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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2022/12/15

閉塞性大腸癌における大腸ステント留置後の化学療法

論文タイトル
Chemotherapy following endoscopic colonic stenting in the management of obstructive colorectal cancer
論文タイトル(訳)
閉塞性大腸癌における大腸ステント留置後の化学療法
DOI
10.2217/crc-2022-0005
ジャーナル名
Colorectal Cancer
巻号
Colorectal Cancer Vol.11 No.1(2022)
著者名(敬称略)
花畑 憲洋、 松坂 方士 他
所属
青森県立中央病院 消化器内科

抄訳

閉塞性大腸癌における大腸ステント留置術は術前減圧や緩和医療において良好な成績が報告されているが、ステント留置後の化学療法については穿孔などのリスクがあり賛否が分かれるところである。本論文では閉塞症状を有する結腸直腸癌患者55症例において、手術を先行した症例と大腸ステントを留置してから化学療法を施行した症例を後方視的に比較することにより大腸ステント後化学療法症例の長期予後、安全性について検討した。大腸ステント留置術の技術的・臨床的成功率は100%で、大腸ステント長期留置に伴う偶発症は逸脱、閉塞が多いものの無処置もしくは内視鏡的再ステント留置を行うことでほとんどコントロールが可能だった。長期予後は手術先行と大腸ステント群の間に差を認めず大腸ステント症例では化学療法後に原発巣を切除したほうがステントのみで手術を行わない症例や手術先行群に比べ長期の生存が得られていた。大腸ステント後の化学療法は閉塞性大腸癌治療において選択肢の一つとなりうる。

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2022/12/12

雌ラットへのリポポリサッカライド子宮内投与による弓状核キスペプチン遺伝子発現,黄体形成ホルモンパルス,および卵巣機能抑制

論文タイトル
Intrauterine LPS inhibited arcuate Kiss1 expression, LH pulses, and ovarian function in rats
論文タイトル(訳)
雌ラットへのリポポリサッカライド子宮内投与による弓状核キスペプチン遺伝子発現,黄体形成ホルモンパルス,および卵巣機能抑制
DOI
10.1530/REP-22-0047
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction Volume 164: Issue 5 207–219
著者名(敬称略)
真方文絵 他
所属
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医繁殖育種学研究室

抄訳

炎症性子宮疾患は、ヒトおよび家畜の生殖機能を低下させる。本研究は、子宮の炎症を引き起こす細菌毒素であるリポポリサッカライド(LPS)の子宮内投与が卵巣機能に及ぼす影響を検証した。雌ラットへの子宮内LPS投与によって子宮の炎症を誘発したところ、投与後48時間まで血漿中のLPS濃度が上昇したとともに、発情周期の乱れが生じた。LPS群では投与後3日における成熟卵胞数と血漿エストラジオール濃度が減少したとともに、投与後4日では排卵率および血漿プロジェステロン濃度が低下した。LPS群のうち排卵しなかったラットの卵巣において、インターロイキン1βおよび腫瘍壊死因子の遺伝子発現が上昇しており、炎症反応の亢進が認められた。卵巣摘出ラットでは、LPS投与後24時間において視床下部弓状核のキスペプチン遺伝子発現細胞数および黄体形成ホルモン(LH)パルス頻度が減少した。以上の結果から、子宮内の LPS は血中に移行し、卵巣の炎症反応を誘起するとともに、キスペプチン遺伝子発現および LH 分泌を抑制することで卵巣機能を低下させる可能性が示された。

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2022/11/30

クッシング症候群のモデル動物

論文タイトル
Animal Models of Cushing's Syndrome
論文タイトル(訳)
クッシング症候群のモデル動物
DOI
10.1210/endocr/bqac173
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology, Volume 163, Issue 12, December 2022, bqac173
著者名(敬称略)
西山 充 他
所属
高知大学 保健管理センター

