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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2012/05/11

シナプス小胞の開口・回収バランスを支えるPKG依存性逆行性メカニズムの生後発達

論文タイトル
Maturation of a PKG-Dependent Retrograde Mechanism for Exoendocytic Coupling of Synaptic Vesicles 
論文タイトル(訳)
シナプス小胞の開口・回収バランスを支えるPKG依存性逆行性メカニズムの生後発達
DOI
10.1016/j.neuron.2012.03.028
ジャーナル名
Neuron Cell Press
巻号
Volume 74, Issue 3, 517-529, 10 May 2012
著者名(敬称略)
江口工学、高橋智幸 他
所属
沖縄科学技術大学院大学 細胞分子シナプス機能ユニット
同志社大学大学院 脳科学研究科
JST-CREST

抄訳

神経細胞間のつなぎ目「シナプス」では電気信号が一旦、化学信号に変換されてから再び電気信号に変換され、これが神経回路を伝わることにより、脳が働くことになります。したがって脳の働きを持続させるためには、シナプスにおける信号変換プロセスが滞りなく作動することが必要です。そのための仕組みとして、化学信号を担う伝達物質を細胞内膜「小胞」に蓄えておき、電気信号によって伝達物質を開口放出させ、空になった小胞を回収・再利用する「小胞リサイクリング」が知られています。この仕組みを有効に作動させるために、小胞の開口数に応じて回収速度を調節するメカニズムがあると考えられていましたが、その実体は不明でした。今回、私たちは、伝達物質の放出量に応じてNOが産生され、これが酵素"PKG"を活性化して、小胞の回収を加速することを突き止めました。また、この仕組みは、生誕後、PKGの発現の上昇に伴って構築されることが分かりました。実際、PKGの活性阻害薬を神経細胞の軸索の先端に注入すると、シナプス伝達が脱落し、電気信号入力の出力変換率が著しく低下しました。今回明らかになったシナプス小胞開口・回収連関メカニズムは、脳神経疾患や向精神薬の標的となっている可能性があります。

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2012/04/26

膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法の安全性についての検討

論文タイトル
Safety and Optimal Management of Hepatic Arterial Infusion Chemotherapy After Pancreatectomy for Pancreatobiliary Cancer 
論文タイトル(訳)
膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法の安全性についての検討
DOI
10.2214/AJR.11.6751
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012 vol. 198 no. 4 923-930
著者名(敬称略)
西尾福英之、田中利洋、橋本彩、庄雅之、中島祥之、穴井洋、吉川公彦 他
所属
奈良県立医科大学 放射線医学教室

抄訳

膵・胆道癌に対する膵切除後の肝動注化学療法(HAIC)の安全性を検討した。対象は、51例(術式;PD(膵頭十二指腸切除術) 29、TP(膵全摘術) 2、DP(膵尾部切除術) 20)。肝動注の方法はリザーバーを経皮的に留置し、5-fluorouracilを毎週5時間かけて持続動注し、3投1休を1コースとして実施した。1コース毎にフローチェック(F/C)を行い、合併症の有無について評価した。留置は全例で成功。肝動脈閉塞を1例(2%)、無症候性の肝動脈狭窄を10例(19.6%)で認めた。狭窄例のうち3例(5.9%)で同時性に肝膿瘍(2例)、胆汁漏(1例)を認めた。いずれもPD後の症例でHAIC開始後3ヵ月以内に出現したが、保存的加療またはドレナージにより改善した。狭窄症例のうち4例は1ヵ月の休薬により治療を再開することができた。膵切除後のHAICは、F/Cを定期的に行うことで安全に施行可能であるが、PD後では合併症に留意する必要がある。

