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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/05/23

CKDにおける新規の末期腎不全予測モデルの開発:血清ビリルビン値の有用性 New

論文タイトル
A Novel Kidney Failure Prediction Model in Individuals With CKD: Impact of Serum Bilirubin Levels
論文タイトル(訳)
CKDにおける新規の末期腎不全予測モデルの開発:血清ビリルビン値の有用性
DOI
10.1210/clinem/dgae430
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 5, May 2025, Pages 1375–1383
著者名(敬称略)
井口 登與志 他
所属
福岡市医師会 福岡市健康づくりサポートセンター
著者からのひと言
データ駆動型アプローチによりCKDにおける簡易でかつ精度の高い新規末期腎不全予測モデルを開発・検証した論文であり、この予測モデルの臨床現場でのリスク評価や治療判断における有用性も期待される(web上でも使用可能となっているhttps://carna-hs.co.jp/simulation2)。また、内因性抗酸化因子である血清ビリルビン値の予測寄与度が極めて高いことにも注目してほしい。

抄訳

本研究は、慢性腎臓病(CKD)から末期腎不全(ESKD)への進行予測における血清ビリルビン値の有用性を明らかにし、これを取り入れた新たな予測モデルを開発・検証した。2008〜2018年に九州大学病院でフォローされたCKD患者4103名を開発コホートとし、Cox比例ハザードモデルにより20項目の候補因子から予測寄与度の高い順にeGFR、ビリルビン、蛋白尿、年齢、糖尿病、高血圧、性別、アルブミン、ヘモグロビンの9項目を選定。これらを用いた予測モデルは、時間依存AUC(2年:0.943、5年:0.935)において高い識別能と優れたキャリブレーション性能(予測確率と観察確率の一致度)を示し、外部検証コホート(n=2799)においても良好な結果を示した。結論として、血清ビリルビン値はCKDの進行に対する独立した強力な予測因子であり、血清ビリルビン値を含んだ今回の新規予測モデルは、簡易でかつ精度高くESKD進行を予測可能であり、臨床現場でのリスク評価や治療判断に貢献する可能性が示唆された。

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2025/05/23

時計タンパク質KaiCのリン酸化は自己阻害メカニズムによって制御される New

論文タイトル
The priming phosphorylation of KaiC is activated by the release of its autokinase autoinhibition
論文タイトル(訳)
時計タンパク質KaiCのリン酸化は自己阻害メカニズムによって制御される
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf136
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
PNAS Nexus, Volume 4, Issue 5, May 2025, pgaf136
著者名(敬称略)
古池 美彦 森 俊文 秋山 修志 他
所属
自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 階層分子システム解析研究部門
著者からのひと言
細胞内環境を保つためには、各種酵素の活性制御が必須です。そのため、酵素と基質の出会いの確率の調節や、基質との親和性の制御など、複数のメカニズムが働いています。本研究では、概日リズムという「1日」の時間スケールのなかで、基質ATPを結合しながら、そのうえで活性部位の静電環境を調整することで活性制御する時計タンパク質KaiCの特異なメカニズムが明らかになりました。反応速度の変化が計時機能に直結するKaiCでは、夾雑系の影響が少ない分子内でのリン酸化制御が有用であったと考えられます。

抄訳

シアノバクテリアの概日リズムは、時計タンパク質KaiCのT432・S431における周期的な自己リン酸化・自己脱リン酸化によって生じ、とりわけリン酸化の進行にはKaiAの関与が必須であると考えられてきた。しかしながらKaiCのリン酸化がいかに活性化・不活性化されるのか、そのメカニズムは明らかになっていない。我々は、KaiA非存在下でもT432のリン酸化が起こるものの、その反応速度は非常に遅く、KaiC自身が活性を抑制していることを見出した。この自己阻害の仕組みに迫るため、KaiCの立体構造データを用いて計算機シミュレーションを行った。その結果、T432がアデノシン三リン酸の末端リン原子への求核攻撃に適した位置にあること、そして反応の進行に必要な一般塩基であるE318の触媒作用がR385によって静電的に抑制されていることが明らかになった。そこでKaiC変異体を用いてE318にかかる抑制の程度を検証したところ、KaiAの結合に伴ってR385が遊離することで自己阻害が解除されることが分かった。

