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国内研究者論文紹介

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2022/09/08

乳がん細胞における低酸素応答性遺伝子の大規模な核内配置の決定

論文タイトル
Large-scale mapping of positional changes of hypoxia-responsive genes upon activation
論文タイトル(訳)
乳がん細胞における低酸素応答性遺伝子の大規模な核内配置の決定
DOI
10.1091/mbc.E21-11-0593
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 8
著者名(敬称略)
中山 恒 他
所属
旭川医科大学 医学部 薬理学講座

抄訳

 私たちの体内の臓器や細胞は、活動状態の変化や疾患に伴い、低酸素環境に曝される。このような状況下で、細胞の生理機能を調節して、適応に働くのが低酸素応答である。低酸素応答時には多数の遺伝子の発現が誘導される。遺伝子の発現に重要な働きをする要素として、転写因子やクロマチン構造があるが、低酸素下におけるクロマチン構造の知見はほとんどなかった。本研究では、乳がん細胞を低酸素環境で培養した後、新しい実験手法HIPMap法を用いて、遺伝子の核内配置をイメージングで解析し、低酸素に応答して多数の低酸素応答性遺伝子が核内でポジションを変化させていることを明らかにした。さらに、ポジションの変化は、核の内側・外側に向かって移動するものの2タイプに分けられ、その移動度は遺伝子よって異なっていた。一方で、核内で遺伝子が移動する方向と遺伝子発現の間には有意な相関は認められなかった。
低酸素環境が、がんの進展を促すことは、これまでに多数報告されている。その根本的なメカニズムは、低酸素に応答した遺伝子発現である。核内の遺伝子のポジションはクロマチン構造と密接に関わっており、遺伝子発現のON/OFFを担う要素である。本研究成果は、低酸素下でのがんの遺伝子発現を担う分子メカニズムの一端を明らかにしたもので、核内での遺伝子配置の変化を制御できれば、がんの遺伝子発現様式を書き換えて、がん進展を抑制する手法につながることが期待される。

 

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2022/09/06

トリプトファン蛍光プローブによるシアノバクテリア時計タンパク質KaiCのリズミックな構造変化の検出

論文タイトル
Highly sensitive tryptophan fluorescence probe for detecting rhythmic conformational changes of KaiC in the cyanobacterial circadian clock system
論文タイトル(訳)
トリプトファン蛍光プローブによるシアノバクテリア時計タンパク質KaiCのリズミックな構造変化の検出
DOI
10.1042/BCJ20210544
ジャーナル名
Biochemical Journal
巻号
Biochemical Journal Vol.479, No.14 (1505–1515)
著者名(敬称略)
向山 厚 古池 美彦  山下 栄樹 秋山 修志
所属
分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 階層分子システム解析研究部門

抄訳

シアノバクテリア概日時計の中核を担う時計タンパク質KaiCはN末端側のCIドメインとC末端側のCIIドメインから構成され、ATPと結合することでリングが積み重なった6量体構造をとる。KaiCは他の時計タンパク質であるKaiA、KaiBとの離合集散を介して、24時間周期でCIIドメインの2カ所のアミノ酸残基(S431、T432)をリズミカルに自己リン酸化・自己脱リン酸化を繰り返す。本論文では、概日時計の源振動といえるKaiCのリズミックな構造変化を高感度に検出するためのトリプトファン(Trp)蛍光プローブ挿入部位を探索した。その結果、リン酸化部位近傍にTrpを挿入したKaiC変異体ではリズムの安定性や周期長を保ちつつ、Trp蛍光を指標としたリズムの振幅が10倍以上増加することを見出した。KaiCのリン酸部位周辺の構造転移は結晶構造解析による先行研究において報告されていたが、今回の結果は溶液中における実際の反応サイクル中においてもリン酸化部位周辺が位相依存的に大規模に変化することを実証した成果である。

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2022/09/06

III型プロコラーゲンは、通常の小胞状および管状のキャリアーによって、小胞体からゴルジ装置へと輸送される

論文タイトル
Endoplasmic reticulum–to–Golgi trafficking of procollagen III via conventional vesicular and tubular carriers
論文タイトル(訳)
III型プロコラーゲンは、通常の小胞状および管状のキャリアーによって、小胞体からゴルジ装置へと輸送される
DOI
10.1091/mbc.E21-07-0372
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 3
著者名(敬称略)
平田 幸大, 細川 暢子 他
所属
京都大学 医生物学研究所 再生組織構築研究部門