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2012/04/10

高分子を内封したモデル細胞膜の融合と分裂のカップリング

論文タイトル
Coupling of the fusion and budding of giant phospholipid vesicles containing macromolecules
論文タイトル(訳)
高分子を内封したモデル細胞膜の融合と分裂のカップリング
DOI
10.1073/pnas.1120327109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
PNAS 2012 ; published ahead of print April 2, 2012, doi:10.1073/pnas.1120327109
著者名(敬称略)
鈴木宏明、四方 哲也 他
所属
大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻 共生ネットワークデザイン学講座

抄訳

生命の起源に関する研究においては、現代の細胞でみられるタンパク質等の高度な制御がなくとも原始的細胞の自己増殖が起こったと考えられている。細胞膜は細胞を形づくるのに必須の要素であり、その成長と分裂を比較的シンプルな物理化学的過程から再現する実験が行われてきた。  本論文では、リン脂質から成るジャイアントリポソームを融合した後、自発的に分裂様の変形が誘起されることを報告した。この現象は、リポソームの内部にポリエチレングリコールやデキストランなど生体高分子を模した物質を内封した場合のみに、球形のリポソームが融合によって余剰の膜面積を得た後に起こることを示した。 リポソームの内部に高分子が含まれる場合、高分子の重心は自身の半径よりも膜に近づくことができないので、膜の内側には高分子が排除された領域が存在する(排除体積)。この領域は高分子が溶解した領域に比べて化学ポテンシャルが大きいので、排除体積が小さくなる方向に系の状態が変化する。その結果、膜の曲率が増大し、リポソームの分裂様の変形が起こる。この物理的効果は特定の物質の性質に依らないため、原始細胞の増殖の議論において広範に適用可能な一般性の高いものであることを示した。

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2012/04/09

エタノールによる肝切除術前の経皮的門脈塞栓術に関する検討

論文タイトル
Preoperative Percutaneous Transhepatic Portal Vein Embolization With Ethanol Injection
論文タイトル(訳)
エタノールによる肝切除術前の経皮的門脈塞栓術に関する検討
DOI
10.2214/AJR.11.6515
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012, Vol. 198 No. 4
著者名(敬称略)
作原 祐介、他
所属
北海道大学大学院 医学研究科 医学専攻病態情報学講座 放射線医学分野

抄訳

エタノール注入による経皮経肝的門脈塞栓術(PTPE)の安全性、有効性を検討した。対象は当院でエタノールによる経皮的門脈塞栓術を施行した143例(男性96名、女性47名、平均年齢65.5歳)。標的門脈枝の完全塞栓を得たのは143例中124例(86.7%)だった。19例(13.3%)に再開通を認め、うち容積増大が不十分だった10例に門脈塞栓を追加施行した。平均残肝容積はPTPE前後で418mLから541mLに増大、平均増大率は33.6%だった。平均残肝容積率は34.7%から45.4%に増大、平均で10.6%の増大を得た。一過性の発熱、肝酵素上昇、 被膜下血腫、肝内動脈出血、気胸等の合併症を認めたが、術式に影響する重篤な合併症は認めなかった。予定した肝切除術は120例(83.9%)に施行、多臓器不全で死亡した2例を除き肝不全は無かった。 4例は縮小手術を施行、19例は肝切除を施行しなかった(手術不適応の肝外病変:15例、肝機能不良・残肝容積不足:各2例)。 エタノールによるPTPEは安全で有効な術前処置であると考える。

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2012/04/09

緑茶カテキンEGCGの多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導作用は67LR/PKCδ/aSMase経路を介した脂質ラフトの会合に依存する

論文タイトル
Green tea polyphenol EGCG induces lipid-raft clustering and apoptotic cell death by activating protein kinase Cδ and acid sphingomyelinase through a 67 kDa laminin receptor in multiple myeloma cells
論文タイトル(訳)
緑茶カテキンEGCGの多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導作用は67LR/PKCδ/aSMase経路を介した脂質ラフトの会合に依存する
DOI
10.1042/BJ20111837
ジャーナル名
Biochemical Journal Portland Press
巻号
April 2012 | Vol.443 | Issue 2 | 525-534
著者名(敬称略)
塚本俊太郎、立花宏文
所属
九州大学大学院農学研究院 生命機能科学部門

