本文へスキップします。

H1

国内研究者論文紹介

コンテンツ

ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

論文検索

(以下、条件を絞り込んで検索ができます。)

日本人論文紹介:検索
日本人論文紹介:一覧

2022/02/25

ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬カナグリフロジンは非糖尿病マウスの遅筋および速筋に異なる影響を及ぼす

論文タイトル
Differential effect of canagliflozin, a sodium–glucose cotransporter 2 (SGLT2) inhibitor, on slow and fast skeletal muscles from nondiabetic mice
論文タイトル(訳)
ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬カナグリフロジンは非糖尿病マウスの遅筋および速筋に異なる影響を及ぼす
DOI
10.1042/BCJ20210700
ジャーナル名
Biochemical Journal
巻号
Biochemical Journal Vol.479, No.3 (332–342)
著者名(敬称略)
大塚 裕子 横溝 久 小川 佳宏 他
所属
九州大学大学院医学研究院病態制御内科学(第3内科)
九州大学病院 内分泌代謝・糖尿病内科

抄訳

骨格筋はグルコースのホメオスタシスを制御する主要な代謝器官であり、収縮特性に基づいて遅筋線維と速筋線維で構成される。遅筋線維は速筋線維に対して2~3倍のミトコンドリアを有してミオグロビンや酸化酵素が豊富で脂肪酸酸化によるエネルギー産生が効率的であり、持続的な活動に適する一方で、速筋線維は解糖系代謝が特徴で瞬発的な活動に適する。肥満、糖尿病では遅筋線維の減少が報告される一方で、加齢やサルコペニアでは速筋線維の減少が知られているが、遅筋と速筋を制御する機序は十分に解明されていない。SGLT2阻害薬は腎近位尿細管でのグルコースの尿中排泄を促進する経口血糖降下剤である。SGLT2阻害時の負のエネルギーバランスは、体重および脂肪量の減少に繋がる一方で、骨格筋においては筋萎縮やサルコペニアの誘発が懸念される。本研究では、非糖尿病C57BL/6JマウスにVehicleまたはSGLT2阻害薬カナグリフロジン(CANA)を自由摂餌下で投与して遅筋と速筋に及ぼす影響を検討した。SGLT2阻害時には、摂餌量増加に伴って速筋機能が亢進したが、遅筋機能は影響を受けず、遅筋・速筋の重量は維持された。CANA投与群の摂餌量をVehicle投与群の摂餌量に制限すると、CANA投与群の速筋の重量と機能が低下したが、遅筋への影響はみられなかった。メタボローム解析において自由摂餌下でSGLT2阻害時に速筋では解糖系代謝産物およびATPが増加し、遅筋では解糖系代謝産物が減少したがATPは維持された。アミノ酸と遊離脂肪酸はSGLT2阻害時に遅筋で増加したが、速筋では変化しなかった。更に遅筋と速筋の代謝物への影響は摂餌量制限で顕著となった。本研究はSGLT2阻害薬が糖代謝障害とは独立して遅筋と速筋に及ぼす影響の違いを明らかにすることで、サルコペニアのリスクが高い糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の使用について新しい知見を提供することが示唆される。

論文掲載ページへ

2022/02/21

p53の標的因子であるビタミンB2輸送体SLC52A1はミトコンドリア呼吸鎖複合体IIを活性化することで細胞老化を抑制する

論文タイトル
Riboflavin transporter SLC52A1, a target of p53, suppresses cellular senescence by activating mitochondrial complex II
論文タイトル(訳)
p53の標的因子であるビタミンB2輸送体SLC52A1はミトコンドリア呼吸鎖複合体IIを活性化することで細胞老化を抑制する
DOI
10.1091/mbc.E21-05-0262
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 32, Issue 21
著者名(敬称略)
長野 太輝, 鎌田 真司 他
所属
神戸大学バイオシグナル総合研究センター

