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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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日本人論文紹介:一覧

2025/03/18

枯草菌のシャペロンDnaJKは、YlxR (RnpM)/RNase P複合体を通じて遺伝子発現の転写後制御を行う

論文タイトル
The DnaJK chaperone of Bacillus subtilis post-transcriptionally regulates gene expression through the YlxR(RnpM)/RNase P complex
論文タイトル(訳)
枯草菌のシャペロンDnaJKは、YlxR (RnpM)/RNase P複合体を通じて遺伝子発現の転写後制御を行う
DOI
10.1128/mbio.04053-24
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Vol. 16 No. 3
著者名(敬称略)
小倉 光雄 (筆頭で連絡著者を兼ねる)
所属
東海大学 海洋研究所
著者からのひと言
この論文の主要な発見は、1980年代に開発された手法であるlacZと標的遺伝子の翻訳fusionを使った遺伝学的解析で見出された。直接mRNAを測定するNorthernやtranscriptome解析では、このように複雑なタンパク質相互作用とmRNA代謝を含む制御系の解析はできなかった。もちろん、最初の発見をゲノムワイドに拡張して一般化する際には、RNA-seqのような次世代シーケンサを使った解析が力を発揮した。本研究は温故知新の典型である。

抄訳

小倉らは2018年にYlxRタンパク質がDNAに非特異的に結合し、かつ400程度の遺伝子の発現を制御している事を報告した(mSphere 3:10.1128)。つまりYlxRは塩基配列特異的なDNA結合性の転写制御因子ではなかった。2024年にゲッチンゲン大学のグループがYlxRはRNA分解酵素RNase P(タンパク質RnpAとRNA成分RnpBからなるリボザイム)に特異的に結合しその酵素活性を調節していると報告した(NAR 52:1404)。小倉らは種々の遺伝学的解析で、タンパク質の立体構造保持に働くシャペロンDnaJK複合体がYlxRを通じてRNase P複合体の酵素活性を調節している事を見出した。DnaJKが働き新生ペプチド鎖がうまく折りたたまれていると、RNase P活性を抑えるので翻訳進行中のmRNAは分解されない。しかし、何かの不具合でDnaJKが働かず不良タンパク質ができるとRNase Pは活性化されmRNAを分解し、細胞は無駄な仕事を行うエネルギーを節約できる。

 

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2025/03/17

日本で初めて臨床材料から分離されたParvimonas parvaの完全長ゲノム配列

論文タイトル
Complete genome sequence of Parvimonas parva: first isolate of a human clinical specimen from Japan
論文タイトル(訳)
日本で初めて臨床材料から分離されたParvimonas parvaの完全長ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.01252-24
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14 No. 3
著者名(敬称略)
林 将大 他
所属
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 嫌気性菌研究分野
岐阜大学 高等研究院 微生物遺伝資源保存センター(GCMR)

抄訳

Parvimonas parva は、2021年に新種登録されたPeptoniphilaceae 科に属する偏性嫌気性のグラム陽性球菌である。本菌は発見から日が浅いこともあり、臨床的意義や病原因子に関する知見は見当たらない。
本論文では、泌尿生殖器系に腫瘍を持つ高齢女性の尿サンプルから分離された後、種レベルでの同定不能株として2015年に保存されていたParvimonas sp. GAI15033についてP. parvaであることを確認し、その完全長ゲノムを決定し報告している。解析の結果、P. parva GAI15033のゲノムは1,447,534 bpの円形染色体で構成されていた。本菌は日本で初めて分離同定されたP parvaであり、本ゲノム解析が実施されたP. parvaとしては菌種提案論文に次いで2株目である。本菌における病原性の解明に資する一報と考える。

 

 

 

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2025/03/17

SLFN11はリボゾーム生合成障害を介してTP53非依存的なアポトーシスを起こす

論文タイトル
SLFN11-mediated ribosome biogenesis impairment induces TP53-independent apoptosis
論文タイトル(訳)
SLFN11はリボゾーム生合成障害を介してTP53非依存的なアポトーシスを起こす
DOI
10.1016/j.molcel.2025.01.008
ジャーナル名
Molecular Cell
巻号
Molecular Cell Volume 85, Issue 5
著者名(敬称略)
小川茜、泉川桂一、田手壮太、村井純子 他
所属
愛媛大学先端研究院プロテオサイエンスセンター
著者からのひと言
がん化学療法は、半世紀以上にわたり多くの患者に用いられていますが、実臨床において効果を予測できるバイオマーカーがありません。SLFN11は、がんの種類によりますが、約半分のがんで発現し、一般病院で広く行われている病理検査を利用することで検出が可能です。私は「化学療法にも精密医療を!」をスローガンに、SLFN11研究の基礎研究と臨床応用に向けて邁進しています。SLFN11にご興味がある臨床の先生がおられましたら、気軽にご連絡ください。