抄訳

クッシング症候群は副腎グルココルチコイドの過剰により特徴的な症候や合併症を呈する病態である。内因性クッシング症候群は下垂体性と副腎性に大別されるが、近年これらの原因となる遺伝的背景が明らかにされてきた。一方で、グルココルチコイド治療に伴う外因性クッシング症候群もよく見られる。本論文では、クッシング症候群の病態解明や治療法開発を目的として作出されたモデル動物について概説する。外因性クッシング症候群の誘導は最も簡便な方法であり、飲水中へのコルチコステロン混入が広く行われているが、最近我々はコルチコステロン・ペレットをマウス皮下に埋め込む方法を考案した。発生工学的手法を用いて、Crh過剰発現およびPrkar1a欠損によるクッシング症候群モデルマウスも作出された。ヌードマウスへのAtT20細胞移植による方法も確立されており、下垂体性クッシング病に対する治療法開発の際に用いられる。本論文では、これらのモデル動物を用いて解明されたグルココルチコイド過剰に伴う病態(11beta HSD-1発現、肥満・過食、糖尿病、骨粗鬆症)の分子機構についても概説する。

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2022/11/29

複合スフィンゴ脂質構造多様性の破綻による多面的環境ストレス抵抗性の消失

論文タイトル
Loss of tolerance to multiple environmental stresses due to limitation of structural diversity of complex sphingolipids
論文タイトル(訳)
複合スフィンゴ脂質構造多様性の破綻による多面的環境ストレス抵抗性の消失
DOI
10.1091/mbc.E22-04-0117
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 12
著者名(敬称略)
古賀 綾乃, 谷 元洋 他
所属
九州大学大学院 理学研究院 化学部門

抄訳

 真核生物の生育に必須な膜脂質である複合スフィンゴ脂質は、複雑な構造バリエーションを持ち、この構造多様性は複合スフィンゴ脂質が多彩な生理機能を発揮するための重要な分子基盤であると考えられている。しかしながら、その全体像は殆ど不明である。我々は、出芽酵母を用いて様々な複合スフィンゴ脂質サブタイプが抜け落ちた複合スフィンゴ脂質構造多様性破綻ライブラリーを構築し、複合スフィンゴ脂質の構造多様性が限定されればされるほど、多面的な環境ストレス耐性能が低下することを見出した。また、複合スフィンゴ脂質が一種類のみとなった変異株では、Slt2 MAP kinaseや転写因子Msn2/4が、細胞壁および形質膜のインテグリティーの補填をすることで、複合スフィンゴ脂質多様性破綻によって引き起こされるストレス耐性能低下を抑制していることがわかった。これらの結果より、複合スフィンゴ脂質の多様性の限定は、細胞壁、形質膜といった細胞表面環境の異常を介して多面的ストレス高感受性をもたらすことが考えられた。 

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2022/11/21

小笠原におけるグリーンアノールの捕獲のための止まり木直径の選択性

論文タイトル
Selectivity of Perch Diameter by Green Anole (Anolis carolinensis) for Trapping in Ogasawara
論文タイトル(訳)
小笠原におけるグリーンアノールの捕獲のための止まり木直径の選択性
DOI
10.5358/hsj.41.172
ジャーナル名
Current Herpetology
巻号
Current Herpetology Volume 41, Issue 2
著者名(敬称略)
三谷 奈保
所属
日本大学 生物資源科学部 生物環境工学科

抄訳

 小笠原諸島における外来のグリーンアノールの防除対策は、主に粘着トラップである。アノールがよく利用する木の幹の特徴が特定されれば、そういった場所にトラップを集中させることにより捕獲効率が向上する可能性がある。幹の直径による選択性について分析するため、アノールが利用していた270本の木の幹と調査地域にある1,024本の木の幹の直径を測定した。その結果、トカゲは直径1cm以下の幹を避けることが明らかになった。一方、直径が2cm以上ある幹については、直径の大小にかかわらず、ランダムに利用されていた。地域や森林によって、樹木の直径分布は変化する。アノールがよく利用する木の幹の直径の範囲は場所によって変化することが推測される。様々な直径の幹や枝に有効な捕獲技術を開発することは有益であろう。

 