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2025/05/22

単純ヘルペスウイルス1型の蛋白質発現量と子孫ウイルス産生量の直接的関係性 New

論文タイトル
Direct relationship between protein expression and progeny yield of herpes simplex virus 1
論文タイトル(訳)
単純ヘルペスウイルス1型の蛋白質発現量と子孫ウイルス産生量の直接的関係性
DOI
10.1128/mbio.00280-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
野邊 萌香 丸鶴 雄平 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
ウイルス感染細胞のシングルセル解析では、ウイルス遺伝子発現量と子孫ウイルス産生量が細胞ごとに大きくばらつくことが複数の研究で報告されています。しかし、従来は両者を別々に評価していたため、直接的な関連性は不明でした。本研究では、レポーターウイルス感染細胞の蛍光強度に基づいてセルソーターで細胞集団を分画し、それぞれのサブポピュレーションを統合解析するという、”ありそうでなかった”新規手法を確立し、ウイルスタンパク質発現量と子孫ウイルス産生量の直接的かつ定量的な関係を初めて明らかにした論文です。

抄訳

細胞内のウイルス蛋白質発現量と子孫ウイルス産生量は、細胞毎に大きくばらつくことが示されてきたが、その両者を同時に評価した研究はこれまで行われていなかった。本研究では単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の後期蛋白質Us11に蛍光蛋白質Venusを融合したレポーターウイルスを作製し、感染細胞をVenusの蛍光強度(すなわち後期蛋白質発現量)に応じて複数のサブポピュレーションに分画した。それぞれのサブポピュレーションのウイルス力価と電子顕微鏡解析を行った結果、後期蛋白質の発現量が特定の閾値を超えた場合のみ、ヌクレオカプシドの成熟が誘導され、子孫ウイルスが産生されることが明らかになった。

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2025/05/22

概日時計によって制御される細胞の更新が、時間依存的な味覚感受性の変化を調節する New

論文タイトル
Circadian clock–gated cell renewal controls time-dependent changes in taste sensitivity
論文タイトル(訳)
概日時計によって制御される細胞の更新が、時間依存的な味覚感受性の変化を調節する
DOI
10.1073/pnas.2421421122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.19
著者名(敬称略)
松浦 徹 他
所属
関西医科大学 病理学講座
著者からのひと言
哺乳類では、概日時計によって制御される細胞周期の進行が、全身の複数の組織や培養線維芽細胞で観察されている。本研究では、概日時計により制御される細胞分裂が、マウスの舌において、II型味細胞の集団に日内変動をもたらすことを示した。これらのII型味細胞数の変動は、苦味、甘味、うま味の知覚に影響を与える。我々の知見は、概日時計による細胞分裂制御が、生理機能の日内リズム的変化、特に高い代謝回転を有する細胞において重要であることを示唆している。

抄訳

概日時計による細胞周期の制御により、臓器や組織で失われた細胞が日内リズムに応じて補充される。本研究では、マウス舌上皮における細胞集団の時間依存的変化をシングルセルRNAシーケンスで解析し、幹細胞/前駆細胞や分化細胞、特にII型味細胞の細胞数の変動を確認した。味蕾幹細胞除去により新規細胞産生を抑制するとこれらの変動は消失した。時計遺伝子Bmal1遺伝子のノックダウンで味蕾オルガノイドでの24時間周期の細胞分裂が消失することは概日周期による制御を示唆する。舌上皮ではアポトーシスのリズムも観察されたが、幹細胞除去で失われ、新生細胞供給が細胞死リズムに必要であることが示唆された。味覚テストでは時間帯によりII型味細胞由来の感受性に変化が見られ、概日時計が日内の細胞数変化を調節することで舌の機能を調節していることが示唆された。

