造を有し、セントロメアクロマチンの高次構造を形成すると考えられている。しかし、CENP-Aを含むヌクレオソームによるセントロメアクロマチンの高次構造は、未だ不明な点が多い。本研究では、CENP-Aヌクレオソームを含むセントロメアクロマチンを模倣した試験管内再構成トリヌクレオソームを作製し、三次元構造をクライオ電子顕微鏡解析により決定した。得られた構造より、H3-H3-H3トリヌクレオソームとH3-CENP-A-H3トリヌクレオソームは、それぞれリンカーDNAパスが異なり、中心に位置するCENP-Aヌクレオソームの配向は、同じ位置のH3ヌクレオソームの配向と比べて大きく異なることが分かった。興味深いことに、このCENP-Aヌクレオソームの配向の違いにより、凝集したクロマチンの中で、CENP-Aヌクレオソームは溶液中に露出されることが示唆された。これらの結果は、CENP-Aを含むクロマチンの三次元構造を理解し、多数のH3 ヌクレオソームが存在するセントロメアクロマチンにおいて、セントロメアタンパク質がどのようにCENP-Aヌクレオソームを標的とするのかを説明できるかもしれない。

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2020/01/27

ヒトロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の確立

論文タイトル
Reverse Genetics System for a Human Group A Rotavirus
論文タイトル(訳)
ヒトロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の確立
DOI
10.1128/JVI.00963-19
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology  Volume 94, Issue 2
著者名(敬称略)
川岸 崇裕、小林 剛 他
所属
大阪大学微生物病研究所 ウイルス免疫分野

抄訳

 ロタウイルスは11分節のRNAゲノムを有し、乳幼児に重篤な急性胃腸炎を引き起こすウイルスである。最近、我々はサルロタウイルスにおいて、11分節のウイルスゲノムを発現するプラスミドDNAから任意の組換えウイルスを人工合成できるリバースジェネティクス(RG)系の開発に成功した。しかし、サルロタウイルスとヒトロタウイルス間ではウイルス学的性状が異なる部分も多く、ヒトロタウイルスの増殖機構や病態発現機序をより理解するためには、ヒトロタウイルスのRG系の確立が望まれていた。
 本研究において、我々は世界的に流行している遺伝子型の一つであるG4P[8]型に属するヒトロタウイルスOdelia株のRG系の開発に成功した。さらに、Odelia株のRG系を用いて、免疫抑制活性を有するロタウイルスNSP1タンパク質における変異ウイルスを作製し、解析を行った。その結果、ヒトロタウイルスNSP1のC末端側166アミノ酸残基の領域がウイルス複製において重要な役割を担っていることが明らかとなった。本技術の開発により、ヒトロタウイルスの性状解析や予防・治療法開発の進展が期待される。

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2020/01/22

スーパーセンチナリアンにおけるCD4陽性キラーT細胞のクローン性増殖

論文タイトル
Single-cell transcriptomics reveals expansion of cytotoxic CD4 T cells in supercentenarians
論文タイトル(訳)
スーパーセンチナリアンにおけるCD4陽性キラーT細胞のクローン性増殖
DOI
10.1073/pnas.1907883116
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS November 26, 2019 116 (48) 24242-24251
著者名(敬称略)
橋本浩介、広瀬信義、ピエロカルニンチ 他
所属
理化学研究所生命医学研究センター トランスクリプトーム研究チーム

抄訳

スーパーセンチナリアンは110歳に到達した特別長寿な人々のことを指し、自立的な生活を送る期間が長いことから、理想的な健康長寿のモデルと考えられている。我々は、スーパーセンチナリアン7人と50~80歳の5人から採血を行い、末梢血単核球を抽出して1細胞レベルのトランスクリプトーム解析を行った。合計で約6万細胞を調べたところ、スーパーセンチナリアンでは、通常あまり存在しないCD4陽性キラーT細胞が増加していることが明らかになった。これらのT細胞はCD4陽性でありながらCD8陽性キラーT細胞に似た遺伝子発現パターンを示す。更に、2人のスーパーセンチナリアンについて、T細胞受容体の配列を1細胞レベルで解析した。その結果、多くのCD4陽性キラーT細胞が同一の受容体を持つことが明らかになり、特定の抗原に対してクローン性増殖を起こしたことが示唆される。今後の研究によって、CD4陽性キラーT細胞が老化や長寿において果たす役割の解明が期待される。