抄訳

コラーゲンは細胞外マトリックスを構成する主要なタンパク質で、小胞体で生合成された後にゴルジ装置を通って細胞外に分泌される。コラーゲンは3本のα鎖が集まって固いトリプルヘリクスを形成し、その長さは300-400 nmもある。このように大きなタンパク質が、どのようにして小胞体からゴルジ装置へと輸送されるかについては十分理解されていない。そこで本研究では線維形成性コラーゲンの細胞内輸送機構を解明するため、GFP融合タンパク質を作製し、ライブセルイメージング法を用いて解析した。プロコラーゲン分子は小胞体内でプロリン水酸化を受けて成熟するが、III型プロコラーゲンはこの過程で、液-液相分離様の液滴を形成した。この大きな液滴には小胞体シャペロンタンパク質が含まれており、ER exit siteがその周囲を取り囲んでいた。その後、III型プロコラーゲンは、小胞状および管状のキャリアーによって、小胞体からゴルジ装置へと輸送される事が明らかとなった。このキャリアーは、ERGIC53やRAB1Bといったマーカータンパク質を含んでおり、またこの輸送にはTANGO1とCUL3という分子が必要であった。さらにIII型プロコラーゲンは通常の積み荷タンパク質と同じ小胞に乗って輸送されることが明らかになった。以上の結果から、III型プロコラーゲンは通常より大きな小胞によってER exit siteから出芽し、すぐにERGIC(小胞体-ゴルジ中間区画)と融合した後、通常の積み荷タンパク質と同様の経路でゴルジ装置へ運ばれると考えられる。

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2022/09/05

遺伝子改変マウス作製を高度化するための、胚性幹細胞を用いたCRISPR/Cas9による高効率遺伝子ターゲティング法

論文タイトル
CRISPR/Cas9-Mediated Highly Efficient Gene Targeting in Embryonic Stem Cells for Developing Gene-Manipulated Mouse Models
論文タイトル(訳)
遺伝子改変マウス作製を高度化するための、胚性幹細胞を用いたCRISPR/Cas9による高効率遺伝子ターゲティング法
DOI
10.3791/64385
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (186), e64385
著者名(敬称略)
小沢 学 他
所属
東京大学医科学研究所 システム疾患モデル研究センター 生殖システム研究分野

抄訳

CRISPR/Cas9システムの登場により、受精卵を用いたゲノム編集による遺伝子改変マウスの開発が可能になった。しかしながら、受精卵ゲノム編集では、小さなインデル変異の導入によるフレームシフト型遺伝子ノックアウトマウスの作製効率は高いものの、長鎖DNAノックイン(KI)の作製効率は依然として十分であるとは言えない。これに対し、胚性幹細胞(ES細胞)を用いた遺伝子ターゲティングとキメラマウス樹立による遺伝子改変マウス作製法は、in vitroでハイスループットのターゲティングが行えること、また複数遺伝子座の同時改変がきるなど数多くのメリットが存在する。加えて、BALB/c系統といったin vitroでの受精卵の取り扱いが困難なマウスも、ES細胞を用いたターゲティングには利用可能である。本プロトコルでは、CRISPR/Cas9によるゲノム編集を応用した、ES細胞の長鎖DNA KIの最適化方法と、その後のキメラマウス作製による遺伝子操作モデルマウスの作製法について詳細に説明する。

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2022/09/05

覚醒マウスにおけるミクログリア動態と神経活動の生体内同時イメージング

論文タイトル
Simultaneous Imaging of Microglial Dynamics and Neuronal Activity in Awake Mice
論文タイトル(訳)
覚醒マウスにおけるミクログリア動態と神経活動の生体内同時イメージング
DOI
10.3791/64111
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (186), e64111
著者名(敬称略)
丸岡 久人、岡部 繁男 他
所属
東京大学大学院医学系研究科・医学部 神経細胞生物学

抄訳

脳機能は末梢組織由来の信号の影響を絶えず受けるため、脳のグリア細胞がそのような信号を神経細胞に伝える仕組みを解明することは、近年重要性が増している臓器間ネットワークの全容を解明する上で極めて重要である。脳の免疫細胞であるミクログリアは神経回路形成と維持に深く関与していることから、ミクログリアと神経回路との相互作用の検証に資する生体内イメージング技術の確立が求められている。そこで本論文では、覚醒マウスのミクログリア動態と神経活動を同時にイメージングする技術について解説する。ミクログリアがEGFPで標識されるCX3CR1-EGFPトランスジェニックマウスの第一次視覚野第2/3層に、アデノ随伴ウイルスを用いて赤色蛍光カルシウムインディケータータンパク質であるR-CaMPを発現させた。また同時に注入部位の直上に観察窓を設置した。術後4週間後、生体内2光子イメージングにより覚醒マウスからミクログリア動態と神経活動をサブ秒の時間分解能で同時に記録することができた。本技術により、末梢の免疫状態に反応するミクログリア動態と脳の内部状態を符号化している神経活動との相互作用を明らかにすることが期待できる。

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2022/08/31

BROMI/TBC1D32は、CCRK/CDK20およびFAM149B1/JBTS36とともに、ICK/CILK1が関与する繊毛内タンパク質輸送装置の方向転換に寄与する