抄訳

緑茶カテキンEGCGは多発性骨髄腫に対して特異的にアポトーシスを誘導することが報告されたが、その詳細な作用機序は不明であった。そこで本研究では、EGCGの多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導機構の解明を試みた。
 我々はこれまでにEGCGの細胞膜受容体として67-kDa laminin receptor(67LR)を発見している。そこで、EGCGのアポトーシス誘導作用における67LRの関与について検討した結果、多発性骨髄腫において高発現している67LRを介してEGCGが脂質ラフトの会合を誘導することで細胞死を引き起こすことを見出した。さらに、この作用はProtein kinase C delta (PKCδ) および acid sphingomyelinase (aSMase) の活性化により仲介されることを明らかにした。多発性骨髄腫を移植したマウス腫瘍モデルにおいてもEGCG誘導性のPKCδ/aSMase経路の活性化が観察された。以上より、67LRを介したPKCδ/aSMase/脂質ラフト会合は、EGCG誘導性の多発性骨髄腫特異的なアポトーシス誘導経路として示された。

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2012/04/06

内視鏡的止血困難な急性大腸出血に対するsmall-sized detachable coilsと1.7-F microcatheterを用いた超選択的vasa recta塞栓術

論文タイトル
Ultraselective Arterial Embolization of Vasa Recta Using 1.7-French Microcatheter With Small-Sized Detachable Coils in Acute Colonic Hemorrhage After Failed Endoscopic Treatment
論文タイトル(訳)
内視鏡的止血困難な急性大腸出血に対するsmall-sized detachable coilsと1.7-F microcatheterを用いた超選択的vasa recta塞栓術
DOI
10.2214/AJR.11.7295
ジャーナル名
American Journal of Roentgenology American Roentgen Ray Society
巻号
April 2012, Vol. 198 No. 4
著者名(敬称略)
小金丸 雅道、他
所属
久留米大学医学部 放射線医学教室

抄訳

 急性大腸出血に対する動脈塞栓術は、腸管虚血のような合併症を回避するため超選択的catheter挿入を必要とする。我々はsmall-sized microcatheter system(1.7-F microcatheter, 0.010-inch detachable coil)を用いて超選択的catheter挿入による動脈塞栓術を行い、技術的実行可能性および臨床的有用性を評価した。
 対象は内視鏡的止血困難であった急性大腸出血4例。血管造影にて出血血管を同定後、前述のsystemを用いて大腸の末梢栄養動脈であるvasa rectaの長枝のみを塞栓した。塞栓術は全例成功。塞栓血管平均径は0.5mmであった。塞栓後再出血認めず、経過観察の大腸内視鏡検査にて大腸虚血や梗塞は認めなかった。
 下部消化管出血に対する動脈塞栓術は、保存的加療または内視鏡的止血困難例が適応である。近年はvasa rectaまで選択的catheter挿入による塞栓術が行われる。Vasa rectaは複数の長枝と短枝を分岐し、これらは豊富な吻合が存在する。我々の経験では長枝のみの塞栓が可能であった。これは過去報告例のない超選択的塞栓術である。短枝と塞栓されなかった長枝により塞栓後の腸管虚血や壊死を回避できた可能性が高い。この新たな塞栓術はvasa rectaの長枝のみの限局性塞栓を可能とし、急性大腸出血例に対し安全かつ有用な方法と考える。

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2012/04/04

3テスラ4次元造影MR血管撮影を用いた脳・頭頸部腫瘍の評価

論文タイトル
Evaluation of Brain and Head and Neck Tumors with 4D Contrast-Enhanced MR Angiography at 3T
論文タイトル(訳)
3テスラ4次元造影MR血管撮影を用いた脳・頭頸部腫瘍の評価
DOI
10.3174/ajnr.A2819
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology  American Society of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology Vol. 33, No. 3 (445-448)
著者名(敬称略)
平井 俊範 他
所属
熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学分野