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2020/01/22

多剤薬剤耐性を示し薬剤排泄トランスポーターの高発現を認めた橋本病の1症例

論文タイトル
A Case of Hashimoto’s Thyroiditis with Multiple Drug Resistance and High Expression of Efflux Transporters
論文タイトル(訳)
多剤薬剤耐性を示し薬剤排泄トランスポーターの高発現を認めた橋本病の1症例
DOI
10.1210/clinem/dgz073
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Vol.105 No.2 (dgz073)
著者名(敬称略)
吉田 知彦, 田中 知明
所属
千葉大学大学院医学研究院・分子病態解析学講座

抄訳

【背景】甲状腺機能低下を伴う橋本病患者では通常、合成甲状腺ホルモン(レボチロキシン)の経口投与で甲状腺機能が正常化されるが、一部の患者で効果が得られない場合があり、その原因は不明である。一方、癌や感染症の治療における薬剤耐性機構に薬剤排泄に機能するABCトランスポーターが関わることが知られている。今回、レボチロキシン補充療法に重度の治療抵抗性を示す橋本病患者を経験した。そのメカニズムに小腸におけるABCトランスポーター高発現が関与することを明らかにした。 【症例】本症例は橋本病、特発性血小板減少性紫斑病、難治性高血圧を合併し、様々な経口薬剤の高用量投与にもかかわらず薬理効果が十分に得られない状態が続いていた。患者リンパ球を用いた解析では、健常者に比べてABCG2/BCRPの発現亢進と薬剤排泄能の亢進を認めた。そして、その特徴はABCG2/BCRPの特異的阻害薬Fumitremorgin Cによって阻害された。小腸上皮におけるこれらの薬剤排泄トランスポータの発現亢進も認めた。更に、レボチロキシン・降圧薬ロサルタンの粉砕投与後には、薬剤耐性の改善を認めた(血中TSH値と平均血圧の低下効果)。 【結語】薬剤耐性を示す橋本病患者の病態において、小腸でのABCG2/BCRPの高発現ならびに機能亢進が関与し、薬剤の粉砕投与が有効である可能性が示唆された。

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2020/01/20

食物アレルギーが惹き起こす腸内微生物叢の調節不全は、IgAを介して口腔内細菌叢の病的変化を誘導する

論文タイトル
Dysregulation of Intestinal Microbiota Elicited by Food Allergy Induces IgA-Mediated Oral Dysbiosis
論文タイトル(訳)
食物アレルギーが惹き起こす腸内微生物叢の調節不全は、IgAを介して口腔内細菌叢の病的変化を誘導する
DOI
10.1128/IAI.00741-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity  Volume 88, Issue 1
著者名(敬称略)
片岡 嗣雄 他
所属
朝日大学 口腔感染医療学講座 口腔微生物学分野

抄訳

食物アレルギーは、生命を脅かす過剰な免疫応答であり、その発症には、腸内細菌叢の病的な構成変化(ディスバイオーシス)が関与していることが知られている。しかし、その詳細なメカニズム、ならびに食物アレルギーが口腔内細菌叢に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究では、卵白アルブミンを抗原として食物アレルギーモデルマウスを作製し、その糞便中の生菌をMALDI-ToF-MS法(バイテックMS)で解析して、Citrobacter菌群が顕著に増加していることを発見した。この菌は、マウス腸管上皮細胞株からTh2応答を促進するサイトカインであるIL-33の発現を誘導していた。以上より、食物アレルギーによって腸内で増殖したCitrobacterが、IL-33の産生を介して症状を増悪させていることが示された。また、同マウス口腔内ではIgAとそれに結合する細菌が増加しており、食物アレルギーによって口腔細菌叢も変化することが示唆された。