抄訳

 細胞老化はDNA損傷などのストレスにより誘導される永続的な分裂停止状態である。細胞老化の誘導には転写因子であるp53が重要な役割を担っているが、p53の標的遺伝子の中に細胞老化の抑制に働くものがあるかどうかは不明である。私たちはビタミンB2(リボフラビンとも呼ばれる)の輸送体であるSLC52A1(GPR172B/RFVT1)が細胞老化誘導ストレスに応答してp53依存的に発現誘導されることを以前報告したが、SLC52A1と細胞老化との関連は未解明であった。今回、私たちはSLC52A1がビタミンB2を細胞内に取り込むことで細胞老化を抑制することを見出した。取り込まれたビタミンB2はミトコンドリア呼吸鎖複合体IIを活性化させることにより、ミトコンドリア機能低下時に細胞老化を誘導するAMPK-p53経路を抑制することがわかった。本研究により、SLC52A1はp53の負のフィードバック制御により過剰な細胞老化を抑制することが示された。

論文掲載ページへ

2022/02/16

細胞外ATPによるT細胞の細胞死にXk-Vps13a リン脂質スクランブラーゼが関与

論文タイトル
Requirement of Xk and Vps13a for the P2X7-mediated phospholipid scrambling and cell lysis in mouse T cells
論文タイトル(訳)
細胞外ATPによるT細胞の細胞死にXk-Vps13a リン脂質スクランブラーゼが関与
DOI
10.1073/pnas.2119286119
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS February 15, 2022 119 (7) e2119286119
著者名(敬称略)
領田 優太 長田 重一 他
所属
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫・生化学

抄訳

本来細胞外には存在しないATP は炎症部位やがん組織で上昇し、ATP 受容体P2X7 を介して免疫応答を活性化する。この際、細胞膜の内層・外層間で⾮対称的に分布していたリン脂質はスクランブラーゼの作⽤によりその分布が変化し、細胞は速やかに死滅する。この過程でのリン脂質スクランブリングの責任分⼦を同定するため、CRISPR sgRNA ライブラリーによる遺伝⼦スクリーニングを⾏った。その結果、神経有棘⾚⾎球症の原因遺伝⼦であるXk 及びVps13a が同定された。そしてXk とVps13a は細胞膜上で複合体を形成していること、どちらを⽋損させてもP2X7 活性化に伴う細胞膜でのリン脂質スクランブリングが抑制され、細胞が死滅しないことを⾒出した。Xk はスクランブラーゼXkr8 のホモログであり、Vps13aはオルガネラ間のリン脂質輸送を担うタンパク質として報告されている。以上より、Xk-Vps13a 複合体がP2X7より何らかのシグナルを受けて活性化され 細胞膜上でリン脂質のスクランブリングを起こすと結論した。

論文掲載ページへ

2022/02/16

無痛性の孤立性上腸間膜動脈自然解離

論文タイトル
Painless isolated spontaneous dissection of the superior mesenteric artery
論文タイトル(訳)
無痛性の孤立性上腸間膜動脈自然解離
DOI
10.1136/bcr-2021-248122
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 No.12 (2021)
著者名(敬称略)
大高 行博 小和瀬 桂子
所属
群馬大学大学院医学系研究科 総合医療学

抄訳

上腸間膜動脈(SMA)の孤立性自然解離は稀であるが、主な初発症状が腹痛であることから急性腹症の鑑別疾患の一つとなる。加えて、文献上は無症候性(6.7〜35.7%)または無痛性(19.7%)の孤立性SMA自然解離の症例報告も散見され、腹痛を伴わずに受診する場合もあることには注意が必要である。自験例は60代前半の男性で、高血圧症と10年来の2型糖尿病治療歴があり、突然の嘔気と嘔吐により緊急受診となった。腹部造影CTにて偽腔開存型の孤立性SMA解離を同定した(Sakamoto分類II型)。さらにカラー・ドプラー超音波検査では、偽腔の陰陽徴候を伴う渦巻き状エコーを認め、偽腔内血流の前後運動が示唆された。絶食および降圧療法のみで保存的に治療し、腹部症状は軽快し解離の進行もなかった。本症例では長期の糖尿病罹患に伴う痛覚鈍麻により、消化器症状のみを伴う無痛性SMA解離を生じたと考えられた。無痛性の孤立性SMA自然解離は稀ではあるものの、代謝疾患や神経障害による感覚鈍麻を有する場合には見落とす可能性があるので留意したい。

