本文へスキップします。

H1

国内研究者論文紹介

コンテンツ

ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

論文検索

(以下、条件を絞り込んで検索ができます。)

日本人論文紹介:検索
日本人論文紹介:一覧

2025/06/18

B型肝炎ウイルス複製に機能するウイルス因子HBx複合体の構造機能解析 New

論文タイトル
Structural basis of the hepatitis B virus X protein in complex with DDB1
論文タイトル(訳)
B型肝炎ウイルス複製に機能するウイルス因子HBx複合体の構造機能解析
DOI
10.1073/pnas.2421325122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.24
著者名(敬称略)
田中 大貴 町田 晋一 他
所属
国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 ウイルス構造機能研究部
著者からのひと言
これまで、HBxはHBVの根治治療の標的として注目されていましたが、その難溶性の性質から、構造解析が進んでいませんでした。私たちは、HBV感染細胞にて、HBxがDDB1と複合体を形成して機能することをヒントに、大量かつ精製度の高い複合体の調製に成功し、構造解析および生化学的解析を進めることができました。HBxとDDB1との相互作用を阻害する薬剤の開発は、HBV増殖の中核を担うcccDNAを標的とした新規治療法戦略として期待され、本成果はB型慢性肝炎に対する新たな治療戦略の基盤となることが期待されます。

抄訳

B型肝炎ウイルス(HBV)の根治治療では、HBV完全閉環二本鎖DNA (cccDNA)の排除困難性が大きな課題となっている。cccDNAはウイルスRNA転写の鋳型として機能し、その転写活性制御が根治治療の鍵となる。特に、HBV Xタンパク質(HBx)は、宿主因子DDB1と複合体を形成し、cccDNAからの転写促進に機能する。本研究では、HBx-DDB1複合体を精製タンパク質複合体として調製し、クライオ電子顕微鏡により、その立体構造を解明した。さらに、高速原子間力顕微鏡により、構造決定が困難であったHBx領域の構造動態を明らかにした。また、生化学的解析により、宿主の転写制御因子群との相互作用を解析し、HBx-DDB1複合体によるcccDNA転写制御機構を示した。

論文掲載ページへ

2025/06/17

血清レムナントコレステロール値と代謝機能障害関連脂肪性肝疾患の組織学的所見との関連 New

論文タイトル
Association Between Serum Remnant Cholesterol Level and Metabolic Dysfunction-associated Steatotic Liver Histology
論文タイトル(訳)
血清レムナントコレステロール値と代謝機能障害関連脂肪性肝疾患の組織学的所見との関連
DOI
10.1210/clinem/dgae597
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 6, June 2025, Pages e2064–e2070
著者名(敬称略)
三宅 映己 他
所属
愛媛大学大学院 医学系研究科医学専攻 消化器・内分泌・代謝内科学
著者からのひと言

抄訳

本研究では、肝生検により診断された222例の代謝機能障害関連脂肪性肝疾患患者を対象に、酵素法で測定した血清レムナントコレステロール(Rem-C)値と肝組織所見との関連を検討した。その結果、Rem-C値は肝脂肪蓄積、炎症、風船様変性など、NAFLD activity score(NAS)の構成要素と有意に関連し、特にNASが5以上の活動性の高い群で有意に高値を示した。性別別解析では、男性においてこの関連が明瞭であった。一方、Rem-C値と線維化ステージとの間には有意な関連は認められず、また計算式によって求めたRem-C値では、これらの組織所見との関連はみられなかった。以上より、計算値よりも実測されたRem-C値の方が代謝機能障害関連脂肪性肝疾患の病態をより的確に反映しており、特に男性では、血清Rem-C値の上昇が活動性の高い代謝機能障害関連脂肪性肝炎の存在を示唆する指標となる可能性があると考えられる。