抄訳

約半数のがん細胞で発現し、かつ化学療法剤の抗がん効果を高めるSLFN11遺伝子は、化学療法の効果予測バイオマーカーとして最近注目されているが、効果を高めるメカニズムについては不明な点が多かった。本論文では、化学療法剤であるトポイソメラーゼ1阻害剤投与下で、SLFN11がリボゾームの構成要素であるリボゾームRNAの合成を低下させることを発見した。リボゾームRNAの低下をトリガーに、リボゾームの機能が低下し、翻訳が著しく障害された。翻訳障害によって、半減期の短いタンパク質が優先的に減少したが、その中には抗アポトーシス作用を持つMCL1(半減期1時間)が含まれており、このMCL1の減少がSLFN11によって引き起こされるアポトーシスの原因の一つだった。本研究によって、化学療法剤の効果予測バイオマーカーとしてのSLFN11の機能が明らかとなった。

 

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2025/03/17

Streptococcus mutans の細胞壁糖転移酵素が本菌のマウス各臓器への分布に与える影響

論文タイトル
Cell wall glycosyltransferase of Streptococcus mutans impacts its dissemination to murine organs
論文タイトル(訳)
Streptococcus mutans の細胞壁糖転移酵素が本菌のマウス各臓器への分布に与える影響
DOI
10.1128/iai.00097-24
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Vol. 93 No. 3
著者名(敬称略)
瀧澤 智美 他
所属
日本大学松戸歯学部 感染免疫学講座

抄訳

う蝕病原細菌のStreptococcus mutansは全身疾患に関与することが知られている。本菌が産生するグルカン合成酵素や細胞壁の糖転移酵素(RgpI)はう蝕病原因子であることが報告されている。そこで、これらの酵素が全身疾患へ関与する可能性について検討した。RgpI遺伝子を欠損したS. mutans、グルカン合成能が低下した変異株、野生株にルシフェラーゼ遺伝子を組込んだ菌体を作成後、マウスへ経尾静脈接種し、各臓器への分布を調べた。その結果、脾臓と腎臓からルシフェラーゼによる強い発光シグナルが検出された。野生株を接種したマウスで最も強く、これに比較すると低グルカン合成変異株を接種したマウスでは弱い発光であった。これら2種類の菌体を接種したマウスでは血中から炎症性サイトカインが検出され、生存率が減少した。一方、RgpI欠損株を接種したマウスでは発光量、血中の炎症性サイトカイン量が最も低く生存率100%であった。したがって、RgpIは全身疾患における病原因子である可能性が示唆された。

 

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2025/03/14

中温絶対寄生性の新属新種バクテリアMinisyncoccus archaeiphilusの記載と、新科 Minisyncoccaceae、新目 Minisyncoccales、新綱 Minisyncoccia、およびCandidatus Patescibacteria/candidate phyla radiation を新門 Minisyncoccotaとして提案

論文タイトル
Minisyncoccus archaeiphilus gen. nov., sp. nov., a mesophilic, obligate parasitic bacterium and proposal of Minisyncoccaceae fam. nov., Minisyncoccales ord. nov., Minisyncoccia class. nov. and Minisyncoccota phyl. nov. formerly referred to as Candidatus Patescibacteria or candidate phyla radiation
論文タイトル(訳)
中温絶対寄生性の新属新種バクテリアMinisyncoccus archaeiphilusの記載と、新科 Minisyncoccaceae、新目 Minisyncoccales、新綱 Minisyncoccia、およびCandidatus Patescibacteria/candidate phyla radiation を新門 Minisyncoccotaとして提案
DOI
10.1099/ijsem.0.006668
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology Volume 75 Issue 2
著者名(敬称略)
中島 芽梨 Masaru K. Nobu(延優) 成廣 隆 黒田 恭平 他
所属
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門
著者からのひと言
未知バクテリアの巨大系統群であるCPRはヒトなどの動物や、自然環境、廃水処理場などの人工生態系内に普遍的に存在していますが、培養の困難さからそれらが生態系や人工バイオプロセスおよびそれが支えるバイオ産業などにどのような影響を与えるのか不明な点が数多く残されていました。我々は、自由に利用可能なCPRバクテリアの培養に成功し、公的な菌株保存機関に寄託することで世界中の研究者が利用できるようにしました。これにより、CPRバクテリアに関する研究分野の発展が期待されます。