論文タイトル
BROMI/TBC1D32 together with CCRK/CDK20 and FAM149B1/JBTS36 contributes to intraflagellar transport turnaround involving ICK/CILK1
論文タイトル(訳)
BROMI/TBC1D32は、CCRK/CDK20およびFAM149B1/JBTS36とともに、ICK/CILK1が関与する繊毛内タンパク質輸送装置の方向転換に寄与する
DOI
10.1091/mbc.E22-03-0089
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 9
著者名(敬称略)
里田 裕紀, 加藤 洋平, 中山 和久 他
所属
京都大学大学院 薬学研究科 生体情報制御学分野

抄訳

一次繊毛はさまざまな受容体などを含むアンテナ様のオルガネラである。繊毛内の順行性および逆行性のタンパク質輸送は、繊毛内タンパク質輸送(IFT)装置により行われている。BROMI/TBC1D32はCCRK/CDK20と相互作用し、ICK/CILK1キナーゼをリン酸化することで活性化させ、繊毛の先端におけるIFT装置の方向転換を制御することが知られている。ヒトのBROMI、CCRK、ICKの変異は繊毛病を引き起こし、これらの遺伝子を欠損したマウスも繊毛病の表現型を示すことが知られている。我々は、BROMIがCCRKだけでなく、進化的に保存された繊毛タンパク質であるCFAP20や、変異により繊毛病のジュベール症候群(Joubert syndrome: JBTS)を引き起こすFAM149B1/JBTS36と相互作用することを示した。さらに、FAM149B1がBROMIと同様にCCRKと直接相互作用していることも明らかにした。CCRKノックアウト(KO)、BROMI-KO、FAM149B1-KO細胞で観察された繊毛の異常(異常に長い繊毛、IFT装置とICKの繊毛先端への異常な蓄積)は互いに似ており、CCRKとCFAP20との結合に欠陥のあるBROMI変異体はBROMI-KO細胞における繊毛異常をレスキューすることができなかった。これらの結果から、CCRK、BROMI、FAM149B1、そしておそらくCFAP20が、ICKの制御下でのIFT装置の方向転換を制御していることが示唆された。

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2022/08/31

骨格繊毛病の原因となるIFT52の変異が繊毛機能障害を引き起こす分子基盤

論文タイトル
Molecular basis underlying the ciliary defects caused by IFT52 variations found in skeletal ciliopathies
論文タイトル(訳)
骨格繊毛病の原因となるIFT52の変異が繊毛機能障害を引き起こす分子基盤
DOI
10.1091/mbc.E22-05-0188
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 9
著者名(敬称略)
石田 大和, 加藤 洋平, 中山 和久 他
所属
京都大学大学院 薬学研究科 生体情報制御学分野

抄訳

繊毛内タンパク質輸送(IFT)を媒介するIFT装置は、IFT-A複合体とIFT-B複合体から構成される。IFT52は繊毛内順行輸送を媒介するIFT-B複合体のサブユニットをコードしており、その変異は繊毛病の短肋骨多指症候群(SRPS)を引き起こす。本研究では、SRPSの原因となるIFT52の変異が繊毛機能不全を引き起こす分子基盤を解明した。まず、タンパク質間相互作用解析の結果、SRPSの原因となる変異はIFT-B複合体の構築およびIFT-B複合体とヘテロ三量体キネシン2の相互作用を阻害することが明らかになった。また、IFT52ノックアウト細胞にSRPSの原因変異体を発現させてSRPS患者の遺伝子型を模倣した細胞では、繊毛形成が若干阻害され、繊毛に局在するIFT-B複合体が減少していた。さらに、SRPS患者の遺伝子型を模倣した細胞では、IFT-B複合体によって繊毛先端に輸送されるICKやKIF17が繊毛先端に局在しにくくなった。以上の結果から、IFT52の変異を持つSRPS患者に見られる繊毛機能不全は、繊毛に局在するIFT-B複合体が減少し、繊毛内順行輸送が阻害されることに起因すると考えられる。

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2022/08/30

マウス脳の広範囲にわたってカルシウムイメージングが可能な頭蓋窓の簡便な作製法

論文タイトル
In Vivo Wide-Field and Two-Photon Calcium Imaging from a Mouse using a Large Cranial Window
論文タイトル(訳)
マウス脳の広範囲にわたってカルシウムイメージングが可能な頭蓋窓の簡便な作製法
DOI
10.3791/64224
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (186), e64224
著者名(敬称略)
真仁田 聡、喜多村 和郎 他
所属
山梨大学医学部・大学院総合研究部 生理学講座神経生理学教室