論文掲載ページへ

2025/06/16

繊毛虫テトラヒメナのATG8ホモログであるTtATG8AおよびTtATG8Bは、飢餓によって誘導されるミトコンドリア分解に関与する New

論文タイトル
Tetrahymena ATG8 homologs, TtATG8A and TtATG8B, are responsible for mitochondrial degradation induced by starvation
論文タイトル(訳)
繊毛虫テトラヒメナのATG8ホモログであるTtATG8AおよびTtATG8Bは、飢餓によって誘導されるミトコンドリア分解に関与する
DOI
10.1128/mbio.00783-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Vol. 16, No. 6
著者名(敬称略)
松田 真弥 中野 賢太郎 他
所属
筑波大学生命環境系 オルガネラ細胞生物学研究室
著者からのひと言
本研究は、繊毛虫テトラヒメナが飢餓状態でミトコンドリアをどのように分解するかを明らかにした初の報告です。オートファジーに関わるTtATG8AとTtATG8Bの役割を解明し、飢餓時に細胞内のエネルギー源を効率的に調節する仕組みの理解が進みました。繊毛虫の飢餓適応やオルガネラ分解に興味のある方におすすめの内容です。

抄訳

従属栄養性の単細胞真核生物の多くは、飢餓状態を生き延びるための仕組みを進化させてきた。繊毛虫テトラヒメナは水中を活発に遊泳し、微生物を捕食して増殖する。本種では、多数のミトコンドリアが繊毛列に沿って細胞皮層に局在し、繊毛運動に必要なATPを効率よく供給している。飢餓状態になるとミトコンドリアは速やかに減少するが、その仕組みはこれまで不明であった。本研究により、ミトコンドリアの減少はオートファジーによって引き起こされることを明らかにした。ATG8ホモログ5種のうち、TtATG8AおよびTtATG8Bは飢餓に応答して顆粒状やカップ状の構造を形成し、ミトコンドリアと共局在した。光-電子相関顕微鏡法による解析では、TtATG8AまたはTtATG8Bと共局在するミトコンドリアがオートファゴソームに取り込まれ、内部のクリステ構造が破壊されていることを確認した。さらに、TtATG8AまたはTtATG8Bの発現を抑制するとミトコンドリアの減少が抑えられたことから、これら2つのATG8ホモログが飢餓時のミトコンドリア分解に重要な役割を果たすことが示された。

論文掲載ページへ

2025/06/16

ワクチン接種や自然感染によって誘導された中和抗体に対して感受性の低いロタウイルス遺伝子型の同定 New

論文タイトル
A rotavirus VP4 or VP7 monoreassortant panel identifies genotypes that are less susceptible to neutralization by systemic antibodies induced by vaccination or natural infection
論文タイトル(訳)
ワクチン接種や自然感染によって誘導された中和抗体に対して感受性の低いロタウイルス遺伝子型の同定
DOI
10.1128/mbio.00897-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
小瀧 将裕 小林 剛 他
所属
大阪大学 微生物病研究所 ウイルス免疫分野
著者からのひと言
本研究の強みは、私たちが開発したヒトロタウイルスのリバースジェネティクス系を用いて網羅的にリアソータントウイルスを作製した点です。現在ヒトで流行している臨床株に加えて、ヒトでの流行が確認されていない遺伝子型についても検討しました。特にVP7の遺伝子型に関しては、ほぼすべての型の遺伝子を人工合成し、網羅的にウイルスを作製しました。膨大な数のウイルス作製、中和試験の結果、中和感受性を規定する領域を同定することに成功しました。

抄訳

ロタウイルスは乳幼児に重篤な胃腸炎を引き起こし、世界ではいまだ年間約13万人の乳幼児がロタウイルス感染により死亡している。ロタウイルスはヒト以外の哺乳類にも感染し、外殻タンパク質VP4およびVP7の遺伝子型は約100種存在するが、その多様性が中和抗体感受性に与える影響は未解明であった。本研究では、ヒトロタウイルスOdelia株を基盤に、様々な遺伝子型のVP4またはVP7を置換したモノリアソータントウイルスを網羅的に作製し、それらの中和抗体感受性を解析した。その結果、VP4よりもVP7の遺伝子型が中和抗体感受性に対して大きな影響を及ぼすことが示された。また、コウモリ由来のG25およびG33などのVP7遺伝子型は、ワクチン接種または自然感染によって誘導される中和抗体に対する感受性が有意に低下していた。さらに、VP7のドメインIが中和感受性を規定する主要な領域であることも示唆された。これらの知見は、ロタウイルスワクチンの改良や将来的な流行株に対する予防戦略の構築に向けた重要な基盤となる。