抄訳

本研究の目的は富血管性脳・頭頸部腫瘍においてインターベンションを計画する際に栄養血管や腫瘍濃染を同定するのに3テスラ4次元造影MR血管撮影がDSAを置き換えられるかを検証することである。脳・頭頸部腫瘍を有する連続15症例に対して3テスラ4次元造影MR血管撮影とDSAを施行した。4次元造影MR血管撮影は0.9×0.9×1.5 mmの空間分解能、1.9秒の時間分解能で、30ダイナミック撮像を行った。2名の独立した観察者が主な栄養血管、腫瘍濃染について4次元造影MR血管撮影像を評価した。観察者間、各モダリティー間の一致率をκ統計で検定した。4次元造影MR血管撮影において、主な栄養血管、腫瘍濃染の観察者間一致率はそれぞれfair (κ = 0.28)、very good (κ = 0.87)であった。各モダリティー間の一致率は主な栄養血管がmoderate (κ= 0.45)、腫瘍濃染がgood (κ = 0.74)であった。3テスラ4次元造影MR血管撮影は富血管性脳・頭頸部腫瘍の腫瘍濃染の評価に有用であるかもしれないが、インターベンションを計画する際にDSAを置き換えることはできない。

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2012/03/07

Galectin-9-T cell Immunoglobulin Mucin-3経路は1型糖尿病治療のターゲットである

論文タイトル
Galectin-9 and T Cell Immunoglobulin Mucin-3 Pathway Is a Therapeutic Target for Type 1 Diabetes
論文タイトル(訳)
Galectin-9-T cell Immunoglobulin Mucin-3経路は1型糖尿病治療のターゲットである
DOI
10.1210/en.2011-1579
ジャーナル名
Endocrinology Endocrine Society
巻号
February 2012 |Vol. 153 |Issue 2 |612-620
著者名(敬称略)
神崎 資子、和田 淳 他
所属
岡山大学大学院 医歯薬総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学

抄訳

 1型糖尿病のモデル動物であるnon-obese diabetic(NOD)マウスは、糖尿病発症に先行してラ氏島炎が認められ、TH1サイトカイン優位で 細胞傷害に働くと考えられている。我々が同定したGalectin-9 (Gal-9)は36kDaのβ-galactoside binding proteinで、TH1細胞の膜蛋白であるT-cell immunoglobulin and mucin-3 (Tim-3)のリガンドとして作用する。組織に浸潤した活性化TH1細胞上のTim-3を介してGal-9がアポトーシスを誘導する。一方、Tim-3は樹状細胞にも発現し、Gal-9がTNF-α分泌を促進することが報告された。そこでGal-9蛋白および抗Tim-3抗体の糖尿病発症に対する効果とその機序について検討した。NODマウス(メス) にリコンビナントGal-9 蛋白(1mg/kg/週)、モノクローナル抗Tim-3抗体(RMT3-23, 0.25mg/3.5日)を計40週間投与した。PBS投与群と比較し、Gal-9投与群、抗Tim-3抗体投与群いずれも有意差をもって糖尿病発症抑制作用を認め、抗Tim-3抗体投与群で最も効果が強力であった(p<0.0001)。培養CD4+Tim-3+TH1細胞の検討では、Gal-9によるTH1細胞のアポトーシス誘導が認められたが、抗Tim-3抗体ではアポトーシスは誘導されなかった。一方tsDCにおいては、抗Tim-3抗体はGal-9によるTNF-αの分泌を用量依存性に抑制した。Gal-9は、TH1細胞のアポトーシスを介してNODマウスの糖尿病発症を抑制すると考えられた。また抗Tim-3抗体は、樹状細胞でTNF-αの分泌を抑制し、TH1細胞ではGal-9のアポトーシス作用を増強することから新しい1型糖尿病の治療ターゲットであると考えられた。

