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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2022/06/27

透析患者における副甲状腺摘出術とシナカルセト塩酸塩の比較

論文タイトル
Parathyroidectomy vs Cinacalcet Among Patients Undergoing Hemodialysis
論文タイトル(訳)
透析患者における副甲状腺摘出術とシナカルセト塩酸塩の比較
DOI
10.1210/clinem/dgac142
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism Volume 107, Issue 7, July 2022, Pages 2016–2025
著者名(敬称略)
駒場 大峰 他
所属
東海大学医学部内科学系 腎内分泌代謝内科

抄訳

透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症を管理する上で,副甲状腺摘出術(PTx)とシナカルセト塩酸塩はともに有効な治療手段であるが,両者の直接比較はこれまでなされていない。そこで我々は日本透析医学会統計調査データベースを用いて,2008~2009年の間にPTxが実施された症例955例とシナカルセトが処方された症例8228例の生命予後を比較した。傾向スコアマッチング(1:3)により,PTx群894例,シナカルセト群2682例が抽出された。PTx群はシナカルセト群と比較し,治療介入後にintact PTH値,血清補正カルシウム値,血清リン値はいずれも大きく低下した。6年間の観察期間中にPTx群は201例,シナカルセト群は736例が死亡し,PTxはシナカルセト処方と比較し有意な死亡リスクの低下に関連していた(ハザード比0.78,95%信頼区間0.67-0.91)。この関連性はintact PTH値 500 pg/mL以上,血清補正カルシウム値10 mg/dL以上の症例においてより強く観察された(ともに交互作用P <0.001)。厳格なPTH管理が予後の改善につながるか,今後の重要な検討課題と考えられる。

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2022/06/16

MRI ADC値は血栓回収術を行った症例におけるDWI reversalに関連する(後方視的コホート研究)

論文タイトル
ADC Level is Related to DWI Reversal in Patients Undergoing Mechanical Thrombectomy: A Retrospective Cohort Study
論文タイトル(訳)
MRI ADC値は血栓回収術を行った症例におけるDWI reversalに関連する(後方視的コホート研究)
DOI
10.3174/ajnr.A7510
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
Volume 43, Issue 6(2022)
著者名(敬称略)
梅村 武部、波多野 武人 他
所属
小倉記念病院 脳神経外科

抄訳

 一般的に急性期脳梗塞におけるMRI DWI高信号領域は、脳梗塞として不可逆性変化を来しているものと考えられる。そのため超急性期の主幹動脈閉塞例では、DWI高信号となっていない領域の救済目的に血栓回収術が行われる。しかし実臨床では主幹動脈再開通症例で術後DWI高信号が改善している例を時折認める。DWI 画像の高信号域はADC値による質的診断が可能である。
 本研究では、脳梗塞急性期において血栓回収術により有効再開通が得られた症例について、初回MRI におけるDWI 高信号領域が術後改善するかどうかを、術翌日のMRI DWI画像で判定した。初回DWI高信号領域のADC 値を全て測定し、術後に改善した症例とそうでない症例の間にADC値の差があるかどうかを調査した。ADC 値 (領域平均値) は 520 × 10-6mm2/s をカットオフ値とし、この値より高ければ再開通により高信号は改善し、その領域の神経学的機能も取り戻すことがわかった。
 今回の研究により、DWI 高信号領域はADC値 (領域平均値) が520 × 10-6mm2/s以上であれば、まだ不可逆性の変化を来しておらず、再開通治療による救済可能であり神経細胞のviabilityが残っていることが示唆された。

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2022/06/14

LAG-3は安定なペプチド-MHCクラスII複合体を認識することによりT細胞の機能を弱めて自己免疫応答およびがん免疫応答を抑制する

論文タイトル
Binding of LAG-3 to stable peptide-MHC class II limits T cell function and suppresses autoimmunity and anti-cancer immunity
論文タイトル(訳)
LAG-3は安定なペプチド-MHCクラスII複合体を認識することによりT細胞の機能を弱めて自己免疫応答およびがん免疫応答を抑制する
DOI
10.1016/j.immuni.2022.03.013
ジャーナル名
Immunity
巻号
Volume 55, Issue 5(2022)
著者名(敬称略)
丸橋拓海、岡崎 拓 他
所属
東京大学 定量生命科学研究所 分子免疫学研究分野