論文掲載ページへ

2025/06/16

犬モデルにおける3種類の細菌外膜小胞を用いた歯周炎ワクチンの評価 New

論文タイトル
Assessment of periodontitis vaccine using three different bacterial outer membrane vesicles in canine model
論文タイトル(訳)
犬モデルにおける3種類の細菌外膜小胞を用いた歯周炎ワクチンの評価
DOI
10.1128/msphere.01033-24
ジャーナル名
mSphere
巻号
mSphere Volume 10 • Number 4 • 29 April 2025
著者名(敬称略)
中尾龍馬、中川(中村)知世、井上智 他
所属
国立健康危機管理研究機構

抄訳

 歯周病とは、歯周組織の慢性炎症から最終的に歯牙喪失の転帰をとる口腔感染症である。また、歯周病を起点に様々な非感染性疾患を誘発、増悪させる可能性が指摘されていることから、歯周病の病態解明と新たな制御手段の開発が強く望まれる。本研究では、実験用ビーグルを用い、3種類の細菌由来外膜小胞カクテル歯周病ワクチン(OMVs)による液性免疫および細菌叢への影響等につき約9ヶ月間観察、調査した。OMVsを3回経鼻投与後に皮下ブースター投与を行ったところ、歯周病原細菌に特異的な口腔のSIgA、血中のIgG等の抗体産生が強く誘導された。この短期間の観察において歯周病原細菌の明白な排除効果は確認されなかったが、当該ワクチン投与により口腔細菌叢を変化させること、ワクチンを投与されたビーグル血清中には、歯周病原細菌に対する阻害抗体が誘導されることが判明した。以上、非げっ歯類ヒト歯周病モデルとして有用なビーグル研究により導かれたこれらの重要な知見は、将来の合理的な歯周病ワクチン法の確立に寄与するものである。

論文掲載ページへ

2025/06/16

Regnase-1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17 signalingを制御し、大腸腫瘍の発育を抑制する New

論文タイトル
Epithelial Regnase-1 inhibits colorectal tumor growth by regulating IL-17 signaling via degradation of NFKBIZ mRNA
論文タイトル(訳)
Regnase-1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17 signalingを制御し、大腸腫瘍の発育を抑制する
DOI
10.1073/pnas.2500820122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.23
著者名(敬称略)
井口恵里子 髙井淳 他
所属
京都大学大学院医学研究科・医学部消化器内科学
著者からのひと言
RNA分解酵素であるRegnase-1は主に免疫細胞に発現し、炎症を制御する分子として知られています。本研究では、Regnase-1が大腸上皮細胞にも生理的に発現し、IL-17 signalingの重要な分子であるNfkbiz mRNAを分解することで、腫瘍抑制的な役割を果たしていることを初めて明らかにしました。本研究成果は、すでに米国で認可されているDMFを含め、Regnase-1を標的とした新たな治療薬の開発につながる可能性があると考えています。

抄訳

Regnase-1 (Reg1)は、免疫細胞においてIL6などサイトカインのmRNAを分解することで炎症を制御するRNA分解酵素であるが、腸管上皮細胞にも生理的に発現しており、その意義は不明である。本研究では、大腸腫瘍においてReg1が果たす役割を明らかにすることを目的とした。大腸腫瘍モデルであるApcMin/+マウスで腸管上皮特異的にReg1を欠損させると(Reg1KO-Min)、大腸腫瘍が有意に増加・増大した。網羅的な遺伝子発現解析では、Reg1KO-Min の腫瘍組織でIL-17 signalingのkey mediatorであるNfkbizとその下流の分子の発現が上昇しており、さらに、Reg1KO-MinでNfkbizを欠損させると腫瘍が著明に減少・縮小することから、NfkbizがReg1の標的分子と考えられた。Reg1発現安定作用を有するDimethyl Fumarate (DMF)を投与すると、Reg1発現を有するApcMin/+マウス(Reg1WT-Min)では大腸腫瘍がリン酸化ERKの発現低下を伴って有意に減少・縮小するものの、Reg1KO-MinではDMFの抗腫瘍効果が認められないことから、DMFはReg1の発現安定化を介してIL-17経路の活性化を抑制し、リン酸化ERKなどの増殖シグナルを低下させ、大腸腫瘍抑制効果を示すと考えられた。ヒト大腸腫瘍組織を用いた検討でも、Reg1とNFKBIZの発現は逆相関することや、Reg1低発現症例群の予後が不良であることが分かった。以上より、Reg1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17経路を制御し、大腸腫瘍の発育を抑制することが明らかとなった。Reg1は大腸腫瘍の新たな治療標的になりうると考えられる。