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2012/03/07

局所的な神経の活性が、免疫細胞の血液脳関門の通過ゲートを形成する

論文タイトル
Regional Neural Activation Defines a Gateway for Autoreactive T Cells to Cross the Blood-Brain Barrier
論文タイトル(訳)
局所的な神経の活性が、免疫細胞の血液脳関門の通過ゲートを形成する
DOI
10.1016/j.cell.2012.01.022
ジャーナル名
Cell Cell Press
巻号
February 2012 |Vol. 148 |Issue 3 |447-457
著者名(敬称略)
有馬 康伸、村上 正晃 他
所属
大阪大学大学院生命機能研究科、医学系研究科、免疫学フロンティア研究センター、JST-CREST、免疫発生学

抄訳

中枢神経系である脳や脊髄の血管は、細菌やウイルスなどの影響を防ぐために特殊な関所として血液脳関門を形成しています。血液脳関門は、免疫細胞はもとより、大きなたんぱく質なども通過できません。しかし、中枢神経系にも細菌やウイルスが感染し、がんや炎症などに起因する難病が発症します。こうした背景から、病原体や免疫細胞などが中枢神経系に入るゲートがある可能性が考えられてきました。しかし、そのゲートがどこにあり、またどのように形成されるのかなど、実体は不明でした。私たちは、中枢神経系の難病である多発性硬化症の動物モデルを用いて、血液脳関門のゲートの部位とその形成機構を調べ、第5腰椎の背側の血管がそのゲートであることを突き止めました。また、地球からの重力による日常的な刺激が第5腰椎付近の神経を活性化させ、それが慢性炎症の誘導機構"IL−6アンプ"を活性化することによってこのゲートが形成されることを突き止めました。今回の成果により、精神的ストレスでさまざまな病気が増悪する仕組み、あるいは、適度な運動が病気を改善するメカニズム、さらに、なぜ針治療で多くの病気が改善するのかなど、今まで不明であった神経や精神と免疫系の相互作用の分子基盤が解明されることが期待されます。

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2012/03/07

相手の状況に合わせたチンパンジーの手助け行動

論文タイトル
Chimpanzees’ flexible targeted helping based on an understanding of conspecifics’ goals
論文タイトル(訳)
相手の状況に合わせたチンパンジーの手助け行動
DOI
10.1073/pnas.1108517109
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences National Academy of Sciences
巻号
Februay 2012 |publish ahead of print
著者名(敬称略)
山本 真也
所属
京都大学 霊長類研究所 ヒト科3種比較研究プロジェクト

抄訳

チンパンジーは相手が何を必要としているかを理解し、それにあわせて利他行動を柔軟に変化させるのだろうか。本研究では、利他行動の文脈におけるチンパンジーの他者理解についてより詳細に検討した。隣接する2つのブースのうち、片方には道具使用場面(ステッキ使用場面あるいはストロー使用場面)を設定し、もう一方にはステッキ・ストローを含む7つの道具を与えた。ブース間パネルが透明な条件(「見える」条件)と不透明な条件(「見えない」条件)を48試行ずつ交互におこなったところ、どちらの条件でも道具使用場面の個体が穴から手を伸ばして道具を要求する行動がみられた。しかし、渡し手の道具選択には2条件間に違いがみられ、「見える」条件では相手の状況にあわせて渡す道具の割合を有意に変化させていたのに対し、「見えない」条件ではそのような適切な道具選択ができなかった。5個体中1個体は「見えない」条件でも適切な道具を選択できていたが、この個体は道具を渡す前に穴から相手ブースを覗き見したあとに道具を選択して渡していた。これらの結果から、チンパンジーが相手の置かれている状況を見て相手の欲求を理解し、それに応じて利他行動を柔軟に変化させていることが示唆された。本研究からは、要求行動そのものからではなく、相手の状況から相手の欲求を理解していることが示唆された。チンパンジーの利他行動の生起には状況の理解と要求の理解が別々かつ相補的に働いている可能性が考えられる。

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