本文へスキップします。

H1

国内研究者論文紹介

コンテンツ

ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

論文検索

(以下、条件を絞り込んで検索ができます。)

日本人論文紹介:検索
日本人論文紹介:一覧

2020/06/02

ワオキツネザルのメスを惹き付けるオスの匂い―霊長類のフェロモン様物質の同定に初めて成功―

論文タイトル
Key Male Glandular Odorants Attracting Female Ring-Tailed Lemurs
論文タイトル(訳)
ワオキツネザルのメスを惹き付けるオスの匂い―霊長類のフェロモン様物質の同定に初めて成功―
DOI
10.1016/j.cub.2020.03.037
ジャーナル名
Current Biology
巻号
Current Biology April 16,2020
著者名(敬称略)
白須未香、伊藤聡美(以上筆頭著者)、今井啓雄、東原 和成(以上連絡著者)
所属
東京大学農学生命科学研究科 生物化学研究室(白須・東原) 京都大学霊長類研究所 ゲノム細胞研究部門(伊藤・今井)

抄訳

 多くの動物において、配偶者選択や同性間の縄張りあらそいなど、種の繁殖のために必須な行動には、体臭を介した嗅覚コニュニケーションが重要な役割を果たしています。我々は、特徴的な嗅覚コミュニケーションを行うワオキツネザルに注目し、ヒトを含む霊長類で初めて、異性を惹き付けるフェロモン様効果のある匂い物質の同定に成功しました。
 ワオキツネザルのオスは、手首の内側にある臭腺を自身の長い尻尾にこすりつけてその尻尾を大きくゆらし、メスへのアピールや他オス個体への威嚇を行います。我々は、行動観察により、メス個体が、繁殖期のオスの前腕腺分泌液の匂いをより長く、より注意深く嗅ぐ一方で、非繁殖期の分泌液にはあまり興味を示さないことを明らかにしました。
 次に、分泌液の成分分析を行い、繁殖期の分泌液中には、体内の男性ホルモン(テストステロン)の増加に伴い、フローラル・フルーティー様の香りを持つ三種類の長鎖アルデヒド群が増加していることを見出しました。さらに、これらの成分のみを染み込ませた綿球に対しては、繁殖期のメスのみが興味を示し、非繁殖期のメスは興味を示さないことが分かりました。すなわち、今回同定されたオスの繁殖期を特徴づける匂い成分が、メスを誘引するフェロモン様の匂いシグナルとして機能していることがわかりました。
 本成果は、未だ謎の多い霊長類の嗅覚コミュニケーションの実態を物質レベルで裏付ける最初の知見であると同時に、野生での絶滅が危惧されるワオキツネザルの繁殖管理や保全に役立つと考えられます。

論文掲載ページへ

2020/05/27

静脈グラフトを用いた血行再建手術における動脈圧負荷での内膜肥厚に関する研究のためのウサギ頚静脈置換モデル

論文タイトル
A Rabbit Venous Interposition Model Mimicking Revascularization Surgery using Vein Grafts to Assess Intimal Hyperplasia under Arterial Blood Pressure
論文タイトル(訳)
静脈グラフトを用いた血行再建手術における動脈圧負荷での内膜肥厚に関する研究のためのウサギ頚静脈置換モデル
DOI
10.3791/60931
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (159), e60931, doi:10.3791/60931 (2020)
著者名(敬称略)
西尾 博臣、升本 英利 他
所属
京都大学大学院医学研究科 心臓血管外科学

抄訳

 静脈グラフト(移植片)は、虚血性疾患の血行再建手術における自家血管グラフトとして一般的に使用されていますが、静脈に対する動脈圧負荷による内膜肥厚のため、長期開存性は依然として低いままです。本プロトコルは、ウサギ頚静脈を同側頚動脈に移植することにより、実験的に静脈内膜肥厚を再現するものです。このプロトコルは体表・皮下脂肪層までの深さの外科的処置のみで完結でき、切開の範囲も限られているため、動物にとって侵襲が低く、移植後の長期観察が可能です。このプロトコルにより、研究者は移植された静脈グラフトの内膜肥厚の進行を抑制する方法に関する研究を行うことができます。例えばこのプロトコルを使用して、我々はこれまでに、血管平滑筋細胞の表現型を増殖型から分化型(非増殖型)に制御することが知られているmicroRNA-145による静脈グラフトの内膜肥厚抑制効果を示すことが出来ました。