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2025/05/15

腸内細菌共通抗原フリッパーゼWzxEは酸性環境、低温環境、高浸透圧環境における大腸菌の増殖に必要である

論文タイトル
Enterobacterial common antigen repeat-unit flippase WzxE is required for Escherichia coli growth under acidic conditions, low temperature, and high osmotic stress conditions
論文タイトル(訳)
腸内細菌共通抗原フリッパーゼWzxEは酸性環境、低温環境、高浸透圧環境における大腸菌の増殖に必要である
DOI
10.1128/aem.02595-24
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
山口 咲季 垣内 力 他
所属
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・分子生物学分野
著者からのひと言
腸内細菌共通抗原(ECA)の生理的な役割は、十分には明らかになっていません。本研究では、ECAの合成過程が大腸菌のストレス耐性に重要な役割を果たすことを見出しました。

抄訳

腸内細菌に保存されている多糖類である腸内細菌共通抗原(ECA)のストレス耐性における役割は不明である。脂質結合型 ECA 繰り返し単位はECAフリッパーゼWzxEによって内膜を透過させられた後、ECAとなる。本研究では、ECAフリッパーゼWzxEの欠損株が酸性環境、低温環境、高浸透圧環境に対してコラン酸依存的に感受性を示すことを明らかにした。この結果は、脂質結合型 ECA 繰り返し単位が、コラン酸依存的に大腸菌の酸性環境、低温環境、高浸透圧環境に対する感受性を引き起こすことを示唆している。脂質結合型 ECA 繰り返し単位が WzxE と脂質結合型コラン酸繰り返し単位のフリッパーゼの両方によって内膜を透過させられる知見を考慮すると、WzxE欠損株の表現型のコラン酸依存性は、ストレス条件下で大量に産生されたコラン酸が脂質結合型コラン酸繰り返し単位のフリッパーゼを占有し、その結果、内膜上に脂質結合型 ECA 繰り返し単位が蓄積するモデルを提示している。

 

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2025/05/14

麻黄と桂皮はウイルスの侵入および複製阻害という多機序的な抗インフルエンザウイルス作用を持つ

論文タイトル
Multiple antiviral mechanisms of Ephedrae Herba and Cinnamomi Cortex against influenza: inhibition of entry and replication
論文タイトル(訳)
麻黄と桂皮はウイルスの侵入および複製阻害という多機序的な抗インフルエンザウイルス作用を持つ
DOI
10.1128/spectrum.00371-25
ジャーナル名
Microbiology Spectrum
巻号
Microbiology Spectrum Ahead of Print
著者名(敬称略)
藤兼 亜耶 他
所属
福岡大学医学部総合診療学
著者からのひと言
この研究は、麻黄湯のインフルエンザに対する二重の抗ウイルス作用機構(侵入阻害+複製阻害)を初めて明らかにし、その効果がA型・B型インフルエンザに広く及ぶことを示しました。主要構成生薬の特定により、麻黄湯は多標的・広範囲に対応可能な治療薬候補として、パンデミック対策における薬剤再開発の新たな選択肢となり得ます。

抄訳

麻黄湯は、インフルエンザウイルス感染症に対する有効性がすでに知られている漢方薬であるが、その詳細な作用機序は未解明であった。本研究では、麻黄湯およびその構成生薬による抗インフルエンザウイルス作用のメカニズムを明らかにした。麻黄湯はウイルス表面のヘマグルチニン(HA)に結合し、A型(H1N1およびH3N2)およびB型を含む複数の株において、ウイルスの細胞侵入を阻害することが判明した。さらに、ウイルスとともに細胞内に取り込まれた麻黄湯は、ウイルス複製に必須なPAエンドヌクレアーゼにも結合し、その酵素活性を抑制した。構成生薬の中でも、麻黄および桂皮がHAおよびPAの双方に作用し、麻黄湯の抗ウイルス効果の中核を担っていることが示唆された。麻黄湯は、ウイルスの侵入と複製という複数の段階を標的とする多機序的な抗ウイルス作用を有しており、インフルエンザウイルスの変異にも柔軟に対応可能な新たな治療選択肢として期待される。

 