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2022/11/17

ショウジョウバエ視細胞において、Stratum は Rab10と Rab35 の安定な発現を通じて、頂端面膜と側底面膜への輸送に必要である

論文タイトル
Stratum is required for both apical and basolateral transport through stable expression of Rab10 and Rab35 in Drosophila photoreceptors
論文タイトル(訳)
ショウジョウバエ視細胞において、Stratum は Rab10と Rab35 の安定な発現を通じて、頂端面膜と側底面膜への輸送に必要である
DOI
10.1091/mbc.E21-12-0596
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 33, Issue 10
著者名(敬称略)
越智 優果, 佐藤 明子 他
所属
広島大学大学院 統合生命科学研究科 佐藤明子研究室

抄訳

 生体内で機能する細胞の多くは極性を持っている。各々の極 (細胞膜区画) へのポストゴルジ輸送、すなわち極性輸送は、細胞の極性構造の形成と維持に必須である。Mss4 のショウジョウバエオーソログである Stratum (Strat) は、ハエ濾胞細胞で基底膜タンパク質の側底面膜への輸送に必要であること、また、Rab8 が Strat の下流で機能することが報告されている。私達は Strat ヌル変異細胞と野生型細胞の両方を含むモザイク網膜を用いて、ハエ視細胞での Strat の機能を検討した。その結果、Strat 欠損により側底面膜と頂端面膜の一部である光受容膜への輸送の両方が阻害されることを見出した。また、私達は、Strat ヌル変異細胞だけから形成される網膜 (Strat ヌル網膜) を作成し、イミュノブロッティング法 により Rab タンパク質量を検討した結果、Strat ヌル網膜では Rab10 と Rab35 が著しく減少すること、一方 Rab11 は減少しないことを見出した。さらに、私達は、Rab35 は光受容膜に局在し、その欠損が Rh 1ロドプシンの光受容膜への輸送を阻害することを発見した。これらの結果は、Strat が Rab10 と Rab35 の安定発現に必要であり、また、これらの Rab が各々側底面膜、光受容膜への輸送を調節していることを示している。

 

 

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2022/11/16

ヒストンH2A-H2Bを持たない新規のヌクレオソーム様構造であるH3-H4オクタソームのクライオ電子顕微鏡構造

論文タイトル
Cryo–electron microscopy structure of the H3-H4 octasome: A nucleosome-like particle without histones H2A and H2B
論文タイトル(訳)
ヒストンH2A-H2Bを持たない新規のヌクレオソーム様構造であるH3-H4オクタソームのクライオ電子顕微鏡構造
DOI
10.1073/pnas.2206542119
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS2022 Vol. 119 No. 45 e2206542119
著者名(敬称略)
野澤 佳世 胡桃坂 仁志 他
所属
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻

抄訳

真核生物のゲノムDNAの情報は、ヌクレオソームを基本単位とするクロマチン構造の中に保存されており、通常ヌクレオソームは、H2A、H2B、H3、H4、2分子ずつからなる8量体にDNAが巻き付いた円盤状の構造をとっている。一方、筆者らはヒト由来タンパク質を用いたクライオ電子顕微鏡解析によって、ヒストンH3、H4の2種類のみでもヌクレオソーム様構造体(H3-H4オクタソーム)が形成されることを明らかにした。H3-H4オクタソームは、ヌクレオソームよりも可動性が高く、クロマチン結合因子の足場となる特徴的な酸性表面を持たないユニークな構造体である。筆者らは、H3-H4オクタソーム特異的な構造を出芽酵母内で検出することにも成功し、H3-H4オクタソームが生体内に存在することを初めて実証した。本研究成果は、ヒストンの変異や修飾だけでなく、ヒストンの含有率もヌクレオソームにアイデンティティを与えることを提唱し、今後のクロマチン研究に新しい観点を加えると考えられる。

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2022/11/14

新規細菌種であるPseudomonas aegrilactucaeとPseudomonas morbosilactucaeは、日本におけるレタス腐敗病の原因菌である

論文タイトル
Pseudomonas aegrilactucae sp. nov. and Pseudomonas morbosilactucae sp. nov., pathogens causing bacterial rot of lettuce in Japan
論文タイトル(訳)
新規細菌種であるPseudomonas aegrilactucaeとPseudomonas morbosilactucaeは、日本におけるレタス腐敗病の原因菌である
DOI
10.1099/ijsem.0.005599
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 72, Issue 11
著者名(敬称略)
澤田 宏之 他
所属
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 遺伝資源研究センター