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2020/01/20

1型自然リンパ球は急性肝障害において保護的な役割を持つ

論文タイトル
Type 1 Innate Lymphoid Cells Protect Mice from Acute Liver Injury via Interferon-γ Secretion for Upregulating Bcl-xL Expression in Hepatocytes
論文タイトル(訳)
1型自然リンパ球は急性肝障害において保護的な役割を持つ
DOI
10.1016/j.immuni.2019.11.004
ジャーナル名
Immunity
巻号
Immunity, Volume 52, Issue 1, P96-108.E9, January 14, 2020
著者名(敬称略)
鍋倉 宰、渋谷 彰 他
所属
筑波大学 生存ダイナミクス研究(TARA)センター、医学医療系、革新的創薬開発研究センター

抄訳

 1型自然リンパ球(ILC1)は肝常在性のILCとして発見され、インターフェロン-g(IFN-g)産生能を持つ免疫細胞である。しかし肝臓におけるILC1の生理的・病理的な役割は未だ明らかになっていない。我々は、四塩化炭素(CCl4)投与による急性肝障害マウスモデルにおいて、肝ILC1が活性化しIFN-gを産生する事を見出した。この時、肝NK細胞は活性化していなかった。これら活性化した肝ILC1はCCl4誘導性急性肝障害の軽快に寄与し、このILC1による急性肝障害の保護作用はIFN-g依存的である事が示された。CCl4誘導性急性肝障害の発症時、肝ILC1の活性化とIFN-g産生には活性化受容体DNAM-1が必要である事が示された。また、細胞外ATPがインターロイキン(IL)-12によるILC1のIFN-g産生を促進する事が明らかとなった。更に、活性化ILC1から産生されるIFN-gは、Bcl-xLの発現上昇を介して肝細胞の生存に寄与する事が明らかになった。以上の結果は、ILC1が急性肝障害において保護的な役割を持つ事を示している。

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2020/01/16

フィリピンの環境水(病院排水・河川水)から分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科の分子遺伝学的解析

論文タイトル
Environmental Presence and Genetic Characteristics of Carbapenemase-Producing Enterobacteriaceae from Hospital Sewage and River Water in the Philippines
論文タイトル(訳)
フィリピンの環境水(病院排水・河川水)から分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科の分子遺伝学的解析
DOI
10.1128/AEM.01906-19
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol. 86, Issue. 2
著者名(敬称略)
鈴木由希、矢野寿一 他
所属
奈良県立医科大学 微生物感染症学講座

抄訳

 薬剤耐性菌対策の一環として、ヒト・動物・環境を包括的に捉えた取り組みが必要とされている。私たちは、フィリピンの環境調査により分離されたカルバペネマーゼ産生腸内細菌科(CPE)について、その分子遺伝学的特徴を明らかにした。
 2016年~2018年の期間に、フィリピンの病院排水(7病院)、河川水より計83検体を採取し、分離されたCPEについて、薬剤感受性試験、遺伝子解析による耐性遺伝子およびプラスミド型別、MLSTを実施した。耐性遺伝子の伝達能評価として、大腸菌を受容株とした接合伝達試験を行った。
 採取した検体より、Enterobacter属やKlebsiella属、大腸菌等51株のCPEが分離された。耐性遺伝子は、フィリピンのヒト臨床で多く分離されるNDM型が39株と最も多く、その他KPC型、OXA-48型なども検出された。MLST解析では、大腸菌11株のうち6株は、ヒトや動物などから広く検出されるclonal complex 10に属した。プラスミドはIncX3が多く検出され、CPE 51株中24株が大腸菌J53に伝達可能であった。
 本研究により、フィリピンの環境におけるCPEの存在が明らかとなった。ヒトから検出報告のある耐性菌の耐性遺伝子、ゲノム型と同様のものが検出され、ヒト由来耐性菌の環境への流出や、環境中での広がり、環境からヒトへの伝播の可能性が推察された。

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