抄訳

免疫チェックポイント分子LAG-3は、がん免疫療法においてPD-1とCTLA-4に次ぐ有望な薬剤標的として注目されている。最近、LAG-3とPD-1に対する阻害抗体の併用療法が悪性黒色腫の治療に有効であることが臨床試験で確認され、FDAにより承認された。一方で、抑制性分子の機能解析が容易でないことなどもあり、LAG-3の基礎研究は後回しにされている。特に、どの分子がLAG-3のリガンドとして働き、LAG-3に抑制機能を発揮させるのかという基本的な問題さえ未解決である。今回我々は、安定なペプチド-MHCクラスII複合体をリガンドとしてLAG-3が抑制機能を発揮することを明らかにした。これによりT細胞の機能がLAG-3によって弱められ、自己免疫疾患の発症が抑制されるとともに、がん免疫が減弱してしまうことを示した。LAG-3の機能が発揮されるメカニズムの解明により、LAG-3を標的とした治療法の研究開発を科学的根拠に基づいて進めることが可能となり、効果的かつ安全な新規治療法の開発につながると期待される。

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2022/06/09

運動時の代謝アトラスが明らかにする運動の時間依存的な代謝応答特性

論文タイトル
Atlas of exercise metabolism reveals time-dependent signatures of metabolic homeostasis
論文タイトル(訳)
運動時の代謝アトラスが明らかにする運動の時間依存的な代謝応答特性
DOI
10.1016/j.cmet.2021.12.016
ジャーナル名
Cell Metabolism
巻号
Volume34, Issue 2(2022)
著者名(敬称略)
佐藤章悟 他
所属
テキサスA&M大学

抄訳

身体運動に対する生体の応答の多様性は、「いつ運動を行うのか」によっても創出される。とりわけ、運動は、耐糖能、ミトコンドリア機能などの代謝機能を改善することから、各種疾患予防と治療を目的とした運動療法が一般に定着している。では、そのような代謝応答をより効果的に誘導するためには、いったいいつ運動をするのがいいのだろうか?目的に応じた適切な運動の時間の同定は、運動療法をより効果的にするだろう。したがって、本研究では、メタボロミクス解析ならびにシステム生物学的解析を用いることで、生体の各種臓器間における代謝の連携性ネットワークに対する運動の時間特異的な影響を明らかにすることを目指した。一日のうちの異なる時間に急性運動(朝運動vs夜運動)を行ったマウスの全身臓器(骨格筋、肝臓、心臓、白色脂肪組織、褐色脂肪組織、視床下部)および血液中、ならびに下肢骨格筋および肝臓に出入する動静脈血中における代謝産物を網羅的に調べた。異なる時間の運動に対する代謝産物の変動パターンの多臓器間相関性を算出することで、異なる時間帯の運動に対する生体システムレベルでの代謝応答の連動性と非連動性を明らかにした。特に、本研究を通じ、時間依存的運動時の多臓器間代謝ネットワークの構築に携わる可能性のある代謝産物が列挙された。本研究により得られた新たな知見は、「運動の時間」の重要性を再確認するだけでなく、生体システムレベルでの代謝連携性の構築を介して、運動は時間特異的に全身性の代謝機能を改善することともに健康増進へと導く可能性を提示する。

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2022/06/07

SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後に多関節炎を発症した2症例のうち、胸膜炎合併例では血清インターフェロンβが著増していた

論文タイトル
Marked increase of interferon-β after BNT162b2 mRNA vaccination: a case of polyarthritis with pleurisy
論文タイトル(訳)
SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後に多関節炎を発症した2症例のうち、胸膜炎合併例では血清インターフェロンβが著増していた
DOI
10.1136/bcr-2021-246533
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.15 No.3 (2022)
著者名(敬称略)
島上 洋 加藤 保宏
所属
大阪大学大学院 医学系研究科 呼吸器・免疫内科学

抄訳

症例は90代女性と70代男性。いずれの症例もBNT162b2ワクチン接種後に関節症状が1ヶ月以上持続し、当院へ入院となった。90代女性は胸膜炎を合併していたが、感染・腫瘍は除外され、自己免疫機序による胸膜炎と考えられた。いずれの症例もプレドニゾロン20mgの内服で関節炎症状は速やかに改善し、胸膜炎合併例では胸膜炎も改善した。治療開始前の血清IL-1β, IL-6, TNF-α, IFN-α2, IFN-β, IFN-γを測定したところ、胸膜炎を伴った症例においてのみ血清IFN-βの著増を認めた。IFN-βの著増はmRNAワクチン接種による自然免疫系の過剰な活性化を反映している可能性を考えるが、さらなる症例集積が必要である。