論文掲載ページへ

2020/05/18

日本の高齢者介護施設入所者間で広がっている大腸菌ST131 C1/H30Rが保有するblaCTX-M-27/F1:A2:B20プラスミドの特徴

論文タイトル
Characterization of blaCTX-M-27/F1:A2:B20 Plasmids Harbored by Escherichia coli Sequence Type 131 Sublineage C1/H30R Isolates Spreading among Elderly Japanese in Nonacute-Care Settings
論文タイトル(訳)
日本の高齢者介護施設入所者間で広がっている大腸菌ST131 C1/H30Rが保有するblaCTX-M-27/F1:A2:B20プラスミドの特徴
DOI
10.1128/AAC.00202-20
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 3
著者名(敬称略)
松尾 奈緒、野々垣里奈、川村 久美子 他
所属
名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻 病態解析学講座

抄訳

 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌においては、CTX-M-27産生大腸菌ST131 C1/H30Rクローンの世界的蔓延が問題視されているが、そのプラスミドの特徴や拡散プロセスについては未だ不明な点が多い。
 本研究では高齢者介護施設入所者由来のCTX-M-27産生大腸菌ST131 C1/H30Rが保有するプラスミドの全塩基配列を特定し、健常人由来のそれと比較することで、blaCTX-M-27保有プラスミドの特徴を明らかにすることを目的とした。
 高齢者由来プラスミドのMLSTは多くがF1:A2:B20に属しており、その特徴から3つのグループに分類することができた。1つめは耐性遺伝子としてblaCTX-M-27のみを有し、senB遺伝子を含む約30kbpの領域を欠くもの、2つめはblaCTX-M-27以外にテトラサイクリンやストレプトマイシンなど数種類の耐性遺伝子を保有するプラスミドで、タイで分離されたプラスミドに類似するもの、3つめはさらにアミノグリコシド耐性遺伝子など9種類の耐性遺伝子を保有するプラスミドで、ドイツで報告された臨床分離株由来のプラスミドと高い類似性(100% query coverage, >98% nucleotide identity)を示すものであった。
 このように、我が国の介護施設で生活する高齢者の間にも、すでに海外で広まっているblaCTX-M-27/F1:A2:B20プラスミドと基本構造が類似する複数のプラスミドが広まっていることが明らかとなった。さらなる研究として、blaCTX-M-27保有プラスミド拡散プロセスを明らかにすることが必要であると考える。

論文掲載ページへ

2020/04/27

ホスホイノシタイド代謝酵素synaptojanin1、PI3K-C2αおよびINPP4Bを介するホスホイノシタイド変換がTGFβ受容体エンドサイトーシス及びSmad2/3活性化に必須である

論文タイトル
TGFβ receptor endocytosis and Smad signaling require synaptojanin1, PI3K–C2α-, and INPP4B-mediated phosphoinositide conversions
論文タイトル(訳)
ホスホイノシタイド代謝酵素synaptojanin1、PI3K-C2αおよびINPP4Bを介するホスホイノシタイド変換がTGFβ受容体エンドサイトーシス及びSmad2/3活性化に必須である
DOI
10.1091/mbc.E19-11-0662
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 31, Issue 5(319-396)
著者名(敬称略)
安藝 翔, 多久和 陽
所属
金沢大学医薬保健研究域 医学系 血管分子生理学分野

