抄訳
真核生物は、減数分裂期において両親由来のゲノムDNAを組換え、子孫に遺伝的多様性をもたらす。減数分裂期に入るとDNAが複製され、次いで染色体に「軸」と「ループ」と呼ばれる高次構造が形成される。ループ部には「組換えホットスポット」という領域が含まれ、この領域でDNAの複製後に、DNA二本鎖切断 (DSB: DNA double-strand break) が導入されることで、組換えが開始される。DSB形成に関わる因子は数多く単離されてきたが、その時空間的な制御メカニズムについては不明な点が多く残されていた。
今回の分裂酵母を用いた解析から、DSB形成に関わるタンパク質群は、「DSBC (DSB core)複合体」と「SFT (seven, fifteen, twenty-four)複合体」の2種の複合体を形成することが分かった。DSBC複合体の中核をなすSpo11という種間で保存されたタンパク質は、基本的にループ部のホットスポットでDSBを導入する。一方、SFT複合体は軸部およびループ部のホットスポットにも結合し、両者を連係させることが示唆された。減数分裂期前DNA複製が完了すると、S期チェックポイントが解除され、Mde2という第3グループのDSB形成因子が発現する。Mde2は、SFT複合体の安定化を介して、軸−ループ間の相互作用を促進することが分かった。さらにMde2は、DSBC複合体構成因子と結合し、Spo11をホットスポット上に呼び込むことも分かった。すなわち、Mde2が、DNA複製、染色体高次構造の構築、DSB形成因子の集合を統合的に制御する、中心的な因子であることが、今回初めて明らかになった。