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2022/05/31

解糖系が亢進した腫瘍微小環境では乳酸により制御性T細胞のPD-1発現が高まる

論文タイトル
Lactic acid promotes PD-1 expression in regulatory T cells in highly glycolytic tumor microenvironments
論文タイトル(訳)
解糖系が亢進した腫瘍微小環境では乳酸により制御性T細胞のPD-1発現が高まる
DOI
10.1016/j.ccell.2022.01.001
ジャーナル名
Cancer Cell
巻号
Volume 40, Issue 2
著者名(敬称略)
熊谷 尚悟、西川 博嘉 他
所属
国立がん研究センター 研究所 腫瘍免疫分野、国立がん研究センター 先端医療開発センター 免疫TR分野、名古屋大学大学院医学系研究科 分子細胞免疫学

抄訳

腫瘍微小環境(TME)におけるエフェクターCD8陽性T細胞と制御性T細胞のPD-1発現バランスがPD-1阻害治療の臨床効果を予測することをこれまで我々は報告した。しかし、このPD-1発現バランスを決定する要因は不明なままであった。我々は実際の患者検体を解析し、MYC増幅腫瘍や転移性肝腫瘍などの解糖系の亢進した腫瘍において、制御性T細胞がエフェクターCD8陽性T細胞よりも優位にPD-1を高発現することを見出した。低グルコース環境下では、制御性T細胞は乳酸トランスポーターを介して乳酸を活発に吸収してNFAT1の核内移行を促進し、PD-1発現が高まった。その一方で、エフェクターCD8陽性T細胞によるPD-1発現は低下した。解糖系の亢進した腫瘍ではPD-1阻害治療によりPD-1陽性制御性T細胞は活性化し治療抵抗性を示した。解糖系の亢進した腫瘍の産生する乳酸が、PD-1発現の亢進を介してTMEにおけるTreg細胞の機能に対するチェックポイントとなることが示唆された。

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2022/05/31

ヒトサポウイルスカプシドの原子構造は、カリシウイルスの中でもユニークなそのタンパク質コンフォメーションを明らかにした

論文タイトル
Atomic Structure of the Human Sapovirus Capsid Reveals a Unique Capsid Protein Conformation in Caliciviruses
論文タイトル(訳)
ヒトサポウイルスカプシドの原子構造は、カリシウイルスの中でもユニークなそのタンパク質コンフォメーションを明らかにした
DOI
10.1128/jvi.00298-22
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Volume 96  Issue 9  e00298-22
著者名(敬称略)
宮崎 直幸 村田 和義 他
所属
自然科学研究機構 生命創成探究センター/生理学研究所

抄訳

サポウイルスは、ノロウイルスと同様に世界中で流行するウイルス性急性胃腸炎の主要な原因物質である。抗ウイルス薬やワクチンの開発には、ウイルス粒子の詳細な構造情報が必要であるが、サポウイルスではこれらを研究するためのウイルス様中空粒子(VLP)の作製が難しく、研究が遅れていた。今回、我々はヒトサポウイルスGI.6株で安定なVLPの作製に成功し、クライオ電子顕微鏡単粒子解析により2.9Å分解能でそのカプシド(殻)構造を明らかにした。結果、サポウイルス表面の突起構造は、二層の屋根構造からなるアーチ型をしており、他のカリシウイルス科ウイルスとは異なることがわかった。また、カプシドの突起の先端には、アミノ酸の4つの超可変領域が集中して存在しており、さらに、これらの隙間に宿主細胞との結合を担うアミノ酸領域が局在すると推定された。本成果により、サポウイルスに対する治療薬の開発が大きく加速されると期待される。

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2022/05/27

ゲノム情報、表現性状および化学分類学的性状に基づくFaecalibacterium属の分類:3新種Faecalibacterium duncaniae、Faecalibacterium hattoriiおよびFaecalibacterium gallinarumの提案

論文タイトル
Genome-based, phenotypic and chemotaxonomic classification of Faecalibacterium strains: proposal of three novel species Faecalibacterium duncaniae sp. nov., Faecalibacterium hattorii sp. nov. and Faecalibacterium gallinarum sp. nov.
論文タイトル(訳)
ゲノム情報、表現性状および化学分類学的性状に基づくFaecalibacterium属の分類:3新種Faecalibacterium duncaniae、Faecalibacterium hattoriiおよびFaecalibacterium gallinarumの提案
DOI
10.1099/ijsem.0.005379
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 72, Issue 4, 005379
著者名(敬称略)
坂本 光央 他
所属
理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室