抄訳

産業技術総合研究所の黒田恭平、中島芽梨、成廣隆らと、海洋研究開発機構のMasaru K. Nobu(延優)は、北海道大学、東北大学と共同で、メタン生成アーキアに寄生する超微小バクテリアの培養に成功し、新属新種として記載しました。共同研究グループは、廃水処理システムにおいて中心的な役割を担うメタン生成アーキアに寄生してその生理活性を低下させるバクテリアを、世界に先駆けて発見しており、今回その培養に成功しました。本研究は、約40億年前に進化的に分かれ、生物学的に大きく異なっているアーキアに寄生するバクテリアを培養した世界初の例です。「Minisyncoccus archaeiphilus」と命名したこのバクテリアは、寄生できる宿主の範囲が非常に狭く、宿主アーキアの特定部位にのみ感染することが観察されました。さらに、本培養株が属する未知バクテリア巨大系統群である「Candidate phyla radiation (CPR)」を新門「Minisyncoccota」と命名しました。本研究において系統学的に整理し、分離株を公的菌株保存機関へ寄託することにより、これまで謎に包まれていたCPRに属するバクテリアの生理や生態学的役割の理解が進むことが期待されます。

 

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2025/03/12

日本発の甲状腺クリーゼガイドラインは有用である:前向き多施設レジストリ研究より

論文タイトル
Prospective Multicenter Registry–Based Study on Thyroid Storm: The Guidelines for Management From Japan Are Useful
論文タイトル(訳)
日本発の甲状腺クリーゼガイドラインは有用である:前向き多施設レジストリ研究より
DOI
10.1210/clinem/dgae124
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 1, January 2025
著者名(敬称略)
古川 安志 赤水 尚史 他
所属
隈病院/和歌山県立医科大学 内科学第一講座 
著者からのひと言
甲状腺クリーゼの致死率は10%を超えると報告されてきた。その予後を改善すべく、著者らはこれまでに診断基準の確立、全国疫学調査による実態調査を行い、さらに世界初の診療ガイドラインを作成してきた。今回、同ガイドラインの妥当性を検証するために、全国多施設前向きレジストリ調査を行った。その結果、登録された患者が前回の調査に比してより重症であるにも関わらず、致死率が5.5%と半減していることが判明し、同ガイドラインの有用性が示された。

抄訳

背景:甲状腺機能亢進症(TS)の死亡率は10%以上と報告されている。
目的:日本甲状腺学会と日本内分泌学会が提唱した2016年のTS診療ガイドラインの有効性を評価した。
方法:WEBプラットフォーム(REDCap)を用いて、前向きに全国の多施設から患者登録を行ってもらうレジストリ研究を実施した。即ち、新規発症時にTS患者が登録され、その後入院後30日目と180日目に各患者の臨床情報と予後が報告された。
結果:4年間で 110例のTS患者が登録された。APACHE IIスコアの中央値は13点であり、以前の全国疫学調査のスコアである10点よりも高くより重症であった(p=0.001)。それにもかかわらず、30日目の死亡率は5.5%と、前回の全国調査の10.7%に比較して約半減していた。左室駆出率低下、低BMI、ショック、38℃以上の発熱がないことが予後不良因子であった。当診療ガイドラインに従わなかった場合、ガイドラインに従った場合の死亡率より有意に高かった(50% vs 4.7%, p=0.01)。
結論:予後は前回の全国調査よりも良好であり、半減していた。診療ガイドラインに従った場合、死亡率は有意に低値であった。以上より、本ガイドラインはTS診療に有用であることが示された。

 

 

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2025/03/12

ファージ特異的抗体:ファージセラピー成功の障壁となるか?