論文掲載ページへ

2022/02/16

ヒトiPS細胞から分化させた下垂体前葉におけるプロラクチン(PRL)産生細胞の機能評価

論文タイトル
Functional Lactotrophs in Induced Adenohypophysis Differentiated From Human iPS Cells
論文タイトル(訳)
ヒトiPS細胞から分化させた下垂体前葉におけるプロラクチン(PRL)産生細胞の機能評価
DOI
10.1210/endocr/bqac004
ジャーナル名
Endocrinology
巻号
Endocrinology Vol. 163 Issue 3 (bqac004)
著者名(敬称略)
三宅 菜月, 永井 孝,須賀 英隆 他
所属
須賀 英隆:名古屋大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌内科学
三宅 菜月, 永井 孝:名古屋大学大学院医学系研究科 産婦人科学

抄訳

 これまでヒトiPS細胞から下垂体前葉を分化誘導し、機能的な副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生細胞を作成する方法を報告してきたが、PRL産生細胞については検討していなかった。PRLは乳汁分泌に関与するホルモンで、主に下垂体前葉で産生、分泌される。また、高PRL血症は月経異常や不妊の主な原因の一つである。今回、ヒトiPS細胞から分化誘導した下垂体前葉オルガノイドにおけるPRL産生細胞の機能を評価した。
 下垂体前葉に分化誘導した凝集体からPRLの分泌が確認され、経時的に分泌能力が増加した。蛍光免疫染色および免疫電子顕微鏡法でPRL産生細胞の存在を確認した。PRL分泌は、種々のPRL分泌促進薬によって亢進し、ブロモクリプチンによって抑制された。また細胞塊中心部の視床下部組織にはドパミン作動性神経が存在し、PRL産生細胞への接続が示唆されたことから、ドパミンによる調節機構も再現できている可能性が示された。
 ヒトiPS細胞からヒト生体内と同様の分泌反応性を示す下垂体PRL産生細胞を作成した。今後、創薬研究や腫瘍化のメカニズムの研究などに活用できるとともに、下垂体の再生医療へとつながることが期待される。

論文掲載ページへ

2022/02/15

マウス気管の運動性繊毛における中心微小管形成と同調的波打ち運動のためにはCAMSAP3が必要

論文タイトル
Tracheal motile cilia in mice require CAMSAP3 for the formation of central microtubule pair and coordinated beating
論文タイトル(訳)
マウス気管の運動性繊毛における中心微小管形成と同調的波打ち運動のためにはCAMSAP3が必要
DOI
10.1091/mbc.E21-06-0303
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 32, Issue 20
著者名(敬称略)
斉藤 弘子, 竹市 雅俊 他
所属
理化学研究所 生命機能科学研究センター

抄訳

 気管は、口と肺をつなぐ空気の通り道で、その内部を常にきれいに保つ必要がある。そのため内腔を被う上皮細胞の表面には繊毛がびっしり生えており、これが同調して波打つことにより粘液流を生み出して異物などを排除する。繊毛が波打ち運動するためには、その構成要素たる9組の周辺微小管と一対の「中心微小管」(9+2構造)の働きが必要だが、中心微小管の形成のしくみは謎に包まれている。本研究は、微小管のマイナス端に結合しそのプラス端側の伸長を支えるタンパク質CAMSAP3のノックアウトマウスを解析し、これが失われると気管繊毛の同調運動が乱れ、また、中心微小管が消滅することを発見。さらに、正常マウスの繊毛では、CAMSAP3の一部が中心微小管のマイナス端辺りに濃縮していた。以上の観察から、CAMSAP3は中心微小管の形成に関わり、繊毛の同調運動のために必要であると結論している。ヒトの呼吸器疾患と関係するかどうかについては今後の研究課題だ。