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2025/05/12

シグマ因子の活性を調節するFecRタンパク質の連続的な切断が,TonB依存的なシグナル伝達を制御する

論文タイトル
Cleavage cascade of the sigma regulator FecR orchestrates TonB-dependent signal transduction
論文タイトル(訳)
シグマ因子の活性を調節するFecRタンパク質の連続的な切断が,TonB依存的なシグナル伝達を制御する
DOI
10.1073/pnas.2500366122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.16
著者名(敬称略)
横山達彦 久堀智子 秋山芳展 他
所属
岐阜大学 大学院 医学系研究科 病原体制御学分野
著者からのひと言
私たちは,膜タンパク質を膜中で切断する特殊なプロテアーゼの切断基質を探索する過程で,FecRタンパク質が細胞内で連続的な切断を受けることを見出し,2021年に報告しました(Yokoyama et al., J. Biol. Chem., 2021).本研究ではこの発見を出発点として,FecRを介した鉄シグナル伝達機構の全体像を明らかにしました.今後,同様のタイプのシグナル伝達機構を理解する上で,本研究が重要な礎となることを願っています.最後に,本研究の土台となった膨大な研究を推進し,本研究領域の発展にご貢献されてきた,Max Planck Institute for Biology(ドイツ)のVolkmar Braun博士に心から敬意を表します.(横山達彦)

抄訳

生命にとって鉄は不可欠な元素であるが,環境中には微量しか存在しない.そのため,生命は外界の鉄を細胞内に取り込むシステムを高度に進化させて来た.細菌は外界環境の鉄を感知し,それに応じて鉄取り込みに関わる因子の発現を活性化するが,鉄を感知する分子メカニズムの全容は,長年にわたり明らかにされてこなかった.
グラム陰性細菌は外界の鉄を取り込む際に,分子モーターであるTonB-ExbBD複合体が生み出す機械的な力を利用することが知られている.本研究ではこの機械的な力が,シグナル伝達を担う膜タンパク質FecRにも伝わり,FecRの連続的な切断を引き起こすことを突き止めた.そして,この切断によって生じたFecR断片が,鉄の取り込みに必要な遺伝子群の発現を誘導することを明らかにした.本研究は,タンパク質切断を介したシグナル伝達の新たなメカニズムを提示し,生体機能制御の基盤となる仕組みの一端を明らかにしたものである.

内容の詳細は下記よりご覧ください.
プレスリリース:https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2025/04/entry18-14282.html

 

 

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2025/05/12

ヘビから分離されたPsychrobacter sp. GTC18467の完全長ゲノム配列

論文タイトル
Complete genome sequence of Psychrobacter sp. GTC18467 isolated from snake in Japan
論文タイトル(訳)
ヘビから分離されたPsychrobacter sp. GTC18467の完全長ゲノム配列
DOI
10.1128/mra.00340-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Ahead of Print
著者名(敬称略)
林 将大 他
所属
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 嫌気性菌研究分野
岐阜大学 高等研究院 微生物遺伝資源保存センター(GCMR)
著者からのひと言
ペット動物を取り巻く細菌について把握することは、病原性のメカニズムおよび人獣共通感染症のリスクを理解する上で重要である。本報は動物から分離された未知の細菌における病原性の解明に資する一報と考える。本株は岐阜大学微生物遺伝資源保存センター(https://gcmr.guias.gifu-u.ac.jp)にて入手が可能である。

抄訳

Psychrobacter 属は、Moraxellaceae 科に属する好気性のグラム陰性菌である。本菌群は環境中に広く存在し、一部の菌種はヒトへの病原性についても報告されている。
本論文では、2024年に岐阜県内で飼育されているニシキヘビの体表から分離された後、種レベルでの同定不能株として保存されていたPsychrobacter sp. GTC18467株について完全長ゲノムを決定した。ロングリードおよびショートリードを組み合わせて解析した結果、Psychrobacter sp. GTC18467株のゲノムは2,642,444 bp の環状染色体および3個のプラスミドで構成されていた。16S rRNA遺伝子配列を用いた系統解析の結果、最も近縁な菌種はPsychrobacter ciconiae であり、97.4 %の類似度を示していた。全ゲノム配列に基づく類縁菌種との比較解析の結果、本株はPsychrobacter の新種である可能性が示唆された。