論文掲載ページへ

2025/06/13

SARS-CoV-2への感染を規定するマウスACE2の因子の同定 New

論文タイトル
Determinants of susceptibility to SARS-CoV-2 infection in murine ACE2
論文タイトル(訳)
SARS-CoV-2への感染を規定するマウスACE2の因子の同定
DOI
10.1128/jvi.00543-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
福原 崇介 他
所属
九州大学大学院医学研究院 ウイルス学分野
著者からのひと言
 本論文は新型コロナウイルスの種指向性に関する論文です。新型コロナウイルスが出現した頃、マウスには感染性がなく、ハムスターが動物モデルとして広く用いられましたが、新型コロナウイルスがマウスに感染性を持たなかったことが偶然で、むしろ幅広い動物に感染性を示すということを明らかにしました。新型コロナウイルスに関するウイルス学的性状にはまだ不明な点は多く、今後も基礎ウイルス学的研究を推進してまいります。

抄訳

SARS-CoV-2は動物由来のウイルスであり、多様な動物種に感染します。そのため、動物に感染したウイルスが変異を蓄積し、新たなパンデミックを引き起こす可能性が懸念されます。しかし、SARS-CoV-2がどの動物に感染するか、宿主への感染性を規定する因子は詳しく明らかにされていません。本研究では、10種の動物の受容体と10種のSARS-CoV-2変異株を用いて、多くの動物がSARS-CoV-2感染を許容する一方、マウスだけが変異株によって感染感受性が異なることを明らかにしました。また、マウスの感染性を規定する宿主受容体とウイルススパイクタンパク質のアミノ酸を同定しました。これらを応用し、SARS-CoV-2がマウス近縁種に感染することを発見し、げっ歯類に広く感染する可能性を見出しました。本研究はSARS-CoV-2の宿主指向性の理解に繋がり、動物由来の変異株の監視に知見をもたらすことが期待されます。

論文掲載ページへ

2025/06/12

イネの節間伸長におけるジベレリンの段階的不活性化

論文タイトル
Stepwise deactivation of gibberellins during rice internode elongation
論文タイトル(訳)
イネの節間伸長におけるジベレリンの段階的不活性化
DOI
10.1073/pnas.2415835122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.23
著者名(敬称略)
石田俊晃 増口潔 山口信次郎 他
所属
京都大学化学研究所農学研究科・応用生命科学専攻
著者からのひと言
イネにおいて成長ホルモンの「ジベレリン」は、2段階で働きが弱められることが分かりました。つまり、働きが弱いホルモンがまずできて、次にほとんど働かないホルモンに変換されます。働きが弱いホルモンは成長を微調整するために重要な役割を果たしていると考えられます。今回、ジベレリンの働きを弱める酵素の発見の起点となった草丈の高いイネは、病気に強く収量が多い「雑種のイネ」を作るために利用されています。ジベレリンによる草丈の調節は農業に重要なのです。

抄訳

植物ホルモンの一つであるジベレリン(GA)は、葉や茎の伸長や種子の発芽を促進するといった働きを持ち、「緑の革命」と呼ばれる農業革命に利用されるなど、農業にも非常に重要な植物ホルモンである。本研究では、イネにおいて最上位節間が徒長するeui2変異体の原因遺伝子がコードするEUI2タンパク質が、これまで不活性型GAだと考えられていたエポキシ型GAをさらに加水分解して、ジヒドロキシ型GAへと変換することを示した。また、イネの穂を用いた生理活性試験やGID1受容体との結合試験の結果から、ジヒドロキシ型GAはエポキシ型GAよりも、さらに活性が弱いGAであることが明らかとなった。すなわち、イネの最上位節間伸長の厳密な制御には、活性型GAからエポキシ型GAまでの不活性化では不十分であり、EUI2によるエポキシ型GAからジヒドロキシ型GAへのさらなる不活性化が重要な役割を果たしていることが示された。