論文掲載ページへ

2022/02/15

p52SHCはRAF非依存的にERKの持続的な活性化を調節する

論文タイトル
p52Shc regulates the sustainability of ERK activation in a RAF-independent manner
論文タイトル(訳)
p52SHCはRAF非依存的にERKの持続的な活性化を調節する
DOI
10.1091/mbc.E21-01-0007
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 32, Issue 19
著者名(敬称略)
吉澤 亮, 佐甲 靖志 他
所属
国立研究開発法人理化学研究所 佐甲細胞情報研究室

抄訳

 アダプタータンパク質のp52SHC(SHC)およびGRB2はどちらも、細胞表面受容体からERK経路へのシグナル伝達を仲介する。私たちはSHCおよびGRB2の役割を調べるために、これらのタンパク質をMCF7細胞内に発現させ、分化誘導因子により刺激した際の、細胞膜への移行ダイナミクスを計測した。その結果、SHCは持続的に膜局在するのに対してGRB2は一過的に膜局在することがわかった。ERKの核局在化はSHCと同様に持続的であったが、SHCをノックダウンすると応答量が減少し、さらに一過的になったことから、SHCはERKの初期応答と持続的な核局在化の両方に寄与していることがわかった。さらに阻害剤等を用いた解析から、ERKの初期応答はSHC-GRB2-RAF経路に依存していたのに対して、ERKの持続的な応答はRAF非依存的にMEKを活性化するSHC-PI3K経路に依存していることがわかった。またERBB-1受容体の過剰発現によってもSHCとERKのダイナミクスは共に一過的となり、その様な細胞では、細胞運命決定のバイアスも分化から増殖へとシフトした。このようにSHCはERKシグナルにおいてGRB2とは異なる機能を有している事が示唆された。

論文掲載ページへ

2022/02/15

傍腫瘍性舞踏病を呈した胆嚢癌の1例

論文タイトル
Paraneoplastic chorea associated with gallbladder cancer
論文タイトル(訳)
傍腫瘍性舞踏病を呈した胆嚢癌の1例
DOI
10.1136/bcr-2021-247080
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.14 No.12 (2021)
著者名(敬称略)
柳 昌宏 須田 烈史
所属
金沢市立病院 消化器内科

抄訳

症例は81歳女性.1週間前からの左上下肢の投げ出すような不随意運動を主訴に受診した.頭部MRIでは,明らかな異常はなかった.血液検査でも,明らかな異常はなく,各種自己抗体も陰性であったが,腫瘍マーカーのCA19-9が著明に上昇していた.造影CTを撮影したところ,胆嚢腫瘍および肝内にリング状に濃染する多発腫瘤を認めた.多発肝転移を伴う切除不能胆嚢癌と診断し,組織診断のため胆嚢腫瘍に対して超音波内視鏡下穿刺吸引生検を行ったところ,肝様腺癌が検出された.左上下肢の不随意運動については,胆嚢癌の傍腫瘍性神経症候群としての傍腫瘍性舞踏病と診断した.ジェムザール+シスプラチンによる化学療法を開始したところ,腫瘍は縮小し,不随意運動も完全に消失した.傍腫瘍性舞踏病は非常に稀であり,急速に進行し,薬剤に抵抗性であることが多く,症状はしばしば非対称性,片側性である.ステロイドやハロペリドールの有効性も報告されているが,根本治療は背景腫瘍に対する治療(手術や化学療法など)である.成人発症の舞踏運動,特に高齢者や体重減少を伴う症例,片側性の症状を呈する症例では,悪性腫瘍の存在も疑うべきである.