抄訳

 膜動現象の作動には形質膜や細胞内小器官膜の適所におけるグリセロリン脂質ホスホイノシタイド (PPI)の産生と分解が必要である。3’リン酸化PPIの合成酵素PI3KにはI〜III型の3クラスが存在し、最も研究の進んでいるI型PI3KはPI(3,4,5)P3を産生して細胞遊走や細胞増殖に関与し、III型PI3K-Vps34はPI(3)Pを産生してオートファジーを制御する。
 一方、主としてPI(3,4)P2を産生するII型PI3Kの機能は、著者らがPI3K-C2α KOマウスの致死性血管新生障害の表現型を報告するまで不明の点が多かった。血管内皮細胞において血管新生因子TGFβは形質膜でPI3K-C2α依存的にPI(3,4)P2産生を誘導し、Smadシグナル活性化した。
 TGFβによるSmadシグナル活性化はクラスリン依存的なTGFβ受容体エンドサイトーシスに依存し、エンドサイトーシスには、PI3K-C2αの他に5’-ホスファターゼsynaptojanin1 (Synj1) および4’-ホスファターゼINPP4Bが必要であった。TGFβはTGFβ受容体I型サブユニットALK5活性化を介してSynj1による形質膜PI(4,5)P2のPI(4)Pへの変換を引き起こし、次いで産生されたPI(4)PはPI3K-C2αによりPI(3,4)P2に変換され、さらにPI(3,4)P2はINPP4BによってPI(3)Pに変換された。TGFβ受容体エンドサイトーシスとSmad活性化には、Synj1、PI3K-C2α、INPP4Bのすべてが必要であった。TGFβはALK5を介してSynj1の形質膜への移行をひきおこしたが、興味深いことにSynj1の形質膜移行およびPI(4,5)P2のPI(4)Pへの変換にはPI3K-C2αが必要であり、形質膜でSynj1とPI3K-C2αは共局在した。
 以上から、PI3K-C2αはSynj1、INPP4Bと共同してPPIカスケードを賦活し、このカスケードはTGFβ受容体エンドサイトーシスとその後のエンドソームでのシグナリングに必須であった。また、TGFβはALK5を介したPI3K-C2α依存的な機構によって、Synj1の形質膜移行とPPIカスケード活性化を惹起することが明らかとなった。

論文掲載ページへ

2020/04/22

Surveyor Nuclease assayによるAspergillus fumigatusでの変異cyp51Aの簡易検出法

論文タイトル
A Simple Method To Detect Point Mutations in Aspergillus fumigatus cyp51A Gene Using a Surveyor Nuclease Assay
論文タイトル(訳)
Surveyor Nuclease assayによるAspergillus fumigatusでの変異cyp51Aの簡易検出法
DOI
10.1128/AAC.02271-19
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Volume 64, Issue 4
著者名(敬称略)
新居 鉄平、渡辺 哲 他
所属
千葉大学真菌医学研究センター臨床感染症分野

抄訳

深在性真菌症、とくにアスペルギルス症は増加傾向にある。本症は極めて重篤で致死率も高く、医療上の問題となっている。主要な原因菌はAspergillus fumigatusであり、治療の第一選択薬はアゾール系抗真菌薬である。一方、近年アゾール耐性A. fumigatusの増加が世界的に深刻化している。耐性の主要なメカニズムは、アゾール標的分子Cyp51Aのhot spotアミノ酸変異による薬物親和性の低下であると考えられている。この研究では、2本鎖DNA内のミスマッチ箇所を特異的に切断するendonuclease であるSurveyor Nucleaseを用い、cyp51Aの変異検出方法の開発を試みた。cyp51Aに点変異を有するアゾール耐性株(変異株)17株と同遺伝子に変異を持たないアゾール感性株(野生株)31株とを使用して、検出法の性能を検証した。Surveyor Nuclease assayによって、cyp51A変異株と野生株とは明確に区別可能で、単一のプライマーセットで複数の変異を検出できた。Surveyor Nuclease assayは、cyp51Aの変異を簡便迅速に検出でき、アスペルギルス症の適切な治療薬の選択に寄与しうる検査法である。

論文掲載ページへ

2020/04/22

地域住民において塩分過剰摂取の成人を抽出するためのスクリーニングツールの開発と妥当性の検証

論文タイトル
Screening tool for identifying adults with excessive salt intake among community-dwelling adults: a population-based cohort study
論文タイトル(訳)
地域住民において塩分過剰摂取の成人を抽出するためのスクリーニングツールの開発と妥当性の検証
DOI
10.1093/ajcn/nqaa003
ジャーナル名
American Journal of Clinical Nutrition
巻号
American Journal of Clinical Nutrition Vol.111 No.4 (814–820)
著者名(敬称略)
佐々木 彰 福間 真悟 他
所属
飯塚病院 腎臓内科/臨床研究支援室
京都大学大学院 社会健康医学系専攻 医療疫学分野