 

 

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2025/05/09

アフリカツメガエルを用いたヒト病原性細菌感染モデルの確立

論文タイトル
Xenopus laevis as an infection model for human pathogenic bacteria
論文タイトル(訳)
アフリカツメガエルを用いたヒト病原性細菌感染モデルの確立
DOI
10.1128/iai.00126-25
ジャーナル名
Infection and Immunity
巻号
Infection and Immunity Ahead of Print
著者名(敬称略)
栗生 綾乃 垣内 力 他
所属
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・分子生物学分野

抄訳

細菌の病原性とそれに対抗する宿主動物の免疫システムを理解するためには、感染モデル動物を使用した感染実験が必要不可欠である。感染実験に頻繁に利用されるマウスなどの哺乳動物は、倫理面とコスト面の問題から、多数の個体数を扱うことが困難である。本研究では、多数の個体数を扱うことが可能で、免疫システムがヒトと比較的近いアフリカツメガエルについて、ヒト病原性細菌の感染モデル動物として利用できるか検討を行った。
黄色ブドウ球菌、緑膿菌、リステリア・モノサイトゲネスの腹腔内注射により、菌量依存的にアフリカツメガエルの生存率が低下した。黄色ブドウ球菌および緑膿菌によるアフリカツメガエルの生存率の低下は、それぞれの細菌株に有効な抗菌薬を投与することで抑制された。さらに、黄色ブドウ球菌の病原性に関わるagr領域とcvfA遺伝子、ならびにリステリア・モノサイトゲネスの病原性に関わるLIPI-1領域の各欠損株は、アフリカツメガエルに対する病原性が低下していた。アフリカツメガエルにおける黄色ブドウ球菌の体内分布を検討したところ、腹腔内注射後30分の時点で、血液、肝臓、筋肉において黄色ブドウ球菌が検出され、死亡時刻までそれぞれの臓器における細菌数が維持されていた。
以上の結果から、アフリカツメガエルはヒト病原性細菌の病原性遺伝子の評価や抗菌薬の有効性評価に使用可能な感染モデル動物であると考えられる。本感染モデルは腹腔から全身へ細菌が移行する敗血症を模擬していると考えられ、敗血症における細菌と宿主の相互作用を研究する上で有用である。 

 

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2025/05/01

ヘルペスウイルスに保存されたキナーゼによるサイクリン依存性キナーゼの制御機構の模倣

論文タイトル
Regulatory mimicry of cyclin-dependent kinases by a conserved herpesvirus protein kinase
論文タイトル(訳)
ヘルペスウイルスに保存されたキナーゼによるサイクリン依存性キナーゼの制御機構の模倣
DOI
10.1073/pnas.2500264122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.16
著者名(敬称略)
小栁 直人 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野
著者からのひと言
本研究は、ウイルスが宿主タンパク質の多面的な機能を巧妙に模倣することで、宿主細胞をハイジャックし、自らの生存戦略を遂行していることを明らかにした点で、学術的に高い意義を有すると考えられます。ヘルペスウイルスが宿主に対して終生感染を成立させるという特性を踏まえると、本ウイルスのさらなる宿主共存戦略を解明することは、今後の抗ウイルス剤やワクチンの開発において極めて重要であると考えられます。

抄訳

これまで、単純ヘルペスウイルス(HSV)の特異的なキナーゼであるUL13は、宿主キナーゼであるサイクリン依存キナーゼ(CDK1, CDK2)の機能を模倣することが知られていた。本研究において、HSV-2 UL13のCDK1,CDK2活性制御部位に相当するUL13 Tyr-162が感染細胞内でリン酸化されることが明らかとなった。Tyr-162のリン酸化は、UL13による基質リン酸化を抑制し、CDKの自己制御機構を模倣していると考えられた。このリン酸化はマウス脳内での致死的なウイルス感染の抑制に加え、モルモットにおける効率的な回帰発症にも関与することが示唆された。これらの結果は、UL13がCDKの調節機構を模倣することで、ウイルスが宿主細胞をハイジャックし、それによって生存戦略を巧に遂行していることを示している。

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