論文掲載ページへ

2022/02/15

妊娠中期総コレステロール値と在胎不当過小(SGA)・過大児(LGA)の関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

論文タイトル
Association of Maternal Total Cholesterol With SGA or LGA Birth at Term: the Japan Environment and Children’s Study
論文タイトル(訳)
妊娠中期総コレステロール値と在胎不当過小(SGA)・過大児(LGA)の関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
DOI
10.1210/clinem/dgab618
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Vol.107 Issue1 (ee118–e129)
著者名(敬称略)
金子 佳世, 伊藤 由起 他
所属
名古屋市立大学 大学院医学研究科 環境労働衛生学分野

抄訳

 母体の血中コレステロールは、胎生期発育において重要な役割を果たす。本研究は、妊娠中期の総コレステロール値(TC)と在胎不当過小・過大児(SGA/LGA)は関連するか、明らかにすることを目的とした。エコチル調査参加の、各種疾患の既往や妊娠中貧血のない単胎正期産の母親と、新生児先天性異常、遺伝子異常の無い子どもで、解析に必要な変数の揃った母子37449組を対象とした。妊娠中期TC値の1標準偏差(35.33mg/dL)減少毎のSGAのオッズ比は1.20(95%信頼区間1.15-1.25)、1標準偏差増加毎のLGAのオッズ比は1.13(95%信頼区間1.09-1.16)だった。また、妊娠前のBMIや妊娠中体重増加量が正常な者に限定しても、同様の結果が得られた。今回HDLコレステロール値や中性脂肪の影響は検討しておらず、今後、妊娠期における適正な脂質プロファイルの検討が必要である。

論文掲載ページへ

2022/02/14

細胞種により異なるRNAポリメラーゼ転写産物が相分離を介したDBC1核内構造体の形成に関与する

論文タイトル
Distinct RNA polymerase transcripts direct the assembly of phase-separated DBC1 nuclear bodies in different cell lines
論文タイトル(訳)
細胞種により異なるRNAポリメラーゼ転写産物が相分離を介したDBC1核内構造体の形成に関与する
DOI
10.1091/mbc.E21-02-0081
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Volume 32, Issue 21
著者名(敬称略)
萬年 太郎, 廣瀬 哲郎 他
所属
萬年 太郎:立命館大学 生命科学部生命医科学科 プロテオミクス研究室
廣瀬 哲郎:大阪大学大学院 生命機能研究科 RNA生体機能研究室

抄訳

 哺乳類細胞核に存在する様々な核内構造体は、RNA合成やプロセシング、RNP分子装置の生合成の場として知られている。これまでに、特異的なRNAが骨格としていくつかの核内構造体の形成に働いていることが明らかなってきた。今回我々は、RNase感受性を示す2つの核内構造体(大腸がん由来HCT116細胞のDBC1核内構造体[DNB]と子宮頸がん由来HeLa細胞のSam68核内構造体[SNB])が、異なるRNAポリメラーゼ転写産物を骨格として形成されること、さらにDNBとSNBが相分離様の相互作用を介して形成されていることを明らかにした。このことから、これらの核内構造体は相分離を介して相互作用するRNAやタンパク質を変化させることで異なる機能を担っている可能性が示唆された。次にDNBの新規構成因子の探索のため免疫沈降-MS解析をおこない、HNRNPLとHNRNPKを同定した。また、DNB構成因子のsiRNAにより、DBC1とHNRNPLがDNBの形成に必須であることを明らかにした。さらにHNRNPLがDNBの形成にどのように関与しているのか解析した結果、HNRNPLのRNA結合ドメインと天然変性領域が細胞内でのDNB形成とin vitroでの液滴形成に関与していることが明らかになった。このことから、DNB形成にはHNRNPLとRNAやタンパク質との多価相互作用による相分離の誘導が必要であることが示唆された。

論文掲載ページへ