抄訳

レタス結球部が腐敗する病害(レタス腐敗病)は、日本をはじめとする世界各地で発生しており、深刻な被害が報告されている。Pseudomonas marginalisがその主要な原因菌の1つとされていたが、本菌は、表現形質では簡単に識別できないような複数の隠蔽種で構成された「種複合体」であることが明らかになりつつある。そして、このことが原因となって本菌の実態把握が妨げられ、本病の診断・防除技術を高度化する上での阻害要因になっている。そのため、本菌の実態を遺伝的・系統的に把握し、合理的な分類体系を構築することが喫緊の課題とされている。本研究では、微生物保存機関である農業生物資源ジーンバンクにおいて、P. marginalisとして保存されているレタス腐敗病菌を対象として、表現形質、化学分類学的性質、分子系統解析および比較ゲノム解析等に基づき、分類学的な検討を行った。その結果、Pseudomonas属の新種として扱うべきものが3菌株見出されたので、そのうちのMAFF 301350株をPseudomonas aegrilactucae、MAFF 302030株とMAFF 302046株をPseudomonas morbosilactucaeと命名することを提案した。

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2022/11/07

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染カニクイザルモデルの樹立

論文タイトル
Establishment of a Cynomolgus Macaque Model of Human T-Cell Leukemia Virus Type 1 (HTLV-1) Infection by Direct Inoculation of Adult T-Cell Leukemia Patient-Derived Cell Lines for HTLV-1 Infection
論文タイトル(訳)
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染カニクイザルモデルの樹立
DOI
10.1128/jvi.01339-22
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology 31 October 2022 e01339-22
著者名(敬称略)
浦野 恵美子 保富 康宏 他
所属
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センター

抄訳

HTLV-1感染により、感染者(キャリア)のおよそ5%が長い潜伏期間を経て難病である成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)を発症するリスクを背負っているが、HTLV-1感染に対する予防法や効果的な治療法は開発されいない。本研究グループはこれらの開発を加速するため、HTLV-1感染霊長類モデルが必要であると考え、HTLV-1感染カニクイザルモデルの確立に成功した。ウイルス単体としてではなく感染細胞から新たな細胞へ伝搬するHTLV-1では、感染源として用いるHTLV-1産生細胞株が重要であると考え、ATL患者由来のHTLV-1高産生細胞株であるATL-040細胞をウイルス源としてカニクイザルに静脈接種したところ、100%の確率で感染が認められた。感染も長期にわたり維持され、慢性感染症であるHTLV-1感染を反映していた。また、ヒトにおいて高いウイルス量や宿主免疫環境と発症の関連が報告されていることから、免疫制御によるアプローチによりウイルス量の増加が観察され、宿主免疫によるHTLV-1制御が示唆された。

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2022/11/04

Ligilactobacillus agilisがもつフラジェリンの特定アミノ酸置換による抗原性の改変

論文タイトル
Immunogenic Modification of Ligilactobacillus agilis by Specific Amino Acid Substitution of Flagellin
論文タイトル(訳)
Ligilactobacillus agilisがもつフラジェリンの特定アミノ酸置換による抗原性の改変
DOI
10.1128/aem.01277-22
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology October 2022  Volume 88  Issue 20  e01277-22
著者名(敬称略)
梶川 揚申 他
所属
東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科

抄訳

有べん毛乳酸菌Ligilactobacillus agilisは運動性を示す腸内共生細菌である。細菌べん毛繊維構成タンパク質であるフラジェリンはToll-like receptor 5 (TLR5)のアゴニストとして知られるが、興味深いことにL. agilis由来のフラジェリンは、他と類似した構造を持つにも関わらず抗原性が低い。我々はこの理由がTLR5認識部位におけるわずかなアミノ酸残基の違いにあるという仮説に基づき、当該アミノ酸残基を置換した組換えフラジェリンタンパク質およびL. agilis変異株を作製してこれを検証した。結果として、低い抗原性に関わると予測された3か所のアミノ酸残基を置換することで、L. agilisのフラジェリンおよび変異株の抗原性が顕著に増強された。以上より、宿主免疫系が病原細菌と共生細菌を識別する上で、これらのアミノ酸残基の違いが重要であると結論付けられた。

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