抄訳

Faecalibacterium prausnitziiはヒト腸内において最も重要な酪酸産生菌の1種である。これまでの研究において、本菌種は系統学的に種レベルでの違いがあることが示唆されていた。本研究では微生物保存機関に保存されているF. prausnitziiおよび関連菌株を実験に供試し、得られたゲノム情報、表現性状および化学分類学的性状に基づいて、3新種Faecalibacterium duncaniae、Faecalibacterium hattoriiおよびFaecalibacterium gallinarumを提案した。供試菌株の中でF. prausnitzii A2-165株は基準株ではないものの、世界レベルで非常に多くの研究者に利用されている極めて有名な菌株であり、本研究によってF. duncaniaeとして再分類された。また、F. prausnitzii APC922/41-1株もF. hattoriiとして併せて再分類された。

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2022/05/27

大腸菌K-12株における転写因子CsuRによる細胞表層性情の決定における制御的役割

論文タイトル
Regulatory role of CsuR (YiaU) in determination of cell surface properties of Escherichia coli K-12
論文タイトル(訳)
大腸菌K-12株における転写因子CsuRによる細胞表層性情の決定における制御的役割
DOI
10.1099/mic.0.001166
ジャーナル名
Microbiology
巻号
Volume 168, Issue 4
著者名(敬称略)
島田 友裕 他
所属
明治大学 農学部 農芸化学科 ゲノム微生物学研究室

抄訳

単細胞の細菌はストレス環境に直接曝されている。環境の変化は細胞表層構造や膜によって感知されるため、その組成と適切な会合は、過酷な環境下で生存するために極めて重要である。細胞表層性情の変化は細菌の病原性や運動性、接着性などの機能にも影響を与えることが知られている。 本研究では筆者らが独自に開発したin vitroにおいて転写制御因子のゲノム上結合領域を網羅的に同定するためのGenomic SELEX法を用いて、大腸菌K-12株の機能未知転写因子YiaUを解析したところ、その標的遺伝子群が外膜・内膜タンパク質やリポポリサッカライドなど細菌の細胞表層構造に関与するものであることが判明した。遺伝子発現の解析により、これらの遺伝子群はYiaUにより活性化されることが示唆された。さらに、YiaUの生理的な役割を解析したところ、血清中の補体や様々な薬剤に対する感受性や、バイオフィルム形成能に影響を与えることが判明した。これらの結果から筆者らは、YiaUをCsuR (regulator of cell surface)と命名することを提案した。本研究成果は細菌の細胞表層性情を変化させる仕組みの理解に役立つ。

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2022/05/25

超伝導ドームを伴う純粋なネマティック量子臨界点

論文タイトル
Pure nematic quantum critical point accompanied by a superconducting dome
論文タイトル(訳)
超伝導ドームを伴う純粋なネマティック量子臨界点
DOI
10.1073/pnas.2110501119
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS Vol.119 No.18 e2110501119
著者名(敬称略)
石田 浩祐 他
所属
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻

抄訳

量子臨界点とは何らかしらの対称性の破れを伴う相転移が絶対零度まで抑制された状態であり、そこではその相転移と関連した量子揺らぎが強く発達する。この量子揺らぎを媒介として超伝導が発現しうることが知られており、特に磁気秩序の場合、その量子臨界点を中心としてドーム状の超伝導相が現れることから、それらが密接に関係していると考えられてきた。一方で、最近では電子ネマティック秩序と呼ばれる新しい電子状態が様々な超伝導体で発見されている。この電子状態は結晶格子のもつ回転対称性を自発的に破っており、電子の集団が方向性を獲得したという点でネマティック液晶との類似性がみられ、さらには超伝導との関係にも興味が持たれている。しかしながら、多くの場合この電子ネマティック秩序は磁気秩序や電荷秩序を伴って現れるため、その量子臨界点が単独で超伝導にどのように影響するのかを調べるのは困難であった。本研究では、鉄系超伝導体セレン化鉄(FeSe)に注目し、この物質ではSeをTeで一部置換していくことによって他の秩序を伴わない、純粋なネマティック量子臨界点が現れることを明らかにした。このネマティック量子臨界点付近を中心としてドーム状の超伝導相が現れていることから、本研究は電子ネマティック秩序の関連した量子揺らぎがそれ単独で超伝導を増強しうることを初めて実験的に示したものといえる。

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