抄訳

本研究では、市販されている食品用ラップ、透明シリコーンプラグ、およびカバーガラスを用いて大型(6x3mm)の頭蓋窓の作製方法を開発しました。この窓を用いて広視野および2光子カルシウムイメージングが同一マウスより実施でき、神経細胞やグリア細胞の単一細胞レベルの活動や細胞集団の活動を観察できます。この大きな窓にもかかわらず、激しい脳振動は観察されず、また1ヶ月以上、脳表面の状態は良好に保たれ高品質イメージングが可能でした。さらに、カルシウムセンサーを発現するアデノ随伴ウイルスの薄膜を表面に形成したラップで大型頭蓋窓を作製すると広範囲の大脳皮質の細胞にカルシウムセンサーを発現させることができ、広視野および2光子カルシウムイメージングが実施できました。この技術によって、大きな頭蓋窓を既存のものより簡易かつ安価に作ることができ、行動中のマウスにおける神経やグリア細胞の活動の詳細が観察できます。

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2022/08/26

深海性二枚貝シマイシロウリガイの共生細菌は一次卵母細胞外表面に伝播される

論文タイトル
Symbiont Transmission onto the Cell Surface of Early Oocytes in the Deep-Sea Clam Phreagena okutanii
論文タイトル(訳)
深海性二枚貝シマイシロウリガイの共生細菌は一次卵母細胞外表面に伝播される
DOI
10.2108/zs200129
ジャーナル名
Zoological Science
巻号
Zoological Science, Volume 38, Issue 2
著者名(敬称略)
井川-上田 かなえ、生田 哲朗 他
所属
海洋研究開発機構 地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター

抄訳

動物は微生物との共生関係を結ぶことによって、様々な環境適応能力を得ている。宿主の世代を越えて共生微生物を安定的に伝達することは、進化的な時間を通じて共生関係を維持する上で重要なイベントである。しかし、共生微生物の宿主世代を越えた伝播機構については断片的な理解しか進んでいない。深海性二枚貝類のシマイシロウリガイ(Phreagena okutanii)は、鰓上皮細胞内に化学合成独立栄養細菌を共生させ、生存に必要な全ての栄養源を共生細菌に依存している。本研究では、この共生細菌と宿主雌性生殖細胞との、生殖細胞の発達段階を通じた空間的な関連性の変化に注目した。まず、シマイシロウリガイの幼若個体の性判別法を確立し、雌の卵巣で観察される生殖細胞の発達段階を形態学的に分類した。次に、3次元蛍光観察および光-電子相関顕微鏡法(CLEM)を用いて共生細菌と生殖細胞の卵巣内での局在性を調べた。その結果、共生細菌は幼若個体卵巣内の卵原細胞のクラスターにはなく、一次卵母細胞の細胞膜外表面に局在していることが分かった。これらの結果に基づいて、シマイシロウリガイにおける共生細菌の垂直伝播の過程とそのメカニズムについて考察した。

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2022/08/24

チアノーゼ性先天性心疾患に伴う褐色細胞腫及びパラガングリオーマの遺伝学的解析

論文タイトル
Genetic Analysis of Pheochromocytoma and Paraganglioma Complicating Cyanotic Congenital Heart Disease
論文タイトル(訳)
チアノーゼ性先天性心疾患に伴う褐色細胞腫及びパラガングリオーマの遺伝学的解析
DOI
10.1210/clinem/dgac362
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 107, Issue 9, September 2022, Pages 2545–2555
著者名(敬称略)
小笠原 辰樹, 小川 誠司 他
所属
京都大学 医学研究科 腫瘍生物学講座

抄訳

慢性的な低酸素環境は褐色細胞腫・パラガングリオーマ (PPGL) のリスク要因であり、例えばチアノーゼ性先天性心疾患患者では比較的高頻度にPPGLを併発する (CCHD-PPGL)。今回我々はCCHD-PPGLの腫瘍化メカニズムの解明を目的として、多発腫瘍を有する3人を含むCCHD-PPGL患者7人から腫瘍組織 (15個) 及び正常組織 (7個) を収集し、全エクソン解析を行った。変異解析ではPPGL 15検体中14検体で機能獲得型のEPAS1体細胞変異を認めた。多発腫瘍を有する3例の検討では、EPAS1変異を認めなかった1個の腫瘍を除き、全腫瘍において異なるEPAS1変異が観察されたことから、低酸素環境下ではEPAS1変異を有する腫瘍の発症が著しく促進されることが示唆された。興味深いことに、それら3例のうち1例は12歳時に低酸素血症は改善していたにもかかわらず、30歳及び35歳時にEPAS1変異を有する多数のPPGLの発症を認めた。このことから、CCHDによる低酸素環境は幼少期におけるEPAS1変異を有するクローンの陽性選択には重要であるが、その後のPPGL発生の過程において低酸素環境そのものは必要ではない可能性が示唆された。

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