論文タイトル
Phage-specific antibodies: are they a hurdle for the success of phage therapy?
論文タイトル(訳)
ファージ特異的抗体:ファージセラピー成功の障壁となるか?
DOI
10.1042/EBC20240024
ジャーナル名
Essays in Biochemistry
巻号
Essays Biochem (2024) 68 (5): 633–644
著者名(敬称略)
鷲﨑 彩夏 安藤 弘樹 他
所属
岐阜大学大学院 医学系研究科 ファージバイオロジクス研究講座
著者からのひと言
本総説が公表されるにあたり、当研究室の満仲 耀(みつなか ひかる)さんのイラストがEssays in Biochemistryのカバーイメージに採用されました。ファージ特異的抗体に対して ”barrier” をまとった改変型ファージを描いています。ぜひご覧ください。

抄訳

薬剤耐性菌の蔓延に伴い、ファージセラピーが注目されている。ファージセラピーは細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージ(ファージ)を利用した細菌感染症に対する治療法であり、その有効性は多数報告されてきた。一方、治療中に産生されるファージ特異的抗体は体内でのファージの代謝を早めたり、ファージを中和して細菌への感染能を失わせたりするため、ファージセラピーへの影響が懸念されている。ファージ特異的抗体については、in vitroや非臨床試験などで研究が進められており、例えば、ファージを修飾することで抗体に認識されにくくする、血中での半減期を伸ばす、といった研究が報告されている。しかしながら、臨床試験ではファージ特異的抗体の影響について相反する結果が得られており議論が続いている。本総説ではファージ特異的抗体に焦点をあて、具体的な臨床試験の結果を挙げながらファージ特異的抗体がファージセラピーに与える影響について解説する。さらに、ファージ特異的抗体の影響を最小限にする取り組みについても紹介する。

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2025/03/12

甲状腺クリーゼに対するヨウ素の効果:観察研究

論文タイトル
Potassium Iodide Use and Patient Outcomes for Thyroid Storm: An Observational Study
論文タイトル(訳)
甲状腺クリーゼに対するヨウ素の効果:観察研究
DOI
10.1210/clinem/dgae187
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 2, February 2025
著者名(敬称略)
松尾 裕一郎
所属
東京大学大学院医学系研究科 社会医学専攻 臨床疫学・経済学
著者からのひと言
理論的には、ヨウ素はバセドウ病による甲状腺中毒症に対して効果が期待されるが、バセドウ病以外の疾患による甲状腺中毒症では効果を期待できない。今回の研究では、甲状腺クリーゼにおいてもその傾向が確認され妥当な結果である。一方で実際の臨床場面では、甲状腺クリーゼの診断段階では背景の甲状腺疾患が明確に特定できないこともある。本研究でバセドウ病の診断が無い患者でもヨウ素の投与により院内死亡率は上昇しなかったことから、たとえ初診時に背景の甲状腺疾患が不明であってもヨウ素を投与することは許容されると考えられる。

抄訳

【背景】多くの臨床ガイドラインにおいて、甲状腺クリーゼの初期治療として抗甲状腺薬、β遮断薬、ステロイドに加えてヨウ素の使用が推奨されている。しかし、甲状腺クリーゼに対するヨウ素の臨床効果を検証した研究は乏しい。【方法】厚生労働科学研究DPCデータ調査研究班のデータベースを利用した後ろ向きコホート研究を実施した。2010年7月から2022年3月までに甲状腺クリーゼにより入院した患者を同定し、入院2日以内にヨウ素を投与された患者(ヨウ素投与群)と投与されなかった患者(ヨウ素非投与群)の院内死亡を、ロジスティック回帰分析により比較した。また、背景疾患としてのバセドウ病の診断の有無で層別化したサブグループ解析も実施した。【結果】3,188人(ヨウ素投与群 2,350人、ヨウ素非投与群 838人)の甲状腺クリーゼ患者が対象となり、粗院内死亡率はそれぞれ6.1%と7.8%であった。ヨウ素非投与群を対照とするヨウ素投与群の院内死亡の調整後オッズ比は0.91(95%信頼区間 0.62–1.34)で有意差を認めなかった。バセドウ病患者では調整後オッズ比 0.46(95%信頼区間 0.25–0.88)とヨウ素投与群で院内死亡率が有意に低く、非バセドウ病患者では調整後オッズ比 1.11(95%信頼区間 0.67–1.85)と有意差を認めなかった。【結論】バセドウ病による甲状腺クリーゼ患者では、ヨウ素の投与により院内死亡率が低下する可能性が示唆される。