論文掲載ページへ

2025/06/10

Oxr1とNcoa7はV-ATPaseを制御することにより、ゴルジ体及びトランスゴルジネットワーク内腔のpHを維持し、タンパク質への糖鎖修飾の最適化に寄与する。

論文タイトル
Oxr1 and Ncoa7 regulate V-ATPase to achieve optimal pH for glycosylation within the Golgi apparatus and trans-Golgi network
論文タイトル(訳)
Oxr1とNcoa7はV-ATPaseを制御することにより、ゴルジ体及びトランスゴルジネットワーク内腔のpHを維持し、タンパク質への糖鎖修飾の最適化に寄与する。
DOI
10.1073/pnas.2505975122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.22
著者名(敬称略)
吉村 信一郎 他
所属
大阪大学大学院医学系研究科細胞生物学

抄訳

 細胞内の様々な小器官(オルガネラ)内腔は、固有のpH 環境に維持されており、それが各オルガネラの機能に密接に関わる。本研究は、Oxr1とその相同分子であるNcoa7の同定と解析により、オルガネラ毎に異なるpH調節のメカニズムの一端を明らかにした。Oxr1とNcoa7は、活性型 Rab タンパク質によって、主にゴルジ体およびトランスゴルジネットワーク(TGN) 膜上にリクルートされる。精製タンパク質を用いた生化学実験では、Oxr1とNcoa7が液胞型プロトンポンプ(V-ATPase)の触媒サブユニットに直接作用し、V-ATPaseの活性を阻害することが示された。Oxr1とNcoa7タンパク質の発現が低下した細胞では、ゴルジ体/TGN内腔が酸性化し、さらにそこでの主要な翻訳後修飾であるタンパク質への糖鎖付加が、部分的に阻害されていた。本結果はOxr1とNcoa7が、ゴルジ体/TGN 膜上のV-ATPase活性を抑制することでゴルジ体/TGN内腔の過度の酸性化を防ぎ、ゴルジ体/TGNでの酵素活性に最適な環境を提供することを示している。

論文掲載ページへ

2025/06/09

グライコプロテオミクス解析によるアンモニア酸化アーキアにおけるタンパク質Nグリコシル化の探索

論文タイトル
Exploring protein N-glycosylation in ammonia-oxidizing Nitrososphaerota archaea through glycoproteomic analysis
論文タイトル(訳)
グライコプロテオミクス解析によるアンモニア酸化アーキアにおけるタンパク質Nグリコシル化の探索
DOI
10.1128/mbio.03859-24
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
中川 聡 他
所属
京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻 海洋環境微生物学分野
著者からのひと言
難培養微生物を対象とした糖鎖研究は、まだ始まったばかりの分野です。今後も、従来の常識にとらわれない微生物糖鎖の存在を明らかにすることで、微生物の生理生態や進化の理解に新たな視点を提供していきたいと考えています。

抄訳

アンモニア酸化アーキア(古細菌)は地球上に広く分布し、炭素や窒素循環、さらには地球温暖化などにおいて重要な役割を担っているが、培養困難であるため、研究は大きく遅れている。本微生物群は極めて低濃度のアンモニアに適応していることから、利用可能なアンモニアをすべてエネルギー源として効率よく利用し、亜硝酸へと変換していると考えられてきた。しかし本研究では、最先端の液体クロマトグラフィー‐タンデム質量分析法および核磁気共鳴法を用いた解析により、これらのアーキアの一種が、これまでに知られている中で最も窒素に富む糖鎖で細胞表面タンパク質を修飾していることを突き止めた。これは、糖鎖が窒素を貯蔵するという新たな機能を持つ可能性を示唆している。また、この糖鎖は、全真核生物や一部のアーキアと同様のコア構造を有していた。本研究は、アーキアおよび真核生物の進化の理解を深めるだけでなく、これらのアーキアにおける環境適応機構の理解にも貢献するものである。

 

論文掲載ページへ