抄訳

塩分過剰摂取は、高血圧や血管イベントなどの原因となりうるため重要な因子であることが広く知られている。一方で、地域住民レベルでの減塩は未だ十分ではない。減塩を推進するためには、塩分摂取量を測定し塩分過剰摂取の対象を抽出するのが効率的であり、尿からの1日塩分摂取量の測定が一般的に実施されている。しかし、尿検査には、検査機器および尿検体が必須であり、コストも要するため、検査を広く実施するには制約が多いのが問題であった。今回、我々は、Delphi法を用いて作成した質問紙を用い、福島県の棚倉町で住民を対象とした調査を経て、塩分過剰の可能性の高い対象を抽出するための簡便なスクリーニングツールを開発し妥当性を検証した。質問紙の内容は、国や地域で変わりうるが、本スクリーニングツール作成のプロセスは、他地域でも比較的容易に実装可能と考えられる。

論文掲載ページへ

2020/04/10

RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSoloはケラチンネットワークとRho-ROCK経路を介して細胞集団移動の移動速度を減速する

論文タイトル
The Rho-guanine nucleotide exchange factor Solo decelerates collective cell
migration by modulating the Rho-ROCK pathway and keratin networks
論文タイトル(訳)
RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSoloはケラチンネットワークとRho-ROCK経路を介して細胞集団移動の移動速度を減速する
DOI
10.1091/mbc.E19-07-0357
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 31, Issue 8
著者名(敬称略)
磯崎友亮、大橋 一正 他
所属
東北大学 大学院生命科学研究科

抄訳

細胞の集団移動は組織形態形成や創傷治癒、癌の浸潤などに重要な働きをする細胞の振る舞いであるが、その分子機構は不明な点が多い。私たちは、これまで、RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSolo (別名ARHGEF40)が、細胞への張力負荷によるRhoAの活性化とケラチン8/18(K8/K18)繊維の細胞質における正常な配置に必要であることを明らかにしていた。本論文では、上皮細胞の集団移動に注目しSoloの機能解析を行った。腎上皮由来MDCK細胞においてSoloを発現抑制した場合、集団移動の速度が有意に加速し、一方、ばらばらな状態では個々の細胞の移動速度に影響しないことを発見した。また、Soloは、集団移動時の細胞の前後の細胞間接着部位に集積し、K8/K18繊維束の細胞前方への集積に必要であった。さらに、ROCKの阻害、K18やデスモソーム蛋白質のプラコグロビンの発現抑制によっても集団移動速度が上昇した。これらの結果から、Soloは、デスモソームを含む細胞間接着部位において、ケラチン繊維とRho-ROCK経路を介して前方の細胞を引っ張り返す力の発生に寄与し、集団移動のブレーキとして機能すると考えられる。

論文掲載ページへ

2020/03/30

Mycoplasma bovis乳房炎におけるウシ単核球の免疫抑制

論文タイトル
Immunosuppression in Cows following Intramammary Infusion of Mycoplasma bovis
論文タイトル(訳)
Mycoplasma bovis乳房炎におけるウシ単核球の免疫抑制
DOI
10.1128/IAI.00521-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity  Volume 88, Issue 3
著者名(敬称略)
権平 智、樋口豪紀 他
所属
酪農学園大学 獣医学類 獣医衛生学ユニット

抄訳

Mycoplasma bovisはウシに甚大な経済的損失を招来する病原体である。M. bovis感染症における病態形成過程での免疫応答には不明な点が多く、その詳細は明らかとなっていない。本研究ではM. bovisによる代表的な疾患である乳房炎に着目し、M. bovis乳房炎に対する免疫応答の解明を目的として、ウシ乳腺腔内にM. bovisを注入することで乳房炎モデルを作出しその免疫応答性を評価した。M. bovis注入により乳汁中の体細胞数は顕著に増加し、乳腺腔内で免疫応答が発動することが認められた。しかしながら、M. bovis再刺激による末梢血および乳房リンパ節における単核球の増殖反応は認められなかった。末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析から、自然免疫応答に関連する因子の減少が認められ、また、末梢血および乳汁の単核球においてM. bovis感染により免疫疲弊化因子が増加することが明らかとなった。M. bovisはウシ単核球に対して免疫応答の抑制および免疫抑制因子を増加させることが示唆され、M. bovis感染症におけるウシの病態形成には免疫抑制が要因となることが考えられた。