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2025/03/11

RNA結合タンパク質NrdAの過剰発現によるAspergillus属糸状菌の二次代謝の変化

論文タイトル
Overexpression of the RNA-binding protein NrdA affects global gene expression and secondary metabolism in Aspergillus species
論文タイトル(訳)
RNA結合タンパク質NrdAの過剰発現によるAspergillus属糸状菌の二次代謝の変化
DOI
10.1128/msphere.00849-24
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere Vol. 10 No. 2
著者名(敬称略)
門岡 千尋 二神 泰基 他
所属
鹿児島大学 農学部 附属焼酎・発酵学教育研究センター
著者からのひと言
Aspergillus 属を含むチャワンタケ亜門のゲノムにおいて、nrdA 遺伝子は、クエン酸合成酵素遺伝子 citAおよびクエン酸輸送体遺伝子 yhmAと共にシンテニー領域に存在しています。私たちは白麹菌におけるクエン酸高生産機構の全容解明を目指しており、NrdAの研究を開始しました。このシンテニーに意味があるのかは未だ不明ですが、NrdAが二次代謝に関与することが明らかになりました。

抄訳

酵母において、RNA結合タンパク質Nrd1はRNA polymerase IIによる転写の終結に関与する。本研究では、Aspergillus属糸状菌においてNrdA(Nrd1のホモログ)の機能を解析し、二次代謝への関与を明らかにした。まず、白麹菌Aspergillus kawachiiにおいてRNA免疫沈降(RIP)解析を行い、NrdAがタンパク質コード遺伝子の約32%のmRNAと相互作用することが示唆された。また、NrdAの過剰発現が二次代謝に影響を及ぼすことが示唆された。そこで、モデル菌Aspergillus nidulans、病原性糸状菌Aspergillus fumigatus、黄麹菌Aspergillus oryzaeにおいてNrdAを過剰発現させた結果、ペニシリンなどの二次代謝産物の生産量が変化することが確認された。

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2025/03/11

バンドパスフィルターを通過した222-nm遠紫外線によって生成される活性酸素種は大腸菌に対する殺菌機序において重要な役割を果たす

論文タイトル
Reactive oxygen species generated by irradiation with bandpass-filtered 222-nm Far-UVC play an important role in the germicidal mechanism to Escherichia coli
論文タイトル(訳)
バンドパスフィルターを通過した222-nm遠紫外線によって生成される活性酸素種は大腸菌に対する殺菌機序において重要な役割を果たす
DOI
10.1128/aem.01886-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Vol.91 No.2
著者名(敬称略)
成田 浩司 中根 明夫 他
所属
弘前大学大学院医学研究科感染生体防御学講座
著者からのひと言
我々の研究室はfiltered 222-nm Far-UVCの病原体への殺菌有効性だけでなく、哺乳類での安全性についての研究を進めてきました。近年、医療環境や食品衛生分野等の感染リスクが高い領域の有人環境で、filtered 222-nm Far-UVCが利用され始めています。光回復は紫外線殺菌の課題の一つでした。殺菌用途において、filtered 222-nm Far-UVCにおける光回復阻害は大きなメリットです。光回復阻害の機序が明らかになることで、filtered 222-nm Far-UVCによる新たな殺菌戦略の構築が期待されます。

抄訳

従来から殺菌に使用されている紫外線(254-nm UVC)は哺乳類に対し有害である。一方、バンドパスフィルターを装着したKrClエキシマランプが発するUVC(filtered 222-nm Far-UVC)は殺菌作用を持つが哺乳類に対する安全性が高い。254-nm UVCは細菌にDNA損傷の一種であるシクロブタン型ピリミジン二量体 (CPD) を誘導し殺菌作用を示す。しかし細菌は光回復によってCPDを修復し増殖能を回復する。ところがfiltered 222-nm Far-UVCで大腸菌に誘導されたCPDは光回復で修復されなかった。さらにfiltered 222-nm Far-UVCを照射された大腸菌では活性酸素種(ROS)、カルボニル化タンパク質の増加、菌体の形態変化が見られた。これらの結果からfiltered 222-nm Far-UVCによって生成されたROSがその殺菌機序に重要な役割を果たしている可能性がある。

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