論文掲載ページへ

2020/03/30

シトロバクターロデンティウムの腸感染におけるタンパク質分泌システムTatの役割

論文タイトル
Twin-Arginine Translocation System Is Involved in Citrobacter rodentium Fitness in the Intestinal Tract
論文タイトル(訳)
シトロバクターロデンティウムの腸感染におけるタンパク質分泌システムTatの役割
DOI
10.1128/IAI.00892-19
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity  Volume 88, Issue 3
著者名(敬称略)
大竹 剛史、三木 剛志 他
所属
北里大学薬学部 微生物学教室

抄訳

タンパク質分泌システムのTat(twin-arginine translocation)は細菌に特有であり、病原細菌の病原性発現に関与することから、Tatは感染症治療の新たなターゲットとして期待される。我々は腸管出血性大腸菌(EHEC)や腸管病原性大腸菌(EPEC)感染症のマウスモデル病原菌であるシトロバクターロデンティウムの腸感染におけるTatの役割を明らかにした。Tatが機能不全であるシトロバクターロデンティウム株(Tat変異株)は野生株と比較して、持続的に腸管内に定着した。これは、Tat変異株により誘導される炎症レベルの低下が原因であり、Tat変異株の感染マウスでは腸管内からの本菌の排除に重要な役割を担う好中球の腸粘膜上皮への遊走量が減少した。さらに、Tat変異株は胆汁酸に対する抵抗能が減弱し、また、腸管内胆汁酸レベルの調節によりシトロバクターロデンティウムの腸管内定着量が制御されることを見出した。本研究の結果より、EHECやEPEC感染症に対する新たな感染制御法として、Tatや胆汁酸レベルの制御が期待される。

論文掲載ページへ

2020/03/27

小腸内分泌L細胞株におけるアミノ酸受容体を介したグルタミン誘導性シグナル経路

論文タイトル
Glutamine-induced signaling pathways via amino acid receptors in enteroendocrine L cell lines
論文タイトル(訳)
小腸内分泌L細胞株におけるアミノ酸受容体を介したグルタミン誘導性シグナル経路
DOI
10.1530/JME-19-0260
ジャーナル名
Journal of Molecular Endocrinology
巻号
Vol.64 No.3 (133–143)
著者名(敬称略)
中村 匠, 原田 一貴, 神谷泰智, 坪井 貴司 他
所属
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系

抄訳

 小腸内分泌L細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド1(Glucagon-like peptide-1: GLP-1)は、膵β細胞からのグルコース依存的に起こるインスリン分泌を増強し、グルコース代謝の重要な役割を担う。GLP-1分泌は、消化管管腔内のグルコースや脂質、そしてアミノ酸などの栄養素により誘導される。この分泌には、細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)とcAMP濃度([cAMP]i)上昇が重要であるが、アミノ酸によるGLP-1分泌制御機構は不明である。
 本研究では、マウス小腸内分泌L細胞由来GLUTag細胞株内での、L-グルタミンによる[Ca2+]iと[cAMP]i上昇機構について解析した。細胞外Na+濃度を低下させ、ナトリウム依存性グルコース輸送体の機能を阻害したところ、L-グルタミン投与による[Ca2+]i上昇は観察されなかった。一方、taste receptor type 1 member 3(TAS1R3)の阻害剤投与は、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇を抑制した。CRISPR/Cas9を用いて、TAS1R3と、それとヘテロ二量体を形成するTAS1R1の変異GLUTag細胞株を樹立した。TAS1R1変異GLUTag細胞株は、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇を示した。一方、一部のTAS1R3変異GLUTag細胞株では、[cAMP]i上昇やGLP-1分泌を示さなかった。これらの結果は、TAS1R3が、既知の経路とは異なる形で、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇とGLP-1分泌に重要な役割を担っていることを示唆している。

論文掲載ページへ